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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第4章:学園競技祭
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度肝を抜いてやれ

 2020年5月。コロナウィルスによる緊急事態宣言が延長となってしまいました。


 それとは別になんとかGW中までにもう一話。

 少しでも読んでいる人の退屈しのぎになれば幸いです。

 競技祭では各競技で出した成績に応じた得点選手のクラスに加点され、その合計得点が最終的にクラスの順位となる。


 公平を保つため、競技祭が始まる前には各クラスどの種目にどの生徒が出るのかが発表される。

 参加する他クラスの選手の顔ぶれによっては戦意を失う生徒が出ることも。


 クロスのA組でも組み合わせを見て意気消沈する者が何人も出たが、クロスはそれを許さなかった。


『負けるつもりで戦うな。勝つつもりで戦え』

 以降A組の訓練のスローガンとなったクロスの言葉である。






 第一競技『運び屋(ミュール)


 スタート地点にトモエは立っていた。その手には薙刀を持ち、そわそわしていた。

 他クラスの多くは体格のいい戦士(ウォリアー)の男子で残りの少数は女子ではあるが魔法士(マジシャン)であり、戦士の女子はトモエ一人だった。


運び屋(ミュール)』のルールは以下の通り。


 ①スタート地点からすぐ前に設置された立方体の形に作られた大きな石塊をゴールまで運ぶ

 ②運ぶための手段は自由

 ③その順位に応じてクラスに得点が入る(上位になるほど高得点)

 ④他者の妨害行為は禁止。発覚次第即失格(得点もなし)


 現在では石塊は非常に重く硬いため、運ぶ手段は力押しか浮遊系の魔法を用いるかの二択が主流である。

 つまり、体格のいい男子は力押し、女子達は魔法で運ぶということ。


 主流な攻略法を取る者とは見えないトモエは注目を浴びていた。


『さあ、第一種目「運び屋(ミュール)」いよいよ始まります! 注目選手は例年担当クラスの優勝に貢献してきたユリウス先生のB組より出場の魔法士のフローちゃん! 念動力の魔法が得意な彼女は自信満々な様子でした』

 ジョーダンの解説にトモエの隣でスタートの準備をしている少女が気を良くしていた。

 彼女はトモエを一瞥すると楽勝と言った様子でほくそ笑んだ。

 ゆるふわと評される見た目だが、中身は意外と負けず嫌いなようだ。


 審判を務める職員より再度ルール説明が成され、確認のための質疑応答を行うも誰も何も言わなかった。




『それでは、スタートォッ!!!』

 開始を告げる号令用の奏音(ブザー)が鳴り響く。




「【我が意志よ、第三の手となれ、念動力(テレキネシス)】」

 フローが詠唱を紡ぎ、石塊が地面から浮かび上がる。


 対象の重力に干渉して浮かせ操る下級魔法『念動力(テレキネシス)』により石塊は持ち上げられたのだ。


 他の魔法士の生徒も同様の魔法を使うが、かろうじて浮き上がっているのが分かる程度であった。


 触媒の指輪をつけた右手を突き出したままフローが歩き始めると彼女の前方にある石塊も動き出す。

 それを追うように他の魔法士の生徒も動き始めた。


 一方、戦士の男子生徒達はというと...

「うおおおおおっ!」

 身体強化した自身のパワーで石塊を押していた。

 歯を食いしばり、明らかにきつそうな顔をしながらも着実に動かしていた。

 芝生の地面は石塊で擦れて土色を露出させていた。




 そして、トモエはというと...

『おおーっと、A組のトモエちゃんはどうした? 武器を振りかぶったまま動かないぞ?』

「ええ、トモエさん大丈夫かな?」

「お前が心配したって何にもならないぞクラウス」

「でも、先生...」

「信じてやれ。お前等クラスメイトがするのさそれだけだ」

「は、はい!」




 トモエを他所に、他の生徒達は着実に進んでいた。

 フローは他の生徒より先に進んではいるが、額には汗が滲み、疲労の色が窺える。

 他の生徒達もペースを落とさぬようにと奮闘するが、全員疲弊している。


(あの石塊の重量はおそらく三桁は余裕だな。それを学生一人で運ぶとなるとかなりきついだろうからな.....そのままじゃな)

