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『奴は四天王の中でも最弱』の魔王

作者: 米木パン

我は四天王の中でも最弱と言われている魔王だ。

色々ごっちゃになっているが、この呼び名に間違いは殆どない。


何故こんな事になってしまっているのか、理由は物凄く単純だ。


我は、四天王とタイマンすれば誰にも勝てないからだ。


「大丈夫ですか?魔王様。」


心配した様に声を掛けてきた奴は緑の衣に身を包んだ冷静沈着な男。

『停止』の二つ名を持つ風の四天王だ。


気付かぬ間に頭抱えていたらしい。

今は会議中だ。しっかりと気を引き締めねばな。


「うふふ……大丈夫ですわ。魔王様、最弱と言われている事など気になさらないで。」


青の衣を纏い、妖艶な雰囲気を放っているこの女。

『幻』の二つ名を持つ水の四天王だ。


こやつはどうやら我が頭を抱えていた理由に気付いているらしい。

しかし気付いているのならば正直何も言わずに放っといて欲しかったというのが本音だ。


しかしその時、更にもう一人の男が口を挟んできた。


「全く、あんな二つ名気にしなくて良いって言ってんのに。なぁ!お前もそう思うだろ?」


そう言って自分の剣に話しかけている赤い衣を纏ったこの男。

『破壊』の二つ名を持つ炎の四天王だ。


魔族は完全実力主義であり、故に自分の強さを助長してくれる武器をこよなく愛する傾向にある。


我もその傾向はあるが、この男ほどではない。

何せこの男は寝る際も剣を抱き抱えているというのだから手に負えない。


我が相変わらず変わらぬ様子の炎の四天王を呆れて見ていると、最後の一人が申し訳無さそうに発言した。


「あの二つ名も拙者のせいかも知れないと思うと、中々複雑なものでござるな。」


茶色の衣を纏ったこの男。

『切り札』の二つ名を持つ土の四天王である。


因みに我の二つ名は言うまでもなく『奴は四天王の中でも最弱』である。

確かにこんな二つ名が付けられた事にこの男が関係していないとは言い切れない。


魔族は完全実力主義なので我が魔王で居る事に反対する奴は大勢居る。

なので魔族の中では土の四天王が魔王ということになっている。


そのせいで奴は四天王の中でも最弱の魔王などという頭のおかしい名前が成立してしまっているのだ。


しかしそんな事に嘆いている暇はない。

会議の話を進める。具体的に言えば勇者の対策を考えねばならないのだ。


「我の話はひとまず良い。最早すぐ近くまで来ている勇者をどうにかしなければならないが……。」


我は便宜上そう言ったが、実際この後の返答は大体決まっている。


「そんなのもういつも通りで良いんじゃねぇの?」


まず炎の四天王が気怠げに言った。

皆それに関しては一切反対しない。


満場一致であった。


「決まりね。では魔王様、私達は行ってまいりますわ。」


スッとそれだけで絵になっている様な綺麗な会釈を見せた後、水の四天王はその場を後にした。


「さてと、いつも通りという事は、我は……。」


半ば独り言のようなその呟きに風の四天王が反応した。


「勿論魔王城で待機していてください。危ないですから。」


その言い分に思う事はあるものの、言い返す気にはなれず、我は静かに頷いた。


「魔王様は有事の際なれば動いていただきたい。」


土の四天王の宣告したあと、その場に居る我以外の全員がその場を後にした。


皆勇者の撃退に向かったのだ。


「さてと、いつもの様に戦況の観察でもするとしよう。」


我は伝視魔法を発動した。

この魔法によって今の四天王達の様子が離れた位置からでも見えるのだ。


どうやらもう交戦しているらしい。

しかし今回の勇者は中々に曲者であり、このままでは負けてしまう事が我には良く分かった。


「なるほど……こうなれば、行くしかないな。」


ーーー


我がその場に着いた時にはかなりの壊滅状態になっていた。

全員はボロボロで動けぬ様な状態なのに、勇者だけは無傷だ。


しかも相手はたったの一人、これは相当な実力者である事が分かった。


「ハハッ!!なんだぁ?やたら弱っちいのが来やがったなぁ。」


勇者が蔑む様な目で我を見ていた。

そんな視線を我に向ける事は腹立たしい事ではあるが、今はとりあえず四天王が動ける様になるまで時間を稼がなければならん。

怒りに身を任せず冷静にならねばな。


我は牽制程度に黒い弾を奴へと放ち、一定の距離を保った。

