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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第1章:新任教師の幕開け
13/66

抜き打ちテスト、そしてスタート

 翌日、クロスは生徒達への物言いについて授業の開始時に謝罪をした。

 何やら色んな道具等を持ち込み、教室の隅に置いていたのは気になるが。


「昨日の件は言いすぎた。大人気ない真似をした」


 生徒の多くは呆気にとられていた。だがーーー

「しかし、お前達が基礎を学ぶ必要がないという主張に関しては俺は反対する」


 その発言に『なんだよ』、『結局また今日もつまらない授業かよ』と不満を示す者がちらほらいた。

 ただ、昨日の件でアリスティアの方はこのままで話が終わる気がしなかった。


「とは口で言っても納得しないのが多いだろうな。だから...」

 そう言ってクロスは教卓にドンと紙の束を置いて宣言した。

「今から出す抜き打ちテストに解いてもらおうか。これの結果次第じゃ俺も授業を変えないとだからな」

 不敵な笑みと共に、抜き打ちテストが始まった。






 アリスティアは答案用紙を見た。

 内容は基礎知識を問うものであった。前半は。


 後半からはこれまで学んだことのない問題ばかりであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 Q21

 戦士型の騎士A(現代基準での教育を受け、騎士として既に3年の経験を積んでいる)はそれまで愛用していた剣を破損してしまう。

 騎士Aは急遽用意した槍にプラーナを纏わせ十分に扱えるか否か。又、その回答に対する明確な説明も記述せよ。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


(何でござる?この想定問題は!)

 一見すると初等学院の生徒を対象にしてそうな内容だが、回答が説明である以上単純な答えは出せない。

 そもそも、この問題に答えがあるのかと悩んでしまう。


 トモエは疑問を感じながらも、プラーナを纏わせるなら可能と判断して回答を記入していった。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 Q26

 魔法の発動について問う。

 座標指定による魔法の発動で可能なものは何か。可能な限り記述せよ。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


(ん?これはどう考えても設置型の(トラップ)魔法くらいしかないな)

 内容の単純さに首を傾げながらサイモンは回答を記入した。




 ーーーーーーーーーーーーーーー

 Q30

 昨日(さくじつ)、アリスティア=スターラとクロス=シュヴァルツの決闘はクロスの勝利で終了した。

 先の決闘においてアリスティア=スターラが敗北する可能性として何が挙げられるか。可能な限り記述せよ。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


(名指ししないでよ!)

(あ、これは昨日の...)

