ぼくが死ぬ日 中
「ゔぉえぇ、次たーいくだぁ」
「吐くような声出すのやめような」
「たっきーの生足、生腕、たーぁいくズボンー!!」
幼馴染みの限界が近そうだ。こう、なんか精神的な。
「あ、お前もう体育でれるの?」
「もちのろんだよ」
「そうか。なら良かった」
くしゃりと笑う。幼馴染みも笑ってくれた。きっと今日も長袖長ズボンの苦行をこいつは行うのだろうけど。ぼくが無理して止めるのもお門違いだ。
幼馴染みの傷は深い。
「たっきぃー、たっきぃーサイッコーマジで神へいカモンっ!!」
「行かないよ」
「むぅー、もう少し仲を深めようとかそういう気概を見せよーよぉ」
「ごめんね」
だんだん腕が怠くなってきたけど、また力を込め直す。体育の教材って何でこんなに重いかなぁ。
まだ授業中だからか、物凄く静かな廊下にぼくらの声が広がる。
文系なぼくは、体育会系の幼馴染みと違って疲れるのが早かった。だからこういうことが起きるのも必然だったんだろう。
「、っ」
「たっきー!?」
階段から落ちました。
それ以降は覚えてないです、はい。
あたまいたい。
あしくびもうごかない。
「……………」
ズキズキと身体中を巡る痛みに耐えかねて、いや痛み以外のモノが欲しくて目を開けた。
「……………」
「お前の無言は怖いんだよな」
痛みより怖いモノは返品で。ってそんなわけにもいかず、痛みも尻尾巻いて逃げるぐらい怖い顔をした幼馴染みがじっと見つめてくる。いつものおちゃらけた雰囲気どこいったよ?焼却炉にダイブでもしたかな?
「………なぁ、いつも、危機管理能力が、ないって、いってるよなぁ?」
「うん?」
「何で疑問系で聞き返してくんだよ。朝も、こんなことがあったろうが」
「そんなに心配しなくてもいいよ。いつものことだ」
「コレがいつもいつもいつもいつも!!!たっきーに起こる俺の身にもなってくれ!!頼むから………!!」
「ごめんな」
くしゃりと笑う。でも幼馴染みはまた顔を歪めただけだった。
「………笑わないでくれ」
「何で?」
「お前のその笑顔を見るたび、いつかナニカガお前を連れて行ってしまいそうで俺、怖い」
なんだ、そんなこと?
「有り得ない。ぼくを連れて行っていいのはお前だけだよ」
「そんな言葉も聞きたくねぇんだよ………」幼馴染みはそう苦しそうに言ったけど、ぼくは聞こえないフリをした。
小さい頃から怪我が絶えなかった。骨だって何度も折ったし、血反吐ぐらい経験している。
でも、骨を折ったり血を流すことが少なくなったのは幼馴染みと出会ってからだったそうだ。
いつもぼくを見つけてくれる。いつもぼくを掴んでくれる。いつもぼくを引きずり上げてくれる。
きっと父さんや母さんが幼馴染みに肯定的なのもココが関わってくるからだろう。
幼馴染みが来てから目に見える程、ていうか見えた程ぼくの怪我はなくなった。
でも、最近思うんだ。
ぼくのことじゃない。ぼくはまだ大丈夫。
幼馴染みは?
もう限界なんじゃないかなぁって感じてる。
同棲を前より強引気味に推してくるのも幼馴染みが限界に近いから、きっと。
目を離したすきにいつぼくが居なくなるんじゃって心配して心配して心配して。
もう幼馴染みは限界だ。これ以上ぼくを助けるのはダメだ、なんとなく。なんとなくそんな気がする。
ぼくはまだ大丈夫。これもなんとなく思っている。ぼくは大丈夫。
きっと。
神様は残酷だとあの時以外思ったことは一度もない。