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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第4章:学園競技祭
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決闘-コンバット-〜勝つために〜

『決まったぁーっ! A組『決闘(コンバット)』準決勝突破。残るは決勝戦のみだ!』

 対戦相手に勝利を収め、剣を鞘にしまうアリスティアに歓声が響く。


 インターバルがあるとはいえ、日に数度の対戦は流石に応えてくるがそれ以上自分達の優勝が見えて来たこの状況に高揚感が抑えられなくなってきた。


 振り返ると闘技台の外にいるクロスが僅かに笑っていた。それを見て益々気持ちの昂りを感じるアリスティアであった。




 最後の休憩時間を挟むため、アリスティア、サイモン、クラウス、そしてクロスの四人は訓練場内にある休憩用の部屋に向かっていた。

 すると途中、通路途中に立ち塞がる人影が四つ。


「ここまで残るとは、流石だなクロス=シュヴァルツ」

「いや俺じゃないですから、頑張ってるのこいつ等ですからユリウス先生」

「うぐっ!」

 挑発的な姿勢でくるユリウスをクロスはすげなくあしらう。


「と、とにかくこれで我がB組と貴様のA組、ようやく雌雄を決することができる。だが、勝つのはB組だ」

 ユリウスの自信に満ちたその様子にクロスは面倒そうな顔をする。

 自分で賭けをふっかけたくせに....


