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○○教師が教える英雄学  作者: 樫原 翔
第1章:新任教師の幕開け
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甘さに苛立つ

「ありかって...普通にありだろうが」

「ですが、魔法も何も使ってないじゃないですか!」

 クロスの言葉にアリスティアは抗議した。


「ルール決めの時に言っただろ。『攻撃が掠りでもしたら勝ち』だと。

 俺は一言も魔法が当たったらとは言ってない。お前も同意してるのにみっともねぇ真似すんじゃねーよ」




「攻撃って、ただ靴を飛ばしただけじゃないですか! あんなの攻撃なんて言えません!」


 そんなアリスティアの抗議に賛同する者が出始めた。

「そうですよ先生。対して勢いもない靴飛ばしを攻撃なんて認められませんよ」

 サイモンもアリスティア同様勝敗に納得いかず不満な顔で抗議した。


「確かに、アリスティア殿はダメージというダメージを受けていない。ならば今の決闘は無効なのが妥当だと思うでござるよ」

「そうですよ。決闘のやり直しを具申します!」

「まあ、あれはちょっとないかな?」

 トモエ、アキラ、アンナの三名も再戦の意見を述べていた。

 他にも、クラスの半数近くが漁夫の利を得ようと言わんばかりに賛同の意見を喚き散らした。


 その様子は軽い暴動にも見え、エリーゼなど賛同していない生徒達は遠巻きで困惑していた。




 確かに、クロスが提示したルールは『攻撃が掠りでもしたらその時点で終了。喰らった側の負け』である。


 攻撃と判定するなら、武技や魔法---先ほどの決闘ではクロスは武技は使えないが---、後は明らかに攻撃だと判断出来る体術や武器を用いた手段くらいだろう。


 その考えが前提にあるアリスティア達にとってクロスの勝利宣言は一方的な決めつけとしか見れなかった。


 そして彼女等はこの考えは正当なものであり、自分達の主張も通るものだと思っていた。




「チッ」

 クロスの舌打ちが起きるまでは。


「え?」

 何が起きたのかアリスティアには分からなかった。

 他に反論していた生徒達も同じように訳が分からないといった様子だった。




 クロスが舌打ちし自分達を一瞥した瞬間、全身が竦んでしまった。

 そして全身から力が抜けて膝から崩れ落ちてしまった。


 見ると自分の手が震え、ジトリと不快な汗が流れているのをアリスティアは気づいた。


 反論していた生徒達が同様な状態で、遠巻きに見ていたエリーゼ達はアリスティア達が急に座り込んだ理由が分からない様子だった。




「ったく、軽く殺気飛ばしただけでビビってんじゃねーよ英雄志望共が」

 アリスティア達の様子を見たクロスの言葉にアリスティアはようやく理解した。


 自分達の身体の震えや大量の冷や汗は『恐怖』からきたものだと。


 クロスはアリスティア達に呆れるしかなかった。

「『決闘』ってのはなぁ、そもそも死人が出るのを防ぐためで、はなから殺し合いを想定するもんなんだよ。

 それなのに今時の連中はやれ礼節を守れだ、やれ正々堂々と闘えだ寝惚けたことぬかしやがる。殺し合いにルールがある訳ないのによ」




「アリスティア=スターラ。お前はさっきの決闘でルール無用なら死ぬ可能性が何回あったか分かるか? 他の連中も分かるか?」


『・・・・・・』

 誰も答えなかった。否、答えられなかった。


「即答出来ない時点でお前等は英雄になる資格なんかないんだよ」


「っ!! そんなこと...」


「いいや断言出来るな」

 アリスティアの反論をクロスは容赦なく切り捨てた。


「お前等が英雄に憧れるのはひとえに英雄という前例があるからにすぎない。しかも輝かしい功績ばかりに目が向いているからだ。

 前例がなきゃ英雄に、特に勇者になんて誰がなりたがるかよ。

 そもそも、勇者はなりたくて勇者になったと思うのか?

 一国の精鋭部隊で挑んでも相手にならないような魔王に一人で戦いを挑むような人間に、好き好んでなりたがるヤツがいると本気で思ってるのか?」

「・・・」


 何も言えないアリスティア達にクロスは更に畳み掛けた。

「そもそも、『勇者』って称号は何処から生まれたか知ってるのか?

 『勇者』ってのは誰も敵わないような力を持っていた魔王相手に単身で戦いを挑んだ勇ましき者を称えて、魔王が与えた称号なんだよ」


「この学園は勇者の仲間であった戦士(ライオ)魔導師(ソフィア)が次代の英雄を育成するためにと築いたのは事実だ。

 そして数多くの功績を残した人物を輩出してきたのも事実だ。

 だがな、その学園に入学するほどの才能があろうが英雄になれる保証はねーんだよ。

 英雄になったやつは、英雄足り得る『あるもの』を持ってたからなれた。それだけだ。別にこの学園に在籍してればいい訳じゃない」


「あるもの...」


「それが分からないなら勇者なんて諦めな」

 クロスはその場を去って行った。




 後に残るのはクロスの言葉に打ちひしがれた生徒達だけだった。








「随分嫌われてしまったようですね、クロス先生」

「うるせぇよ婆さん」

 時は流れ夕刻。クロスは学園長室の来賓用ソファに腰掛けていた。

 フィアナの言葉に対し、クロスは辛辣な言葉で返すだけだった。


 アリスティアとの決闘を済ませたクロスは午後の授業を勝手に自習にして学園長室で寛いでいた。


 フィアナが学園長室に戻ってきたのはつい先ほどで、その様子からクロスの評判が良くない話を思い出したりしていた。


「婆さん....ね。昔は『クソババァ』なんて言ってたのに」

「一応アンタは今は上司だからな。礼儀は示すさ」

 どこに礼儀があるのだよと、第三者がいればツッコミを入れそうな発言である。




「悪いが俺は担任を降りる。籍は置いとくから必要な時に呼ぶようにしてくれ」

「それは無理よ」

「あ? 何でだよ? そもそも俺は教師をやるためにここに来たわけじゃないだろうが」

 要求を却下されたクロスはフィアナを睨んだ。ただし、アリスティア達に向けたような殺気はなく。向けた所で流されるだけなのを分かっていたから。




「そうですね。クロス先生の言う通り、私が貴方を呼び寄せたのは授業とは別件ですからね」


「そういうことだ。それに...俺はあんな現実を知らないガキ共の相手なんざもううんざりだ」

 クロスは昼間の一件を思い出し、不快感を募らせていた。


 アリスティアは優秀だった。それは学生という枠組みの中で見ればだ。

 勇者を目指すと宣う癖に学生の枠組みでしかものを考えられていないことが非常に苛立ちを感じた。


 過去にも勇者を目指すという者は自分の知る限りでも数人はいた。

 だが、そういった者は無謀と勇敢を履き違えて早死にするか、ここぞという時で逃げ出すかのどちらかだった。


 そう意味ではアリスティアは無謀と言える。

 起き得る状況を常識でしか判断出来ず、その結果、実に単純でくだらない手で負けたとは情けない話だ。


『アイツ』はあらゆる手を模索し、その強さを絶対的なものにしていたというのに。


「ったく、大違いだぜ」

「....どなたを思い出してるんですか?」

 思わず言葉にしてしまったその呟きにフィアナは尋ねた。




 だが、クロスがそれに答えることはなく、学園長室を後にした。

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