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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第2章:波乱、そして明かされる真実の一端
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生命の樹とポルターガイスト

「よし、と」

 それぞれが着ていた上着で両腕を後ろ手に縛り靴紐で両足の靴を結びつけ---魔法での強化を施すのを忘れずに---終え、クロスは一息ついた。


「悪いが応急処置程度の治癒魔法しか使えないんでな」

「は、はい」

 アリスティアの方も、止血と鎮痛までだが治癒魔法を施しておいた。




「先生、エリーゼが...」

「安心しろ。エリーゼはまだこの学園にいる」

「え、どうして分かるんですか?」

「防衛措置の断絶結界が張られていたんだよ。しかも、出入り出来ないっていう改造込みでな」


 セーレンド帝国学園は、複数の国々からの生徒が在籍している都合上、テロリストなどの不穏分子から生徒が狙われるリスクが高い。

 そのため、刻印魔法の技術を駆使した防衛措置が多数施されている。


 その一つが『断絶結界』である。外敵の侵入や籠城のために開発されたもので、起動すれば攻城のための大砲や破城槌ではビクともしないほどの力場の壁が学園を取り囲む様になっている。


 ただし、脱出や避難を容易にするため、学園の生徒や職員の制服には一種の許可証が仕組まれている。

 これは着用者の魂魄の波長を記録し、断絶結界の起動時は制服と着用者の波長の一致を証明証として結界への出入りを可能にすることで断絶結界を強固に、それでありながら避難を容易にしている。

 ちなみに、一着作るだけでも魂魄の波長を定期的に記録し、それに合わせて調整していかなければならないため、制作の時間に数日間、素材や人件での費用にして学園の教職員の給金---世界基準でも高所得の---数ヶ月分を必要としているので侵入者が造るのはまず不可能である。


 だが、クロスはそれを把握した上で出入りが出来ないと語った。


「どういうわけか許可証による通行機能そのものが無力化されているようだ。仮に自分達は出入り出来るように何か細工していたとしても、エリーゼを通行出来るようにする細工を準備出来るはずがないからな」

「そう、ですか....」

 クロスの説明を聞き、アリスティアも一応落ち着きを取り戻す。


「あれ、じゃあ先生は何で入れ...あ」

 質問して気づくアリスティア。


 先程の魔法無効化の特級魔法があるクロスなら、結界など意味がない。

 おそらく通り道を作って入ったのだろう。






「しかし、こいつら....」

 クロスは今ものびている二人(ジャスとホレス)の胸元---身体検査をして服装が乱れたまま---を改めて見た。


 この二人には共通した刺青があった。

 学園に来る前に返り討ちにした双子(ヘンゼとグレーテ)にも同じ刺青が胸元にあるのは知っていた。


 それは十個の円がそれぞれ数本の線で結ばれている図式のような刺青。


 それが示すもので知っているのは....

「『生命の樹』のマーク」

「生命の樹って...創世神話で語られる」

「ああ、神樹の伝説だな」


『生命の樹』

 それは神話にしか存在しない神樹の片割れ。

 もう一本の片割れである『知恵の樹』の実を喰らい、知恵を得た創世の男女は神により楽園を追われ『寿命』という原罪を背負わせされた。

 人間に寿命があるのはこの禁忌を犯したがためと語られる。


 しかし、神が創世の男女を追放したのは罰するためではなく、恐れたがために追放したとされている。


『生命の樹』の実は、口にした者に永遠の命を与えるとされ、知恵の実を喰らった者が喰らえばそれは新たな神の誕生を意味すると言われる。


 故に、生命の樹は人間が神になるための禁忌の秘法として今も語り継がれている。


 又、神薬エリクシールも生命の樹の実を実現させようとラケルス=ホーエンハイムが開発したという説もあるなど、生命の樹は噂や伝説と枚挙に暇がない。


(一部の錬金術師が信仰するマークではあるが、こいつらはどう見ても研究者の類じゃない....)


