鬼神
どこかで読んだことあるような作品のパロディです。
どうぞお楽しみ下さい。
鬼神。それは東洋の霊界を守護する神である。
小堺 彰が鬼神に触れたのは、昨夜のことだ。
「ん?」
その夜、彰が寝ようとベッドに横たわっていると、そいつは姿を現した。
鬼そのものの姿をした何者かが、彰の部屋に現出したのだ。
「わああああ! なんだお前!?」
鬼が彰を見る。
「見えているのか?」
「はっきりと」
「あり得ん。人間に俺の姿を見ることなど、不可能だ」
「幽霊なのか?」
「鬼神だ」
「鬼神?」
「冒頭の話を聞いてないのか?」
「お前、何を言って? てか、勝手に入ってきて何する気だ?」
「俺は悪霊を退治しに来たんだ」
「悪霊?」
「ああ。だが、先ほどから位置が特定できなくてな」
「グオオオオアアアアオオオオ!」
どこからともなく何かの咆哮が聞こえる。
「今のが悪霊の叫び声か?」
「叫び声?」
「グオオオオアアアアオオオオ!」
「……!?」
部屋を飛び出す鬼神。
「ちょっと待てよ!」
彰は鬼神を追った。
階下の部屋の壁が破壊されている。
「なんだよ……これ……?」
彰は破壊された壁から外に出た。
「……?」
気配に気づき、振り返ると、怪物の姿があった。
「逃げろ人間!」
と、鬼神が叫ぶ。
「うちをこんな派手な姿にしたのはてめえか?」
「グオオオオアアアアオオオオ!」
咆哮した怪物が彰に襲い掛かる。
「馬鹿野郎! 人間の分際で悪霊に敵うはずがない!」
「ぐわ!」
攻撃を受けた彰が吹っ飛ぶ。
「なんつう力だ……!」
地面に叩きつけられた彰が覚束ない足取りで立ち上がる。
鬼神が鋭利な爪で怪物に斬りかかる。
が、怪物の反撃が鬼神の爪を吹っ飛ばした。
「うわああああ!」
痛みに悶え苦しむ鬼神。
「鬼神!」
「おい、人間。悪魔に魂を売らないか?」
「はあ?」
「あいつを倒せと言ってる」
「無茶言うなよ」
「無謀な賭けだが、それしか残っていない」
「なんなんだよ?」
怪物がこちらの様子を窺っている。
「俺の鬼神としての力をお前に移す。人間に試したことはないが、お前は俺の姿が見える。きっとうまくいくはずだ」
鬼神が呪文のようなものを唱えると、人の姿となり、その体から光の球体が出現した。
「それが俺の力だ。受け取れ」
「受け取れってどうすればいいんだ?」
恐る恐る球体に手を伸ばす彰。
球体が彰の体に吸い込まれていき、彼は鬼神へと姿を変えた。
「な、なんだこれ!?」
怪物が彰に襲い掛かる。
彰は怪物の攻撃を最も簡単にかわし、カウンターを浴びせて真っ二つに斬り裂いた。
「グオオオオ!」
怪物が悲鳴を上げながら、光の粒子になって消え去ってゆく。
「どうやって戻るんだ?」
「お困りのようね?」
金髪ツインテールの女が現れた。
「なんだ、あんた?」
「私か? 私は、設楽 杏だ」
「その設楽 杏さんが、何しに来たんだ?」
「あなたが鬼神から戻れなさそうにしてるから来てやったのよ」
「は?」
「あなたが鬼神になったことで、あなたの肉体は消滅したわ」
「消滅?」
「安心なさい。あなたにはこれを譲ってあげる」
杏が彰の姿をした人形を取り出した。
「おお。それは鬼神界特製の義骸じゃないか」
元鬼神の男が言った。
「義骸?」
「ああ。人間界で人間の姿で過ごすために鬼神に支給される人形のことだ。鬼神はその中に入って人間になりすましながら悪霊を退治するんだ。しかも義骸には霊力を回復させるシステムがあってな。極端に力を失った鬼神の霊力も回復させることが可能なんだ」
「そうか」
「着てみろ」
彰は義骸の中に入り込んだ。
「これでどこからどう見ても人間だ」
「小堺 彰だ。あんたは?」
「茅根 雄三郎だ」
「あんたは今、人の姿をしてるが?」
「鬼神の魂魄は元は人間なんだ」
「そうか」
「杏、俺にも義骸用意しろ」
「いやーだよ」
杏はそう言ってあかんべをした。
「杏——っ!」
走り去る杏を追いかける雄三郎であった。