誰も死なせない。殺しの依頼
後で、登場人物を後書きにのせます。
最初の聖騎士が生まれた地であり、聖騎士達の本部でもある聖騎士魔導師大隊本部。
最強の聖騎士であり聖剣の覇王の二つ名を持ち、聖騎士達のトップでもある。聖騎士大隊長がいる最上階の部屋に、亡霊の姿があった。
「で、俺に何の様だよ聖騎士大隊長。いや、蛇王って言った方が言いか?」
亡霊がからかう様に目の前の人物に言う。その人物は、40歳くらいの男性であり、聖騎士が着ている鎧を着ているが。その全てに高位の魔法がかけられおり、聖騎士大隊長の証である剣と杖と盾を象った模様が掘られていた。
「バカがその二つ名は、ここでは言うなって言ってんだろうが。言うなら聖剣の覇王の方だろうが」
口ではそう言っているが、慌てた様子は無い。そんな、聖騎士のトップを相手にしながら亡霊が笑う。
「そうだったな、忘れてたよ。何せ暗殺者の纏め役のトップ、元老院最高議長でもあるから。つい、そっちの名で呼んじまったよ」
聖騎士大隊長の裏の顔であり、暗殺者を纏める元老院の最高議長の座を持つ男。
そんな男の前で軽口を叩く亡霊を見て、蛇王は笑いながら酒を取り出すと亡霊に投げる。
「今は、もう作られてない上等な物だ、飲めるまで取っとけ」
そう言いながら、同じ物を取り出すと口をじかに着けて飲み始める。酒が半分ほど減った時、徐に蛇王が一枚の紙を取りだし亡霊の方に飛ばす。
少し勢いが良すぎた紙を、黒姫がジャンプして取り亡霊に渡す。紙の中身を見た亡霊は、直ぐに何も言わずに紙を丸めて蛇王に投げ返す。
「残念だが、その依頼は受けて貰うぞ」
「断る。今の俺は、亡霊だからな。その以来は受けられない」
依頼の名前には、亡霊が昔使っていた今は捨てた名前が書かれていた。
「俺だってお前が亡霊って名乗ってるのは知ってる。その上で実力が足りないって言ってんだ。
それに、これは、お前以外じゃ死人が出る可能性が高い。別に俺は死人が出ても良いが、それじゃあ負けなんだよ」
蛇王がそう言いながら、丸まった紙を投げ返しながら違う紙を取り出す。その紙には数枚の写真が貼ってあり、写真を見た亡霊の顔色が変わる。
写真には、琴音、美和、朝美、葵、蒼、雪の六人の姿が写っていた。
「お前が断れば、多分こいつらは死ぬぞ」
蛇王がそう言った瞬間、亡霊の気配が変わる。亡霊の側にいた黒姫は、無言で姿を刀に変えると亡霊の側に浮かぶ。
「こいつらに、手を出してみろ。お前と、ここにいる聖騎士を全員殺すぞ」
「そう、その仮面だぜ、悪夢」
蛇王がそう言いながら側に置いてあった剣に手を伸ばす。だが、剣を抜く前に亡霊の気配が元に戻る。
「悪夢は、もう俺の名前じゃない。それに、仮面は壊した。もし、仮面が直っていたとしても。影花が無いから悪夢を名乗れないぜ」
「影花、確か黒姫の姉にあたる、お前が最初に作った武器だったか。確かに彼奴は化物だった、それを扱うお前も十分化物だったがな」
そう言って蛇王が袖を捲る、その腕は精巧に出来た魔法金属の義手だった。
「お前に殺られた腕の変わりだ。まあ、義手は義手で良いことがあるがな」
笑いながら蛇王が袖を戻し義手を隠す。そして、一頻り笑うと雰囲気を変える。
「悪夢が駄目なら仕方がない、亡霊お前に依頼を出す。聖騎士魔導学園を襲え、なお死人は出すな。
標的は琴音、美和、朝美、葵、蒼、雪の六人。それと、お前を妨害する全ての人物。
内容は単純、標的を殺せ。お前なら意味が分かるだろ、死人を出さずに殺せ」
標的を殺す、なのに死人を出すな。意味が分からない依頼だが。亡霊は丸まった依頼紙を伸ばすと、ナイフで指を切り血を垂らす。
そして、依頼を受けるむねを伝えると。最初に渡された酒の蓋を開けると、そのまま酒をグラスに注ぎ飲み始める。
「おいおい、お前酒飲める歳じゃ無いだろ!」
蛇王が驚きながら叫ぶが、亡霊は構わずに飲み続ける。そして、全てを飲み干した後。空になった瓶を上に放り投げると、瓶が空中で突然縦に切り裂かれる。一瞬で四つに切り裂かれた瓶を、亡霊はキャッチすると元の様にくっ付ける。
「一つ警告だ」
瓶から手を離した後。酒気を含み、目が座っている亡霊が囁くように言う。
「もし、この依頼を他の奴にやらせた時は。蛇王お前とお前の部下や家族、関わった者全ての人物の命日なるからな」
そう、言った亡霊の体から漂う血と死の匂いに。蛇王は、黙って頷く。
「そういや、それ以外にも要件あんだろ。さっさと話せ、それと酒上手いな、もっとあるか?」
そう言った亡霊からは、嘘の様に先程までしていた血と死の匂いが消えており。変わりに、匂うのは酒の匂いになっている。
「おう、今酒持ってくるから待ってろ。黒姫お前も飲むか?」
「わっちは、苦い水はいらんでありんす。変わりに、甘いジュースが欲しいでありんす」
人の姿になった黒姫が、亡霊の隣に座りながら答える。
「分かった。甘いジュースなら、女子聖騎士が買ってた筈だな。待ってる間騒ぎを起こすなよ」
蛇王がそう言って、部屋を出ていく。そして、暫く歩くと隠れている部下に話し掛ける。
「おう、間違っても俺の部屋に誰も近づけるな。まだ、表の聖騎士大隊長の仮面を外す和氣にはいかないからな」
暗殺者であり聖騎士でもある部下にそう言った後。ジュースと酒を探し戻ると、亡霊の姿が無くなっていた。
そして変わりに、一枚の紙が亡霊のいた場所に置いてあった。蛇王が紙を拾い書かれている暗号を解読すると、そこにはただ一言。気持ちが悪くなったので、水を飲みに帰る、とだけ書いてあった。
「おいおい、古すぎだろ」
そう言いながら紙に、適当な酒をかけると。濡れた部分から文字が浮かび上がってくる。
「依頼の時期だが、こちらが勝手に決める。一応3日後に行う予定だ。それと、今回はお前の手の上で動いてやる。だが、これが終わったら全てを聞きに行く、か。
なら、此方も準備を始めるか。それと、元老院を呼び出せ緊急で会議を行うとな」
部下に合図を送り全ての準備を進めさせる。そして、残った半部の酒を飲み干す。
「亡霊。お前がいくら悪夢の仮面を壊しても、お前は必ず悪夢になる。
亡霊のままでは、黄昏の魔女は殺せない。だが、悪夢では今の黄昏の魔女は救えない。
真実を知った時。たった一夜で元聖騎士大隊長に、元老院最高議長の暗殺。そして、その関係者や組織の人間を皆殺しにし。一夜の惨劇、消えぬ悪夢と恐れられるお前は、どうすんだろうな」
これから起こるであろう事を考える蛇王の顔には、興味と恐れがあった。




