集団戦について、そしてまた...
遅くなりました。大変申し訳ありません。
2021年8月現在、コロナウィルスの脅威が再び台頭してきているので、体調管理と衛生管理に気を揉まれます。
「今日から集団戦について講義する」
『はい!』
教室にて、クロスは生徒達にレジュメを渡す。
「この前の野外訓練でも先駆けて4人一組形式で行ったな。その時で分かっただろうが味方の動きも配慮するのは難しかっただろう?」
クロスの言葉に何も言わないが、全員痛感したと言いたそうな表情になっていた。
「敵にだけ集中すればいい自分一人の時と違い、味方と共に戦う集団戦は味方の動きにも意識を配る必要がある。思考の手間が増える分、隙も生まれる。けど、味方がいればその分だけ出来ることの幅も広がる。レジュメに目を通せ」
生徒達はレジュメに目を向ける。
内容は集団戦の概要だった。
集団戦と一括りに言ってもその人数の度合いによって更に区分される。
有名なのが勇者と仲間達のような少数精鋭の『パーティー』だろう。
それ以上の規模となる軍事的意味合いが強くなる『レイド』や『レギオン』と称されるようになる。
学園での授業ではパーティー単位かクラス全体でのレイド単位での集団戦が指導される。
とは言ってもいきなりクラス全員で連携など取れる訳ではないので4人単位のパーティーが今日の授業のお題目である。
「パーティーにおいて各自が一通りのことが最低限出来る必要があるが基本的には自身の能力に応じた役割を担ってもらう」
クロスは指を立てていきながら説明を始める。
①前衛:近接攻防の要。最前線に出ての攻勢や、敵の攻撃を一手に引き受けるのが主。
②中衛:遊撃や補佐。前衛の攻勢に加わる役、後衛の被害を減らす臨時の壁役などと多彩な動きを求められる。
③後衛:射程に優れる者が担う。遠距離からの攻撃から回復・支援、戦場を俯瞰的に見て指揮することも。
この三役が大まかな集団戦における役割とされている。
「厳密に言えば、同じ前衛でも得物や技能などで出来ることは当然異なる。クラウスとトモエ、ちょっと来い」
クロスに呼ばれてクラウスとトモエが前に出る。
「クラウスは見ての通り使う得物は盾だ。つまりは攻勢よりも中衛・後衛が被害を被らないように守るのが向いている。対してトモエの得物は薙刀だ、近接武器としてはリーチがあるし威力も当然あるから攻勢に出て敵を討つのが向いている。こんな風に出来ること出来ないことは見て分かるな。質問はあるか?」
「はーい、確認なんですけどアタシやリーネだと前衛か中衛が向いてますか?」
アンナの問いに隣にいるリーネも気になるという風に頷く。
この二人は隠密からの奇襲が基本であり、集団戦はそもそもお門違いなのだ。
「中衛だな。罠を張れる分、戦場操作の役割もしてもらう必要があるな」
クロスの見解から、アンナとリーネは中衛における戦場操作が相応しいと考えられた。
後衛の役割そのままでは難しいが、動き回り指揮ではなく戦況をコントロールする方が向いている故だ。
「さて、とりあえず以前の野外訓練の時のパーティーを組め。そこからはひたすらディスカッションをしてもらう」
クロスの言葉に従い、四人一組のパーティーが出来上がる。
「内容はパーティーの長所と短所。それを時間一杯まで列挙だ。ちゃんとやれよ」
最後の言葉と共に迫力の篭った眼光が射抜いて来たので全員即座に話し合いを始める。
《アリスティア、エリーゼ、トモエ、クラウスのパーティー》
「私達のパーティーは近接戦がメインって感じよね?」
「うん、そうだね。クラウス君が前衛の盾役。トモエさんは前衛の攻撃役、アリスは中衛での遊撃役になれるけど基本は剣技の近接、私は後衛からの支援役と考えられるからね」
アリスティアの言葉にエリーゼはパーティーの構成を述べる。
そして、その直後に少し気落ちした表情が浮かんでいた。
「どうしたのエリー?」
