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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第1章:新任教師の幕開け
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不満の限界

 クロスの授業が始まり一週間が経過した。


 だが、変化したのは日付だけで、授業内容には変化はなかった。


 座学の授業では最初に教わったマナやプラーナに関する基礎理論から、そこから繋がる別分野に関する基礎理論を学び、そしてまたそこから繋がる別分野の基礎理論に関する講義をひたすら聞くだけだった。

 三日目にはほとんどの生徒が講義を聞き流すだけになっていた。


 実技の方は四日目から単なる瞑想やランニングではなくなった。

 が、『戦士(ウォリアー)』の生徒は訓練用の武器を使っての素振りを延々と繰り返させられ、『魔法士(マジシャン)』の生徒は初級魔法を一定時間維持しての発動を延々と繰り返させられるだけだった。

 授業内容を聞いた時は喜んでいた連中も授業時間が半分を過ぎる頃には後悔していた。


 ちなみに、『魔法戦士(ルーンナイト)』であったアリスティアは両方をやるようにと指示された。

 おかげで心身共にボロボロになっていた。




 A組の生徒が他クラスの友人から聞いたりすると、基礎理論は最初におさらいくらいはしたがクロスほど徹底してはおらず、実技の授業でもクロスの様な反復練習ではなく、新しい技術獲得を狙った内容が主だった。


 そしてその話を聞いたA組の生徒がクラス内で話せば当然不満は更に積もり、クロスへの不信感は更に高まる。


 恨みがましい視線を向ける生徒が次々と出てくる中、クロスは平然と授業を進めていた。


 視線に気づいていないのか、それとも無視しているのか。

 後者ならとんだ図太さである。




 そして本日七日目。

 クラスの不満は限界に達していた。




「何が言いたい?」

 クロスは授業の開始を妨害した生徒を見据えていた。


「ですから、基礎理論をここまで繰り返す必要性があるとは思えないというのが、このクラスの大半の意見なんです」

 今日も基礎理論に関する講義を始めようとしたクロスにアリスティアは異議を申し立てた。




「何故必要じゃないと言える?」

「そんなのは簡単です、基礎理論については中等学院の内に学習し終えているからです!」

 首を傾げるクロスに苛立ちながらもアリスティアは主張を続けた。






「だから?」

「え?」


「中等学院で基礎を学び終えた。それは分かった。

 だが、それでこの学園で基礎を学ばなくていいという理由にはならないぞ」


「はあ!」

 アリスティアは愕然とした。

 自分の今の主張をこうもあっさり否定されるとは思わなかった。

 しかも詳細も何もなく、言ってしまえばクロスが納得していないだけなのではとしか思えない返答だった。




「先生、僕からもいいでしょうか?」

 挙手と共に立ち上がり、サイモンも話に加わった。


「いいぞ、何だ?」

「高等学院とは、中等学院までに修了した基礎課程を地盤に、更に高度な教育又は専門教育の施すのが目的です。

 ですから、クロス先生の授業内容はそれに反していると言えます!」

 前回のように疲労困憊ではなかったため、サイモンは強気な姿勢だった。

 いや、こちらが彼の素なのであろう。




「で、何が言いたい?」

「ッ!! ですから、授業内容の再検討を要請してるんですよ!」

 サイモンは遂にクラス全体の意思を述べた。


 クロスはその言葉にふうと一息吐いて軽く首だけ倒して何か思案する素振りを見せた。




 実際、サイモンの意見に生徒の大半は同意見だった。


 同意見とは言えない者もいるが、せめて今までの授業を行う理由をはっきりと説明してほしいという気持ちだった。




 サイモン、そしてアリスは思案している様子のクロスの返答を待った。


 ああやって考えているならば、きっと授業内容を再検討してくれるはず。

 そう思っていた。




 だが、クロスは思案していた訳ではなかった。


 クロスは彼等の言葉に対し...

「却下だ」

 呆れていただけだった。




「ったく、お前らは何様だ?

 英雄目指してるだのなんだのぬかしておいて、何も分かってないんだな」


「お、お言葉ですが先生! 僕達が一体、何を分かっていないというのですか?」

 クロスの剣幕に若干怯みながらもサイモンは尋ねた。


「それだよ」

「え?」


「そうやって人に聞いてる時点でお前らは分かっていないって言ってんだよ。ったく、学園辞めちまえよお前ら」


「っ! 先生、待ってください、いくらなんでも酷すぎます!」

 それまで静観していた麻呂眉が特徴の男子生徒、アキラ=グノームが立ち上がり、反論した。


「何が酷い? 何も知らないヒヨっ子なんかが英雄、ましてや勇者なんかになれる訳ないんだから、辞めちまった方がいいに決まってんだろう」

 生徒の反論に苛立つのではなく、優しく諭すようにしてクロスは辛辣な言葉を畳み掛けた。




「ほんと、次代の英雄を育成するなんて言われてるが、蓋を開けてみりゃ英雄のえの字も知らないガキ共の集まりとは呆れちまうよ」


 ”ギリ...”

 クロスの言葉にアリスティアは歯をくいしばっていた。

 拳を強く握り締めてしまい、爪が掌に食い込み血が滲み出していた。




「もう一度言う、俺の授業に納得出来ない辞めちまえ。俺も学ぶ気がない奴の相手なんざこっちからごめんだ..」

「いい加減にしてください!」

 クロスの言葉をアリスティアは半分叫び声のような怒号でかき消した。




 クロスはアリスティアの方を見た。

 その目には明らかに憤怒と嫌悪を宿しており、敵意を剥き出していた。

 クロスが黙るとアリスティアは彼の方へと歩み寄った。

 何かを決意した表情をもって。


「アリスティア=スターラ。何のつもりだ?」




「先生...」

 言葉を発し、そして一呼吸入れてアリスティアは覚悟を決めて次の言葉に繋げた。






「決闘を申し込みます!」

 教室内に戦慄が走った。


「要件は?」

「私が勝ったら、授業内容の再検討と先ほどまでの侮辱に対する謝罪をしてもらいます!」


「で、負けたら?」

「負けたら....先生の望みを可能な限りお応えします」

「アリス!!」

 アリスティアの言葉にエリーゼは止めようとしたが、アリスティアが手でそれを制止した。




「止めないでエリー。私は、この人が許せない!」

「......」

 クロスは黙ってアリスティアの顔を見た。


 クロスにはもう分かっていた。

 この少女には例え親友だろうと、家族だろうと、恋人だろうと...

 その決意はもう揺るがない。

 その覚悟は決して折れない。

 その意思は絶対に曲がらない。


 だからクロスはそれに対して返す言葉はもう決まっていた。




「いいだろう、受けてやるよ」

 冷たい微笑と共に決闘を受諾した。

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