64話
「風よ全てを切り裂く吹き荒れる嵐となれ、火よ吹き荒れる風を纏いて更に燃え上がれ···焼斬嵐」
日向が魔法を一瞬で詠唱する。日向の回りに、巨大な炎の竜巻が現れると、影の人形達を飲み込む。
炎の竜巻に飲み込まれた影の人形は、内部で渦巻く風の刃に切り刻まれ。直後、炎によって焼かれ跡形も無く燃え尽きる。
「おねいちゃん」
朝実が姉の名前を呼ぶ。焼斬嵐に全ての影の人形が飲み込まれるが、日向は直ぐ様別の魔法を唱える。
「氷よ幾百の礫となれ、礫よ触れし者を凍らせ砕け···氷礫」
炎の竜巻目掛け、氷でできた礫が放たれる。直後、朝実が日向がした事に気が付き、急いで結界を強く強化しなおす。
朝実が結界を強化した瞬間。炎の竜巻に氷の礫が当たり、氷の礫が炎の竜巻の熱と魔力で溶かされる。
そして、水蒸気となった氷の礫は、籠められた魔力で炎の竜巻を凍らそうとする。
相反する魔力がぶつかりあった結果、強大な魔力の爆発が起きる。目映い光で一瞬目が見えなくなった朝実が次に見た光景は、強大な熱で融かされガラス状になった地面と、凍った挙げ句切り裂かれた校舎の残骸だった。
「あかん、仕止めきれんかった」
日向が悔しそうに言うと、空中に黒い影が生まれ。そこから、影の人形が現れる。
「残ったんは、四腕の下半身が馬の子かぁ。………長いし、ケンタウロスでええか」
嫌な奴が残ったと、日向が呟く。四腕の下半身が馬の影の人形(次から、ケンタウロスと表記)
現れたケンタウロスは、数を減らし全部で四体だった。四体のケンタウロスが同時に持っていた弓を引き絞る。そして、同時に日向と朝実目掛け矢を放つ。
「重ねて防ぐでぇ!」
朝実の結界の外側に、日向が結界と土と炎の壁を作り出す。放たれた矢は、土の壁を貫くと炎の壁を一瞬でかき消す。
そして、日向の結界に当たると結界を一撃で砕くが。日向の結界で威力が落ち、朝実の結界に当たると砕く事無く消滅する。
「結界と魔力を消す能力かいな。厄介な能力やなぁ!」
日向が冷静に矢の能力を見極める。日向の見極め通り、放たれた矢には籠められた魔力を消す能力がある。
「魔力を消す矢やぁ。防ぐ時は魔力以外の物か、四重以上の結界で防ぎぃ!」
日向が大声で叫ぶ。大声で叫んだ所意か、ケンタウロスの顔が一斉に日向を捉える。
「うち、モテモテやなぁ」
一斉に自分を見るケンタウロスに、日向が顔を引き吊らせながら言う。日向を見ていたケンタウロス達が、剣を下の手で槍を上の手で二本づつ持つ。
そして、蹄を鳴らすと一斉に日向へと襲い掛かる。日向は、鉄扇を構えて迎撃の耐性を取る。
「何か忘れておらへん」
笑みを浮かべながら言う日向。それに気付かないケンタウロス達は、日向目掛け槍を付き出す。ケンタウロスがくりだした槍は、日向の額を捉える寸前何かに防がれる。
「せぇい!」
そして、槍を防がれたケンタウロスの一体が。可愛らしい声と共に、気配を消していた朝実の拳を喰らう。
朝実の拳を喰らったケンタウロスは、剣で朝実を切り裂こうとするが。直後、何かに殴られ吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたケンタウロスに気をとられた残りのケンタウロスを、日向が唱えた風の魔法が吹き飛ばし結界の中に閉じ込める。
「それ何やん?」
結界でケンタウロスを捉え方後、日向が自分に迫る槍を防ぎ、朝実を切ろうとしたケンタウロスを吹き飛ばした物を指差す。
「えっと、ゴーレムのくうちゃんとうーちゃんだよ」
朝実が日向の隣に移動し答える。ゴーレムのくうちゃんと、うーちゃんは詩音に貰ったゴーレムであり。大きさを自由に変える能力と、空間を歪め姿を隠す能力がある。
