夢の直路
少女は、暗闇の中で目を覚ます。
自分の両手を胸の前で組み、一度大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き出す。それで少し気分が落ち着いてきた。
「あれは……」
小さくつぶやいて、半身を起こす。しばらくその体勢のままでいると目が慣れてきて、見慣れた自室がぼうっと浮かんできた。
いつもと変わらない光景に、少女はほっと安堵のため息をつく。
夢の中で少女は、誰かに抱きかかえられていた。身体中が痛み、ひどく心細かったけれど、彼の首に腕を回すとなぜか心が休まったことを覚えている。
目を覚ました今でさえ、温かな感触が手の中に残っていた。その温もりが逃げてしまわないように、ぎゅっと手を握り締める。
……あれは、誰?
霞んで見えない、誰か。
その姿は見えないのに、なぜかすべてを委ねたくなる、人。
夢の断片は未だ、少女に明確な答えをくれない。
ふと喉の渇きを覚え、ベッドから足を下ろして踏み出し、部屋の片隅にあるテーブルの上の水差しに向かう。水差しの口に逆さまにして掛けてあるコップをひっくり返して水を注ぎ、一気に飲み干した。
誰もいない小さな家。水のなくなったコップをテーブルに置く音すら、家中に響くようだ。そんな静けさにはもう慣れたはずだったが、なぜだか今は、誰かに傍にいて欲しいと思えた。
もう一度夢の中へ戻りたいと思うほど、そこで感じた温もりが恋しい。
けれど、少女は知っている。夢はいつも彼女の意のままにはならないことを。
なぜ、神は私に夢を見せるのだろう?
それは、幾度となく繰り返された、答えの出ない、疑問。