戀・番外篇 『 瓊ちゃんの恋 』
昔々。操さまという君主がありました。
彼は、少々女好きではありますが、大変頭の切れる立派な殿さまでした。
操さまのもとには、腕自慢の猛者どもや、頭脳明晰な謀臣達が集まり、家僕や侍女、下働きの者などを併せると、大変たくさんの人々が働いていました。
その中に、とある女官がおりました。
彼女の名誉ある未来のために、仮に瓊ちゃんと呼びます。
瓊ちゃんはある日、ひとりの殿方に恋をしました。
瓊ちゃんは表仕いの女官です。奥の間で、身分ある殿方を見る機会は操さまのみ。と過ごしている女官達とは、ちょっと違うと自負しています。
要するに、殿方との出逢いに飢えているわけではないと言いたいのでしょう。
そんな彼女がひとめでくらくらと来てしまったのは、最近邸に出入りするようになったばかりの、まだ歳若い殿方でした。
操さまの近臣と言われる方々は、瓊ちゃん恋の対象になるには少々年上の、有り体に言えばおっさんばかりでしたが、その人は違いました。あまりの若さに、最初はどなたかの書生さんかと思ったほどです。
瓊ちゃんは玉の輿に乗りたいわけではないので、別段身分にはこだわりません。書生さんでもぜんぜんかまわなかったのですが、その人は祭酒という官職にありました。
それを知ってまたまたびっくり。操さま直属の重臣です。
瓊ちゃんが彼をただの書生だと思ったのは、歳のせいばかりではありません。その人は冠も着けず、平服で、飄々と邸に出入りしていたのです。
そんなところも瓊ちゃんには好ましく思えました。
もう、こうなると、恋煩いへ一直線です。
お相手は、操さまお気に入りの、今をときめく郭祭酒でした。
恋煩いの瓊ちゃんは、ほんのりとため息をついて日々を過ごしていました。
恋の病には、お医者サマも草津の湯も効かぬと言います。(あ、舞台は中国でした) 見るに見兼ねた年かさのおばはん女官が、瓊ちゃんの相談に乗りました。
お相手があの郭祭酒だと聞いて、おばはんはううむ…とうなりました。
確かに、おばはんにも瓊ちゃんの気持は解ります。
容貌の麗しさは、女官達の目の保養度最高賞の荀文若さんに一歩譲るとしても、殿方の魅力は顔の造作だけで語れるものではありません。
君主の操さまを別にすれば、抱かれたい男第一位の称号は、間違いなく彼のものでしょう。
しかし、それは大変女性にモテルということです。
どんなに佳い男でも、そちらのほうでは泰山の岩よりまだお堅いと評判の荀文若さんに対し、郭奉孝という人は根っからの遊び人との噂でした。
おばはんは、一応、彼の悪い噂を全て瓊ちゃんに伝えました。
でも瓊ちゃんは、ちゃあんと知っているのよと涙ぐみます。
どんなに不実な方と知っても、想ってしまったのが因果だと、よよと泣き崩れます。
もう、こうなっては、何を言っても無駄でしょう。
瓊ちゃん可愛さに、忠告してみたおばはんでしたが、諦めるしかありません。
若い娘の想いというのは強固なものです。周りが何を言っても、聞く耳なんざ持ちゃしません。
どうしたものかとため息をついてから、ふとおばはんは思いました。
ハタから郭祭酒をふさわしくないと思っているけれど、ちょっと考えてみたらどうだろう。もしや、これだけの婿がねはいないのではないかと。
先ほどから言っているように、彼はまだ若く、おそらく二十代の半ばくらいでしょう。その歳で祭酒というのは充分な肩書です。
その上操さまの大のお気に入り。将来有望です。
そしてそして。なんといっても、彼はまだ独身なのです。妻がいないだけでなく、上も下も……要は、舅小姑いった類の煩わしいものが、いっさい付属していない稀に見る好条件。
もう少し若かったら、自分が嫁に行きたいくらいだとおばはんは思いました。
唯一の難点が、遊び人とのその評判でしたが、これはもう、君主からしてバリバリの女好きなので、諦めるしかないでしょう。
いや、これだって、告る側の瓊ちゃんからすれば、案外好条件かもしれません。附文のひとつでもすれば、デートの約束くらい軽く取り付けられそうではありませんか。
おばはんはもう瓊ちゃんの恋が成就したような気分で、浮き浮きとラブレターを書くよう奨めました。
おばはんに任せなさい。
瓊ちゃんに、大見得を切りました。
さて。
その恋文を受け取った郭祭酒こと嘉くんは、ちょっと困ったと思いました。
確かに彼は、自他共に認める不品行男ですが、その遊びにはいくつかの流儀があります。
