華子が未來を許せないわけ。未來が華子を好きなわけ。けっして噛み合わないおんなじ二人
「華ちゃん、おかわりは?」
「うん、それじゃ半分だけ」
華子が米粒一つ残っていない、ご飯をきれに平らげた茶碗をママに差し出した。
「関心ね、華ちゃんはいつもご飯粒一つ残さないで食べて。だから特別においしいところを盛ってあげるわね」
「ママ、あんまり華子を甘やかさないでよ!」
ママは誰にでも優しい、けど特に華子にはさらに、だ。
正直、それが気に入らなかったりする。
この気持ちは双子、それも一卵性として生まれた者の宿命なのかもしれない。
「同じく扱われたくないけど、差はつけないで!」
そんな相反することをついつい欲求してしまうのだ。
「ほほ、そんなことはないですよ」
ご飯を盛った茶碗を華子に差し出しつつ、ママは笑顔で答えた。
「未來ちゃん、トースト焼きましょうか?」
すかさずママが言う。
もしかしてママに気を遣わせちゃった?
優しさと気遣いの違い、あたしにはちゃんとわかるんだよなぁ。
でも、それに勘づくのって、とても寂いしいことなんだよね、ホントは。
「うん、お願い。おいしいところね!」
とか言いつつ、ちゃっかり甘えるあたし。
「ええ、わかっているわよ。ちょうどさっきホームベーカリーで焼きあがったの。一番おいしそうなのを選んであげるわね」
そんな心の機微をママの気取られないように返事をしたにも関わらず、華子が挑発してきた。
「何言ってんのよ。あんただって甘えているでしょが」
やはり双子、というより華子とはおかしな噛み合わせがあってがっちりと合うところはとことん合うけど、合わないところはとことんまで合わない。
で、今回はかみ合ったほう。
悪い意味でがっちりと。
こういう余計なシーンでばかり、ぴったりと符合しちゃうんだよね。
あ~あ、ヤになっちゃう。
でも、もちろん言われっぱなしのあたしではないぞ。
「あんたよりは甘えてないよ。大体にして朝忙しいのにママにご飯の用意させて申し訳ないなぁ~とか思わないわけ? あたしなんてご飯作ってもらうの悪いからトーストにしているってのにぃ」
これは本音だけれど、半分は嘘。
朝のジョギングの後、実はみんなに先だってご飯をお茶碗一杯分食べているのだ。
育ち盛りだし、それは仕方がないよね?
食いしん坊なわけではない、はず。
で、そんな半分は正しいであろう(?)理由を盾にとって華子に食ってかかったら、
「ふん、何言ってんのよ。朝に炊くご飯は私たちのお弁当になっているじゃないの。それなら、あんたがママにトースト作らせているほうが余計な手間ってもんよ。しかも市販のじゃなくて一から作ってんのよ? 作るの大変なの知らないわけ?」
うっ、墓穴を掘ってしまったか?
昔から、華子には口ではかなわない。
勝てたためしもない。
「大体にしてあんた妹なんだよ? もう少し口のきき方ってものを考えてよね」
そっぽを向いてご飯をかき込みながら、冷たく言い放たれた。
く~、悔しい!
けど、言いかえす言葉が見当たらない!
こんなとき、運動神経と頭脳の回転が直結していてくれれば!と強く思う。
「まあまあ未來も華子も落ち着きなさい」
そんな場を取り繕うように、パパが割って入ってくれた。
「まぁ、なんだ? 未來も華子も高校生だ。つまらないことで言い合いせずにだね……」
おっ!
いいぞ、パパ。
その調子!
「そうよね。私もそう思う。いつもつまらない喧嘩仕掛けてくるのはきまって未來。もう少し大人になってほしいわ」
「むっ、そ、そうか? そうだなぁ……」
ちょ、ちょっとパパ!
そこで納得しないでよ!
助け舟のつもりで割って入ってくれたんじゃなかったのかよ。
ってか、ケンカの原因はいつもあたしにあるって、パパも思っていたってことかいっ!