「野外訓練の時でも先生に指摘されたけど、本当は私も魔法で攻撃出来るようにしなきゃなのになって、思うとみんなに悪くて..」
親友の変化を見逃さないアリスティアにエリーゼは話す。
「それを言うなら僕もだよ。僕だって守るだけじゃくて攻撃に入れるようにする必要があるのに...」
「拙者も攻勢のみなのは直す必要があるでござるな...」
「私も魔法が使えるんだから魔法メインの立ち回りを覚えないとだね...」
クラウス、トモエ、アリスティア達もまた、自分達の課題に気づき悩んでいた。
「それでいいんだよ」
「クロス先生」
「そうやって自分達の課題を見つけることが今のお前等に必要なことだ。分かればあとは直すだけだからな」
「確かに、そう言えばそうでござるな」
「でも、直すのが難しいからね」
「クラウスの言葉には一理あるな。だから俺が教えてやることは一つ」
途端に四人全員クロスへの注目が増した。
「いきなり出来ないことだけをやるんじゃなく、出来ることの幅を広げていけ」
『? ? ?』
「つまりだな、トモエ」
「はい!」
「お前は攻勢のみを直そうと考えているようだが、攻勢を緩めたら折角の強みがなくなって意味がないだろう。だからお前がやることは攻勢を磨くこと、そして位置取りだ」
「ぽ、ぽじしょにんぐ?」
「習うより慣れろだな。クラウス、ここに立て」
「あ、はい!」
促されるまま、クラウスはクロスの指定した場所に立つ。
「トモエはクラウスの左に立て。そんで二人共構えろ」
トモエも指定された場所に立ち、二人共武器を構える。
「トモエ、お前の背後にはアリスティアとエリーゼがいる。俺が二人を害するためにはお前等二人を突破する必要がある」
クロスの指定した場所は確かにトモエとクラウスの背後にアリスティアとエリーゼが位置している。
「戦闘において後衛は特に潰したい存在であり、それをお前等前衛が止める」
クロスはトモエの方へと進む。
「この場合、敵側はトモエの方から突破することを狙う可能性が高い。得物が防具じゃない分、掻い潜り易いからな」
「じゃあ、僕はどうすれば?」
「クラウスは下手に動くな。そういう時はトモエの出番だ」
「拙者の?」
「お前の方に敵が行こうとするなら、その進路をクラウスの方へ誘導するんだ。それが位置取りだ」
クロスはトモエの方へと歩く。
「トモエ、俺をクラウスの方へ誘導するならどう動く?」
「拙者ならクラウス殿から離れる様に動くでごさるかな」
「正解だ。お前とクラウスの間が開けばその分二人の間という後衛への最短コースが出来上がる。敵もそこを進もうとする。そこでお前の得物を振るうと相手はどうする?」
「防ぐか躱すでござる。いや、掻い潜ろうとするならクラウス殿の方へ躱した方が簡単...あ!」
「そういうこった。お前が動き得物を振るえば相手はそこから逃れようとする。そうなるとクラウスの方へと誘導されるって算段だ」
トモエの言葉に合わせて動き、クラウスの前に立ってクロスは言う。
他の生徒達もその話を聞いて各々に理解しようとしている。
「他のパーティーもこれは参考にしろ。所謂陣形を作る上で最も大事なことだからな」
『はい!』
《サイモン、アンナ、リーネ、アキラのパーティー》
「アタシ達は白兵戦が苦手なパーティーよね」
「かろうじて近接戦が出来るのがアンナだけで、後は罠と射程攻撃による撹乱戦がメインだね」
「加えて言うなら僕は直接攻撃より間接攻撃の魔法の方がメインだから主火力はサイモン君頼りになっちゃうな」
「だったら君たち三人は僕が放ちやすいようにフォローするってことでいいんじゃないのか?」
「アンタね..」
偉そうな物言いに若干腹が立つも言っていることは正解のため、アンナは押し黙る。
このパーティーは直接的な火力が乏しく、サイモンの言う通り、彼を軸にして攻めるのが理想的だった。
「それじゃサイモンは雷電系以外の魔法の習得も必要だぞ」
