66話
人気の全く無い廃墟が建ち並ぶ場所を、チャシャネコが鼻歌を歌いながら目的も無くブラブラと歩く。
ただ、普段人気の無い廃墟には、何故か無数の人では無い気配が満ちていた。
「チャシャネコさんパ〰️チ!。チャシャネコさんキッ〰️ク!」
チャシャネコが、物陰から襲撃してきた物を適当な技名と共に殴り蹴り倒す。技名こそあれだが、チャシャネコを襲っているのは、影の人形であり。戦闘用と言われている大鬼以外にも、腕が六本あり其々の腕に違う武器を持つ影の人形もいるが。
チャシャネコのパンチや蹴りを喰らった瞬間、跡形もなく消し飛ぶ。
「チャシャネコさん、いい加減疲れたよ〰️。まだくるの?」
既にほぼまる一日以上戦っているチャシャネコが、だるそうに呟く。そして、遂に我慢の限界に達したのか。右手に力と魔力を込めるとそのまま地面を殴りつける。
「あ〰️、すっきりした〰️♪」
粉塵が上がる中、チャシャネコが欠いていないのに額の汗を拭う仕草をする。チャシャネコの一撃は、地面を砕き廃墟を吹き飛ばすだけで無く。周りにいた、影の人形を全て消滅させていた。
「相変わらず出鱈目な一撃ね」
「にゃ!」
不意に背後から聞こえた声に、チャシャネコが驚きながらも全く警戒せずに振り向く。
「びっくりしたよ!、チャシャネコさんでもいたの気付かなかったっよ?。それで、そっちは何の様かな?。チャシャネコさん、今忙しいんだけど」
チャシャネコが背後にいた蝶のお面で顔を隠した少女に話し掛ける。蝶のお面の少女は、時間は取らせないと言いながら一匹の蝶を生み出しチャシャネコに向けて羽ばたかせる。
蝶がチャシャネコの手に止まると、形が変わり数枚の紙へと姿を替える。
「中途入学志願紙?」
チャシャネコが紙の内容を詠んで首を捻る。
「幻影女学園への中途入社志願紙。チャシャネコ、その学園に入学して聖騎手を決める大会に出なさい」
「それって、依頼と受け取って良いのかな?。チャシャネコさんの依頼料高いけど?」
チャシャネコが尻尾を指に絡ませ、遊びながら言う。チャシャネコへの依頼料は、チャシャネコの気分次第で変わり。興味の無い依頼の時は、高額な額や物を要求する。
「そうね…………依頼料換わりと言っては何だけど。亡霊に関わる事と言えばいいかしら」
蝶のお面の少女の言葉に、チャシャネコの耳が反応する。
「亡霊っちが関わる話なら聞くけど。………嘘だったら、殺すよ」
チャシャネコの纏う雰囲気が変わり、辺りに冷気を含んだ殺気が満ちる。そんな、殺気を一身に浴びながらも。蝶のお面の少女は、表情一つ変えずに答える。
「貴女の、両親のお墓の前で誓っても……………」
両親のお墓と言った瞬間、チャシャネコの周りの空間が歪み。チャシャネコが指一つ動かしてもいないのにも関わらず、蝶のお面の少女の右腕が弾け飛ぶ。
蝶のお面の少女は、弾けた右腕を痛がる素振りすら見せず。真っ直ぐチャシャネコの眼を見て話す。
「それくらい、私も本気と言うことよ」
そう言いながら、蝶のお面を面し素顔をチャシャネコに見せる。チャシャネコは、蝶のお面の少女の素顔を見ると何かを納得した様に、周囲の空間を歪ませていた魔力を納める。
「…………ふぅ〰️、危うく殺す所だったよ」
耳と尻尾と髪の毛を爆発させた様にボサボサにしたチャシャネコが、毛並みを直しながらそう呟く。
「確かに今の私だと、五分も持たずに殺されてたわね」
吹き飛ばされた右腕の止血をしながら、蝶のお面の少女がそう答える。
「さっきのチャシャネコさん相手に、五分も持てば凄いよ」
呆れ半分、警戒半分でチャシャネコが答え返す。蝶のお面の少女の雰囲気は、最初の時と変わっていなかったが。正体を知った今では、逆に不気味な嫌な感じがしたからだった。
「それで、入学の件だけどーー」
「良いよ、チャシャネコさんその依頼受けるよ」
チャシャネコが、蝶のお面の少女が言い切る前に依頼を受けると頷く。
「そう、一応お礼を言っておくわね」
蝶のお面の少女が、チャシャネコに向かって深々と頭を下げる。そして、細かい注意点や色々と用意に掛かる時間等を伝える。
