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反転 時の狭間の恋模様

 違和感に気付いたのは、いつ頃だっただろうか。

 俺がそう考えた時、


既に

世界は

反転していた。





 まだ暗いのに目が覚める。俺の1日は5:00から始まるのだ。これは小学生の頃から、高校生になった今まで変わらない。

 俺は朝が好きだ。俺が住む田舎の新興住宅地は、こんな時間にはまだ動き出していない。早朝独特の空気。それを深く吸うと、近くから鳥のさえずりが聞こえた。


 鏡を前にコンタクトのケースを開ける。毎朝習慣となった行動。だから油断したのだろうか。ケースからコンタクトを取り出す時、ケースの端で破いてしまった。破片がいやにきれいに見えた。


 仕方ない。もう予備も残ってないし、学校には眼鏡で行くしかないか。さして悩まず俺は眼鏡をかけて家を出た。登校するにはあまりにも早い時間だが、毎朝のことだ。早朝の学校も、俺はまた好きなのだ。あの誰もいない、静けさに包まれた教室。誰よりも早く登校し、そこで本を読むのが、俺の日課だ。

 軽く伸びをして歩きだす。鳥のさえずりは、もう聞こえなかった。


 左右も見ずに道路を渡り、学校の前の坂道を登る。ここを毎朝駆け上がってくる奴もいるらしいが、俺には無縁だ。朝早すぎる登校、周囲に勿論人の気配はなかった。ふと、いつもより静けさが増しているように感じたが、気のせいだろう。俺は早速教室に向かい、今日読む本のことを考え始めた。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 「やばいっっ」

 走るのに夢中だったから、気付かなかったのだろうか。

 私の周囲を急速に後ろに流れていく世界は、


もう

元のようでは

なかった。





 ジリジリジリジリジリジリジリジリ

「ん、、、。ん?」


A.M. 7:45


「あああっっ!!」

 今日も寝坊。私ってホントに朝弱い、。早く起きようと思って、何個も目覚ましかけても、気付いたらこんな時間。自分が嫌になるよ、。

 お布団はねのけて起きる。急げー、急げー。眼鏡はー、あれ?眼鏡は?んー、こっちか!


 ぐしゃ

 足元でひしゃげたそれこそ、私の眼鏡。

「あああっっ!!」


 本日二回目の絶叫。目の前が真っ暗になりかけて、いやそんなことしてる余裕はないと洗面所へ駆け込んだ。良かった、予備のコンタクト買っておいて。学校にコンタクトで行ったことないけど、緊急事態だしいいよね?


「よし!行こう!」


 支度もそこそこに、食パンを掴んで家を出る。左右を見てる余裕なんて少しもなく、門の前の坂道を駆け上がる。坂道には人がおらず、走るのに好都合だった。きっとギリギリだから人がいないんだ。そう思いつつさらに私は加速する。チャイムがなると同時に、教室の前に着いた。チャイムの音が、いつもより大きく響いている気がした。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 チャイムの音で顔を上げる。読書に夢中になりすぎて、時間がたつのを忘れていた。と、教室のドアが勢い良くガラガラと開く。戸口には一人の女子。肩で息をするそいつに、俺は不覚にも見とれた。

 目が合う。大きな瞳に吸い込まれそうになりながら、頭の一部では冷静に考える。あいつは、、、田口?いつもは眼鏡だったよな。普段はおとなしくて、俺なんかしゃべったことないけど、。

 俺しかいない教室の中で。田口は、まるで女神のように、輝いて見えた。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 遅刻するっ!

 勢い良く教室のドアを開けた。中には、、一人しかいない。中澤くんだ。普段とは違う眼鏡姿の中澤くんと、目が合う。時間が止まってしまったかのように、私は中澤くんに見とれた。

 中澤くんのこと、実は少し苦手だった。無口で、いつも少し冷めた目をしてる中澤くん。なんとなく怖くて、話し掛けてみたいのに、出来なかった。

 眼鏡をかけた中澤くんには、そんないつもの冷たさが感じられない。むしろ、暖かな雰囲気さえ感じられた。

 二人だけの世界で。中澤くんは、ただ優しく、包み込んでくれるように見えた。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 ん?