「っ、先生。後ろからいきなりはやめてください」
「気配は消してないんだから察しろ。魔法士だろうと気配の察知は覚えておけ」
反論を許さないクロスにサイモンは黙るしかなかった。
クロスの指摘はサイモン自身よく分かっている。
速度と威力、そして自身の適性から雷電系の魔法を優先的に習得している分、他の系統の攻撃魔法はあまり習得していない。
「....ちなみに先生だったら何を勧めますか?」
「何だと思う?」
「......環境に左右され難い大気系、雷電系と並んで威力に長けた炎熱系、応用性の高い流水系及び派生の氷雪系ですか?」
「お前がそう思うならそうだな。じゃ、一日でも早くものにしな」
「はい...」
思いつく限り提示したものを全て習得しろと言われ、少し頭が痛くなるサイモンだった。
「このパーティーだったら密集陣形より散開陣形だな。各々が射程攻撃の術がある以上、それぞれが決め手を持つことも必須だな」
「先生、アタシやリーネだとどうしても威力出し難いんですけど」
「何言ってんだよ。この間お前等も見ただろう? あれを使うんだよ」
「この間...」
「見た...」
思い返していき、二人同時に該当するものを思い浮かべる。
「毒ですね」
「正確には薬品だリーネ。動きを止める麻痺毒、痛みももたらす出血毒、状況に応じて使い分ければいい」
「なるほど」
「でもま、お前等はまず技術の向上が先だ。下手に毒物扱ってたら自分が御陀仏だからな、分かったな」
「「は〜い」」
「アキラは攻撃魔法のバリエーションだな。符術と組み合わせて罠みたいにすれば相手の動きを封じることも出来るぞ」
「分かりました!」
《ハンス、リック、キース、ロクサーヌのパーティー》
「オレ達は射程攻撃が豊富だよな」
「まあ確かに。おれは弓矢、リックとキースは魔法があるからな」
「とはいっても俺の魔法は幻術がメインだけど」
「逆に前衛はボクだけだから、白兵戦は避けたいね」
こちらもまた、アンナ達と同じ結論に至っていた。
このチームはアンナ達と比べて直接的な射程攻撃がある分、白兵戦時の脆さが浮き彫りになり難いのがまだましとも言える。
「そうなると、俺はロクサーヌが動き易いように隠行の類を使った方がいいか?」
「いいねそれ。そしたらボクでもみんなが動き易いに前に出れるね」
キースの言葉にロクサーヌは嬉しそうな顔をする。
和気藹々に話す二人の様子をハンスとリックは何も言わずに見ていた。
((リア充がッ!))
代わりにその視線は妬ましさと羨ましさに染まっていた。
キースとロクサーヌは所謂幼なじみ。息が合うためクロスは二人は競技祭にて組ませたのだ。
そんな二人の様子は一部の男子からは嫉妬と羨望を、
一部の女子から見逃せない光景として、
注目を集めていた。
各々のパーティーが話し合いを進め、各々の長所と短所を記載したレポートがクロスに提出される。
それに目を通し、早速赤ペンを手に書き込みし出すクロス。
ものの数分でそれは終わり、再度各パーティーに返却される。
内容を見ると不足していた部分の書き足しや、書いていた内容への補足と修正、各個人に宛てての集団戦における課題も書かれていた。
「それじゃ各自、そこに書かれた所を課題としろ。今後は集団戦の実技も行うから、腑抜けて真似したら連帯責任でパーティー全体で補習だからな」
クロスの言葉に生徒全員の顔が青くなる。
同時に終業のチャイムが鳴る。
「んじゃ、授業は終わりだ。頑張れよ」
「すごい書き込み...」
「他のパーティーの方も同じくらい書かれているよね」
そそくさと去っていくクロスを尻目に、アリスティアとエリーゼは彼が残した書き込みを眺める。
「すごいでござるな」
「頑張って考えたけどまだまだ甘かったんだね」
二人の後ろからトモエとクラウスも覗き込んでいた。
四人で考え得ることを全て書いたつもりだったのに、それでもまだこうして書かれていたのだった。