女性に関して言えば、男付きと、素人には手を出さないのが鉄則です。
理由は言うまでもないでしょう。
嘉くんは昔から大変女性にモテました。
巧く立ち回らないと、トラブルを伴うことも学んでいます。
特に、素人のお嬢さんは要注意です。
あんな遊び人は絶対に許さん! と怒ってくれる、良識あるお父さんがいてくれれば良いのですが、なかには娘可愛さに、嘉くんを婿にしようと画策する甘い父親もおります。
嘉くんは養うべき家族もおらず、守らなければならない家も持たない、大変気楽な身の上なので、油断していると跡取り募集中のおっさんに目を付けられてしまいます。
そこに、一族のお嬢さんとの縁談話が伴うのは常の事でした。
別に何かにこだわっているわけではありません。
結婚に興味がないのです。
と、言うよりも、それだけの責任を持てないと言うべきでしょうか。
妻にした人を、ちゃんと幸せに出来るかと考えると、自分はそんな立派な人間じゃないなという結論になるのです。
出来ないことが解っているのだから、当然娶るべきではないと嘉くんは考えます。
意外と根は真面目なんです。
でも、こういう話をしても、たいてい解ってもらえません。
下手をすると、笑い飛ばされてしまいます。
こちらは真剣なんですけどね。
目の前で、再び同じ問いが繰り返されました。
どうしてかと。
嘉くんは答えようがなくて、困ってしまいます。
どう言えば解ってもらえるのだろうかと言葉を探しますが、やっぱり上手く行きません。
なんで自分はこんなことで悩まなきゃいけないのか、終いにはため息だって出てしまいます。
「郭祭酒殿。附文などして誤解されておられるやもしれませぬが、決して浮ついた女性ではあらしゃいませんのよ。こなたさん恋しさのあまり、思い悩んだ末にようよう書かれた手紙です。そこのところを、どうか察してやってくださりませ」
「浮ついたなどと、微塵も思っておりません。大変立派な文と拝見しました」
さもありなんと、おばはんは満足の笑みを浮かべ肯きます。
「こちらさんは、お役柄こそ下級ですが、立派なお役人のお嬢さんでしてね。お育ちもお人柄も申し分のない女性ですのよ。ご両親が教育熱心でいらしたので、教養も高くてらっしゃいます」
見合いばばあと化したおばはんに、嘉くんは何度目かのため息をひっそりと漏らしながら、それでも笑みを持って応じます。
「はい。それは文を拝見して良く解りました。私のような不品行者にはもったいないと思いませんか? 早まってはいけませんよ」
にこりと笑う嘉くんに、おばはんも負けてはいません。
「まあまあ。郭祭酒ともあろう方がご謙遜を。ご家中広しといえど、こなたさんほど主公の覚えのめでたい方は、他にあらしゃいませんのに」
ほほほ。と、優雅に袖で口元を押さえておばはんが返します。
「私はこの通り身持ちが悪いもので、いつ何時コケルかわかったものじゃありませんよ。あまりそちらのほうを期待されても困るなあ」
嘉くんスマイル。
「なんの。こなたさんの御名も官職も知らずにお慕い申し上げた女性です。たとえ相手が無位無官の方だとて、その想いに変わりはございますまい」
おばはんにっこり。
ふと、それが真顔になりました。
「正直申しあげて、妾はあなたさまに間違った認識を持っておりました。このようにご立派な殿方とはつゆ知らず、人の噂に惑わされた己が恥ずかしうございます」
「ああ。ご立派とかそういうの、ぜんぜん誤解ですから。あなたの言うその噂ってヤツのほうが、絶対真実に近いよ」
嘉くんは手を振り振り、内心頭を抱えてしまいました。
この人は案外フェミニストなので、女性にそう強いことが言えません。穏便に断ろうとして、墓穴を掘っているようです。
「解りました。考えて来ます」
これはダメだと思った嘉くんは、すくりと立ち上がりました。
これでいて、主公さまの懐刀と言われるほどの切れ者ですから、こういう時の切り替えも素早いのです。
「少しは期待してよろしいのかしら?」
「いいえ。考えるのは納得していただける理由であって、結論は変わりません。私は所帯を持つ気はありませんので。ああ、どうしてかと問わないでくださいよ。また堂々巡りだ」
「わかりましたわ」
おばはんは肯き、ゆっくりと立ち上がりました。
「妾も考えて参ります。良いお返事がいただける方法を」
にこりと笑うおばはんに、嘉くんはへえ…と視線を留めると、はははと笑い出しました。
「あなた、おもしろい人だね」
にっこりと少年のように破顔い、嘉くんは室を出て行きました。
