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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第4章:学園競技祭
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決闘-コンバット-〜護りたいもののために〜

 胸が高鳴る。心臓の鼓動がハッキリと耳に聴こえてくる。

 血の流れが加速し、全身が熱くなってくるのを感じられる。


 呼吸が深く速くなっていく。

 視野が狭くなっていく。


 これはまずいと分かっているのに、抑えきれない。

 止めようと思えば思うほど鼓動が、熱さが、呼吸の速さが、視野の狭まりが増していく。




 そんな時、アリスティアは腰にばんと叩かれる衝撃を感じられた。


「っ!?」

「ったく、緊張してんじゃねーよ」

「せ、先生っ、どこ触ってるんですか!」

「ん、頭をぶん殴った方が良かったか?」

「違います!」

「どこ叩くかはいいとして、(おさま)っただろ?」

「よくな、あっ....はい、落ち着きました」

 いつの間にか狭まって視野は元に戻り、呼吸のリズムも普段のものになっていた。


「いつも通りにやれ、それが大事だ」

「いつも通り..」

「大事な局面ほど人は緊張や不安に駆られやすい、けど、それじゃ全力は出せない」

「分かりました」

「最後に、自分の成長を知り楽しんでこい」

「はい!」

 元気の良い返事と共にアリスティアは闘技場に立つ。






『さあ、学園競技歳の優勝決める代表者の紹介だ! B組からは堅実故に強く、故にクラス最強としてこの舞台に来たぜ、ユーグ=モレーェェッ!!!』

 沸き立つ歓声もどこ吹く風か、ユーグは堂々とその場に立つ。


『A組から、入学試験首席にして勇者を目指すと宣言、その言葉を証明してくれ、アリスティア=スターラァァァッ!!!』

 再び歓声が湧き上がる。アリスティアもまた気にする素振りはなかった。

 二人にはもう、目の前の相手に勝つことしかない。


「悪いけど、勝つのはB組だ」

「いいえ、A組よ。それに、私が勝ったらあんたには謝ってもらうから」

「謝る?」

「うちの先生によ!」

『最終戦、始め!』




 アリスティアの左手には剣、右手は何も持ってないが魔法の触媒である腕環がある。

 対するユーグは右手に剣、左手には盾。オーソドックスなスタイル。


 開始の合図と共にアリスティアは駆け出す。剣と盾というユーグの装備故に出足の速さもスピードもアリスティアの方が優位にあった。

 疾走の勢いのまま剣を一文字に振り抜く。


 ユーグはそれを盾で受け止める。

 アリスティアは既に魔法を紡いでいた。

「【疾風の礫(スイフト・ショット)】」

 剣を引き突き出した右手より空気の弾丸が放たれる。

 元々速度重視な分、威力の低いこの魔法を詠唱破棄で放っているため急所に当てない限り怯ませる程度がやっとだが、それでも剣による追撃に繋げるのには十分と考えての選択である。


 だが、ユーグも既に対策を講じていた。

「【対魔法防御(プロテクト・マジック)】」

 空気の弾丸は魔力の障壁により阻まれる。耐久性が落ちるとはいえ同じ詠唱破棄の魔法を防ぐならこちらも詠唱破棄で十分であった。


 防御を確認するとユーグは剣を振るう。

 彼の持つブロードソード(濶剣)はアリスティアのバスタードソード(片手半剣)と比べ、厚みと幅がある。

 いくらミスリル製で見た目以上に強度のあるアリスティアの剣でもまともに受ければ刃毀れしかねない。

 それはアリスティア自身も重々承知していること。だからまともに剣撃を受け止めるつもりはなく、振り下ろされる剣を自身の剣の腹の上を滑らせ勢いを削げた所で剣を押し外側へ逸らす。


 崩れかけた姿勢から強引にシールドバッシュを放つユーグに対しアリスティアは既に後退し距離を取り、呪文を紡ぐのだった。

「【疾る風よ、敵を撃て、疾風の礫の第一射アインス・スイフト・ショット】、【第二射(ツヴァイ)】、【第三射(ドライ)】、【第四射(フィーア)】、【第五射(フュンフ)】!」


