兎と不滅の男
ちょっとしたスリルを求めて街に繰り出すことは終にとっては日常的な光景だ、例えそれがちょっとでも済まないことにしか出会わなくても。
(昼時に知らないとこ歩くもんじゃないね、どれが飯屋かなのかすらも検討がつきゃしないぜ)
都会ではあるがどことなしか寂れ、治安が悪そうな場所で空腹に喘ぐ。
(どっかチェーンの居酒屋でも入って濃くてチープな味が食いたい気分なんだがなぁ、それすら見つかりゃしない)
日差しが強い夏の青空の下、ウンザリしながらも欲求を満たすために足は止めない。すると、怒鳴り声がふと耳に入った。近くの路地裏からだ。
(こんなクソ暑い真昼間からご機嫌なこって、人助けのついでに穴場スポットでも聞きますかね)
路地裏にはガタイのいい男二人とバニー姿の女が一人いた。
「随分とご盛んなことで、しかしでかい声が聞こえた割にはSMって雰囲気でもなさそうだが?」
全員の目線が終に降り注ぐ
「なんだいあんちゃん!ケガしたくないなら引っ込んでな!」
「冷たいこと言うなよ〜、俺も混ぜて欲しいんだよ」
喋りながら近づき、男の片方へと一発入れて倒す。その後流れるようにもう一人の腕を取り締め上げる。
「さぁ、お嬢さんお逃げなさいな、俺はイジメっていうのがいっちゃん嫌いでね!」
「いででででで、何いってやがんだ!イジメられてんのはこっちだってのに!」
「軽口を叩く余裕があるなら、もーっときつくいくぜ」
しかし女は逃げず、それどころか倒れたもう一人に近づいてしゃがみこみ、何かしている。
「アラ?あんたまだいたの?腹いせしたくなる気持ちもわかるがここはさっさと...」
女は男の胸元からナイフを抜き取り、それを男の喉元へと突き刺した。
「ヒィッ! あの女やりやがった!早く俺を離してくれ!そうしないと...」
ここから先の言葉は彼の口からは出てこなかった。女が一瞬通り過ぎた時に、舌を切り取ったのだ。
「なかなか、エグい報復するじゃないの、もしかしてブルーな気分の日だったり?」
直後、目の前が真っ暗になった。
「ちょっとちょっと!あんまりじゃないのさ、助けてくれた奴の眼をそんな躊躇なく切るのかよ!この人でなし!」
「!? なんで死んでねーんだよ、この野郎!」
「なんでかって?そいつぁ俺が巷で大人気の不滅の男ってやつだからさ」
眼と喉を的確にやられたが、ピンピンしている終を見て納得がいかないように地団駄を踏み再度攻撃を仕掛けてくる。
「いいから、とっとと死ねや!」
「だーかーらー、俺は不滅なの、おわかり?それにそうカッカしなさんなや、可愛いお顔が二重の意味で真っ赤だぜ」
「うるせぇ!俺の狩りの邪魔してくれやがって!どう落とし前つけるつもりだ、アァ!?」
暫くの間攻防は続き、スタミナ切れという形で決着はついた。
「ゼェゼェ、どうなってんだよクソが!」
「だから何回も説明したろ?俺は死なないの、傷もすぐ治るの、ハァ、俺はお前への説明で疲れちまったよ」
場所は変わっていつものカフェで一息。
「どうだ落ち着いたか?」
「ああ!サンキューな、俺腹減るとイライラするタイプでさ、せっかくのでかい仕事が終わるって所であんたに乱入されたのもあって、めちゃくちゃイライラしてたんだよ」
「そうかい、そりゃ悪いことしちまったな、いやぁまさかあんた見たいなバニーちゃんが、雇われの殺し屋だとは思わなくってな、報酬に興味もないから、全部持ってってくれ」
「マジか!ラッキー、飯も奢って貰って、仕事の取り分も全部くれるとか、太っ腹だなぁオイ!」
ここから暫く他愛もない会話が続いた。
道端でバニーちゃんに会うってのも可笑しな話だが、その娘がさらに殺し屋ときたらもうSFの世界だよな。
ま、見目麗しい女の子と話せるってだけで得だねぇ、気になることもあるしもうちょい話してみますかね。
次回 刃と不滅の男
生きてりゃまた会おうぜ