奴が近寄ってくれば後ろに離れ、壁に行き着いた時には影から影へと移動し、また距離を取り直す。


黒い弾も影から影へとワープする魔法も闇魔法の一種だ。

我はこの実力主義の世界の中で四天王になる事だけは認められているのだ。これぐらいの事は出来る。


「チィッ!!ちょこまかしやがって!!」


勇者は激憤した様子で縦横無尽に跳び回りながら、攻撃をしてくる。

まるで動きに規則性が無いせいか先程より避けづらいが、それでも避けれない事は無い。


しかし、我がその攻撃を避け続けていった結果、壁に背中が着いた時、自分の過ちに気づいた。

そして気づいた時には遅かった。


「引っかかったなバァカ!!【ライト】!!」


その部屋全体が光に包まれた。

その光は影を全て消し去り、我の移動手段を断ち切った。


「くぅっ!!!」


まずい、と思った時には、勇者は既に目の前に居た。

我の体は奴に斬り裂かれていき、至る所から血を出していた。


「やたらしぶてぇじゃねぇか……。でも、これまでだ!!」


奴が止めとばかりに剣を掲げ、振り下ろそうとしたその時。

土の腕が奴を殴り飛ばした。


「チィッ!!」


奴は派手に吹っ飛び、衝撃を逃していた。

なるほど、突然の不意打ちを受けてもあれだけの対応が出来るのは流石だ。

しかし、一時的にでも我に離れた事は愚策であったな。


「お待たせしたようでござるな、魔王様。」


土の四天王の声を聞いて、我は奴等の方へと振り向いた。

どうやら既に4人共復活したようだ。


ようやく、反撃に出る事が出来る。


「全員ボロボロで何が出来るってんだ。死に損ない共はさっさとくたばっとけぇ!!」


奴がこちらへと走ってきていた。

良かろう。死に損ないに何が出来るか見せつけてやろうではないか。


「まずは風だ。上に行け!!」


「承知しました。」


我の呼び掛けに反応し、奴が風向きが上へと向いている風を引き起こす。


「あぁん!?」


その風を受け、勇者が上空へと浮かび上がり、その場に『停止』する。

幾ら奴と言えども空中では思うように動けないらしい。

一気に畳み掛けてやろう。


「次は水、土、炎だ!!向かえ!!」


あやつがその言葉に反応し、勇者へと炎を飛ばす。


「こんな物効くかよ!!」


勇者がその炎を全力で叩き斬る。

しかしそれは炎に見えるだけの水だ。


そんな『幻』など斬れる筈が無い。


「最初の一撃は、私が貰いましたわ。」


水が奴の顎を見事に打ち付けた。

奴はそれを食らって血反吐を吐いていたが、すぐに激憤した様に鋭い眼差しをこちらに向ける。


「残念ながら、そなたは炎殿を気を付けねばなりませんぞ。」


土の四天王がまるで粘土のような作られた笑みを浮かべ、勇者の方を睨んでいた。


勇者の体を1つ浮かせれる程の風など吹いていれば普通はこちらもまともに動けなくなる。


しかし土の四天王の力があれば別だ。

奴の作った足場の上を飛び跳ねながら、炎の四天王が勇者の元へと向かっていく。


「くらえぇっ!!!」


それは正に『破壊』の一撃だった。

勇者の背中は粉々に砕け、燃え盛っている。


「ここまで行けば充分だろう。決着を付けよう。」


見事にボロボロになった勇者に対し、大量の土が降り注ぐ。

土というのは量があるだけで、『切り札』となりうるのだ。


奴の体は大量の土に埋められ、生き埋めとなった。


これにて我の完全勝利だ。


「残念だったな、我が弱いだけだと思ったか?」


我は四天王の外に居て、指揮をし、武器として扱う事で最強の魔王となる。


「ふふふ、魔王様を舐めた報いですわね。」


「はっ!二度と来るんじゃねぇぞ勇者野郎が。」


水の四天王と炎の四天王が少しムカついている様だ。

我はそれを宥めるように言い放った。


「それぐらいにしておいて、飯でも食おうではないか。」


風の四天王を除く3人がこちらへ振り向いた。

中々現金な奴らだ。余程飯が食いたいらしい。


「では、私は準備をして来ましょう。魔王様は部屋までその3人を。」


「うむ、任せておけ。」


風の四天王はその場から消え、その後我は3人を連れ、食事場へ向かった。



我は四天王を武器として思っており、この上なく気に入っている。

だからこそ、常にこの四天王の中にいて、我はこの四天王の中では最弱なのだ。


【終わり】

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