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泡沫の幻

このたび、甘味処アリス様の子をお借りして小説を書かせてもらいました!


この子はこういう性格だろうな、という憶測が割かし多いかもしれません。あまり原作に順していない可能性もあります。そこはすみません。ご愛敬で…


それとこの霊夢は幻想語のストーリーが全て終わった後の霊夢です。今現在の霊夢ではございませんので、ご了承ください。


※幻想語の多少のネタばれがあります。もしネタばれが嫌な方は見ない方がいいかもしれません。

 博麗神社。霊夢は自宅の縁側で、一人お茶を飲んでいた。鳥の声も聞こえない静かな時間。風もなく、太陽の光だけが差し込んでいる。

「……」

 霊夢は湯飲みから顔を上げ、目の前に広がる森に目を移す。静かな空間の中に、ガサガサと草木を揺する音が聞こえる。霊夢は湯飲みを脇に置いて、こちらに来る人物を待った。

「あ~もう。なんで私がこんな目に」

 現れたのは少女だった。綺麗な長い髪。整った顔立ちの中に幼さを残し、見た目の年齢の割には発育がいい。胸も大きく、身長も霊夢より高いくらいだ。引きしまった体のお陰か、彼女の着ている紅い巫女服は綺麗に映る。

 ただこの時霊夢は思うところがあった。そのアンダーウェアは無粋ではないかと。

 せっかくの綺麗な着物が、ただの戦闘服に見えてしまうのが、とてももったいなかった。

 少女は藪の中から這い出て、霊夢を見た。驚いたように口を開き、そして閉じる。きつく唇を噛み、警戒するように睨みつける。

「取って食いはしないわよ。それより」

 霊夢は湯飲みを置いた方向とは逆の床をポンポンと叩いて、ここに座りなさいと促した。少女は恐る恐るも霊夢の隣に座る。なるべく距離を置いて。

「初めましてね、旅人さん。私は博麗霊夢。この神社の宮司と巫女をしているわ」

「私は……霊奈。神社で巫女をしているわ」

「私と同じなのね」

「そうね」

 同じようなトーン。同じような声色。口調までも似ている二人は、親子か姉妹のように見える。

「ここには何をしに?」

「修行のために父に送られてきたのよ」

「修行ね~。あんただいぶ強そうだけど、そんなの必要なの?」

 ジロジロと見て来る霊夢に、霊奈は不機嫌そうに腕を組んだ。

「あるからこうして送られてきたんでしょ? 私にはあの人の考えてることなんて分からないわよ」

「そっか。それもそうね」

 霊夢は湯飲みを持ち徐に立ち上がると、居間に戻る。

「どうかしたの?」

「淹れなおしてくる。ついでにあなたのお茶も淹れて来るわ。ちょっと待ってて」

 台所に引っ込む霊夢。必然的に縁側には霊奈だけとなった。

「……なんか、家じゃないみたい」

 ポツリと、霊奈は呟き。大の字になって寝転がる。鳥の声も風の音もしない。聞こえるのは霊夢がお茶を準備する家事の音だけ。戸棚を開いた音がしたと同時にお湯が湧く。ヤカンの耳を付く甲高い音が止むと、木製の受け皿にからからと何かが移され、霊夢の足音が戻って来る。