「クロス先生ですね」

「ん?」

 そんなクロスにユリウスと共にいたB組の男子生徒が一人話しかけてくる。


「ユーグ=モレーです。いきなりで失礼ですが、自分は貴方の、貴方達の戦い方が大嫌いです!」

「なっ!」

 ユーグの言葉にアリスティアが反応する。


「正々堂々とは言えない搦手なやり方、この学園に属する者としての誇りはないんですか、誇りは!」

「ちょっと、あなたね...」

 喰いかけるアリスティアをクロスが手を出し制止する。


「あっそ...」

 クロスはため息と共にそう一言告げて一人歩いていく。

「な!」

 その態度にユーグは更に憤慨する。


「いいでしょう、だったら申し訳ないけどアリスティア! 君達A組に勝って貴方のやり方は間違っているのだと証明すると、クロス先生に伝えてくれ!」

 一方通行な宣言をするとそれで満足したか、ユーグは足早にその場を去っていく。

「ユーグ、待て、決勝戦の打ち合わせがあるだろうが」

 ユリウスは仕方なくその後を追う。


「あはは、ごめんねうちのリーダーがさ。まあでも、負けるつもりはないんだよね」

 B組の紅一点が悪戯めいた笑みを向けてくる。


「ジェシカ=ヴェゲナーよ。覚悟してね、七光しかないお孫さん」

「ええ?」

「ばいば〜い♪ さ、いこうレント」

「.....」

 宣戦布告に惑うクラウスを放置し、ジェシカはもう一人の男子と共にユーグの去った方へ進む。






「なんでござるか、そのジェシカという輩は!」

「本当、頭にくるわ!」

 クラスメイトと合流し、控えスペースにて先程のことを話すとトモエとアリスティアは憤慨していた。


「え〜と、どうしたの、二人とも?」

「何でクラウスが怒らないのよ!」

「そうでござる! クラウス殿のことを馬鹿にしたのでござるよ!」

「いやでもさ、僕なんて実際戦うのは怖くてここまでずっと引き分けるしかなかった訳だし...」

「それは、クラウス殿が優しいから..」

「それに、ユーグはクロス先生に対して失礼なことを言うし」

「いや実際、俺のやり方は正々堂々じゃないからな」

「先生もですか!」

 二人の不機嫌に対し、当事者のクラウスはむしろ納得しクロスもヘラヘラとするだけだった。


 だが、エリーゼはその時気づいた。

 クロスは笑っているけど笑っていないことに。


「アリスティア、いい加減落ち着け」

 頭に血が昇っていたアリスティアがこの言葉を聞いた途端、身が竦む感覚に襲われ言葉を失う。


 そして遅れて気づく。他の面々も気づく。クロスから漂う不穏な空気に。




「先生...怒ってます?」

「ん、よく分かったな」

「いや、それは...」

 アリスティアにとって決して忘れられない出来事。

 なにせクロスから感じるそれは、以前自ら決闘を挑みながら敗北し、それにクラスの大半で異議申し立てた際に発していた威圧そのものなのだから。


 正確には抑えてはいるが僅かに漏れ出ているため、気弱なメルディやコニー、リズなんかは涙目になっていた。


「勝つために策を講じることはただの努力だってのに....嫌いか....くく」

 その笑みを浮かべた瞬間、更に涙を目に浮かべる者、軽い悲鳴を漏らすものが出た。


 まずい、彼は怒っている。

 けど、自分達の時よりこうも怒っているのは一体何故なのか?

 それだけは誰にも分からなかった。






「おやおや、クロス教諭は不機嫌なようだね」

 貴賓席からゾディアは愉快そうに呟く。


「陛下、武技と魔法を使っての覗き見は趣味が悪いと言われても否定できませんが」

「どうやらB組の生徒と揉めたみたいでね」

「陛下、今すぐ退位した後捕まってください」

「.....分かったから真顔で冗談言わないでくれよ」

「本気ですが」

 メイドの言葉に冷や汗を流すゾディア。







『さぁーて、学園競技祭も遂にこれで終わりだ!

決闘(コンバット)」決勝戦A組対Bのはじまりだぁーーーッ!!!』

 一段と熱の籠もったルークの実況に観客席が湧き上がる。


『ここで勝った方が一年次生の頂点となる、さあ勝つのはどっちだぁーーーッ!!!』


 石造りの円型闘技場の両サイドにはそれぞれの陣営の代表生徒が立っていた。

 各々血気盛んな空気を纏い---約一名を除き---出番はまだかまだかと待っていた。




『それじゃ事前に各担任教員から預かった対戦順番のカードを読ませてもらうぜ。

 まずはB組、ちっとは喋ってくれよ、だけど無口だからこそ強い。沈黙に速攻、レント=シィフ!』

 名前を呼ばれて現れるB組の先鋒、レント=シィフ。彼は周囲の熱狂などどこ吹く風と言った様子で静かに佇んでいた。


『対するA組は、勤勉さに裏打ちされたその技巧、早撃ちで瞬殺、サイモン=テオリオ!』

 A組からはサイモンが現れる。クールぶってはいるがその身に纏う空気は負ける気はないという闘争心に満ちたもの。




「よろしく」

「....」

 形ばかりのサイモンの挨拶にレントは無言だがぺこりと会釈で返す。


『それでは、始め!』

 そして試合は始まる。




「【痺電の稲光(スタン・ボルト)】!」

 使い慣れた得意魔法を先手必勝で放つサイモン。


 杖先より青い電光が放たれる。

 対してレントも杖先から外れるように開始すぐに動き、容易く躱す。

 サイモンがこれまでこの魔法を多用していたので、第一手はこれだと読んでいての行動であった。


 そのままサイモンへと接近。腰から取り出すは二本の両刃の短剣(ダガー)