 名前が載せられたアリスティアに軽く憤慨し、エリーゼは昨日のおさらいと思いそれぞれ回答を記入し始めた。




 時間にして一時間。

 テストは終了した。


 答案を回収したクロスは素早く採点を行い、その中身は予想通りのものだった。




 故に呆れ返ってしまう。


「ったく、基礎を十分に学んだとか言って半分程度しか取れないとはな...」

 わざと聞こえるように漏らした愚痴に、クラス一同耳が痛かった。


 各々、採点後に返却された答案用紙を見た瞬間、凍りつく者ばかりだった。


 生徒達のテストの点数は50〜60点だった。

 基本的に知識の有無を問う前半部分は満点かケアレスミスが少しあった程度故のものであり、そして後半部分は壊滅的であったことを示している。


 実際、後半の問題は部分点こそあるも正解はなかった。




「はい、それじゃ皆さんダメだった問題の解説といきましょうか」

 凹んでいる生徒を無視してクロスはテストの解説に入った。


「それじゃ問21の問題の解答だが...これは『不可能』だ」

「先生、それはどういうことでござるか?」

「だから今話すから黙って聞きなさい」

 不正解だったトモエの意見をクロスは制し、説明に入った。



「まず、お前等もテストの前半の問題で正解した通り、内界に干渉するプラーナはマナと違って対象への接触が必要だ。単純に言うとマナは放つ、プラーナは纏うだな。

 そのため、コントロールはマナと比べて格段に簡単となるため詠唱や触媒による補助は基本的に不要だ」

 クロスの説明に生徒達も当然と頷いていた。


「その代わり、プラーナをコントロールする方法は純粋に感覚頼りとなるのが弱点だがな」

『?????』

 クロスの説明に生徒(特に戦士型の)達は今度は首を傾げていた。


「まあ、そういう反応にはなるな。例にするとだな、じゃあトモエちょっと来い」

「はい!」

 呼ばれるままトモエは教壇前に降りて来た。


「お前は薙刀使ってるから槍もいけるよな?」

「もちろんでござる!」

 元気のいいトモエの返事にクロスは教室の隅に立てかけておいた槍をトモエに渡した。

 更に彼女の正面には丸太が一本立てられた。


「そいつを真っ二つにしろ。プラーナを使ってな」

「分かりました!」

 クロスの指示に従い、トモエは槍にプラーナを纏わせ、そして丸太目掛けて振り下ろした。


 ほとんど抵抗を感じることなく、トモエは丸太を縦に切り裂いてみせた。


「よし、次はこれで切ってみろ」

 トモエから槍を受け取り、今度は大剣を渡し、クロスはもう一本丸太を立てた。


「はい」

 言われるまま、トモエは大剣を構えた。

 いつものようにプラーナを纏わせる。


「?!」

 表情を曇らせるも、そのまま大剣を振り下ろした。

 丸太は縦に割れた(・・・)


「切れなかっただろう」

「はい。大剣の重さで何とか割った感じでござる」

「丸太に触れた時も抵抗を感じただろ?」

「仰る通りでござる」

 トモエから大剣を受け取り、クロスは説明を再開した。


「多分、愛用の薙刀なら抵抗は全く感じなかっただろうな。こんな風に、手に馴染まないだけで武器にプラーナを纏わせるのは難しくなる。

 用途が似た武器ならまだいいが、これが全く異なる系統の武器だと、プラーナを纏わせられないか、纏わせても全く無意味なものになるかの二択ってのが相場だ」

「無意味とは、先程の自分のようなことでござるか?」


「そうだ。本当ならプラーナを纏わせたことで切れ味が上がる刃が、槍と大剣という系統の違いから片方は切れ味が上がらなかった。この槍と大剣は訓練用の刃引きしたやつだから余計にハッキリしただろう。

 更に極端に言うなら、棍棒使いがいきなり槍を使うとする場合だ。

 棍棒にプラーナを纏わせて使うって言ったら棍棒の強度や打撃力を上げるのが定番だ。

 だが槍だと強度は上げれても穂先の切れ味や貫通力は上げられない。やったことがないためにな。これが無意味になるってことだ」

 クロスは黒板に槍と大剣の絵を描いた。更に色違いのチョークで槍と大剣の刃の部分に添うよう線を引いた。槍の方は綺麗な直線に対し大剣の方は波打った線だった。


「絵で表現するとこんな感じだ。

 お前等が学園で学んでいることはプラーナをコントロールするよりもプラーナを武器に上手く纏わせることの方を優先しているって訳だ。

 つまりは、下地を作らずに建物を建築しているようなもんだな」

 クロスの説明は、先程の実演もあって納得出来るものだった。


「まあ、武技を習得するにはこっちの方が速いと言えば速いけどな。でもま、プラーナを自在にコントロールできる様になれば、非武器でも強力な武技になるぞ。このチョークでもな」