嘉くんとおばはんのスマイル合戦は、その後も続きました。
すっかり郭祭酒ファンと化したおばはんは、意地でも瓊ちゃんの婿にするぞと、気合入りまくりの力入れまくりです。
少々の事ではヘコタレません。
さすがに瓊ちゃん本人は気が引けて参りましたが、ここで諦めたら天下一の婿殿を逃すぞと、逆に説教される始末です。
瓊ちゃんは、本当はどんな顔して良いやら解らなかったのですが、そこは申し分ないとおばはんも太鼓判を押すお嬢さんです。恥を忍んで嘉くんに声を掛けました。
どうしても、自らお詫びしなければ気が済まなかったのです。
「妾の身勝手から、郭祭酒様にはいろいろとご迷惑を掛けてしまいました。申し訳もございません」
「それって、藩さんのことかい?」
はいと肯く瓊ちゃんに、嘉くんは笑い出しました。
「ぜんぜん! 迷惑どころか楽しんでるかな。あの人おもしろいからねえ」
心底楽しそうなその様子に、瓊ちゃんは少し胸の痞えが降りる思いでした。
「わざわざ謝りに来てくれたの?」
「はい。あなた様に顔向け出来る身ではございませんが、もとはと言えば妾のわがまま。幾重にもお詫び申し上げます」
「お詫びはいいよ。ホントに迷惑してないから」
そう返しながら、偉いもんだなあと嘉くんは思いました。これって結構勇気の要ることですよね。
「そうだ。文をありがとう。あんなに心のこもった文をもらったのは初めてです。これは本心だよ」
嘉くんの言葉に、瓊ちゃんは頬を染めて俯きました。
「あのね、藩さんから伝わっているかは判らないけど……」
「全てうかがっておりますわ。妾にはもともと高望みが過ぎたのです。きちんと納得しておりますから」
――高望みとか、そういうんじゃないんだよなあ。
嘉くんはちょっと思案していましたが、少し時間ある? と、瓊ちゃんを庭へ誘いました。
「せっかく逢って話せたのだから、ちゃんと言っておくよ。俺がこの話を断ったのは、キミが嫌いだからとか、そういうことじゃないんだ。結婚そのものに興味がないと言うか……。違うな。これは詭弁か」
最後は独り言のように呟いて、嘉くんはうーんと首をひねりました。
「キミからの文を読んだ時にね、なんて素敵なお嬢さんだろうって思ったよ。文からは、まっすぐな心も、育って来た家庭の温かさも、教養の高さも全部伝わって来た。そして、どんなに真摯に想ってくれているのかもね。俺ね、この人がずっと幸せでいて欲しいって思ったよ」
「他人事みたいに言うなって思うでしょ? だったら、自分で幸せにしてやればいいじゃないかって。俺もそう思うよ。でも俺じゃダメなんだ。俺は誰かを幸せには出来ない」
「……どうして?」
尋ねる瓊ちゃんの声が、少し、震えていました。
「うーん。どうしてなのかなあ。例えばさ、キミを残して死んだりしたらどうしようとか……。親父が結構早く死んだから、こういうこと考えるのかな。兄貴も若死にだったし、あんまり長生きしない家系みたいだからね」
「そんな……」
「ああ、ごめんごめん。これは例え話だから。なんにしても、そういう根拠のない心配しちゃうわけ。結構臆病なのかもね」
「キミがね、もっと打算とかあって俺に近づいたんなら、案外踏み切っていたかもしれないな。正直好みだし、可愛い娘だなって思ってたから。でも俺、あんたを泣かせたくない。矛盾してると思うだろうし、勝手なこと言ってると思うよ。でもこれが、掛け値なしの俺の本心。こんな俺でもいつか所帯を持つかもしれないけど、それはキミとじゃないと思う。ごめんね」
瓊ちゃんは、ぽろぽろと涙を零しながら嘉くんに肯きました。
「……それでも、それでも想い続けることだけは、どうぞお許しになって」
瓊ちゃんは最後に懇願を残し、泣きながら駆けて行ってしまいました。
その姿を見送って、がっくりと嘉くんは肩を落としました。
女の子を泣かせてしまうと相当ヘコミます。
自分が悪いのは解っていますから、そのヘコミようったら、しばらくは立ち直れないかもしれません。
「奉孝~ 見たぞお」
不意に声を掛けられ、嘉くんはおののきました。
草木の間からひょっこりと顔を出したのは、同僚の程仲徳さんです。
「いっ、いつの間にそこに」
「今来たところだ。あ~あ、かわいそうに。お前は相変わらず女を泣かせとるのかよ」
人聞きの悪いことを言わないでくれと、嘉くんはむくれます。
これでも女性は泣かさないのが信条です。
しかし、状況は往々にしてその信条を裏切りますが。