 そして見事な魔法連唱(ラピッドファイア)による五連射を放つ。

 完全詠唱かつ同じ所を狙っての五連射で。

 いくら威力が低めの魔法とは言えこの速度で連射なら当たれば効果は見込める。


 だが対するユーグもアリスティアが下がるのを見て詠唱を紡いでいた。

「【対魔法防御(プロテクト・マジック)】」

 盾を正面に翳しての防御魔法の展開。

 魔力の障壁は空気の弾丸を一発、二発と防ぎ切り、三発目で砕け、四発目、五発目は翳した盾によってユーグへのダメージを防いだ。


「そんな、アリスの魔法が防がれた...」

「詠唱破棄の防御魔法で完全詠唱の五連射をなんて...」

 エリーゼの驚き、応援席にきていたサイモンも困惑していた。


 さっきの様子からすれば完全詠唱のアリスティアの魔法な詠唱破棄したユーグの防御を二発目で砕けたはずだ。

 けど実際は砕けなかった。


 そうなると考えられることは...

(あの盾が触媒か。珍しいな)

 クロスはすぐに答えに行き着き、そして正解であった。

 ユーグの盾、厳密には盾の装飾に魔法の触媒が組まれている。


 触媒はダイヤモンド。魔力を集約する性質があり防御や結界の魔法と相性がいい。

 これによりユーグが展開した防御魔法は詠唱破棄でも強化されている分、アリスティアの攻撃を凌げたのだ。加えて盾にしている分そのまま攻撃を防ぐことも出来るため、魔法で防ぎ切れなかった分をカバー出来たのだ。


(つっても、お粗末な防御だな)

 しかし、クロスからすれば今のユーグには不釣り合いな代物というのが率直な評価である。


魔法戦士(ルーンナイト)』の適性を持つ者は魔法と武技の双方を使うことが出来るため、一般的には『魔法士(マジシャン)』や『戦士(ウォリアー)』より優れていると思われている。

 しかし、実際の所は大成し切れず器用貧乏に終わる者が多いというのが現実である。

 魔法と武技はそれぞれマナ(魔力)プラーナ(気息)というお互いに相反するエネルギーを用いるため併用は非常に難しい。自由自在に双方を併用して使えるようになるには、長い時間をかけた末の研鑽が必要となる。


 アリスティアも現在、状況に応じて魔法と武技を攻撃や防御に使い、切り替えていくという今の戦闘スタイルを構築している。

 ユーグの方は魔法は防御のみに専念し、攻撃はもっぱら武技にするという割り切ったスタイルにしている。どちらかを攻撃に、どちらかを防御に固めるやり方は大半の魔法戦士(ルーンナイト)によく見られる正統派なスタイルでもある。

 だが魔法の触媒を盾にしているという点はクロスからすれば呆れたくもなるものだった。

 盾を触媒にしてる以上、魔法と武技の防御の切り替えはシビアになる。

 今のように魔法のみに効果を発揮する『対魔法防御(プロテクト・マジック)』を使うならばそれで魔法を全て防げるようにするのはクロスからすれば盾を触媒とする上での最低基準である。

 アリスティアが電気系の魔法なんかで攻撃していたら、盾による防御は意味を成さないのだから。


 とは言っても、それは実戦で経験のある相手と戦う際での基準。

 現状、ユーグの防御をアリスティアは破れず、攻めあぐねているので学生レベルとしてなら十分なのだろう。


 ユーグはすかさず接近し剣を振るう。

 アリスティアはそれを剣で受け止める。

 ユーグはシールドバッシュを仕掛ける。

 アリスティアは身を翻して掠るに抑える。

 アリスティアは速度を重視して『魔法の矢(マジック・アロー)』を放つ。

 ユーグは頭を動かして躱す。


 結果、軽微ながらアリスティアはダメージを負い、ユーグは無傷で終わる。


 攻防は続く。

 アリスティアの攻撃は入らず、ユーグの攻撃は軽微ながら通りダメージが重なっていく。


 試合時間が決まっている中自分の攻撃が通らない焦りに動きが乱れないようにと自制心を働かせ、相手の攻勢を抑えるためにも自身の攻勢を緩めない上で相手の攻勢を防ぎ躱すことに集中し続ける。