へどもどしているパパに対して、さらに華子が続けた。
「喧嘩で思い出したけど、そろそろ私たちの部屋別々にしてもらえないかな? もう高校生なんだから、プライベートの問題もあるわけだし」
そういうと、華子はゆっくりとあたしに蛇のような一瞥をくれてから続けた。
「今日もなんだけどさ、朝っぱらからうるさくてゆっくり寝ていられないのよね。ガチャガチャバタバタと。それに今朝、そのバタバタのせいでパパから買ってもらったばかりの本を落とされたし。そのせいでページが折れちゃったの」
うっ、ついに出したか、この部屋分けの話題を。
やはり本の一件、そうとう頭に来たんだろうな。
まぁ、前々から一人部屋が欲しいということはブツブツ言ってはいたけど、今回の本のことを合わせて持ちだされるのはちょっとマズイかも。
普段からママには物を大事にするように注意されているし。
にしても、こいつ、ホントに恨み深いタイプだよなぁ。
本のページが折れたくらい、なんだって言うんだよ。
でも、反抗しておかないと形勢も不利になると思ったので、とりあえず言い返した。
「本を落としたくらいで、ガタガタ言うなよ。読めなくなったわけじゃなしさ」
そういうと、華子はギュッときつい目つきであたしのことを睨みつけながら言った。
「そういうガサツなところが嫌なのよ。四六時中、こんな雑なのと一緒だと、本当に疲れるのよね」
うは!
しまった!
余計なこと言わなけりゃよかった。
ってか、華子に言いあいで勝てるわけないんだし黙っているべきだったか?
「未來ちゃん、物は大事にないとね」
ママに注意されちゃっった……いつもどおり優しくだけど。
でもこの展開、非常によろしくないですな!
この一件がきっかけで、部屋を別々にされるようになったら洒落にならんぞ。
大体にして、一人部屋なんか与えられたって退屈なだけでしょ?
話し相手もいないし、あたしはなんだかんだで華子のことは嫌いではない。
というよりは好き。
ん~ちょっと違うな。
あれだ!
構うのが楽しいのだ。
動物同士がじゃれあっているような感じ……とは違うな。
ん~うまく例えられない!
華子なら、ズバリと的確なこと言えるんだろうけど。
それに加えて、二段ベッドの上がお気に入りのあたしとしては、部屋が別々になるとベッドが分断されるので、あのポジションを維持できなくなってしまうのだが、これもつらい。
でも、下手なことはもう言わないほうがよさそうだな。
華子があたしの発言にまたカウンターを繰り出してくるのはわかっているから。
もう、その手には乗らないぜ!
でも、言わなければ言わないで、華子のトークが冴えわたり、場を丸めこまれてしまうかもしれないし……と、そのときママがナイス発言!
「そうねぇ、それなら本でいっぱいになっている部屋でも使う? ただ、そうなると、本は処分しなければならないけど?」
「うっ……それはダメ!」
一瞬にして華子があわてて反応した。
「うんうん、それはいかんなぁ」
続いてパパも。
『そうか! この手があったか!』
読書家の華子はパパが買い続けて、いつの間にかふた部屋も占領している膨大な本の山をかき分けつつ日ごろから読み漁っているし、それを長年集めてきたパパも当然捨てることなどできるはずもなし。
よしよし、今度からこの話題が出たらこの手だな!
とその時なんとなく視線を感じたのでそちらを見ると、華子がなにか言いたそうなまなざしであたしの顔をじっと見ている。
もしかしたら、いやもしかしなくても、あたしの喜んだ表情が顔に出ていたのかもしれない。
それに気がついて、イラッときたのだろう。
『おっしゃ!いい気味!』
これが楽しいから、華子とは離れられないんだよね。
そうしてトドメ!とばかりに小さく舌を出してやった。
そうするととっさに華子、露骨に怒りと苛立ちの表情で睨みつけているではないですか!
うひひっ!
「さぁさぁ話はついたようだし、みんな急いで食べてね。遅刻しちゃうわよ」
ママが場を仕切ってその場は丸く収まった。
いつも何かあるときは、こんな調子でママがうまいこと話をまとめてくれる。
これもいつもの我が家のパターンなのだ。
そしてご飯も食べ終わり、ママが用意してくれたお弁当を鞄に入れて玄関へ。
「それじゃ、山田。行ってくるね」
華子がペットのタマに向かって挨拶をした。
華子はタマに対していつも勝手につけた名字で話しかけているのだ。
「ペットだって名字があってもおかしくないでしょ?」
というのが華子の言い分なんだけど……やっぱり変なの。
「それじゃタマ! 行ってくるね!」
あたしは元気よくタマに挨拶するも、我関せずの顔つきでこっちを見ている。
お前も華子と似て無愛想な奴だよな。