「奉孝よ、お前は案外女に甘いのだな。ムカッ腹を立てるくらいのことを言われたほうが、逆に相手はすっきりするのではないか」
「そうかもしれませんね。あんまり彼女が心の綺麗な娘なので、出来るだけ本心で語るべきかと思ったのです。不実な私なりの詫びの気持ちというか、呵責に耐えかねたというか……。結構ヒドイ事を言ったつもりですが、まだまだ甘かったでしょうか?」
「甘い甘い。ありゃあ、お前さんを思い切るどころか、一生心の恋人と添い遂げるかもしれんぞ。完全に墓穴だな」
程さんの言葉は、ぐっさりと嘉くんに突き刺さります。
「墓穴かあ……。やっぱ掘っちまったよなあ。嘘でもブスは嫌いだとか言ったほうが良かったスかね」
すっかり弱気の嘉くんは、人生の先輩に相談モードです。
「そうよなあ。あれだけの上玉を断るんだから辛いところだな。ああいうのは、下世話な下ネタ系とかが良かったんじゃないか? ボンキュッボンのねーちゃんが好みだとか、寝技を極めた女が理想だとか、一発で引くぞ」
「そりゃあ、引くでしょうけど、実際そういう方に来られても困ります。私は腹上死はごめんですよ」
「夜の帝王が何を弱気な。奥の孟徳、楼の奉孝ではないか」
「色欲魔人の主公と一緒にしないでください。私は人並な男なのですよ」
「何を持って人並みと言うかは意見の分かれるところだがな。したが奉孝。お前、そういう経験でもあるのか?」
「腹上死ですか?」
「生きとるだろうが。そっちじゃなくて、言い逃れから出た苦い思い出でもあるのかと訊いとるのだ」
「ああ、そっちね。以前、苦し紛れに、理想は兵学を極めた女性だと言ったことがあるんです。愛読書は孫子に呉氏。三度の飯より戦好き。五経あたりを極めてる方は結構いますから、奇をてらったつもりなんですが、いやあ世の中にはツワモノがいるいる。ヒドイ目に遭いましたよ」
「おぬし……。結構ムチャクチャやっとるのだなあ」
「そうでしょうか? なんだかお嬢さん方よりお父さん達のほうが熱心でね。恩があったり師だったりすると、こっちもいろいろ辛いんですよ。年頃のお嬢さんがいないのを確認してから教えを請うようにはしてたんだけど、そういうのって芋蔓式にどこからともなく出て来るんだよな。なるほど、世の中は半分女の人なんだなあと納得しました」
やはりこいつは変わった男だと、程さんは傍らの青年に視線を向けました。
始終そんな目に遭いながら、ちっともお断り術が上達していないのにも笑えますが、案外誠実な男なんだなあと程さんは思います。
彼は、相手の女官のことを、心の綺麗な娘だと言いましたが、彼もなかなかどうして、まっすぐな青年です。
頭脳明晰な好青年な上、家族のしがらみがないとなれば、これはもう大変な婿がねです。ぜひ娘の婿にと願った父親達の気持が、程さんにも良く解ります。
程さんにはなんとなく、彼の攻め所というのも判りますし、ふと自分の一族の娘達の年の頃を考えてみたりもしましたが、結構嘉くんのことは気に入っているので、それは心に秘めて置くことにしました。
「時にな、奉孝。今回の件だが、一番知られたくない人の耳に入ったようだぞ」
「文若殿ですか? あの人ならとっくに嗅ぎつけて、暗躍してますよ。私を片付けるのが目下の関心事ですからね」
「ぬしの知られたくない相手とは、本当に文若殿か? 吾は一番と言ったはずだが」
「……もしかして」
ざわりと嘉くんの背に鳥肌が立ちました。
「壁に耳あり、天下に曹公ありだ。むしろ、今までご存じなかったのが不思議なくらいではないか」
ううむ。と嘉くんはうなります。
あの主公のことです。嬉々として手と口を出して来るでしょう。
目に浮かぶようでした。
一難去ってまた一難。
これは、来襲すれば、とてつもない嵐となるでしょう。
はたして、それを越えられるでしょうか?
――主公の命令で結婚なんてヤダよなあ。
嘉くんは、主君としての操さまが大好きです。もう他の誰かに仕えることなど考えられません。
根なし草のころは、最終的には別の土地へ流れてしまえば良かったのですが、生涯の主を決めてしまった今は、その手も使えません。
「奉孝よ。言うてはなんだが、適当なところからさっさと嫁取りしちまえば、そんなことで悩まんで済むんじゃないのか?」
「それって本末転倒ですよ」
「盲点と言え。吾はな、打算が必要なのはお前も一緒だと言ってるのさ。後ろ盾になる名門の女とか、いつ何時どうなっても暮らして行ける金持ちとか、そういう相手を考えてみるのも、新たな展開になるやもしれんぞ」