 懐へと入り込むや否や二本の剣閃が光る。


「くっ!」

 かろうじて躱すサイモンだが、服の胸元が切れる。


 後退し距離を取ろうとするもそれを許さないレントは追尾し追撃を放つ。

 サイモンもそれを躱しダメージを避けようとする。

 直撃はないが皮膚をかすめ血が流れてくる。




 魔法士と戦士が対峙する上で、間合いは最も重要となる。


 遠距離では魔法による多彩な攻撃手段を持つ魔法士が有利となり、近距離では素早い攻撃を繰り出せる戦士が有利となる。

 そのため、現代における模擬戦---もちろんこの決闘(コンバット)においても---の開始時の立ち位置は近すぎず遠すぎずという間合いが設けられている。


 魔法士は間合いを詰められる前に魔法を如何に速く撃つかが求められ、戦士は如何に懐へと入り込むかが求められ、それを達した方が勝つと言われる。

 つまり、現状サイモンがかなり不利であるのが誰の目に見ても分かる。


 これまでサイモンは詠唱破棄した魔法の早撃ちで勝ってきた。間合いを詰めようとする者に対してもクロスに鍛えられたおかげで間合いを離しながら魔法を放つことで事なきを得てきた。

 だが、レントのスピードはそれまでの比ではない。

 低い姿勢から滑り込む様な独特の走り方、武器としても軽量なダガーによりスピードは殺されておらず、『身体強化』により更に高められた剣閃は魔法士であるサイモンが辛うじてでも躱せているのがむしろ上出来と言えるのである。




 無言のまま振るわれるレントの斬撃。

 上、下、右、左、斜めと多角的に迫りくる刃。軌道がはっきりと分かる頃には既に通り過ぎた跡になるため確実な後退を選ばざるを得ないサイモン。


 彼自身分かっていた。このままでは勝てないと。


 勝つ方法は一つ。

 それは渡されてから使い熟すための訓練はするも実戦では決して使おうとしなかったもの。

 使わない理由は至極単純。


 自分のプライドが許さないから。


(けど....)

 それでも彼は負けたくなかった。


 だから彼はプライドを捨て、勝つことを選ぶ。

 プライドを選んで負けなんかしたら、ただの馬鹿でしかない。


(絶対に...勝つんだ!)

 懐に仕込んでいたそれを短杖(ワンド)の柄尻に着ける。




 そして唱える。散々練習した一回限りのとっておきを。

「【震離法陣(レィゴン・フィールド)】っ!」

「っ!」

 サイモンを中心に半球状の放電が起きる。当然、レントもその領域内のため、放電をもろに喰らう。




「嘘っ!」

「中級魔法を、詠唱破棄で...」

 アリスティアもクラウスも驚きを隠せない。中級魔法の習得自体、一年の内に出来る者は非常に少ない。

 それをましてや詠唱破棄で使えるとなるとまずいない。

 規模も威力もかなり落ちているようだがそれでも現象が起きていることは発動出来たということ。


 クロスもこれには驚かされた。

 今の自分(・・・・)には中級以上の魔法の詠唱要略は使えないのだから。




震離方陣(レィゴン・フィールド)

 結界魔法にも属する中級魔法。近接戦が弱点になりやすい魔法士のそれを逆手に取り、自身を中心に放電現象を起こすという魔法。

 コントロールを誤れば自分自身も放電を喰らうため、この魔法を習得しようとする者は少数派だったりする。

 サイモンは懐に入られた時の逆転の一手としてこの魔法を習得していたのだ。


 とは言ってもこれまでの試合で魔力も消費し疲労も重なった状態で、敵の攻撃を回避しながら使うには無理があった。だから彼は杖に着けたのだ。

 クロスから貸されたこの魔法触媒のアメジスト(紫水晶)。これの補助により何とか発動してみせたのだ。


 ここまで決して使わなかったとっておき。

 敵は見事に喰らい、両手に持つダガーは落としていた。

 サイモンも魔力の大量消費により気を失いかけるも辛うじて立っている。

 相手はもう倒れる寸前。




 そう、寸前。

 まだ倒れていない。


 後ろへと倒れそうになるその勢いのままレントは足を振り上げ、サイモンの腹部に突き刺す。

 靴の先に仕込んでいた仕込み刃を。彼もまたこの時までとっておいたものがあったのだった。


 致命判定が下され、サイモンは闘技場外に転移する。

 辛うじて意識を保ち残るはレント。




『勝者、レント=シィフ!』

 初戦の勝利にB組は歓声を上げるのだった。

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