プロローグ『わたし』
17歳、女、身長156cm、血液型B(Rh+)、好きな食べ物は水餃子。姓は伊東。髪型は黒髪のショートボブ、目は切れ長。顔立ちは派手ではないが他人よりは整っている…はず。友達はいなくはないが多くはない。わたしの中の『わたし』に対する情報はそんなかんじだ。もちろん、以上の情報は大して仲がよいわけではないクラスメイトでさえ知っていることが殆どである。わたしは『わたし』のことを駅ですれ違う赤の他人よりもよく知っているわけではない。でもそんなことは悩み多き女子高生にとっては当然のことではないのだろうかと開き直る『わたし』がいる一方で、自分の性格もやりたいことも好きな人もわからないでいる自分に焦りを感じている『わたし』もいる。ひどく回りくどく分かりづらい書き方になってしまったが、これがわたしの自己紹介だ。ひとことで簡潔に表現するのであれば“どこにでもいる女子高生”それがわたし。
わたしにとっての日常の舞台は九州の海沿いの町、主には片田舎の町で唯一の公立の普通高校である生徒数300人程度のこじんまりとした学校と、父と母と姉とわたしと飼い猫の4人と1匹で暮らすあと20年分のローンが残った、住宅街にたたずむ特徴も特にない一軒家である。朝、しぶしぶ起きて学校へ行き、寝ぼけ眼で授業を聞き流し、帰って寝る。その繰り返しがわたしの日常であった。
今から書くのはそんなわたしの日常が非日常へと変わった物語である。ひと夏とちょっとのまったく甘酸っぱくない青春の一ページというやつだ。