ぼくが死ぬ日 上
「ヘイヘーイ、たっきー元気がないんじゃぁなぁイィ?」
「元気はあるし、ぼくたっきーでもないなぁ」
「し、しかしそのお姿は!!」
「いきなりサムライ風に言うのやめて。ぼく殿様じゃないよ」
「むぅー、わかってんよそれぐらいィのってくれたっていいじゃないかぁ」
いつも通り。
何にも変わらないこんな空気が好きだ。ノリが分からない隣の奴はぼくの幼馴染み。
軽く小突き合いながら進む道は、ぼくらの登下校の道だ。
あー、平和だ。
「たっきー、今日テストだっけぇ?覚えてルゥ?」
「覚えてるよ。いちいち確認しなくてもお前は覚えているだろう」
呆れて隣を見やれば、幼馴染みがゴリラにおじいちゃんを足したような変顔を披露していた。
くはっ、と吹き出してしまう。
「だっギー」
「喋りにくいならやめろよな」
だっきーって誰だよ、と笑いながら言う。ぼくの方を見て幼馴染みは満足そうに頷いた。
「眼福眼福。たっきーの笑顔は至福だね。ペロペロして俺のだってマーキングつけた、」
「それ、言うの心のなかだけにして貰っていい?」
「怒った顔もサイッコーだねぇ。俺の嫁に来なよぉ〜」
「ぼくは男だし、お前も男な。性別ぐらい覚えてくれ頼むから五歳から言い続けてんぞぼく」
「べっつにぃー、俺たっきーが男でもいいんだけどねぇ」
何で分かってくれないかなと幼馴染みが呆れた声で零す。呆れてんのはぼくの方だっつの。
特殊な性癖を持っているぼくの幼馴染み。彼は出会った時からぼくに執着した。
幼馴染み曰く、美少年(=ぼく)は泣き顔がクル、だそうだ。美少年の後に小声で「たっきーだよぉ」と言われたときはマジで付き合いを見直そうかと考えた。
でもかれこれ十年来の付き合いでぼくの幼馴染みが、ぼくに欲望が滾った眼で見ることはあっても何かされたことは一度もない。
「たっきー、高校そつぎょーしたらぁ一緒に同じ部屋でベッドですごそーぉねぇ」
いや今までは何もなかっただけで、ぼくが成人したら「俺らもう大人だぁ」とかなんとか言って手を出されることはないにしても同棲とかは軽くしそうだ。
幼馴染みの一番恐ろしいところは、こういったモノじゃなくてその高いコミュニケーション能力にある。
ぼくの母さん父さん共々幼馴染みに説得されている。幼馴染みの言動を止めるどころか「いつお嫁に行くの?」と聞かれる程だ。父さんは辛うじて「お婿に行くときは一言言えよ」と言ってくれる。
やばいなーとは思いながらも幼馴染みを突き離すほど情がないわけでもない。
男同士ってのは想像もしたくないけど、一緒に暮らすのは彼がいいとは思っている。
………?よく考えればぼくも末期だな?
「お前、ほんとすごいな。ぼく改めて思ったよ」
「やぁっと気付いたぁ?なら早くお嫁に来てよ」
最後だけガチトーンで言ってるところから本気だということがヒシヒシと伝わってくる。
このまま行くと流されそうだなと、幼馴染みに対して少し怖気を感じていると痛いぐらい腕を引っ張られた。
「っ、いたい」
「しっかり前見ろ阿保!!」
幼馴染みは馬鹿力の持ち主でもあるので男のぼくでも痛いと感じるぐらい強い。早く力抜いてくれと思いながら、言う通り前をみた。
「………わぁ」
マンホールが開いていた。ぼくの片脚が浮いている。
「ったく、前々から思ってたんだけどぉたっきー危機管理能力無さ過ぎじゃぁない?」
「………ごめん。助かった」
ヘラッと笑えば、幼馴染みがその端正な顔を歪める。「別に、いいけど」と言ってぼくの腕を離した。
「ほら、もう学校だよ。朝から暗くてどうするの?」
「原因はたっきーなんだけどねぇー」
「どうどう」
いつも通りの登下校。ノリが分からない幼馴染みと小突き合う毎日。
ぼくは死ぬのはもう数時間後だと、このときはまだ思ってもいなかった。
見切り発車です。おかしなところがあるかも知れませんがどうぞよしなに。