「……あ。ちょっとだらしないわよ?」

「……は~い」

 霊奈は素直に起き上がり手前に置かれたお盆を見る。そこには器に入ったきりもち揚と、湯飲みが二つ置かれていた。

「きりもち揚」

「好きかなって」

「まあお茶受けにはいいよね」

「そうね」

 霊夢は再度縁側に座り、お茶を啜る。霊奈はきりもち揚を口に入れた。

「修行って。何してるの?」

「ん? ん~基本は戦ってるわね。武者修行」

「じゃあ今まで教えてくれた人は、お父さんだけ?」

「そうなるわ」

 それを聞いて、霊夢は何かを考え始める。霊奈もそれを感じとり、とりあえずお茶を一啜り。

「せっかく来てもらったことだし、私の出来る限りでお手伝いするわ。なんなら、稽古を付けてもいいし」

「今更私に稽古を付けるなんて……。私強いんだけど?」

「基本に忠実……って、私は型はないんだった。でも、何かわかることもあると思うし」

 霊奈はしばし考え、「わかったわ」と言ってきりもち揚げを口に放り込む。

「でもこれ食べてからね」

「それもそうね」


 ◇◇◇


 お茶の後の運動ということで、境内の神社前に二人は居た。

「一様稽古だから、取り決めを決めましょうか」

「取り決め?」

 霊奈は髪を後ろで一本に結いながら応える。

「そう。能力と霊力の使用は禁止。これはあくまで稽古だからね」

「ふ~ん。まあいいわ。それでも負ける気はしないし!」

 勝気な表情に、霊夢は微笑む。準備の整った霊奈はだらりと腕を下げ、自然体になる。神経を張り巡らせているのか、とてもじゃないが近づけるものではない。

「凄いわね。じゃあ始めましょうか」

 霊夢も自然体の構えをする。霊奈に比べて張り詰めてはおらず、どこからでも攻撃は当てられそうだ。その違和感に、霊奈はどう攻めるべきか迷った。

 でも。いつも通り行けばいいか……流れるように。

 霊奈は歩くように、攻撃するとは思わせない自然な足運びで近づいた……はずだった。

「どうかした?」

 いつの間にか目の前に霊夢がいて、いつの間にか自分の唇に霊夢の指先が押し当てられていた。

 背筋が泡立つ感覚に霊奈は咄嗟に腕を振るう。しかし霊夢はそれも見越していたのか、肩の着け根を抑えられた。拳は止まり、霊夢は微笑む。

「あんた。ずいぶんと反射神経がいいのね。昔の私そっくり」

「チッ」

 距離をとるために一旦下がろうとしたら、その一瞬の隙に掌底付きを受けてしまう。後ろに行く力と霊夢の押す力が合わさり、逆カウンターが発生する。

 霊奈にとってはあり得ない事態が発生しているだろう。普段はその類いまれなる反射神経で、相手より早く動いたり出来るのだが、霊夢はそれを上回る速度で先回りしている。

「ごほっ! ごほっ!」

 何とか倒れずにはすんだが、肺の酸素を一気に押し出されたので、呼吸が一旦止まった。咳き込みながら、新しい酸素を吸引していく。

「ごめん。軽い当て身のつもりだったんでけど、結構いいの入っちゃたわね」

 霊夢はあくまで稽古と言った通り、これで全然本気ではない。指南するためには、それなりの手加減は必要だからだ。

「何よ……いまの?」

 何とか喋れるくらいには回復した霊奈は、大きく肩で呼吸しながら、霊夢に問いかける。

「ん~。説明すると難しいんだけど……あんたと共感した結果かな?」

「共感?」

「ええ。反射神経でもなければ、これは本来誰にでも使える技術なのよ。だから私からあんたに、これを解ってもらう。さあ戦い(はなし)ましょう。そうすればきっと見えて来る」

 完全戦闘モードになった霊奈は、より一層過敏に神経を研ぎ澄ませる。

「そんなに過敏にならなくても私はあんたに勝てないわよ? 戦闘力だけで言えば、私は鬼には勝てないんだから」

「じゃあなんで私に攻撃出来たのかしら? 私は鬼には勝てるわよ?」

「……あんたが人間である限り、私には勝てないわよ」

 嘘か真か。だがそれだけでいいのだ。霊奈が疑問に思えば思うほど、それは霊夢にとってやりやすくなる証しなのだから。

 動けば捕まるのかしら? だとしても、動かなければ勝てるものも勝てない。だったら相手が反応出来ない速度で動けば。

「――ッ!」

 気合いと共に今できる最大限の速度で霊夢との間合いを詰める。凡人には、瞬間移動したくらいに霞んで見えただろう。だが霊夢はその瞬間と共に半歩下がる。すると目の間を腕が掠めた。

 普通なら反応出来る速度ではない。だが霊夢はそれに対応する。躱されたことを察した霊奈は、間髪いれずに連激を叩き込むが。それは全て霊夢に当たるすんでの所で払われる。

 拳を下に払われた刹那。その勢いを利用して回し蹴りを放つ。だが霊夢は絶妙なタイミングで状態を反らし、当たるギリギリで躱し切る。そのままブリッチの容量で体制を立て直すと、直ぐ目の前には霊奈の拳があった。

