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素直じゃないことが素な自分が嫌になる。調べ物はなんですか? 手伝えることはありますか? けど……『私邪魔じゃありませんか?』

『昭成xx年x月、○川付近で人の上半身と魚の下半身を持つ謎の生物が見つかる……』


『昭成△□年x月、某神社の裏庭にて全長二メートルを超すオオトカゲの姿を目撃……』


やれやれ、なんなんだよ、この胡散臭い記事は。


私は今、地元の古新聞を読んでいる。

国内においても怪奇現象の多さで知られるわが町なだけに、私達姉妹に(迷惑なことに)授かった能力に関する情報を得ることができればと、暇を見てはその歴史を紐解いているのだが……出てくる情報はそのほとんどが、下手な怪談にすら出こないような珍獣やら怪奇現象のオンパレードという有様。


それにしても、これって本当に一般紙なのかと疑わずにはいられない内容ばかりだな。

扱う情報の怪しさと鼻につくオカルト臭からは、とても全国紙の内容とは思えないのだ。

もしかしたら東スポの発祥ってこの町なんじゃないだろうな?


いくぶん投げやりに新聞をめくると、なんとなく気になるトピックを発見した。


そこには「謎の暗闇が三角山を覆う」とあり、ほんの短い間だが三角山の全貌をすっぽりと闇が包み込んだのだという。

どうやら大戦後のニュースのようだ。


「……」


この記事には勘が働いた。

時々、うずくことがあるのだ。

例の能力が。

大地の肥沃具合がわかる農夫のように、風の行方を読む狩人のように、潮の流れを掴む漁師のように。

そして私もまた異常現象の真贋につていは能力が敏感に反応する。


『この事件、なんかありそう』


そして、その時代に出版された書物などをいろいろと目を通してみたが、残念なことにその件についての収穫はなし。


そのタイミングで集中が途切れたので資料から目を外し、一息ついた。

そういえば……


『いまごろ未來と隼人は何しているのかな』


まぁ、そんなこと考えるくらいなら、隼人が誘ってくれたときに返事をしておけばよかったわけだし、未來からも行くことを促されたんだから、その時にもチャンスはあったはず。


しかし、みすみす断ったわけだ。


『なんでこうなんだろ? なんでもなにもわかっていることだけれど』


そんな素直じゃない自分にまたも嫌な気持になったけど、やはりそこで断ってこその私なのかも。

これはこれで仕方がないと諦めるしかないのだろう。

面倒くさい性格だと思う。

我がことながら。


でも、あの二人のことが気になる。


『これが嫉妬というものなのかな』


いや、どうなのだろう?


未来が見えるということは、未練や執着する気持ちを薄くする。

それはそうだ。

誰が何をしたところですべてが決定していることなのだとわかってしまえば、空しくもなるし面白くもないわけで。


全部が全部あらかじめ決められたことでしかなく、寸分たがわずにそのレールを歩んでいくということを知ってしまうと、途端にやるせなくなるのだ。


身近な例で言うと、タネのわかっている手品を見たところで驚きもしなければ関心もしないのと同じだろう。


だから喜びも悲しみも、すべてが事前に仕組まれていることなのかと思うと、それが自分のことですら急に冷静になってしまい、そのことをまるで第三者のように傍観してしまう。


「驚くほどの喜びがあったところで、それもすでに決定済みのことなのよ」


そう言ってシニカルな笑みをたたえているもう一人の自分が、そんな現実の味気なさを教えてくれるのだ。

それだけに、隼人のことが好きになってしまった自分が怖い。

もし、万が一、隼人が私のことを好きでいてくれたとしても、それすら決定済みのことなのだと思うのが辛いのだ。


その瞬間が訪れることがあったとしたら、私は果たして素直に喜べるのだろうか?

また、いつものように覚めた自分で接してしまうのではないだろうか?

そんな思いで隼人との関係を見つめたくはない。

好きになるって何だろう?

愛って何?


とはいえ、すべてが仕組まれていると諦めているこの私が、こんなことを考える時点でおかしいのだろう。

だって、いま、この考えていることすらすでに決定済みの事なわけで……そこまで思いをめぐらしたとき、頭を強く横に振って追い出そうとした。


ああ、またいやなことを考えてしまった。

気分が滅入る。


「はあ」


ため息をつき、どことはなくうつろな視線を泳がせると視線の先に一人の老人の姿が目にとまった。

あれは、


『隼人のおじいちゃんだ』


どうやら新聞を読んでいるようだ。

図書館に来る年寄りには珍しくない光景ではあるけれど、あれは古新聞ではなかろうか。

それもあんなにいっぱい……。


「……」


妙な引力に引き寄せられて席を立ち、近づく。


「おじいちゃん」


自分でも珍しいと思う。

確たる用もないのに他人に対して話しかけたり、興味を持ったりすることが。

違うキャラを演じたところで所詮は仕組まれた……もうよそう。

このことを考えるのは。


それにしてもおじいちゃん、ここ一、二ヶ月会ってないとはいえ、こんなに痩せていたかな?

全体的に一回り小さくなったというか。


「お、おお。華子ちゃんかい」


ここにきて後悔した。

この後、何を話せばよいのやら。

そういえばふたりきりの状態でお話するのは初めてだし。


やはり慣れないことはするものではないのかもしれない。

けど、おじいちゃんはそんなことを気にもせずに、マイペースに古新聞をめくっている。


会話の糸口になればと記事に目をやると、どうやら戦時中のものらしいことが分かった。

年齢を考えると、召集されてどこかの地で兵隊として戦っていたのかもしれない。

当時を懐かしんでいるのだろうか?


「古い新聞ですね」


「ああ、ちょっと調べ物があるんだ」


調べ物はなんですか?

手伝えることはありますか?

いくらでも言えることはある。

けど……


『私邪魔じゃありませんか?』


そこまで考えたところで結論は出た。


「それじゃ、おじいちゃん。私はこれで」


「ああ、そうかい。それじゃまた」


「さよなら」


なんでこうなってしまうのだろうか?

本当に嫌になっちゃう。

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