まだ職場に着かない
トルマナ村に出発して1時間。飽きた。
最初は門を出るときにビックリした。だって馬鹿でかい門であり、まるで凱旋門みたいな装飾がしてあったからだ。もしカメラやスマホなどがあったら撮りまくっていただろう。それくらいの
豪華さであった。その後は広大な平野や森。異世界にきたことを実感するパノラマだった。海外旅行したことのない俺が日本以外の国にきたのが異世界とは・・・そりゃ今はいない両親も驚くだろうな。
ちなみに誰にも言ってなかったが俺の両親は他界している。俺が28歳の時に海外旅行に行くって出かけたのが最後だ。旅行先でテロにあい、そのまま帰ってこなかった。あの時は悲しくて仕事ができなくなり、会社に言って長期療養をした。幸いと言ってはなんだが半年ほどで心の整理がつき、復帰したが前みたいなやる気というか情熱はなくなった。ちょうどその時に恋人とも別れた。俺が悲しんでるときに慰めてくれたのは彼女だったのに・・・
俺と別れてから音信不通になったが元気でいてくれるだろうか?もしもう一度会えたら謝りたい。そしてありがとうと言いたい。もう会えないだろう。日本と異世界じゃ遠すぎる。
他の乗客も飽きたのか、それとも慣れてるのかは知らないが談笑している。誰も景色なんか見てない。俺以外の乗客は7人。1人は商人かな?荷物なんか持ってないのに次々と商品を出して乗客に売り込んでいく。あれはアイテムボックスとかを使ってるのかな?
4人組の家族もいる。景色に飽きた子供(男の子2人)は商人の出すものに夢中だ。それを母親が断り、父親は愛想笑いで誤魔化してる。年齢は父親は日本の俺と同じくらい。ただ異世界人はあまり話したことがないので詳しい年齢は分からない。もしかしたら30歳より若いかもしれない。そしたらごめんよ。って心の中で思う。ちなみに母親はどう見ても高校生みたいな若さだ。爆ぜろリア充。心の中で謝ったのは間違えたのかもしれない。
もう2人は恋人なのか夫婦なのかは分からん。若い。今の俺と変わらない年齢だ。ただイチャイチャしていてウザい!前の席に座ってるからどうしても目に入る。こいつらも爆ぜろ!!!
家族に売り込みをしていた商人が俺のところにきた。たぶん俺がいなくてもあのカップルには声をかけないだろう。ちなみに商人はおっさんだ。以上。
「こんにちわ。私は商人をしているサザムです。いろいろ商品があるので見て行かれますか?買ってくれると私が喜ぶんですけどね。」
おっさんの喜ぶ姿など見たくない。その前に金がない。俺にあるのはこの服、RPGの村人が着ているような素朴なものだけだ。今気づいたが寝るときはスウェットだった。仕事の時はスーツだ。いつの間に着替えたんだろう?まぁどうせ神様のしわざ、いやおかげだろう。気にすることもないな。
「すいません。私は転移者でして、お金は持っていないのですよ。あなたのように物を出せる魔法もないので・・・」
「おや、転移者の方でしたか。ならば売っても仕方ありませんね。ただ暇なので話し相手になってもらえませんか?先ほどの家族には売り方を間違えてお母さんから敵意を向けられまして・・・失敗しました。酒を売ろうとしたら激怒されましてね。怖くて怒った理由を聞けずに逃げましたよ。前にいる方は多分話をかけても無視されるでしょうし・・・」
「それは災難でしたね。村で商売するので行かれるんですか?売れるといいですね。あ、トルマナ村って利益になるほど大きい村なんですか?行けと言われただけで全然情報がないんですよ・・・」
「まぁ着いたら分かりますよ。せっかくの感動を邪魔したくないので曖昧に答えますが、まぁまぁ大きい村ですよ。私は商人ですからね、赤字になるような商いはしませんよ?」
大きい村か。この世界で大きいっていうのがどれほどか分からんが楽しみにしておこう。寒村でないのが分かって良かった。さすがに人も店もない村はきついからなぁ・・・
そしてサザムさんとくだらない話をしながら馬車は進む。でもサザムさんは話をするのが上手い。さりげなく村やサザムさんのことを聞こうとしたらはぐらかすのに長けている。結局、俺の元の世界の(テレビやネットで見た)笑い話をして時間は過ぎて行った。
そして・・・
「みなさん、もうすぐ村に着くぞ。降りる準備をしてくれ!」
いよいよ俺の第2の人生が始まる!波乱はいらない!