異世界転移で知らん人に会った(当たり前)
俺は佐藤 忠志 34歳の独身だ。サラリーマンをしている。
夢を見た。
おぼろげな夢だった。
仕事に疲れ、休みは寝てるか酒を飲む毎日のある日。
子供のころは未来は輝いていた。毎日遊んで勉強して、将来は警察官?サッカー選手?なんにでもなれると思っていた。いつからだろうか?遊びは減り勉強が多くなり、勉強は仕事に変わった。
そして今では前述の通りの毎日だ。
同僚や上司との会話しかなくなり彼女はいなく、友人は結婚や転勤などで疎遠になった。もちろん年末年始などの連休では集まって遊んだりはする。しかし日常に潤いは無くなった。
ここではないどこかに行きたい。そして友人や彼女に囲まれて幸せに過ごしたい・・・
スローライフもいいな。畑を耕して質素な暮らし。ストレスとは無縁な暮らし・・・は無理でも今よりはのびのびと生きたい。
そんな風に考えながら寝たのが原因か。夢の中で話しかけてくる人が来た。
(佐藤さん・・・あなたは疲れているのですね・・・)
そうだよ疲れてるよ。明日も仕事があるんだ寝かせてくれよ・・・
(あなたに力を・・・そして新しい人生を与えましょう・・・)
力?そんなのはいらないよ・・・でもこのクソみたいな人生をやり直せるならいいな・・・
(では生まれ変わるのと若返るのはどっちがいいですか・・・?)
また子供からはいいや・・・昔みたいに純粋じゃないし・・・でも20歳の時みたいに元気になれたらなぁ・・・
(分かりました・・・佐藤さんの新たな人生に祝福を・・・)
・・・ここはどこだ?
昨日は仕事が終わってから酒を飲んで寝た。たしかに寝た。ただし自宅のアパートだ。決してこんな木造の家でもない。酒は飲んだが泥酔したほど飲んでない。だから人の家や居酒屋で寝落ちしたわけではない。
「起きましたか。おはようございます。」
誰だ?見ると若いが笑顔がまぶしい男がドアの前に立っていた。
「えっと、ここはどちら様の家でしょうか?こちらで寝た記憶はないのですが・・・もしご迷惑をかけたのなら謝ります。」
「いえいえ、あなたはちゃんと家で寝ましたよ。そのあとこちらに運ばれたのです。」
「よく分かりませんが・・・ここは病院ですか?寝てる間に病気か怪我をして運ばれたとか?」
「いえいえ、あなたは病気も怪我もしてません。そしてここは病院でもありません。まずは外に出ましょう。百聞は一見にしかず。見れば分かりますよ。ここがどこなのか。」
外に出た。たしかに分かった。ここは自宅でも病院でも日本でもないことが。
今は春だ。しかしここは紅葉がきれいな秋だ。そして・・・
外には人がいた。もう少し詳しく言うと人もいた。
俺と同じ日本人やアニメみたいな髪の色の外国人。ここまではいい。だがどう見ても犬の顔にふさふさの毛の男。リボンをしたトカゲ顔の女の子。空を飛んでる妖精みたいに可愛い子供。というかどう見ても妖精。
「驚きましたか?簡単にいうとここは異世界です。ようこそ、佐藤忠志さん。」
「ええ・・・驚きました・・・あれ?自己紹介しましたっけ?」
「自己紹介はされておりません。しかし分かるのです。あ、失礼しました。私もしておりませんでしたね。私の名前は田中 進と申します。異世界案内総務部に勤めております。」
「これはご丁寧に・・・知っての通り私は佐藤と申します。異世界案内総務部?」
「はい、異世界を案内するのが私の仕事です。市役所の職員みたいなものです。」
「えーっと、ここが異世界なのは理解しました。というか理解させられました。で、なんで私の名前を?」
「それを説明するのは簡単です。ただ、その前に来ていただきたい場所があるのです。付いてきてください。」
「はぁ・・・」
道を歩く。田中さんは前を歩いているが、それよりも周りが気になる!なにあのでかい魚!3メートルはある!なにあの騎士!全身が筋肉でそれを覆う鎧の無骨さ!かっこいい!!俺の中の消えてた中2病がうずく!!それよりも目を引くのが・・・
魔法だ!なんと魔法がある!子供たちは火の玉や水の玉でお手玉し、猫の顔をした人は風を纏って空を飛び、お爺さんは怪我をした男の子を治癒してる。こんな世界があるなら俺も使えたら・・・・・・・・ドンゴロングェッ!はい、転びました。
「着きましたよ佐藤さん・・・って。大丈夫ですか?」
「いてて、大丈夫です。いやぁ、さすが異世界ですね!騎士に獣人に未知の生き物!そして魔法!ワクワクしますよ!」
「ははは、最初はみんな驚きますよね。でも驚くのはまだ早いです。こちらへどうぞ。」
着いたのは変わった建物だった。でも見たことはある。ギリシャのパルテノン神殿みたいなものだ。これが役所だったら驚きだ。中には白を基調にした青や赤の刺繍をした人が何人かいた。そして田中さんは奥にいる金の刺繍をした年配の男性の前に来て一礼した。
「神官長、新たな転移者を連れてきました。名前は佐藤忠志さんです。祝福をお願いします。」
「分かりましたよ、田中さん。では佐藤さん、私の前に来てください。」
神官長ということはここは神殿であってるのか。祝福?無神教だけどいいのかなぁ?神様とかあまり信じてないんだけど。まぁなんとかなるか。まずは行ってみよう。
「うむ、よく来た佐藤さん。まず説明すると祝福はこちらの世界に順応するのに必要なのだよ。そして順応すると魔法が使えるようになる。何の魔法を使えるのかは私も知らない。しかし、あなたにあった魔法が出来るのは確定じゃ。」
マジか!俺も魔法が!やはり火で敵を倒したり風で飛んだり!夢が広がる!おっと、でも何の魔法が使えるのかは分からないのか・・・でもまずは祝福だ!
「では祝福をする。神アラノスク様!この者、佐藤忠志に祝福を!!!!」
するとどうだろう。俺の体が光って光って・・・光すぎ!目の前が真っ白で見えない!え?なにこれ?
そして光が収まっていき、チカチカする目で周りを見ると・・・
って神官長も田中さんもサングラスかけてる!ズルい!あとなんか体が軽い!これはもしかしてチートとかに目覚めた?ハーレムとか無双とかしたり!
「・・・佐藤さん!佐藤さん!話を聞いてください」
「ん?あぁ、田中さん。すいません。ちょっとテンションが上がってました。それで、私は魔法を使えるようになったんですか?これで使えないとかは無しですよ?あんなに光ったから光魔法とかですか?もしかして勇者とかの資質が目覚めたり?いやまt」
「佐藤さん、落ち着いて!どーどー!神官長、ありがとうございました。佐藤さんをステータスの部屋に連れて行きます。ではこれで。」
「あぁ、分かりました。では田中さん、お願いしますね。佐藤さん、第2の人生を楽しんでください。」
「あ、失礼しました田中さん、神官長。ありがとうございました。では失礼します。」
そういうと神官長は笑って送り出してくれた。さて、俺は何の魔法が使えるかな?