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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第1章:新任教師の幕開け
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1年次生A組担任教師

「クロス=シュヴァルツ、年齢は26。

 適性は『魔法戦士(ルーンナイト)』、出身地不明、学歴不明、職歴不明、就職動機不明って....学園長、何ですかこれは!!!」

 書類片手にユリウスは正面に座るフィアナに対し声を荒げた。


 入学式が終了し、その他のガイダンスや必要な教科書類の配布等が済み生徒達が帰路に着いた後、彼は学園長室に座したフィアナと対峙していた。


 彼が手にしている書類は、今期から職員となるクロスのプロフィールが記載されたものである。

 いや、記載されたというのも語弊かもしれない。

 実際の所、プロフィールの項目部分のほとんどは無記入だった。


「何って、貴方が読んだ通り、クロス先生の職員情報よ」

「どこが職員情報ですか!ほとんど白紙じゃないですか!」

「そうなのよね〜彼、書類にほとんど書かずに提出したものだから」

「笑い事じゃありません!本来、この書類は不逞な輩が入り込まない様にし、生徒の安全を守るために職員全員に書いてもらうものなのですよ!

 実際、奴と同期の入職となった用務員のマーカス殿はしっかり記載しており、偽りもないと裏が取れているというのに、もう一人は情報皆無って、洒落にならないじゃないですか!」

 ユリウスはクロスと同期入職となった用務員のマーカス=ピーブスの書類を手に取った。


 ユリウスの言う通り、書類には記入事項が全て埋まっており、嘘偽りがないことは綿密な調査で証明されている。

 これは同盟国からの留学生も多く在籍しているこの学園が、生徒の安全と国際問題の発生防止を考慮しての処置である。

 プライバシーの侵害と言えばそうなのだが、この学園の職員になろうとする者は大概高潔な性質なので処置の必要性は理解し受け入れている。




「そもそも、学園長の推薦で入職出来たというのに、無礼にもほどがあるじゃないですか!」

 ユリウスが苛立つ一番の理由はこれだった。

 在学時代の恩師であり、敬愛すべき学園長の推薦という羨まし過ぎる方法で教職員となったのに、入職初日から遅刻はし、身嗜みも適当、意気揚々に語った新入生の理想を真っ向から否定して去るなど、学園の、延いては学園長への不敬極まりない態度が許せなかった(ユリウスの場合は一般の入職審査をクリアしての就職である)。


 特に、クロスは今日まで学園に訪れていなかった。本来なら新入職員は入学式が始まる一週間前に顔合わせを済ませ、学園の設備について等の説明を受けるなどの準備を済ます予定だったのだが、肝心の新入職員であるクロスは本日まで連絡もないまま無断欠勤状態であった。




「まあ、彼は教員免許ないから私が推薦しただけなんですけど」

「はあっ!?」

 フィアナの暴露にユリウスは大口を開けてて情けない声を出した。

 確かに、推薦なしで一般のルートで入職するには、当然教員免許が必須である。

 だが、免許がないから推薦してもらったなんていう事実には開いた口が塞がらなかった。


 思考がついていけず、頭痛を覚えたユリウスはこめかみを抑えた。


「一体、何者なんですか?学園長はご存知なのでしょう」

「そうね....指導者として優秀なのは確かよ。ただ、大勢を受け持ったことはないらしいけど」

「家庭教師でもやってたのですか?」

「まあ、そういうものね」

「何ですかその曖昧な返答は...」


 結局、ユリウスの疑問はほとんど晴れることはなかった。追求しようにも、フィアナがホホホと笑って誤魔化してしまい、それ以上の情報が得られなかったために。






 入学式終え、いよいよ授業開始となった今日。

 アリスティアは教室に入り、席に着いていた。隣の席にはエリーゼが座っており、これから始まる授業に対し、期待に胸を膨らませていた。


 ちなみに教室は所謂階段教室と称される構造である。

 後方に行くほど席の位置が高くなる階段状の教室であり、これによって最前の黒板を余すことなく見ることが出来る。




「いよいよね」

「ふふ、アリスったら、遠足前の男の子みたい」

 全身でワクワクを示しているアリスティアにエリーゼは笑みを隠せなかった。


「そんな、またエリーってば酷い!」

「あはは、ごめんね」

 頰を軽く膨らませて不機嫌を示すアリスティアにエリーゼは笑いながら謝った。


 ちなみに二人の席は最前列の中央の席である。

 席は基本的に自由であるため、居眠りでもしたい者なら、教師の視界から外れやすい両端(特に日当たりの良い窓際の席は居眠りをしたい者が多いだろう)を取るし、逆にアリスティアのように真面目に授業を受けたい者なら正面の前列となる。


 そのため、生徒達の着席の様子を見て、注意を払う必要がある生徒は誰かを見定めたりしているのは教師陣の毎年の恒例となっていたりする。


 授業開始までまだ時間があるのもあり、アリスティアは後ろの方へ目を向けた。

 これから苦楽を共にするであるクラスメイトの顔ぶれはどんなだろうと気になっての行動だった。


 体格がいい割に妙にビクビクと緊張している男子、分厚い本(表紙のデザインからおそらく魔法関連)を読んでいる眼鏡男子、姿勢良く座りアリス同様ワクワクといった様子の女子、健康的な褐色肌の女子、麻呂眉が特徴的な童顔の少年など、中々に個性的な顔ぶれだった。


 顔立ちから何人かは同盟国からの留学生なのだろうと予測できた。


 授業開始を告げる鐘の音が学園内に響いた。


 鐘が鳴り終えて少し経つと教室の扉が開いた。




 扉から颯爽と『彼』は現れた。

 つまり、彼がこのクラスの担任。


「はあ、めんど...」

 髪をクシャクシャと掻き、気だるさを一切隠す気なく(というかもう言葉にしている)、彼は入って来た。


「え...」

「嘘でしょ...」

 エリーゼとアリスティアは唖然とした。


 まじかよ、本当かよなどと教室に入った彼に対して生徒のほとんどは驚きを隠せなかった。


 なにせ、先日の入学式で問題を起こして悪い意味で注目の的となった人物なのだから。


 特に、アリスティアにとっては自分の夢を馬鹿にし、自らの覚悟を示す場を邪魔した張本人なのだから。




「はい、今日からお前等の担任となります。クロス=シュヴァルツです。面倒くせーがよろしく」

 建前ゼロの挨拶と共に1年次生A組の担任教師、クロス=シュヴァルツは教壇に立った。


「な、な...」

 アリスティアは身震いし、




「なんなのよコレェーーーッ!!!!!」

 叫んだ。


 学園内に響かんばかりの声で。

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