「はあ、そうですねえ……」
嘉くんの返事は、まったく気乗りしていません。
「なあ、奉孝。吾ら謀臣てもんは、絶えずまだ起こりもせん事を想定して、先手先手で策を考える。常に最悪の事態を考えちまうのは、一種の職業病かもしれんよ」
「……本当は、どこから聞いていたんです?」
「いや、本当にそこら辺りからだよ」
とぼける程さんに、仕方ないなあと嘉くんは微苦笑を返しました。
「文若殿には言わないでくださいよ。あの人は兄と親しかったし、父のことも知っている。私の親代わりのような気持でいてくれているんです。あんな愚痴を聞いたら、叱り飛ばされるに決まってる」
「吾は、ああいうお上品なのといるのは肩が凝る。そう長々と無駄口をきく仲ではないから安心せい」
「昔はそれほど堅い人だと思わなかったんですけどねえ」
「ああいうのは歳を取ると、さらにひどくなるぞ。今でさえ、適当とか、それなりとか云う言葉を知らん男だ。相当な頑固爺になると覚悟しとけよ」
「あそこン家は、息子も優秀だから大丈夫ですよ」
――何が大丈夫なものか。
程さんは、ちらりと嘉くんに視線を投げました。
親と子の間と、兄弟のそれ、そしてまた友との関係というものは、どれもが大きく異なるものです。
そこら辺が子を持たぬ若造の限界だなと、程さんはにやりと嘉くんを眺めました。
「なんですか?」
「うん? 吾はな、お前さんはなるたけ早く所帯を持ったほうがいいと思うぞ。文若殿のように、おぬしの品行がどうのとか、そういうことで言ってるのではなくてな」
「当たり前です。人品がそう簡単に変わるものですか。私が折り目正しい夫になれるわけがないでしょう」
嘉くんの言葉に程さんはふと思います。
折り目正しいは、まあ無理としても、この青年は案外良い夫になるかもしれないと。
でも、口にはしません。
「そういや、奉孝。さっきの理想像だが、吾はぴったりなのを知ってるよ」
「は?」
並んで建屋へと歩を進めながら、嘉くんが問い返します。
「ほれ、兵学に精通していて、愛読書は孫子というやつさ」
「あれは口から出まかせ。言い逃れの理想像です」
「そうかもしれんがよ、吾はあの時どきりとしたぞ。兵学、孫子、戦と来れば、誰を思い出す? 我らが君ではないか」
あっ、と嘉くんは声を上げました。
思ってもみなかったことです。
「主公が女だったら、間違いなくおぬしが一番の婿がねだな」
「気色悪いことを言わないでください。あんな気性の激しい女性など、御免蒙ります」
「まあ、まず尻に敷かれぬ男はあるまい。だが、幸せにしてやろうなどと余計なことを思う間もないぞ。幸せになって当然。不幸にしやがったら打ち首だな」
「あんまり恐ろしいことを言わないでください。夢に見そうです」
「奉孝には年上の奥方のほうが良いと文若殿はお考えだ。ぴったりじゃないか」
「だから、なんなんですか。文若殿とは無駄口をきく仲ではないとか言いませんでしたか? そんな話までする仲じゃないですか」
「短い無駄話はやぶさかではないのだ。主公と奉孝はいくつ違うんだったかのお。ちと年増かな」
「大年増ですって。仲徳殿。まじで夢に出たら恨みますよ」
「世の中に女が主公独りってことになったら、お前さんだって諦めるだろう?」
「あの人を嫁にもらうくらいなら、いっそ宗旨替えして男色に走ります」
「ん? 奉孝。それいいじゃないか。今度断るに断れない縁談が来たら、男色だというのはどうだ? 相手は二の句が続けんぞ」
「もし、その弟やら従兄弟やらが送り込まれたら、どうしてくれるんですか」
「うーん。そこまでする親父もなかにはいるかもな。まあ、その時は腹を括れ」
「イヤデス。世の中には美しい女性がたくさんいるというのに、何が哀しくて男と添わねばならないのです」
「自分で宗旨替えすると言うたではないか」
「誰がですか。勝手に前後を端折らないように」
「はて? そうであったかのお。最近ちと物忘れが……」
「急に老人ぶらないでください。無責任なことを洩らすと、あっという間に広まってしまいます。三日後には郭奉孝は実は楼で男娼と逢引していると言われますよ」
「いや、違うな。あいつは男も女も来るもの拒まず。色狂いの両刀使いだと、まあ噂の真相はこうだな」
「真相ってなんですか。悪化させてどうするんです」
ふたりの会話は続きます。
それにしても見事な馬鹿話ですね。
いつも脳細胞を酷使している彼らには、こういうのが憩いなんでしょうか?