 ふと違和感を覚え、俺は田口から少し無理をして目を反らし時計を見た。

 ちょうど始業時間。

 さっきのチャイムはその知らせだったのだろう。

 しかし。教室には俺と、田口しかいない。

 それだけではない。学校全体が、そして街全体が静かすぎる。

 まるで。田口と二人だけで、どこかに迷いこんでしまったかのような。

 そして悟る。誰かに言われた訳でもないのに。今、この世界には、俺と田口、二人しかいないんだと。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 中澤くんが私から目を反らし、私も我にかえる。教室の中に、中澤くん一人。これはおかしい。私は遅刻ギリギリだったはず。現に今、チャイムが鳴ってたじゃんか。誰一人いなかった学校前の坂道を思い出す。どういうことだろう。よく分からなかったが、取り敢えず自分の席に座った。いつもと違う中澤くんの横顔がよく見えた。

 世界の違和感なんか忘れて、やっぱりただ中澤くんの横顔を見る。それでいい気がした。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 どうしよう。俺は考える。この不可思議な世界は、どうやったら脱出できる?そもそも何がきっかけだ?その思考に、さっきの田口の姿が割り込んでくる。二つ挟んだ横の席に座った田口のことが、何故か気になる。そういえば。田口は眼鏡どうしたんだろう。聞いてみたくなった。

 今この世界には、俺と田口がいる。それでいい気がした。


「なあ」


 思わず口を開いていた。

 言わなきゃいけないこと、聞かなきゃいけないこと、相談しなきゃいけないこと。沢山あったような気がする。でも。


「田口、、、お前、今日、眼鏡どうした?」


 結局それを聞いていた。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 声を掛けられて、私は思わずびくっとしてしまった。話しかけられるとは、思ってなかったから。


「え?う、うん、その。朝寝坊して、慌ててたら踏んづけちゃって、。」


 クスッと、中澤くんが笑う。無邪気な笑顔。その笑顔に背中を押され、私も口を開いていた。


「えと、中澤くんは、今日は眼鏡なんだね。」


 返答までの間を、緊張して待つ自分がいた。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 田口の返答に思わず笑った自分に驚いた。学校で笑ったのなんて久しぶりだ。


「いや、俺は別に、慌ててた訳じゃないんだけど、朝コンタクト破いちゃってさ。」


 なんだか言い訳くさくなった。カッコ悪い。でも田口もクスッと笑ってホッとした。見たことないような笑顔。心が暖かくなった。

 どうしよう。話すことがない。今やそんなことを考える俺。話したい。今自分がどんな状況におかれてるかより、田口が今何考えてるかの方が気になった。


「田口、お前本当にかわ」


 自分でも何を言い出そうとしているのか分かっていなかった。



~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー~



 中澤くんの返答に思わず笑ってしまった。なんだ、すごくかわいらしいし、すごく話しやすいじゃん。中澤くんとお話できてることを幸せに感じてる自分が少し面白かった。何か他にないかな。もっと中澤くんとお話したい。もっと中澤くんに笑ってほしい。世界がどうかなってるとか、そんなのどうでもよかった。話題、話題は、何かない?


「中澤くん、すごくかっこ」


自分でも何を言い出そうとしているのか分かっていなかった。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








「田口、お前本当にかわ」

「中澤くん、すごくかっこ」

キーンコーンカーンコーン

 不意に教室に、学校に、世界に、ざわめきが満ちる。まるで何事もなかったかのように、世界は動き出していた。


 制服を着た生徒でいっぱいになった教室。その中で、一組の男女は、


まるで時間が止まったままであるように

いつまでも

見つめあっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時間の濃さを感じました。 そして出会いも恋もこんなふうに始まるという源泉の形。 ありがとうございました。
[良い点] 二人しかいない世界、という景色にどこかノスタルジックに近い感覚を覚えました(*´▽`*) これは潜在的無意識がそう見せたのか、本当に何かしらの力が働いたのかは分かりませんが、止まった時間の…
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