「おっと」

 避けたと同時に腕をからめ、霊奈の腕を取り背中に回り抑え込んだ。

「ぐっ!」

「取りあえず。私から一本取るところから始めよっか」

「くっ」

 霊夢は拘束を解いて、霊奈は立ち上がる。

「どうして私が攻撃してくるのが分かるのよ?」

「ん? だから言ったでしょ? あんたに共感してるって。あんたが次にどう動いて、どう攻撃してくるのか、あんたを知ることで理解してるのよ」

 言っていることが理解出来ない霊奈の頭には、?が浮かんでいる。

「言ったでしょ? 戦い(はなし)ましょうって。つまりはそう言うことよ。お互い話して、理解して、共感する。そうすれば動きも見えて来るわ」

「そんなものなの?」

「そんなものなの」

 いまいち感じとれないのか、霊奈は頭の後ろを掻く。その仕草に、霊夢は微笑んだ。

「何?」

「別に……やっぱり似てるなって」

「??」

「ほら、始めましょう。時間は無限じゃないんだから」


 ◇◇◇


「はぁ~、ふぅ~~」

 霊奈は呼吸を整えて、霊夢の気持ちに共感する。今の心情、考え、それを自分に落としていく。

「それじゃあ、最終段階ね。私が近づく瞬間を止められるようになったら、合格」

 最初に霊夢が見せたあの移動。あれは相手の呼吸に合わせ動き出しを理解し、その考えを組み取ったからこそ出来る移動封じ。感覚的には先読みに近い。

「ふぅ~」

 完全に自然体(ニュートラル)となった霊奈は、霊夢を見た。そして感覚的にさっする。

 動く。ただ歩くだけ……普通に……自然体で。

 霊夢が自然な足運びで、日常的に歩くのと同じ感じで歩き出そうとした瞬間。

「――っ」

 霊奈の指が、霊夢の唇に押し当てられていた。

「……できた」

 喜びが湧きあがり、ゾワリと体が震える。

「覚えるの速いわね」

「ま、まあね。私、最強の娘だし」

 照れている顔を見られたくないのか、そっぽを向く霊奈にまた微笑む。

「それが基本。それ以上にいくことは出来るんだけど、あんたにはまだ早いわね」

「子供扱いしないでくれない?」

「はいはい。それがちゃんと誰でも出来るようになったらまた会いましょう。今度はその先を教えてあげるから」

 霊奈の頭をポンポン軽く叩く。恥ずかしいのか、霊奈はブスっと赤い顔でしかめっ面になる。

「それじゃあ。またね」

「……うん。また来るわ」

 霊奈は鳥居を潜り石畳の階段を下りていく。振りかえることはせず、やがて気配は消えた。

「……なんとかばれずにすんだか。にしても。どこの世界の私か知らないけど、あんな可愛い子供を授かるなんてね」

 瞬きをした瞬間、世界が一変する。鳥の囀りに風の音、木々のさざめきも耳に届く。鳥居は色あせ、神社はかなり傷んでおり、今にも崩れそうだ。だが、木漏れ日の中にあるその様は、幻想的で美しい。

 博麗神社跡地。以前、幻想郷にあった博麗神社の残骸が、そこにはある。

「さて。それじゃあ帰りますか」

 霊夢は一度大きく伸びをして、苔の生えた石畳の階段を下りていった。


どうも皆さま。みずたつです。


泡沫の幻。いかがだったでしょうか? 僕としては久しぶりに書く短編となります。


思ってた以上に僕のテイストになってしまって、霊奈が少し霞んで見えてしまうのが、自分の力量のなさを痛感させられたところです。


イメージとしては、親子愛をテーマに書きました。


別世界でも感じることのできる親子愛。やはり人の本質は変わらないという、そういったものを感じてくれたら幸いです。


そして忘れてはいけない、最近の僕には珍しい戦闘描写。物語の進行状、僅かしか書きませんでしたが、やりたいことは全部やった!

久々に書くと本当に楽しかったです。新鮮な発見もありましたし、いい勉強をしました。


これを期に、また他の作者様と新しい作品が作れたらなと思っています。


以上!みずたつでした。

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