凡人には計り知れない世界です。
さてさて。
ふたりの会話にも出て来ましたが、そのころ操さまは、お気に入りの祭酒嘉くんに、縁談が持ち上がっているのを耳にしました。
それも、見染めた女官からの逆プロポーズ。独身主義を公言してはばからない嘉くんに、懲りずにアタック続行中とのこと。
そんなおもしろいネタを、操さまが見逃すはずがありません。
嘉くんをからかう足しにしようと、こっそり件の女官、瓊ちゃんを見に行きました。
しかし、操さま。瓊ちゃんをひとめ見て思わずうなりました。
――これは、存外の美人ではないか。
ちょっと可愛い系のお嬢さん、清涼感仕立て。といったカンジでしょうか。
――あいつは案外、こういう楚々としたお嬢さんがタイプかもしれんな。
操さまはもう一度、ううむとうなりました。
瓊ちゃんのことを調べますと、家柄こそそう大したものではありませんが、何代も町役人をコツコツと勤め上げて来た、なんら恥じることのない立派なお家の生まれです。
ご両親も健在。
実家は一番上の兄が継ぎ、細君と瓊ちゃんにとっては甥や姪にあたる子供たちと共に、温かな家庭を築いています。
瓊ちゃんのすぐ上の姉は見染められて、ちょっとした豪氏の処へお嫁に行っていました。
瓊ちゃんの家は、下級役人の身分ではありましたが、大変教育熱心な家風で知られ、子供達は男女の区別なく立派な教育を受けて育ちました。
確かに瓊ちゃんの蹟なる書簡も、生半可なそれではありませんでした。
――美しい文字を書く。
操さまはそれを、大変好ましいと思いました。
瓢箪から駒のような展開ではありましたが、瓊ちゃんは操さまの大切な重臣の細君として、決して不足のある女性ではありませんでした。
――これは稀に見る良縁かも知れぬ。
そう思った操さまは、さっそく郭祭酒を召しました。
「奉孝よ。例の縁談の件だがな、そなた本当に受けるつもりはないのか?」
――そら、おいでなすった。
嘉くんは内心で嘆息しながらそれに応じます。
「身に余るお話ではありますが、私には少々過ぎた方かと」
最初は、お定まりの文句を並べてみました。
「そちに何が不足だ。今の禄では家族を養うに不安か? それとも官職の方か」
「主公が与えてくださった職も禄も、身に余ると思いこそすれ、何で不足がありましょう。私の不足とはただこの身のつたなさ、未熟さにございます」
「奉孝。孤は件の女官の話を聞いてな、これは稀に見る良縁だと思った。強いて挙げれば、穎川郭氏に釣り合う家柄ではあるまいが、なに、一度他家へ養女に入れて、しかるべき形を整えれば良い」
「私は、一族のほんの傍流の生まれにございます。その上、箸にも棒にも掛からぬ不心得者。家柄だなんだと言えるような身ではございません」
「いや、こういうことはな、正当な手順を踏んだほうが良い。そなたもゆくゆくはこの国の礎となる人物だ。その奥方たる者にも、それなりの格というものが必要だ」
「……主公。先ほどからナニヤラお話が先走っているようですが」
「おお、そうであった。いやな、孤はこのたびの話を大変良縁だと思うてな。そなたさえ異存がなければ孤が間を取り持つ準備がある。どうだ?」
――やっぱり、そう来ますか。
予想はしていましたが、面と向かって言われてしまうと心がざわりと波立ちます。
君は間を取り持つ。すなわち、仲人に立つと言っているのです。
その話し振りから推し測りますと、君のご正室である丁氏あたりの縁者としてか、下手をすると、曹家の養女にまでして瓊ちゃんを嫁がせるとか言い出しかねません。
さすがの嘉くんも進退極まりました。
一度乗り気になった操さまを押し止めるのは、至難の業です。
はたして、この人を納得させられるだけの理由が、嘉くんにあるでしょうか?
――ずっと隠しておりましたが、実は龍陽主義でして……。うーん。笑ってくれるかもしれないけど、冗談ですまなくなったらどうしよう。
嘉くんは思い悩みます。
腹を括って嫁取りか、それとも偽男色宣言か。
……別に、理由はそれに拘らなくてもいいんですけどね。ちょっと我を忘れております。
「あれはなかなか良い娘だと思うぞ。そちが断るのなら、孤がもらいたいくらいだ」
にやにやと、操さまが嘉くんの顔を覗き込みました。
――この好色オヤジ。
いったい何を言い出すのでしょうか。女好きなのは承知していますが、まったくあきれてしまいます。悪態のひとつも出るってなもんです。
が、嘉くん。ふと思いました。
――ちょっと待てよ。それってもしかして、悪くないかも。
操さまは笑って冗談めかしてはいますが、まるっきりその気がないわけではないでしょう。むしろ、瓊ちゃんのことは相当お気に召している様子が伺えます。
君の側室となるなら、それは大変な玉の輿です。女性にとっては栄華と言えるでしょう。
――いいかもしれない。
嘉くんは思いました。
「それで奉孝は、はいそうですか。と、主公にあの娘を譲ってしまったのか?」
苦笑を返す文若さんの前で、程さんは大業に天を仰ぎました。
「なんてバカなヤツだ!」
「仲徳殿。そう、身も蓋もなく仰っては」