 そういって手に取ったチョークを指先でクルクルと回すクロス。




「流石にチョークは...」

 クロスの言葉にサイモンは否定的な言葉を出そうとしたが続きは出なかった。

 彼の頰を掠める様にチョークが高速で飛来した驚きから。


「あ、危ないじゃないですか!」

「悪い悪い。で、抜いてみな」

 気持ちの篭ってない謝罪から促されるまま、サイモンは振り返った。

 そこには、チョークが砕けることなく階段状のために背もたれとなっている後方の机に綺麗に刺さっていた。

 しかも、後ろの生徒を傷つけることなく、板の中に収まるように綺麗な穴を残して刺さっていた。

 サイモンはチョークを摘んで引くと、スルリと抜けた。しかも、チョークには一切の損傷もなく。


「出来ただろ? ちなみに、本気でやれば貫通出来るぞ。もちろんチョークを壊さずにな」

 ニヤリと笑いながら言ったクロスの言葉に、誰も反論しなかった。


「今更だが、戦士型の生徒にやらせてた精神統一は自分の中に流れるプラーナを感じ取らせるためのものだ。素振りも同じくな」

『えっ!?』

 さらりと出た授業の意図に生徒達はフリーズした。


「プラーナを扱う技術はプラーナを明確に知覚することと、とにかく反復練習をすることで培われる。

 まあ、学園を卒業して傭兵だ騎士だで10年も実戦を積み重ねていればそれが経験値になって今のチョーク投げが出来るようになるがな」


 クロスは更に畳み掛けた。

「正直言うと、プラーナを感じ取るのは自分達で自覚してほしかっんだがな。全然気づかない癖に文句は一丁前に言いやがるから本当に腹立つわ」


 ここまで言われるともうクロスへの反抗心など湧くはずもない。

 授業の意図に気づいてほしいというクロスの目的は達成されず生徒達に至っては自分達に利があると言わんばかりの暴言を並べたのだから。

 もう顔から火が出そうな気持ちだ。


「しかし、お前等は戦争を知らないからな。それを配慮しなかった俺にも非はある。

 だからまあ、これからはビシバシ鍛えてやるから覚悟しろよ」

 恐ろしいほどに爽やかな笑顔で告げるクロス。


 当然、生徒達の背筋に寒気が走ったのは言うまでもない。




「はい、問26いくぞ」

 解説は滞りなく進んだ。

 一問毎に繰り広げられるクロスの容赦ない言葉責めに精神が磨り減らされるも、その解説から始まる講義に生徒達は聞き逃さぬようにとノートを取り続けた。


 この辺りになると、言葉責めをくらうことなどもう仕方ないと受け入れ、次はどんな話が聞けるのかと期待している者がほとんどである。




「これは全員、設置型の(トラップ)魔法の名称を頑張って書いてくれたが....正解は全ての魔法が座標指定で発動出来るだ」

 クロスの解答に困惑するも、生徒達は何も言わなかった。

 この後の解説でその理由が分かるから無駄な時間を取らないようにと。




「【照らせ、明かり(ライト)】」

 人差し指を立て、クロスは詠唱を唱えた、

 立てた指先から球形の発光体がフワリと現れた。


「初級魔法の一つ『明かり(ライト)』だ。普通はこんな風に現れる。触媒に杖を使えば杖の先に、指輪や腕輪なら出した掌の先にって感じにな」

 立てた人差し指を倒すと光の球は消えた。


「アキラ、魔法の発動に詠唱が原則必要な理由は何だ?」

「は、はい! 詠唱は魔法で起きる現象のイメージを補うために必要とされています!」


「そうだ。魔法に必要なマナが精神力で操作される以上、マナで起こす現象がどんなものかを頭の中ではっきりとイメージ出来るようにする必要がある。

 だから略式詠唱や詠唱破棄なんかは難しい訳だ。イメージを補完するための詠唱を怠っている訳だからな」

 クロスの説明に、魔法士形の生徒達は特に念入りにノートを取っていた。


「じゃあ、イメージが明確だとするとだ...こうなる」

 クロスは生徒達の方へと左手を突き出した。


「【照らせ、明かり(ライト)】」

 先程と同じ詠唱を唱えるが、光の球は現れない。


 それを訝しむ生徒達の様子を面白がるクロスは「上を見な」と一言。


 言われるがまま上を見て生徒は驚く。

 教室の天井付近に光の球が浮いていた。


「これが座標指定の技術だ。(トラップ)魔法は詠唱の段階で座標指定の要素が含まれるから、習得すれば誰でも座標指定が可能となる。

 だが、それで出来る範囲は精々自分から数メートルの範囲内がいい所だ。しかしこのイメージによる座標指定の外付けが出来れば、(トラップ)魔法でなくても即席の罠が作れるし、(トラップ)魔法の設置出来る範囲も広がる」