 そんな光景を見て、クロスはトモエの方を見る。

 そして心配無用であると理解するのであった。



 トモエは目を瞑っていた。

 周囲の歓声が耳に入るも不思議と気が乱されることはなかった。

 クラスメイトの応援の声が耳に入った。他の歓声と混ぜってよく聞こえなかったが、確かに自分を応援してくれる声である。


 そして一際よく聞こえる声が一人。

「トモエさん、頑張れ!」

 クラウスの声援にトモエは目を開く。


「でえええぇいっ!」

 そして気合いを伴った声と共に相棒『岩融(いわとおし)』を振り下ろす。


 刃は吸い込まれるかの如く石塊を通り抜け、半分に切り裂く。

 その様子に観戦していた者達は歓声を絶ってしまう。

 トモエの叫びにつられてその様子を見てしまった他の参加生徒達もまた足を止めてしまった。フロー達魔法士は集中を切らしてしまい石塊が地面に着いてしまう。


「まだまだぁ!」

 更に横に薙刀を振るう。更にもう一閃。


 計三回の斬撃により石塊は八つの小さな塊となった。


「よし、斬鉄(ざんてつ)成功でござる!」

 そういうとトモエは薙刀を背負い塊を三個ほど抱え走り出した。


 他の生徒達とは比べ物にならない速さですぐさまゴールに到着し、塊を置くと再びスタート地点の方へと逆走する。

 塊を持ってないので速度は更に増していた。


 唖然としていた参加生徒達も慌てて動きを再開する。

 フローもすでにゴールまで半分を切っていた。


 そして声援が再び湧き上がる。




 だが、先程のトモエの行動に集中が切れてしまった参加生徒達の速度は最初と比べ落ちてしまい、トモエは二回目のゴールを果たし、更に三個置いていき逆走する。


 A組の面々もこの光景に言葉を奪われていた。

 貴賓席のゾディアは感心した表情で眺めていた。


 それまで先頭を走っていたフローがゴールまで残り四分の一を切った時にはトモエが残り二個の塊を手にゴールした。


 そして最初のゴールを知らせる奏音(ブザー)が鳴り響いたのもその時であった。




「ちょ、あんなのありかよ!」

「反則でしょあれ!」

「壊したらダメだろ!」

 そういって騒ぎ出す他クラスの生徒達。応援していた生徒はもちろん、参加していた生徒達も反論の声を挙げていた。


「先生、あれは反則じゃないんですか?」

 フローもまた担任のユリウスに確認をとっていた。

 仮にこれでトモエの行為が反則とされれば2位でゴールした彼女が繰り上げで一位となるので反論の声も特に強まってしまう。


 だがそんな彼女の反論にユリウスは決して肯定の言葉を口にしようとしなかった。


「【彼方へ響け、我が言霊(ことだま)声明の反響(ボイス・エコー)】」

「え、ちょ、みんな耳塞いで!」

 クロスの詠唱に気づいたアリスティアによりA組全員は耳を押さえた。




『あー、聴こえるか? A組担任のクロス=シュヴァルツだ。さっきからルール違反だとか()かしてんの、ルールブックを今すぐ読め、このたわけが!』

 魔法により音量が増幅されたクロスの声は訓練場全てに響いた。


『ったく、反則ならそもそも競技中に審判が止めるだろうが...常識を考えろ常識をよ。負けた言い訳してんじゃねーよ』


「なっ..!」

 クロスの罵倒の言葉にフローをはじめ反論していた生徒達のこめかみに青筋が走る。

 怒りから衝動的に言葉が出ようとしたがクロスがそれを遮った。


『この競技のルールはあくまで「石塊をゴールに運ぶこと」で、その手段についての言及は一切されてないだろうが! 審判の説明聞いてなかったって言うんなら、そりゃそっちの落ち度だろうがこのタコ!』