 それ等の疲労はアリスティアにダメージ以上のものとして積み重なり、徐々にその動きに精細さを奪い、受けるダメージ量を増やしていった。


 そうして何交目かの攻防の末、ユーグの剣撃に押されアリスティアは大きく退かれることとなった。


 場外しないように剣を石床に突き刺してブレーキをかけるアリスティアの肩を上下し、その疲労が窺える。

 ユーグの方も肩で息をしており、彼も疲労から大きく押し退けたようだ。


(二人とも連戦続きだからな。そろそろケリをつけないとアリスティアの負けだな)


 現在戦績は一勝一敗。仮にここで引き分けると延長戦となってしまう。現状ジリ貧となっているアリスティアには敗色がより濃厚になるだけである。


 それはアリスティア自身も分かっていた。

 だからこそ、お互いに呼吸を整えている今勝機を見出さなければいけない。

 なにより、自分の夢を笑わずに応援してくれたクロスのためにも、負けたくなかった。




 脳裏をよぎるのは競技祭に向けてクロスが提示した特訓メニュー。


決闘(コンバット)』に参加する三人はクロスを相手に実戦稽古を繰り返した。

 時に魔法で撃たれて気絶するサイモン、時に拳で脳天にタンコブを作る羽目となったクラウス。


 一戦毎にクロスは槍を振るい、鞭をしならせ、剣で斬りかかり、魔法で翻弄し、拳によって制圧するという風に戦法を変えてくるため対処出来ずに負かされた。


 その中でアリスティアは特にしごかれた。

 他の二人が気絶したりと特訓を中断した分、意識も体力もあったアリスティアに皺寄せされ手痛い目にあわされることが増えた。




「はい、また負け」

「っ〜〜!」

 悔しさから歯噛みするアリスティア。剣と盾を使うクロスに手も足も出なかった。

 以前喰らった足払いも警戒するが、それがかえって仇となってしまった。

 結局、剣と盾を捨てて身軽になった所からの接近による一本背負いを喰らってしまった。


「まさか、剣も盾も捨てて来るなんて...」

「戦闘において、相手が使いうる手は全て考えろ。逆にそれが出来なければ負けることと知りな」

「はい...」

予想できない(・・・・・・)から、予想外(・・・)という手が生まれる。覚えておきな」

「予想....」

「だからこそ、『予想外』という手は切り札となりうる」

 その言葉にアリスティアは思い返す。


 初めて戦戯盤でサイモンがクロスと対局した際、クロスは戦場そのものを水に沈めるという手を使いサイモンを負かした。

 自分は決闘を挑んだ際靴を飛ばすという手で瞬殺された。

 以前の模擬戦では剣で鍔迫り合いをしていた時に足払いを喰らってしまった。


 どれも予想していなかった故の敗因である。


「堅実な戦いってのは安定感もあるし場数を踏めば踏むほど奇策に惑わされなくなるから、中途半端に俺のマネしたら死ぬからするなよ」

「は、はい....」

「勝つためにあの手この手を使う俺のやり方はお前も気に食わないだろう。けど、こうして俺は勝ち、お前は負けている。覚えておきな、人は...」

 最後のその言葉にアリスティアは痛感させられた。






「ふう....」

 呼吸を整え、首をこきりと鳴らす。

 全身にあった強張りが抜けるのを感じるアリスティア。


(そう、間が空いたなら利用しろ。決して気は抜かずにな)

