亡霊の妹
「兄様準備が出来ました」
部屋のドアを開けて智莉が呼びに来る。子供達に囲まれて、揉みくちゃにされていた亡霊が一瞬で子供達を優しく引き離す。
ただ、遊び足りない子供達がすぐにまた遊ぼうとするが。
「まだ遊び足りない元気な子は家の掃除をして欲しいんだけど、誰が一番元気がある子かしら?」
智莉がそう言って掃除用具から箒を取り出すと、蜘蛛の子を散らす様に子供達が亡霊から離れ大人しくなる。
「あら、残念。では、兄様いきましょうか」
気配で子供達が大人しくなったのが分かった智莉が、亡霊の手を握りながら部屋を出る。
部屋を出る祭に、何人かの子供達が手を降りながら「また着てね兄ちゃん」と言う。亡霊は部屋を出る直前手をあげてそれに答えた。
「兄様すいません。兄様は怪我をされてるのに、後で子供達には注意しときます」
「いや、注意はしなくても良いぞ。彼奴等もちゃんと怪我に気付いて、怪我に触れない様に注意してたからな」
「兄様がそう言うなら注意はしませんけど…」
少し納得がいかないのか、何かを考える様に詞ながら歩く智莉の頬を摘み持ち上げる。
「なっ、なにふぉしてるんふぇすかあにふぁま」
智莉が可愛らしい抗議の声をあげる。
「何って、考え方しながら歩いてるから足下注意知ろって警告を」
「ならほぉとふぁでふぃってくらふぁい……いふぅまでふぉふぉをふぅまんでいるふぅもりふぇすかあにふぁま!!」
顔を真っ赤にさせながらの、抗議の声をあげる智莉。それを聞いて、ずっと頬を摘まんでいた亡霊がそっと手を離す。
「次はちゃんと口で、声に出して言ってくださいね兄様」
「分かった、次からはちゃんと言葉で注意するよ」
その後は、何事もはなさないまま二人はある部屋のドアを開ける。開けた先には、大きな魔方陣が床に書かれており、時々怪しく赤黒く光をあげる。
その部屋に二人が入り魔方陣の真ん中で止まる。
「それでは兄様の左腕を治します」
智莉がそう言いながら、床に置いてあった血塗れの中身を床にぶちまける。床にぶちまけられた物は、人間の心臓だった。
智莉がぶちまけた心臓を一つ拾い上げ、軽く息を吹き掛ける。その瞬間息を吹き掛けられた心臓が脈をうち始め、それにつられる様に他の心臓も動き出す。
「『つながりきえ、まじわりとかし、くずしなおし……』」
智莉が何かを口ずさむ度に、心臓がつながり大きくなったり小さくなったり、くっついたり離れたりしながら少しずつ灰になっていく。
そして、智莉が最後の言葉を口ずさんだ時魔方陣が大きく光り。全ての心臓だった物が消えてなくなり、小さな赤い石が一つ床に落ちていた。
智莉は自分の指を切り血を口で吸った後、小さな赤い石を口に入れ少ししてから吐き出す。
「どうぞ兄様」
智莉の手から小さな赤い石を受けとる、その赤い石は智莉の血で濡れていた。
亡霊はその赤い血に濡れた石を、左腕に当てながら握り潰す。
ガラスの様に石が砕け握った手を傷付けながら、左腕の傷口に触れる。
「ーーーーッ」
砕けた石が傷口に触れ、傷付いた手から血が垂れ石に触れた瞬間。亡霊が痛みで叫び声を上げない様に、必死で堪える。
傷口の石はまるで粘土の様に、伸び縮みしながら左腕を覆っていく。
何れくらい時間がたったか、左腕を覆ってい物体が一度大きく脈をうつと、そのまま左腕の形になっていく。
そして、最後にまた大きく脈をうつと、そこには怪我をする前の綺麗な状態の左腕があった。
「…あっ、兄様大丈夫ですか?」
目の前にいる亡霊に、恐る恐る声をかける。その声に反応して俯いていた顔を上げた人物の目を見た時、智莉の全身を鋭い刃が貫き肉を抉り、骨を砕き心臓を貫く。そして、目の前に表れた巨大な鎌が無慈悲にその命を刈り取る。
一瞬その場に倒れそうになる体を心で支える。これは現実じゃないと、私は死んでいないと。そして、声が震えないよに注意しながら。
「兄様」
自分の好きな人の名前を呼ぶ。
「……ああ、智莉か………悪い肩貸してくれ」
声が届いたのか、何時もの兄様に戻った亡霊にそっと肩を貸す。
部屋を出る頃には回復したのか、亡霊が智莉の肩からお礼を言って離れる。
「智莉何時も悪いな、子供達の事もそれ以外の事でも感謝してる。
それじゃあ俺は仕事に戻るわ……また近い内に帰る。その時に武器を持ってくるから」
そう言って出口に向かう。何も言わずに見送る智莉に、心の中でもう一度謝りながら出口に続くドアを開ける。
「兄様待って!」
智莉が叫び亡霊に駆け寄ると手を握り、お互いの小指を絡ませる。
「兄様約束です、必ず兄様のまま帰って来てください」
生きて帰ってではなく、兄様のままで帰って下さい。その言葉の意味をさとり、安心させるようにもう片方の手で頭を撫でなが答える。
「安心しろ、昔の俺のあの仮面は壊したから。ちゃんと智莉の兄様のままで帰ってくる」
そう言って指切りをして出口を潜り抜け、学園に向かう。
その姿を見送った智莉がその場に崩れ落ちる、その際の音に気付いた子供達が心配そうに集まってくる。
「姉ちゃん大丈夫か?」
子供達の中で一番年上の男の子が、心配そうに尋ねてくる。
「ありがと、もう大丈夫だから」
そう言って立ち上がりその場でぐるりと回る。少しふらついたが子供達は安心したのか、今度は甘え始める。
智莉はあの顔を上げた時の目を思い出す。あの目は亡霊がまだ、亡霊を名乗る前。
今なを暗殺者の中で最も恐れられている『死神』以上に、恐れられたいた暗殺者で呼ばれていた時の目だった。
(兄様はあの時の仮面を壊したって言うけど、なら何で仮面を被っていた時と同じ目をしていたんですか?
………どうか兄様が、兄様のままでいられます様に)
誰にお願いする訳でなく、ただそう願いながら子供達に手を引かれて廊下を後にする。