 そう、クロスの言う通り、この競技のルールにおいて運び方に制限はないのだ。

 つまり、『持ち運びしやすくするために切る』のもありなのだ。


 だからトモエの行為に対し審判は反則と取らず静観していたのだ。

 無論、トモエの薙刀により他の参加生徒の動きに影響していたら反則となっていたが、トモエが切り出したのは他の生徒が全員離れてから。


 よって、問題はないのだ。


「そ、そんな...」

「諦めろ、フロー。悔しいがA組の作戦勝ちだ」

 教え子を諭す一方、ユリウス自身A組の---正確に言えばクロスが授けただろう---作戦には意表を突かれた。




 その理由について、クロスは何故あの作戦なのかと尋ねるアリスティア達にちょうど説明していた。


「あの石塊はな、内部に刻印魔法が施されてるんだよ」

「え、そうだったんですか?」

「ああ、過去の競技祭の記録を見ての推測だが、おそらく『重量増加』と『硬度強化』の刻印だ。あのサイズで浮遊系の魔法で運ぶのに苦労してた様子だから同サイズの金属くらいはあったかもしれないな」

「金属並みの重さと硬さ...」

「そうだ。まあ、実際に金属にしなかったのは加工だ材料の用意が手間なのや多分、今回の攻略法を遠回しに提示するためかもしれないな。

 普通、物を運ぶなんて競技だったら物をバラすなんて発想はまず思いつかない。だが、そこに思いつくかどうかも又、競技攻略に対する意気込みを評価してたのかもしれないな」

「なるほど...」

「刻印魔法によって重さが増している以上、切断することで刻印魔法は定義が破綻して効果を無くす。そうすれば小分けしたものも最初よりは軽くなって運び易くなる。そういうことだ」

「でも、刻印魔法が仕込まれていることに気づくなんてすごいですね」

 エリーゼの言葉は他のクラスメイトも同意見だった。


 クロスの立てた攻略法はルール違反にならずむしろ話を聞く限りこれまでの方法よりも効率的なのだ。

 だが、それを実践したものがいなかった。


 つまり、あの石塊の秘密に気づいた者が...

「いや、ユリウス先生とか教職員のほとんどは気付いてるぞ。ってか、教職員で備品の類は準備するんだから多分周知の事実だぞ。俺は新人だから何もしなかったけどよ」

「え、じゃあなんで切る方法を取らないんですか?」




「あの石塊は刻印魔法により硬度も高いと言っただろう。生徒でも砕く(・・)ならまだやりようはあるが切る(・・)となると実行出来る者は限られてくる」

 ちょうどその頃、ユリウスもB組の生徒達にA組の作戦を採らなかった理由を話していた。


「けど、砕いてしまうと細かい欠片になって運ぶのが手間になり時間がかかる。だから壊すとなると切るしかないわけだ」

 そしてクロスもタイミングよく生徒達に話を続けていた。


「しかし、あの石塊を切り裂くとなると最低でも『斬鉄(ざんてつ)』レベルの武技が必要だ。一年でそれを使える者がクラスに1〜2人いればいいと言えば、習得の難易度が分かるだろう?」

 ユリウスの言葉にA組の作戦が採れない理由を思い知らされたB組。


「そんな武技が使える生徒がいるなら得点の多い『決闘(コンバット)』に回した方が利口だ。普通はこの競技に回さないな。もっとも、うちにはトモエの代わりに活躍するクラウスがいたから採れた策なんだけどな」

「え、えええ!」

 さらりと活躍を期待されていることにクラウスは変な声を出してしまった。


 当日になって更に期待されていることにもう胃が痛くなりそうだった。






「あはははははっ! 凄いな彼、あんな作戦そう思いつかないよ本当」

「陛下、はしたないでございます」

「ごめんごめん。ふふ、あそこにいるのが噂のクロス先生か...」

「.....」

 観客席で愉快な反応を示していたゾディアがクロスを見つけたことにフィアナは警戒を隠せずにいた。

 ゾディアの視線にクロスは反応する様子はなかった。




 そしてクロス達A組は緒戦の快勝に盛り上がっていた。

 そんな中、クロスはつぶやく。

「まあ、今回の競技祭、いくつかの競技で考えた作戦にテーマを着けるなら...」

 そう言葉を途切れさせ、クロスは笑う。




「『ルール(規律)は守るもの、そしてセオリー(定石)は破るもの』、かな」

 まるで自身の悪巧みの今後を期待した魔王(・・)のような悪い顔で。


 その顔に気づいたアリスティアとエリーゼが顔が青くなっていたのは言うまでもないことだろうて。

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