 アリスティアの様子にクロスは笑う。


 アリスティアは膝を軽く曲げ、踏み出す。

 跳躍に近いそれにより、勢いよくアリスティアとユーグの間合いは縮まる。

 勢いを乗せて振われるアリスティアの剣。

 意表を突かれたユーグは咄嗟に盾で防ぐ。


 アリスティアは左手に剣を持ち、ユーグは左手に盾を構えていた。

 剣を盾で防ぐのはセオリーであり正解だが、咄嗟の対角線上での攻防はユーグに右手の剣を振るい難いものとした。


 対してアリスティアの右手は腕環を着けただけの空き手。魔法による行使はそもそも手の有無は関係なく、触媒の補助があれば十分。


「【突風(ガスト)】!」

 右掌から放つイメージを持って放った突風によりその勢いで剣を再度押し込む。

 ユーグは自身の剣による迎撃は取れず盾を持つ腕に更に力をこめるしかない。


 勢いが止まり押し返そうとするも、アリスティア自身が後方に大きく退がっていった。

 力に対抗して力で押し退けようとしたのが災いし、ユーグの姿勢はまたも崩れる。


 アリスティアは今度は足元から『突風(ガスト)』を放ち間合いを広げたのだ。


 アリスティアが現状、ユーグに勝っている点は機動力。

 軽装故の身軽さとここにきて披露した魔法と武技による高速移動。これによるヒット&アウェイにユーグは翻弄されてきた。


(あれは、俺が使っていた...)

 自分も使っていた手段を自分なりに使ってみせる様にクロスは少しの驚きと充足感を得た。


 剣を鞘に収めるやいなや、アリスティアは魔法で畳み掛けていく。

「【我が魔力よ、矢となり放て、二重の魔法の矢デュオ・マジック・アロー】」

 突き出した両手の人差し指から、魔力の矢が二発同時(・・)に放たれる。


「なっ、【対魔法防御(プロテクト・マジック)】!」

 咄嗟に盾を突き出し、展開した防御魔法で防ぐユーグ。

 彼の驚きは素早く展開された攻撃ではなく、魔法の同時展開によるもの。


(『多重展開(マルチキャスト)』、会得してたのか....)

 クロスも意外性を隠せなかった。


 まだ完全詠唱が必要なようではあるが、あれは確かに魔法の同時発動技術『多重展開(マルチキャスト)』そのもの。

 一年次生でこの技術を会得出来るとはほとんどが思っておらず、観戦していた面々もどよめいていた。


 ユーグの防御に対し、アリスティアは攻勢を緩めない。

「【(はや)る風よ、敵を撃て、二重の疾風の礫デュオ・スイフト・ショット】!」

 再度ユーグへ狙いを定めた指先なら空気の弾丸が放たれる。


 ユーグも再度防御魔法を展開する。そして衝突するのを感じる。

 衝突は一回。

「え?」

 疑問を感じた瞬間、ユーグの視界が揺れる。寸前に感じたのは顎を横から強く押されたこと。


「うそ!」

「マジか!」

 更に驚く一年A組の面々。


(『多重展開(マルチキャスト)』と『座標指定』を組み合わせた時間差の多角攻撃、やるじゃないか)

 クロスも今の攻撃のカラクリが分かった。

 同時に発動した『疾風の礫(スイフト・ショット)』を二カ所から発射。

 そこに『座標指定』の技術で一発だけユーグの左横から顎を狙って放たれるようにしたのだ。

 先程の攻防で再び正面から来ると思い込まされたユーグは魔法防御を正面に展開した。


 左手に持つ盾を突き出しての魔法防御なので体勢の関係から左側の視界が狭まってしまい、左側からの攻撃に気づけなかったのだ。

 結果、初めてアリスティアの攻撃は通り、ユーグは軽い脳震盪を起こされた。


 このチャンスを逃さぬためアリスティアは詠唱を紡ぐ。

「【集え風よ、叩きつけろ、強風の殴打(ストライク・ゲイル)】!」

 アリスティアの正面から強力な風が砲弾の如く噴き出た。荒れ狂う空気の奔流はユーグへと迫る。


強風の殴打(ストライク・ゲイル)』は『突風(ガスト)』並みの量の風の流れを一点に集約することで『疾風の礫(スイフト・ショット)』以上の威力を出しているため、風系統の下級魔法としてはトップクラスの威力を誇る。

 空気の集約に時間がかかりやすいため今のアリスティアには一度に一発がやっとだが、勝利への決め手には十分だ。


 だが、ユーグも負けじと盾を握る手に力を込めて一点に集約された風の奔流を受け止める。


 少しずつ風に押されるも『身体強化』を施した肉体の力で堪える。揺れていた視界や途切れかけた意識も戻り、反撃を窺おうとしていたが、中断を余儀なくされた。


 頭上からクルクルと回りながら剣が落ちてきていた。

 見覚えのある剣なのは当然だった。アリスティアが鞘に収めたはずの剣だ。


(魔法で攻撃している隙に剣を投げたのか!?)