「そうは言うが、あいつはあれであの娘のことを、案外気に入っておったのだぞ。それを知っていたから、おぬしとて中に立とうとしたのであろう?」
操さまがしゃしゃり出て来るまでは、この文若さんがいっさいの間を取り仕切るつもりで秘かに準備を重ねていたのを、程さんは知っていました。
文若さんのお家は名門中の名門です。彼の声掛かりでの婚姻に、否を唱える士大夫はそういないでしょう。
しかし、この人が父とも兄とも世話を焼く郭奉孝という人物は、その数少ない例外のひとりでした。
「仲徳殿。奉孝にそう言ってはくださいますな。ああ見えてあれは、結構落ち込むところがあるのです。言われるまでもなく、自分でもバカだと思っているでしょう」
「文若殿は、やはり奉孝には甘いようだ」
どっこらしょと腰を降ろす程さんに、苦笑が返りました。
「甘いつもりもないのですが。ただ、私はあれが結婚を避けたがる理由が、なんとなく解るのです」
「父親が早うに亡くなったそうだな。母者人が苦労されたか」
「無論、連れ合いを早くに亡くされて、ご苦労なされたでしょうが、奉孝には兄がいましてね。……少し、不幸が続きまして、歳が離れておりましたから、家を支えて行くには支障なかったのです」
不幸とは、間の子供が残念ながら上手く育たなかったのでしょう。
この時代、子供の死亡率は決して低くはありません。経済的に恵まれた名門知識層であっても、子供が病に罹れば救うのは大変難しいのが現実でした。
「兄君も若くしてみまかられたと聞いたが」
「いったいどこから聞いて来られた。まったく仲徳殿は地獄耳ですなあ」
文若さんは諦めた様子で小さく微笑うと、程さんの前に腰を降ろしました。
「これは、私から聞いたとは言うてくださりますなよ。そう。本当に急なことだったのです。惜しい人物を亡くしたと、我々も嘆いたものでしたが、残された奥方は気の毒なことでした。……結局、彼女は自らの命を断ちました。夫の後を追った、あっぱれな貞女と褒め称える者もありましたが、あれはそうは思わなかったでしょう」
「そうか。そんなことがあったのでは、奉孝もいろいろ考えずにはおられまいな」
程さんの言葉に、文若さんも小さくため息を返します。
「まあ、だからと言って、そういつまでも身軽に好き勝手されても困ります。早く身を固めて子を成さねば、孝にも反しましょう」
「……ふむ。あいつはあれで、案外人恋しいのかもしれんな」
呟いた程さんは、何やら考え込む素振りを見せました。
「良し。吾もそこもとらの陣に参加しよう」
「は?」
「奉孝の嫁取りに協力しようと言っているのさ。どうだ? 心強い味方であろう」
「はあ……。しかし、あれはしばらくは話も嫌がりましょう」
「まあ、すぐに持ち掛けても良い顔をするまいが、案外今回のことで考えるところがあったやもしれんぞ。時節を見て切り出すのだ。孤にちと考えがある。そうさな、次の春くらいには祝言させよう」
「ずいぶんと乗り気なご様子ですが、一族の方をとお考えですか?」
「奉孝のことは気に入っておるが、吾はそれほど野暮ではない。相手は文若殿が選ぶのが良い。これでも吾は、ぬしの眼識には感服しておる。何より、奉孝のことを一番に考えておるのはそこもとだ。吾はな、文若殿のその想いに打たれたのよ」
この時代、家と家の繋がりのために相手が決まるのが大方の婚姻です。
子孫繁栄が儒教の説くところであり、子を持ち、家を繋いで行くことが第一の孝とされていますから、結構みなさん早婚です。名門のぼっちゃまである文若さんも、もちろん子供のころからの許嫁と若くして祝言を挙げました。
けれども、それを嘉くんに強いる気配を感じません。
むしろ、愛しい人と添わせてやりたいとさえ、この人は思っているのではないでしょうか。
常識が服を着て歩いているような、お堅い文若さんですが、郭奉孝という青年に対してだけは、くどくどと説教を垂れながらも、その常識外の行動をどこかで許容している。そんな、らしくないところが程さんには好ましく思えるのです。
もっとも、我が強く和を乱す自分のことを、文若さんはあまり好いてはいないでしょうが。
「まあ、そういうことだ。そのうち同士で集って、ゆっくり策でも練ろうではないか。なあに、吾が参陣したのだ。大船に乗ったつもりでおれば良い」
ひとつ肩を叩き、愉快そうに笑いながら出て行く程さんを、文若さんは苦笑の交じった表情で見送りました。
さて、一方の瓊ちゃんです。
嘉くんのこの仕打ちには、さすがの恋する瓊ちゃんも怒り傷付きました。
いっそ、女官も辞めて田舎に帰ると泣き崩れる瓊ちゃんを、ようようおばはんは宥めました。
主公付となれば女官として栄誉。
ご側室となれば女人として栄華。
選ぶ選ばないは瓊ちゃんしだいなれど、ちょっと考えてみてからでも遅くはあるまいと。
おばはんの言葉を尽くした説得に、ようやく瓊ちゃんも前向きに物事を考え始めました。
結論から言いますと、後に瓊ちゃんは操さまのご愛妾となり、子宝にも恵まれて幸せに暮らします。
奥仕えになった瓊ちゃんに、操さまはちょっぴり困った様子でこのたびの騒動を詫びました。その、少年のような愛らしさと率直さが、瓊ちゃんにはポイント高かったみたいです。