「くうちゃんと、うーちゃんかぁ。熊と兎なんやねぇ」
日向が姿の見えないゴーレムの姿を言い当てる。日向の予想通り、一瞬だけ姿を見せたのは、熊と兎の姿を見せたのはしたゴーレムだった。
「さて、一体は片付けたやけやけどぉ。後三体おるんやねぇ」
日向の声が聞こえたのか、結界に閉じ込めるられたケンタウロス達が暴れだす。
「無駄やぁ。その結界は破れへんでぇ」
日向の言うとり、ケンタウロス達が結界を壊そうとするが。壊れる度に即座に結界が修復され、壊しきる事が出来ずにいた。
「何為に大声で叫んだ思とるん」
日向が大声で叫んだ理由は、周囲にいた人達に情報を伝える為である。
「ここが何処だか忘れたんか?。ここは、聖騎士魔導学園。通称乙女の学園やでぇ。襲撃があるのに、誰も出てこないわけ無いやろぉ」
多くの生徒が通う学園への襲撃の時点で、教師や常駐しいている衛兵が様子を見に来ない事が可笑しいのである。
それに、日向は薄紫家の当主である。本人が嫌がっても、周囲には何時でも護衛の者が着いている。
日向は、影の人形が姿を見せた時点で、周囲に集まっていた護衛の者に待機する様に目だけで伝え。戦いながら影の人形の情報を伝えると共に、他の人が巻き込まれないようにしていたのである。
最も、今は結界を張っている護衛の者達も。いざなれば命をかけて日向を守る為に動くが。
「封印が完成するまで、結界は維持しぃ。結界も最低でも四重で掛け、一つでも破れたら重ねて掛けしぃ」
強い口調で日向が護衛の者達に命令する。護衛の者達は、無言で頷くと結界と並行して封印を完成させていく。
「さて、うちらも移動す…………」
日向が朝実の手を取りケンタウロスに背中を向ける。そして、一本進んだ瞬間、日向の身体を何かが貫く。
「お、おねいちゃん?」
口から血を流し倒れる日向に、朝実が何が起きた分からず姉の名前を呼ぶ。
「…………ッぅ、あさみ………にげぇ………」
日向が弱々しい声で、朝実に逃げる様に言う。
「やだ、やだよ、おねいちゃん!」
ただ、朝実は泣きながら日向の体に抱き付く。そんな朝実を、見つめる影が一つ。音も無く日向に気配すら感じさせなかったソレは、ケンタウロス達を結界で封じていた護衛の者を一瞬で殺すと、封印が解かれたケンタウロス達を手に持っている先が槍の様に尖った金棒で貫き殺す。
「グゥガガガ」
ケンタウロス達を金棒で殺したのは、影を纏った大鬼であった。影を纏った大鬼は、その鋭い牙が生えた口を開くと。殺したケンタウロス達に食らい付き、その身体を食らっていく。
全てのケンタウロスを食らった時、大鬼の身体が二倍以上に膨れ上がっており。鋭く伸びた犬牙は、口から飛び出しつのの様になっていた。
「グググガ」
姿の変わった大鬼は、新たな獲物を探す様に顔を動かし。倒れている日向と、朝実を見付けると嬉しそうに鳴く。
「………………」
大鬼が近付くが、朝実は日向に抱き付いたままだった。大鬼は、そんな朝実に手を伸ばすが、朝実に触れる直前。姿を消していたゴーレムのくうちゃんに殴り飛ばされる。
「グガ?」
ケンタウロスの一体を仕留める程の威力のある一撃なのだが。大鬼は少し吹き飛ばされただけで、直ぐ様自分を殴った者を探し見付けられずに首を捻る。
「グガ!」
もう一度吹き飛ばされ、大鬼が驚きの声をあげつつ、金棒を力まかせに振り回す。
「クマァ!!」
力まかせに振り回された金棒が、偶然くうちゃんに直撃する。くうちゃんの身体は、多重に張られた結界と特殊な金属で出来ており。魔法にも物理攻撃にも強い耐性を持つが、大鬼の一撃でくうちゃんの腕が破壊される。