「そうね。これは、前金とでも思って受け取って貰えると良いのだけれど」
蝶のお面の少女が、指を一度鳴らすと。何処から途もなく無数の蝶が現れ、チャシャネコとお面の少女の周りを飛び回る。
その数は次第に増えていき。チャシャネコの視界を覆い尽くす程の大群となる。
「にゃはは!。これは、チャシャネコさんもびっくりだよ!」
視界を覆うほどの蝶が綺麗いなくなると。そこは、チャシャネコに壊される前の元の廃墟に戻っており。チャシャネコが側に立っているビルを軽く叩くと、柱が折れ壁が崩れ壊れかけていたビルが完全に壊れる。
「ケホ!、ケホ!」
チャシャネコが、壊れたビルの粉塵の中から咳をしながら出てくる。チャシャネコの耳や髪、尻尾や服には舞い上がった粉塵による汚れが出来ており。このビルが、本当にここにあった証明になっていた。
「今の私だと、この程度の物すら作り直すのは大変な事だから。壊さないで欲しいわね」
舞い上がる粉塵を風の魔法で防ぎながら、蝶のお面の少女が手を振ると。無数の蝶が舞い上がリ、蝶が消えた後には元通りの、壊れかけていたビルが現れる。
「にゃはは、ごめんね。チャシャネコさん、壊す気はなかったんだよ」
チャシャネコが謝るが、その眼は獲物を狙う眼であり。それと同時に、何時でも蝶のお面の少女に必殺の一撃を入れられる様に気を張っている事でもある。
「そろそろ、聖騎士が騒ぎに気付いて来る頃ね」
蝶のお面の少女がチャシャネコに向かって言いながら、チャシャネコにこの場からいなくなる様に促す。
「チャシャネコさんも力を貸すけど?」
相手の今の実力を。そして、隠している実力を探る為に協力を申し出る。ただ、蝶のお面の少女は、チャシャネコの手助けを断る。
「手助けは大丈夫よ。それより、聖騎士に見付からないでいて貰えると嬉しいわ」
「何で?」
チャシャネコが疑問をぶつけると。蝶のお面の少女は、平然と飛んでもない事を答える。
「ここであった出来事を全て無かった事にするためよ」
「無かった事にって。それは、無理じゃ無いかな?」
幾ら戦闘の後を隠しても、残留魔力や細かい傷等の僅な痕跡は必ず残る。そして、聖騎士の部隊にはそういった痕跡を見付けるプロが何名もおり。どれ程隠そうと、見付けた痕跡からどういった事が起きたかを暴き出す。
なので、此処であった事を全て無かった事にするのは不可能であり。出来たとしても、戦闘の規模を誤魔化したり。使った武器や魔法を誤魔化す程度である。
そんなチャシャネコの心配を余所に。蝶のお面の少女は、チャシャネコの聴覚でも聞き取れない程に小さな声で呟く。
「これで、誰が調べてもここでの事は全て無かった事になるわ」
蝶のお面の少女の足元には、小さいが複雑な魔方陣が何重にも重なり浮かびあがっていた。
「やっぱり、あの場所にいたんだね」
蝶のお面の少女の足元に浮かびあがった魔方陣を見て、チャシャネコがあの時、亡霊が亡霊では無くなった日。琴音達が精霊と契約した日の事を思い出す。
あの時、ほんの僅な間とは言え。チャシャネコですら、亡霊が変わっていた事に全く違和感を覚えなかった。
その理由が、目の前の蝶のお面の少女の魔法による物だとチャシャネコが確信する。
「本当は、姿を見せる気だったのよ。でも、色々あって、魔法だけ掛けて姿を見せずにいただけ。
それと、この魔方陣は暫くしたら消えるから。チャシャネコ、貴女も早く居なくなって頂戴。貴女がいると魔力が乱れるのよ。
それに、チャシャネコ。貴女が見付かると、聖騎士が余計な事をするから、必ず見付からない様にして頂戴ね」
手でチャシャネコに早く居なくなる様に催促しながら、蝶のお面の少女の姿が薄れていき。最後には、最初から何も無かった様にその姿が掻き消える。
「…………まあ、どっちでも良いけど。亡霊っちの敵になるなら、チャシャネコさん容赦はしないよ」
少し何かを考えた後、チャシャネコが小さく呟く。その後、聖騎士の気配を感じとり。聖騎士に見付からない様に気配を消しながら移動し、聖騎士の様子を遠くから眺めていた。




