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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第3章:学び舎の日進月歩
36/66

デート!?

 その日の授業が終わり、教室にはクラウスとトモエの二人だけだった。


 大事な用があるのでと言われ、クラウスは素直に待ち、そして今トモエから話を聞いていた。


「贈り物ですか?」

「う、うむ! 先の不審者の事件のことで父上と母上から文が届いていてな。随分と心配されていたので、大丈夫であるという手紙と共に菓子折りでも送ろうかと思っているのでござるよ」

「ああ、それはいいことだね」

 早口でまくしたてるトモエの説明にクラウスはにこりと納得する。


「それででござるが、クラウス殿に今度の週末、買い物に付き合ってもらいたい次第で...」

「え、僕が?」

「いやその、母上への贈り物は拙者も考えていくつもりだが、男の父上への贈り物はやはり、殿方の意見を聞いておくべきかと思っていたわけで、父上と同じ戦士型(ウォリアー)のクラウス殿ならとても参考になると思っているわけで、別に他意はなくて....」

 更に早口で紡がれるとってつけたような言い訳。

 対するクラウスは...


「そうなんだ。でも、僕なんかの意見でいいんでしょうか?」

「なんかと言わないでほしいでござる。クラウス殿ならと思い、拙者は頼みに来ているので」

「あ、ごめん」

「と、とにかく、買い物(・・・)に付き合ってくれないだろうか!」


 自分を真っ直ぐに見るトモエ。

 彼女の家族への気持ちにクラウスは応えてあげたいと思った。


「分かった。それじゃ、どこで待ち合わせしようか?」

「い、いいのでござるか?」

「うん、別に予定もないし。で、どこにしようか?」

「で、では、街の中央部にある噴水広場はどうでござるか? あそこなら、拙者も分かるので」

「じゃあそこで。あ、時間はどうしようか?」

「だったら...」

 そんな風に話を進める二人。


 それをこっそりと教室の陰から見ているのが四人。

 言わずもがな、アリスティア、エリーゼ、リーネ、アンナである。


「よし、第一段階は成功ね!」

「第一段階って...」

「あははは」

 二人の様子にガッツポーズするアンナに呆れるアリスティアと苦笑するエリーゼ。


「次は第二段階。デートして自分の恋心に気付かせる!」

 同じくガッツポーズして語るリーネ。

 普段は垂らしていた長髪が後ろ手に結わえられており、何やら意気込んだ様子。


「リーネ、それじゃこの後は...」

「ええ、私に任せて」

「任せたわ」

「「ふふふふふ」」

 そして薄ら笑いを見せる二人。

 怪しい。

 どう見ても怪しすぎる。


 若干引いてしまうアリスティアとエリーゼであった。






 そして遂に迎えた休日。


 トモエは約束の時間よりも1時間も早く噴水広場に来ていた。


 昨晩は中々眠れず、寝たと思い起きてみれば普段の起床時間---早朝の自主稽古のために日が昇り出す頃---よりも早かった。


 そんな彼女の雰囲気は臨戦態勢間近といった様子であった。

 これほどまでのプレッシャー、彼女は感じたことがなかった。


 父親との初めての稽古戦の時も、学園への留学生枠勝ち取りのための試合の時も、ましてや先日のロックバイパーとの死闘の時もだ。


 一体自分は何を気にしているのか?

 一体自分は何を恐れているのか?


 答えが分からない故に重圧はのしかかったまま、彼女はここまで来た。




 それとは別に、彼女を煩わせるものが一つ。

(やはり、ヤマトの服装はまずかったでござろうか?)


 クラウスと買い物の約束を取り付けた後、すぐさまリーネに引きずられ学生寮に連れて行かれたトモエは自室にてファッションショーを繰り広げられた。


 帝国文化を意識した衣装もいくつか持っていたので最初はそれ等を着て見せることになったが、リーネは眉をひそめるだけで何も言わず、途中からリーネがどこからか入手してきた衣装を着る羽目になった。