「くうちゃん?」
破壊されながらも、主を守る為にくうちゃんは大鬼に挑む。大鬼は、当たれば相手を壊せる事に気が付いたのか、一撃を貰った瞬間に反撃するかまえをとる。
「グガ!………グガガ!?」
背後からの一撃に反応し、大鬼が金棒をふり姿の見えない者を捉える。確かな手応えに、大鬼が油断した瞬間。金棒を振るった大鬼の頭を強い衝撃が襲う。
頭を攻撃された大鬼は、金棒を持っていない腕で虚空を殴り飛ばされるつける。
「くうちゃん!、うーちゃん!」
大鬼の金棒に殴られたうーちゃんと、大鬼に殴られたくうちゃんが崩れ落ちる。戦闘用のくうちゃんは、腕を無くし壊れ掛けながらも立ち上がるが。
朝実を背中に乗せ援護する為に作られたうーちゃんは、金棒の一撃でウゴケナイ程に壊されていた。
そんな姿になった、くうちゃんとうーちゃんに朝実が逃げてと叫ぶ。ゴーレムは命令されなければ、朝実を守る様に命令されているが。朝実が命令した場合は、朝実の命令を優先する。
「何で?。逃げてよぉ!」
朝実の命令を無視し、くうちゃんは大鬼に挑み続ける。大鬼の一撃を食らう度に、くうちゃんの身体は壊れていくが、くうちゃんはそれでも主を守る為に動く。
「もう止めてぇええ!」
壊れていくくうちゃんを前に朝実が叫ぶ。朝実の叫びに、大鬼がくうちゃんを金棒で吹き飛ばし朝実目掛け走り出す。
朝実の体からは、大量の魔力が吹き出しており。刻一刻と魔力の量は増えている。それは、魔力の暴走であり。朝実の中にいる聖霊の暴走でもあった。
「お前なんか、潰れろぉおおおお!!」
大鬼目掛け朝実が腕を振り下ろす。その瞬間、大鬼が朝実の作った結界に潰され地面に叩きつけられる。
「ーーーーーーーー!!!」
声にならない叫び声をあげる大鬼だが、朝実が腕を振り下ろす度に地面へとめり込んでいく。
何れくらい時間がたったのか、朝実の魔力が無くなりその場に崩れ落ちる。大鬼がいた場所は、深く陥没していた。
「おねいちゃん……くうちゃん………うーちゃん………」
魔力切れの影響で、意識を失うなか朝実が倒れている皆の名前を呼ぶ。
「GUGAXAAAAAAAA!!」
朝実の結界により地面に埋め込まれた大鬼が、怒りで目を赤く染めながら穴から這い出てくる。
その姿はで全身血まみれであり、片腕は骨が折れていた。そして、怒りのままに朝実目掛け金棒を振り下ろす。
「おい、うちの生徒に手を出すとは良い度胸だな!」
金棒の勢いで土煙があがった場所から女性の声が響く。土煙が晴れた時、そこには金棒を片手で受け止めている白衣を着た桃木がいた。
「影の人形、戦闘型の一つ大鬼だったか?」
桃木が片手で金棒を押さえながら、大鬼の名前を呟く。
「亡霊め、依頼を忘れたのか?。いや、彼奴が依頼を忘れる分け無いな。なら、何かあったと見るべきか」
そう呟く桃木に、大鬼が金棒を振り上げ再度振り下ろすが。桃木は、倒れている日向と朝実を担ぎ上げると、金棒をかわし安全圏へと移動する。
「全員戦闘準備だ!。殺す気で殺せ!!」
桃木の声に、大鬼を囲む様に数十名の布で顔を隠した人達が現れる。
「これで、先生でいられなくなるかも知れないな」
そう小さく呟き、日向と朝実に大福の魔法をかけ。部下に預け、胸元から薬を数種類取り出し、全てを飲み込み仮面を被り大鬼へと向かう。
「一応名乗っておこう。元暗殺者。その頃の二つ名は、毒殺の医者、不殺の回復師と呼ばれていた」
そう名乗ると、桃木の回りに紫色の煙りが立ち込める。それは、強力な毒であると同時に、仲間を回復させる薬でもある。
「久々だからな、手加減は出来んぞ!」
桃木の声と同時に大鬼が動き出した。




