1話 おわりとはじまり
私を生み出したその人は漫画家先生でありました、しかし私が見てきた中で先生と呼ばれることは少なかったように思います。
私という存在はその漫画家先生の薄暗い部屋の小さな机の上で生まれました。先生が私を登場させたその物語は口にするのは憚られるような、いわゆる御下劣な内容のエロ漫画ではありましたが、先生の絵には魂があり力が込められているので私は嫌ではありませんでした。
しかし先生は露骨に媚びた性描写などをあまり好まず、そういった側面は芸術として昇華しなければならないと考えていたため、自身の手がける作品に常に不信感を抱いていました。
あるいは、そういった作品に対する割り切れなさというのが私が先生を苦しませてしまった要因になったのかもしれません。
その日、先生はいつも通り夜分遅くに筆を取り始め、そしてふと手を止めて奇声をあげるといきなり原稿用紙を破り捨て始めました。
不吉な音を聞きながら私は視界が真っ二つになり、その後深い暗闇へと落とされていきました。
「あゝ、私は死ぬのか」
今際の際で私は恐怖などを一切感じず、むしろ少し嬉しいとすら思いました。
先生が自分の作品に迷いを抱いていた事は私はもちろん気付いていましたし、このまま描きたくもない物語を描いていたところできっと先生に良い事はないだろうと常々考えていたことでした。
私はその心情にふさわさいよう最後に笑顔を作ろうとしましたがうまく笑えず、目から一杯の涙がただ零れ落ち続けました。