「また行方不明者が出たわ、今度はアタシ達と同じくらいの歳の男の子よ」
「これは教会の人が届けを出していたわ。どうやら孤児の年長で、下働きしていた店の店長が仕事に来ないのを気にかけて訪ねてくれたことで教会も慌てて探したんだって。どうやら少し前まで学校にいたのは分かっていて、学校が終わった後にいつも下働きに行っているそうよ」
夕暮れ時、図書室の一画にてアリスティア達は集まり、事件の調査に頭を悩ませていた。
分かる限りではあるものの、ちょうど自分達と同年代の人間の行方不明者がいなかったので、そこに何かあるのではと思ったらその可能性が潰えてしまったのだ。
「学校って、うちじゃないのよね?」
「所謂一般の教育機関だよ。言い方は悪いけど、この学園のようにジニオ人種を対象としたのじゃなくて、ディネル人種のための中等学院だよ」
アリスティアの確認をサイモンが細く。
「そう考えると、この学園の生徒で行方不明って話はなかったね?」
「そういえば、そうだね」
アキラの言葉にクラウスも頷く。
「単に抵抗されることを警戒したのではないのでござるか?」
けど、トモエの言葉にそれもそうかと納得する二人。
ただ一人、アリスティアのみが違和感を拭えずにいた。
(行方不明者の年齢はバラバラ。けど確かにこの学園の人間は対象になっていない。トモエの言う通り、単に抵抗されることを恐れて? なんだろう....何かモヤモヤする)
結局、答えに行き着けず、話し合いは終わるのだった。
「そうですか...また行方不明の方が」
「はい....すいません。いきなり押しかけてしまって...」
解散となった後、アリスティアは教会に足を運び、神父の下へ来ていた。
今は初めてお会いしたシスターが淹れてくれたお茶をいただき事件の話をしていた。
「実は今回行方不明になったのは教会でお世話になっている年長の孤児なんです。何か知っていることがあれば教えてください」
「やはり、彼も...」
「ご存知なんですね?」
「ええ、姿を見なくなってもしかしたらと思ったのですが...」
神父は手で顔を覆い俯く。身体は小刻みに震えている。
その様子を見て察したアリスティアはそれ以上は聞かぬこととした。
「所で、行方不明になったその人のことで、何か分かることはありますか?」
神父が落ち着きを取り戻し、顔を上げるとアリスティアは質問をする。
「....彼は孤独に駆られていました」
「孤独...」
「ええ、無償の信頼を持つべき相手から裏切られ、彼は孤児となったのです」
神父の話にアリスティアは顔を顰める。
「最近は特にそれが苦痛となっていたようで...」
神父はまた俯き、言葉が途切れる。
「ごめんなさい。いきなり辛くなるお話をさせてしまって」
「いえ、少しでも彼を思ってのことなのですから...」
神父の気遣いにアリスティア自身、居た堪れない気持ちになる。
これ以上は無理だと追求を辞めることとした。
「今日はありがとうございました」
「いえ、もし何か分かりましたらまた来てください」
挨拶を手短に済ませ、アリスティアは教会を去る。
こうして帰路の途中、アリスティアは中央区を通り抜けようとする。
歩みを続ける中、脳裏を過るは神父の言葉。
(孤独...孤児なら当て嵌まることは多い気がするけど、わざわざそう言うってことは何かがあるはず)
確信に近い何かを抱くも、それを言葉として結論に出せない。
そんな違和感が胸中を渦巻き続ける。
ふと、アリスティアの視界の端が捉える。
それは食料品を詰め込んだ紙袋を抱えるクロスだった。
彼は足取りを確かに教会へと向かう。
アリスティアは黙ってその様子を遠目に見ていた。
神父が出迎える。
顔が真っ青だった。
クロスから紙袋を渡されると微かに会釈する。クロスはそれ以上何も言わずにその場を離れていく。
「先生!」
アリスティアはクロスに声をかけるのだった。