「くくくく...」

「ひひひひ...」

「「っ!?」」

 ある推測に行き着くと同時に、不意に聞こえた笑い声にクロスとアリスティアは身構えた。

 気絶していたジャスとホレスが意識を取り戻し、不気味な笑みを浮かべていた。




「おい、お前らが連れて行った俺の教え子は何処だ?」

 特に何かする素振りもない二人にクロスは強気に出た。


「くくくくく....無駄な足掻きだ」

「ひひひひひ....ああ、終わりだよ」

 だが二人は笑うだけで答えない。

 さっきまで激情に駆られていたのと同一人物なのかと疑ってしまうほどに。




「私達は『セフィロト』の使徒...」

 二人はそのまま語る。


「偉大なるダート様に導かれし者...」

 何かに取り憑かれたかのように。


「ダート様のために私達は闘う...」

 何かを覚悟したかのように。


「そのためにこの命を....」

 何かに歓喜するかのように。


「「捧げる」」

 狂気の笑みを浮かべて語る。




「ッ!! アリスティアッ!」

「きゃっ!」

 後方を見た途端、いきなり自分を押し倒すように飛びかかるクロスにアリスティアはそのまま床に倒れ込む。


「ぐふっ...」

「か、はっ....」

 倒れると同時に不快な音が耳に入り、続けて二人分の呻き声が聞こえた。




「え?」

 アリスティアは声のした方を見る。

 見るなと言うクロスの制止は間に合わず見てしまう。


「いやあああああっ!」

 悲鳴が挙がる。


 この部屋に保管されていた複数の訓練用の剣や槍がジャスとホレスの全身に突き刺さり、夥しい血で赤く染めあげていた。

 さながら醜悪なオブジェのようにも見えてしまい、吐き気が込み上げてくる。


「「セフィロト....万歳」」

 全身を刺されているのに嬉しそうに笑いながら、二人は事切れた。




「な、なんなの....」

「アリスティア!」

 気が動転し混乱しかけたアリスティアをすぐ隣のクロスの声が落ち着かせる。


 クロスはたった今男二人を殺してまた離れ浮遊している剣槍を警戒した。

 血糊で赤く染まっているので、中々に不気味な光景である。


 剣槍が飛んで来ようとするのを見計らい、クロスは『魔導法壊(マギ・ヴァニタス)』を発動する。


 剣槍は勢いを失い、床に落ちる。


 何がどうなっているのか分からないが、この剣槍が魔法によって勝手に動いていたのだと察し、これで大丈夫とアリスティアはあたりをつける。


 しかし、その推測はすぐに裏切られる、破片は何もなかったようにまた浮き上がる。


「ちっ! 走るぞ!」

 不機嫌に舌打ちしながら、アリスティアの手を引き、クロスは部屋を出て、剣槍を遮るように扉を閉める。

 剣槍が扉に刺さる音を聞きながら二人は部屋から離れる。


「先生、クラスの皆を助けないと、」

「無理」

 アリスティアの言葉をクロスは遮る。


 そんな余裕がないのだから当然だ。


 何せ目の前には...

「まだ敵はいたようだな。幸か不幸か俺達を殺すのに専念したいようだ」


 生徒のいる教室と二人に挟まれるように、クロスとアリスティアの前には古ぼけた剣槍類や壊れて尖った部分を向けている調度品の数々が浮遊している。

 アリスティア自身見覚えがある物がちらほらとあり、どれも学園内にある物だった。


「念動力系の魔法か...しかしこの数を同時に」

 そんな感想を合図にしたかのように、凶器となった浮遊する物体はクロスの方へと迫った。

 ご丁寧に心臓や脳天を狙っており、勢いも致命傷に至るには十分なほど。


 クロスはアリスティアを抱え凶器とは逆方向に走り出した。


「ちょ、先生!」

「舌噛むから黙ってな」

「いや、私も走れますから降ろしてください!」

 アリスティアの抗議を無視してクロスは走るが、アリスティアとして今すぐ降ろしてほしいものだった。

 なにせ、走りやすさを求めてではあるのだろうが、異性に脇に抱えて走られるというのは恥ずかしくてしょうがない。


「おっと」

 後方から飛びかかる凶器を正面を向いたままクロスは横に跳んで躱す。


 続いて迫る凶器も左右に、上下に跳んでは振り返ることなく器用に躱してみせる。


「さっき、どうして先生の魔法無効化が効かないんですか?」

「効いてはいる。だがすぐに再発動してるんだよ!」

「何でですか?」

「『魔導法壊(マギ・ヴァニタス)』は俺の魔力で他の魔力を掻き乱して『現象』を消す魔法だ。

 あれは物体に魔力を帯びさせること魔法を発動している。だから魔力を供給させれば何度でも使えるんだよ!」

「ええ、でも何処から魔力を供給してるんですか?」

「.....刻印魔法だ」

「え?」

「あれは多分、刻印魔法を回路に使って魔力を供給してる」

「回路って何処に...」

「あんだろ。学園の至る所に」

「それって...」


 クロスの言うことが示すのはただ一つ。

 それは、この学園に張り巡らされた刻印魔法が利用されているということ。

 この学園は照明や空調機能をもたらす魔法の刻印がある。

 それを回路として、物体に魔力を供給し続けることで、道具を遠隔操作する念動力の魔法が発動されている。




「でも、この学園の刻印にそんな仕掛け...」

「十中八九、学園に裏切り者がいるんだろうな。そいつが術式の刻印を弄った。それなら断絶結界の改造も合点がいくし、連中が侵入出来たのもそいつの手引きだと納得もいく」

「.....誰なんですか?」

 普通ならありえないと、アリスティアは言い張っただろうと彼女自身も思った。


 だが、ここまできたら否定は出来ない。


「消去法で考えれば簡単だ」

 クロスは既に今回の黒幕が分かっていた。


 今日は帝都での学会で教職員のほとんどがそちらにいるため除外。

 参加してない教職員も休日に学園にいたらすぐバレてしまうためこちらも除外となる。

 警備員は既に死亡しているので論外。


 そして学園の刻印魔法の改造をしたということから、常日頃学園の刻印を調べることができ、なおかつその調整行為を疑われずに行える人物。




「例えば、学内の施設を点検し、必要なら調整も行える技術と権利を有する職員」

「それって....」

 背後から追ってくる凶器から逃げながら、クロスはアリスティアを抱えてある場所へと走っていた。


 途中挟み撃ちしようと迫る追加の凶器も躱し、目的の場所へと走る。


 正面の廊下まで来ると躱してというよりも誘導されていると気づきながらもクロスは走る。


 そして扉を蹴破り、目的の場所へと入り素早く扉を蹴って閉める。




「馬鹿騒ぎはお終いにしようぜ。新任用務員のマーカス=ピーブスさんよ」


 部屋の中で、エリーゼと共にいるマーカスをクロスは見据えながら言い放つのだった。

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