 孤を描くように迫る剣に対しユーグは回避という選択は取れなかった。

 かろうじて盾で魔法を防いでいるため身動きはとれず、当然盾では剣を防御できない。

 かといって、魔法防御を展開してもアリスティアの剣はミスリル製。魔力の遮断性質から防御が意味を成さなくなってしまう。


 そうなるともう右手に持つ剣で咄嗟に打ち返すしかなかった。

 アリスティアの剣を迎撃するのにユーグは自身の剣を大きく振るって弾いた。アリスティアの剣は上へと弾かれた。

 それによって今この瞬間、彼を守るものはもうなかった。


 がら空きになったユーグを見据えてアリスティアはすぐそこまで駆けつけていた。


「なっ!?」

 驚くユーグを他所に、アリスティアの蹴りがユーグの脇腹に入る。

 局所強化の一つ『俊足』によって底上げされた蹴りの威力はユーグを横倒しにするには十分であった。


 ちょうどアリスティアの頭上を舞っていた剣は主の手の方へと落ちてきた。

 流れるような動作で剣を手にしたアリスティアはユーグの首元にその刃先を突きつけるのだった。


 ユーグは息を呑む。

 ここまでの一連の流れ。


 魔法と武技を組み合わせて高めた機動力により間合いやタイミングが狂わされた。

 離れたら今度はこれまで使わなかった『多重展開(マルチキャスト)』で攻め込むかと思えばそれを陽動にして『座標指定』から死角を突かれ防御を崩された。

 防御が崩れた所を高威力の魔法を放ち勝負を決めようするのかと思えばまさかの剣を投げつけるという意外過ぎる一手。

 それも防ぎきったかと思えば既に肉薄してきた所からの蹴りの一撃で完全に体勢を崩された。


 一つ一つは意外性があり困惑させられるものの、対処するのはさして難しくはなかった。

 だが、次々と策を切り替えていくその戦術にユーグは常に後手に回らされ、その結果がこの状況だった。





「貴方の好き嫌いを否定するつもりはない。けど、言わせてもらうわ」

「.....」

「『人は勝ち方を選べるほど優れてはいない。過程に拘って目的を見失うことは何よりも愚かだ』 クロス先生から教わった言葉よ」

「....自分の負けです」

 その言葉にユーグは諸手を挙げて降参する。


『勝者、アリスティア=スターラァッ! これで一年次生A組の優勝が決定だ!』


「よっしゃあーーーっ!」

「優勝だぁ!」

「勝った、勝ったよ!」

「うん、うん!」

 盛大に声を張り上げる者、涙を流しながら抱き合う者、A組の面々は自分達の勝利に喜びを顕にする。


「アリス!」

「エリー!」

 闘技場に上がり駆け寄るエリーゼをアリスティアは抱き止める。


「やったね、優勝したね!」

「ええ、やったわ!」

 二人もまた喜びに打ち震えていた。そして喜びの安堵からアリスティアの膝から力が抜けて立てなくなり倒れそうになる。


「よっと、おつかれさん」

「先生...」

 そんなアリスティアの腕を取って、クロスが彼女を支えた。


「ほら治療室行くぞ」

「え、ちょ、下ろしてください! 歩けますから!」

「うっさい、黙れ。大人しく連れてかれろ」

 もがくアリスティアをよそにクロスは仮設治療室へ向かう。エリーゼも慌ててその後を追う。







「終わりましたね」

「ええ、優勝はA組でしたな」

「噂の新任教師のクラスだな」

 メイド、レオス、アルディンは口々に結果を述べる。


「ああ、これで終わったね。一つ目(・・・)の予定がね」

 ゾディアは笑いながら言う。

 その笑みはこれまで見せた作っているものではなく、面白いものを見つけて浮かべた本当の笑み。そしてその笑みを初めて見た者なら寒気を感じてしまうような得体の知れなさがあった。


 三人の身が引き締まる。

 その笑みこそ彼の本性を示すもの。『悪辣』の異名を示し、その恐ろしさを知っている三人は寒気を感じて仕方なかった。

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