 中には砂漠の国ミルラスイのものとおぼしき、露出度の激しい衣装---後に踊り子の衣装と判明---を勧められた時は頑として断ったりもした。


 結局、彼女が選んだのは母が若い頃に来ていた女袴であった。

 母の思い出の品であり、昨年譲り受けた物。



 紫を基調とした色合い、必要以上にはなく最低限は施された柄。

 地味と言えば地味だし、古くさいと言えば古くさいが、母にとっては父と結婚する前の逢瀬の思い出が詰まった品。


 昔、堅物な父が珍しく酒に酔った時に吐露した際、逢瀬の時に女袴を着ていた母はより一層綺麗だったとのこと。

 翌日、そのことが話題に出た際は酒に酔って覚えていないと耳を赤くしてそっぽを向いていたのをトモエはよく覚えている。


 そんな衣装に身を包み、髪を後ろに結うのもいつも使っている髪紐ではなく、母に贈られた桜色のリボン。

『貴女も女の子なのですから、お洒落には気を遣いなさい』と贈られた時に言われるのを結ぶ時に思い出してしまい、気恥ずかしくなったのは言うまでもない。


 又、彼女自身の容姿も周囲の目を引いている要因だった。

 鍛えたことで引き締められた肢体、手入れを欠かさず施している長い黒髪、顔立ちも東方系で美人と評されるものなので服装とマッチしている。


 結果、彼女を遠目に見る異性を中心した視線が後を絶たないのである。

 最も、これからのことで緊張してしまい無駄に発している気迫に彼女に近づこうとする輩はいなかった。




 そう、彼以外は。


「ごめんなさい、待たせちゃって」

 駆け足でトモエの方に向かいながらクラウスは言う。


 その言葉にトモエも慌てる。

「い、いや、たまたま早く着いただけで約束の時間を遅れてはいないでござるよ!」


 約束時間から少し余裕を持ってきたクラウスとたまたま早く来てしまったトモエ。

 どちらに非があるのかと問えばどちらにも非はなかった。




 若干の気まずさを感じるも二人は早速その場から出発した。




「よし、二人は出発したわ」

「行くわよ!」

「.....」

「あはは...」

 建物の陰に隠れ遠巻きに二人を見ながら意気揚々とする二人と呆れてものが言えないのと苦笑する二人。

 もちろん、前者はアンナとリーネ。後者はアリスティアとエリーゼである。


 しかも、正体がバレないようにとキャスケットを被り、黒眼鏡(サングラス)と襟の立ったトレンチコートで顔を隠すという用意周到ぶりで。






 二人が向かったのは商店が並ぶ商業街のあるオリエの南区。

 食料品、嗜好品、酒類、衣類、装飾品etc....


 様々な物資の取引がされるここは人々が行き交い、いつもと変わらぬ賑わいを見せており、二人もトモエの両親への贈り物として丁度いいものはないか露店を眺め吟味していた。


 仮に菓子折りにするとなると郵送にかかる日数を踏まえて鮮度が保つかどうか、国家間での輸出入規制の対象となっていないかを確認せねばならないため、手間がかかってしまう。

 何より、贈る相手が好むかどうかが肝心である。


「この街だと、ヤマト産の品物もあらけど、贈るならやっぱり他の国のがいいよね」

「うむ、昔と比べ諸外国の文化を取り入れてきてはいるが、やはり外国産の土産の方が好まれるでござるな」




「あ、これなんかどうかな?」

「えと、これは...」

 クラウスが示したのは淡い水色のショールだった。


「ヤマトの“キモノ”って服装に合うんじゃないかなって?」

「そうでござるな...母上に似合うと思うでござるよ」

「トモエさんにも似合うと思うよ」

「うぇっ!? 何を言ってるでござるか?」

 クラウスの言葉にトモエは自分の顔が紅潮するのが嫌でも分かった。






「何て言ってるの?」

「『トモエさんにも似合うと思うよ』って」

「言うわねクラウスくん」

 物陰から様子を見るアンナ達。商業街の賑わいで声を聞くことは叶わないもののリーネの読唇術でそれをカバーしていた。


「「.....」」

 おいてけぼりのアリスティアとエリーゼ。




「あ、クラウス君の選んだストールを買ったわ!」

「次の店に移動し始めたね。行こう」

 盛り上がるアンナとリーネ。尾行を再開したので同行するアリスティアとエリーゼ。






 二人が次に立ち寄ったのは酒類販売店。

 各地から集めた銘酒によって店の中は酒類しかないはずなのにバラエティに富んだ光景だった。


 酒の器にしても、徳利、ガラス瓶、瓢箪、樽、スキットルとあり、サイズや色なども含めれば最早千差万別以外なにもない。


 加えて中身もジャンルが定まっていても生産地や材料でまた変わる。


 その結果がこの店の光景である。




「これなんかどうかな?」

「これは...セーレンド産のものでござるか?」

「うん、ヤマト由来のお酒よりは外国の方がいいかなって?」

「なるほど...」

「それに、この『竜泉酒』は水に似た味わいがいいって聞いたことがあるし」

 そんな二人の会話に店主は感心して口を開いた。


「坊ちゃん、お目が高いな。『竜泉酒』はヤマトの清酒技術を基にこだわり抜いた水で作った代物だからヤマトの人にも受けがいいよ」

「あはは、どうも」

「よし、店主よこちらを買わせてもらいたいがよろしいだろうか?」

「あいよ。2アラムと8シュタンだよ」

 店主の提示する金額にトモエは財布から3枚の銀貨を出す。

 受け取った店主は釣り銭として2枚の銅貨を出した。


「この酒をヤマトに郵送したいんだが郵送局で可能でござるか?」

「ん? だったら嬢ちゃん、国外郵送なら中央区の役所に行くといいよ」

「そうでござるか。かたじけない」

「同盟国とは言え国外だと郵送局じゃ手続きは無理だからな、悪いね」

 店主に礼を言って、二人は店を出た。




「逆戻りになってしまうね」

「仕方ないでござるよ」

「少し早いけど、よかったらお昼食べに行かないかな?」

「う、うむ。では早速向かおうではないか」

 緊張で強張りそうなのを堪え平常心を装うトモエ。

 クラウスからの食事の誘いに顔が緩みそうになってしまい力が入ってしまうのだった。




「あの方向...ご飯を食べに行くようね」

「オッケー、行こう!」

 進行方向から行き先に検討をつけたアンナと共にリーネは尾行を再開した。


「「....」」

 とりあえず着いて行くアリスティアとエリーゼ。




 二人(+四人)が店を去った後、新たに一人、入店した。


「いらっしゃい...って、なんだいあんたかい」

「失礼だなおっさん」

「そうは言うけどね、酒屋に来といてわざわざ水買う客なんてあんま嬉しくないよ」

「仕方ないだろ、ここで扱ってるのが一番美味いんだからよ」

 そう言って来店した男は流れる様な動作で棚の一画にある鉱泉水---水割り用として店に卸している---の瓶を数本手に取ると店主の方へ持って行った。


「あいよ、8シュタンと6ウォルだよ」

 一瞥した店主は提示した金額を言うが、その前に男はポケットから8枚の銅貨と6枚の鉄貨を出す。いつものことなので店主は気にしなかった。

 続けて男は銅貨2枚を分けて置いた。




「じゃ、いつものように部屋に送ってくれ」

「ったく、夕方には届けておくよ」

「ありがとよ」

 そう言って男、クロスは店を出て行った。




 そして必要品の買い物を続けるのであった。

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