「確かに、『爆破(エクスプロージョン)』なんかはそのまま使えそうだな....」

「いや、初級の『(フレア)』でもいけるか...」


「弱点は(トラップ)魔法と違って発動のタイミングがこちらの任意になるって所だから、今言った魔法の発動タイミングをミスれば隙を作りかねないがな」

 各々の考える座標指定での魔法の考察にクロスは一言忠告した。

 生徒達が考えていく様子をクロスは楽しげに眺めていた。


(そうか、先生が『突風(ガスト)』を使ったのはそういうことだったんだ)

 昨日、クロスが自分を助ける時、武技と魔法を合わせていた。


 武技の『韋駄天(いだてん)』は単純に脚力の強化。一方『突風(ガスト)』の魔法を使った理由がよく分からなかった。


突風(ガスト)』は下級魔法の一つで、名称通り突風を起こすものである。普通は魔法士の正面から突風が起きるものなので、あのタイミングで使うことに首を傾げてしまったがこれで判明した。

 クロスは座標指定の技術を使い、突風を後方から起こすことで、自身を加速させたのだ。

 それなら『突風(ガスト)』を使ったことに説明がつく。




「さて、それじゃ最後の問30の解説といこうか」

 全員がノートを取ったのを確認し、黒板に書いたものを消しながらクロスは最後の解説に入った。


「ちなみにこの問題はお前等が頑張ったので得点ゼロはいなかった。まあ、部分点までだけどな。

 とりあえず、記述数の多い解答二つと一番に答えてほしかった解答を説明する」




「まず一つ目、『隠し武器の使用の可能性』だ。これが一番多かったな。

 靴に刃物を仕込む、その刃物に毒を加えるって解答だな。

 俺が『武技は使わない』、『魔法はフル詠唱』というルールを前提とすればまあ、この解答は出るな」


 この解答にはアリスティアも昨日気付くことが出来た。

 確かにそれを考えればあの靴の直撃は自身の敗北を決定付けるものである。


「二つ目、『靴で怯んだ隙を突く』だ。

 確かに、靴で動きが止まった隙に魔法の詠唱を使えば問題ないな。

 攻撃が当たれば勝ちというルールなら、詠唱の少ない下級魔法一発で決まりだ。

 それに怯んだ内に間合いを取ることだって十分に可能だな」

 この解答は戦士型の生徒は考えつかなかった者が多いようで、その手があったかと悔しがっているのが何人かいた。




「けどな...」

 解答を黒板に記入し終えるとクロスは何故かため息をついていた。


「昨日俺が言ったことに気づけなかったのは残念だったな」


 昨日、クロスが言った言葉。それが一番に答えて欲しかった解答のヒントだったのだが、どうやら誰も思い至らなかったようだ。

 アリスティアは昨日のことを思い返していた。


(先生が言ったこと...)


 思い浮かぶのは結構の後の生徒達の反論と。それを厳しく諌めたクロスの言葉。


(そして....)


【アリスティア=スターラ。お前はさっきの決闘でルール無用(・・・・・)なら死ぬ可能性が何回あったか分かるか? 他の連中も分かるか?】


「ああっ!」

 その瞬間、思わず声を上げてしまった。


「気づいたようだな、アリスティア。そう、答えは『ルール無用に基づく先手必勝』だ。

 それなら武技で一気に間合いを詰めて一撃叩き込むか、魔法なら詠唱を省いて仕舞いだ」

 最後の解説は実にシンプルにして、当たり前な答えである。


 確かに、ルール無用ならそもそもそれまでの解答以上に思いつくものだが、『決闘』だからルールが存在するという前提で問題を解いていたのでは決して辿り着かない答えでもある。




 だからこそ、アリスティアだけでなく全員が思い、そして声に出した。

『そんなのアリかあぁぁぁぁぁっ!!!』

 と、大きな声で。


「『アリ』だな」

 クロスは笑って流すだけだった。




 かくして、1年次生A組担任の授業が本格的に始まったのである。

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