操さまは瓊ちゃんのお父さんくらいの年齢ですが、お腹も出てないし、小柄なせいか歳よりも若く見えます。なかなかにご気性の激しい方でしたが、飾り気がなく、からりとしていて、愛らしい殿さまでした。
瓊ちゃんは結構そういうところに弱かったりするのです。嘉くんに惹かれたのも、同じような理由でしたから。
と、言うわけで、こちらのほうは“めでたし、めでたし”と言ったところでしょうか。
もちろん、操さまの女好きはその後も続きますので、それなりに気苦労はあったようですが、瓊ちゃんは大変賢い女性でありましたので、周りと自身を比べるのは止めて、操さまに長く愛されて、ゆったりと暮らしたということです。
話は少し戻りまして、瓊ちゃんが奥へ移ってから後の、とある夕刻。
執務中の荀文若さんに、何やら控え目な声が掛かりました。
「文若殿。よろしいでしょうか?」
文若さんは筆を止めて面を向けました。
「どうした? かまわないよ」
あの騒動の後ですから、ちょっぴり来づらかったのでしょう。そっと中をうかがうように覗いている嘉くんに、文若さんの表情は自然と緩みます。
「お邪魔致します」
口の中で呟きながら、嘉くんが入って来ました。
「どうした。久しいではないか。姿を見ない日が続くと、また寝込んでいるのではと心配になる。まめに顔を見せて、私を安心させてくれねば困るな」
「しょっちゅう寝込んでいるように言わないでください」
ちょっと口を尖らせる嘉くんに、思わず笑みが浮かびます。あまり躰が丈夫でないのが、この青年のコンプレックスであることは、文若さんも充分承知しているのです。
「奥がまた、何やら整えていたようだ。後で届けさせるから、受け取ってやってくれ」
「いつもありがとうございます。奉孝が喜んでいたと、奥さまによろしくお伝えください」
「あれは何かとお前の世話を焼きたがる。たびたびで迷惑していないか?」
「私など風流も解さず、うかうかしていると季節も忘れておりますから、折々のお心遣いは本当にありがたいですよ」
「……お前、いいかげん家庭を持ってはどうだ」
「またその話ですか? どうしてもそこに繋げたがるんだなあ。これでも最近は、おとなしくしてるつもりなんですけど」
「そういうことではないんだ。お前はもう充分独りでいただろう。自分の家族を持つことを考えても、良いのではないかと言っているのさ」
「私は、文若殿も奥さまも、家族と思うておりますよ。ご迷惑でしょうが、もうしばらく面倒を見てやってください」
「迷惑ということもないがな。そう言われると、こちらも勧めづらくなる」
苦笑する文若さんに、嘉くんはにやりと笑みを返します。
「もちろん、それも計算の上ですから」
文若さんは、やれやれと首を振りました。
「文若殿。先だってのことは申し訳ありませんでした。いろいろ骨折りいただいたのに、全て反故にしてしまった」
「詫びは要らぬよ。家族なら当然のことをしたまでだ。お前は何かと世話の掛かる弟だがね」
「奉孝。私は押しつけの婚姻を強いるつもりはない。お前が選んで納得した相手と一緒になればいい。だが、いずれ誰かと所帯は持ちなさい。お前は身軽過ぎる」
「夜遊びのことですか?」
「そうではない。お前は少し物事に淡白なところがある。お前のように世の中に執着のない男は、何か守るものを持ったほうが良いのさ。奉孝、自分の帰る場所を持ちなさい」
生きる希望と言うと大袈裟でしょうか。
郭奉孝という青年には、自分の命さえ簡単に諦めてしまいそうな、そんな希薄さがあって、文若さんは心配なのです。
どうしても生き延びて、帰りたいと思う場所。
なんとしても生きて、もう一度逢いたいと願う人。
そういうものを持って欲しいと、文若さんは思っているのです。
「帰る場所、ですか」
嘉くんは少し首を傾げて何やら考えていましたが、それについては何も応えませんでした。
さてさて。
このお話もいよいよ終わりに近づいて参りました。
蛇足ながら記しておきますと、程さんが加わって大船に乗ったらしい連合組織は、後に嘉くん結婚大作戦を展開し、見事に春の華燭を成し遂げます。
嘉くんとその奥さまとの間には、また別の物語が展開しましたが、それは機会があったらということで。
ちょっぴりだけ打ち明けますと、嘉くんはその後も変わらず品行不方正の遊び人でしたが、奥さまとは結構仲良く暮らしたみたいです。賢い男の子と可愛らしい女の子に恵まれて、案外子供に甘いお父さんだったらしいですよ。
嘉くんの家庭を覗いてみたいですね。
それでは。
このお話は『戀』でいろいろどんよりしていた時に、単なる馬鹿話が書きたくて片手間に綴っていた物語です。
あまりに反動が大きくてアホ過ぎるのですが、本編を読んでくださった方の気分転換になればと載せてみました。
まあ、笑ってやってくださいませ。
書くまでもありませんが、このお話は全て筆者の創作です。
元ネタとか、設定の根拠とかはつっこまないでくださいネ。
読んでくださったあなたに、感謝を込めて。
碧海 月