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ハッピーライフ  作者: 前向前進
第一章 「不登校の幼馴染み」編
7/9

第七話 弁当

「美咲、お前にいいものをやろう!」

 俺は美咲が休んでたときの分のノートを写しておいたのだ! これで美咲は授業に遅れはつくがどこまで授業が進んだのかわかるだろう。

 俺ってほんと気が利くな! 自分で言うのもあれだけどさ。

「あ、ありがと」

「へっ! 当然のことをしたまでさ」

 俺カッコイイ!

 今のセリフは中々のもんだと思う。どこかで聞いたようなセリフだけど。

 今日の一時限目はLHR(ロングホームルーム)だ。

 十月二十三日にある球技大会の各種目に出る人を決めるのだがさっと決まってしまい、残りは自由時間(うるさくなければお喋りOK!)になった。

 で、その時間を使って美咲の席までこそこそと移動してノートを手渡したのである。声も一応少し抑えながら出しているから大丈夫だ。決して大声で話してるわけじゃない!

 用も終わったので自分の席に戻ろうとこそこそ移動していたら腕を掴まれたので振り向くと武志がいた。

「ちょっとわからないところがあるから教えてくれないか?」

「ください、だろ?」

「はいはい。教えてください、務様」

「よし、教えてやろう!」

 武志も中々わかってるじゃないか。俺を乗せるのがうまいな! 今度から『口先の魔術師』と名乗るがよい。多分、ドン引きされると思うけど。いいざまだな!

「刑務所に行きたいならすぐに電話するぞ」

「それだけは勘弁!」

 また顔に出てたのか。今度から気をつけながら悪巧みを考えよう!

 そう決めたあとはすぐに武志に勉強を教え始めた。

 もはや教室内はガヤガヤと騒いでうるさくなっていたが、工藤先生は職員室に戻ってしまってここにはいないので誰一人として静かにしようとはしなかった。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「俺の弁当がない!」

 それは昼休み、俺がトイレに行っている間の出来事である。

 午前中の授業が終わったので弁当を机の上に置いてからトイレへ行ったのだが、トイレから戻ってきたときには机の上から俺の弁当が丸ごとなくなっていたのだ。

 このままでは空腹状態で午後を迎えなければならない。そんな状態で午後の授業を乗り越えられるかどうかと問われれば、即ムリと答えるだろう。

 この状態異常をどうにかするには、俺の弁当を探し出すか別の手段で腹を満たすしかない。

 幸いにも財布は持ってきている。お金も結構入っている。昨日は妹と一緒にラーメン食って九百円支払い、一万円からそれを引いた残りがそのまま入っている。

 この学校には食堂も購買部もある。購買部はすぐに商品がなくなるから今行ったところであまりものはないから必然的に食堂に行くしかない。

 しかし、じゃあ俺の弁当はどこに行った? となる。本当にどこにあるのだろうか? 目を閉じて考える。

 弁当の中身だけがなくなっているだけならまだ、まだ許せなくもない。だけど弁当箱ごとないってどういうこと? どんだけ俺の弁当食いたいのって思う。俺が作ったわけでもないのに。

 あとで弁当箱は返してくれるのだろうか。弁当箱の中身は返さなくてもいいから箱は返してくれ。中身は返されても困る。処理に困る。頼むから口から吐き出さないでほしい。

「……腹減った」

 腹がぐーぐーと鳴る。

 どんなことを考えようとも空腹時のお腹は満たされない。食欲は抑えられないのだ。ま、考えるのは飯食ってからでもいいか。

 そう思って足先を食堂へと向けた。

「務、どこ行くんだ?」

 武志がまた俺を止めてきた。

 もしかして、盗ったのこいつじゃないだろうな?

「なあ、俺の机に置いてあった弁当知らないか?」

「弁当? 知らないけど? まさか、なくなったのか?」

 ニヤニヤしながら武志は答える。

 おもいっきり殴りたくなった。こいつが犯人じゃなくてもいいから一回だけぶん殴らせてくれないか、と思った。

 そのくらいムカつく顔だった。

「トイレから戻ってきたときにはなかったんだよ。だから今日は食堂行こうと思ってな」

「ドンマイ。俺は詩織と一緒に弁当食うからついていけない」

 うっせぇ! 彼女持ちが彼女なしの前で自慢すんじゃねーよ! あと、誘ってもないのに断られたってどういうこと? 最初からお前なんか誘う気なんかねーから! チクショウ! いつか絶対泣かせてやる!

「おい、また犯罪者ヅラしてんぞ、お前」

「うっせ! 黙れ! お前は早く佐倉さんのところに行ってろ!」

 追い払うように言い放つ。

 早く佐倉さんのところに行きやがれ! 強い念を視線に込めながら武志を睨みつける。

 すると、武志はまたもやニヤニヤしながら口を開いた。

「あ、そういえばさっき、美咲がお前のことを探してたぞ? お前の弁当持って」

「それを先に言え!」

 知っていながら言わなかったな! コノヤロウ! いいだけ武志に遊ばれるとは情けない。ぜひ教会の前でやり直したいくらいだ、と思って美咲を探しに行く。

 どうせそこらへんウロウロしていると思うからすぐに見つかるだろ。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 美咲は食堂にいた。

 しかし、そこには美咲以外の人物もいた。存在感を消す天才、優也である。

 それを見て、なんとなく美咲が弁当を持っている理由がわかった。

 きっと美咲は優也になんかそそのかされたのだ!

 うん、美咲はなんにも悪くない。いたって善人である。優しさの権化である。俺の主観的な意見でしかないけど。

「よっ、お前もここで飯食うのか?」

「……なんで俺の弁当がここにあるんだ?」

「さあ? 俺は知らんけど?」

 どこ吹く風ってわけか。

 ああ、いいだろう。お前がその気なら俺だって考えがあるぞ。そんな大したもんでもないけど。

「ふーん、そうか。じゃあ、返してもらうかな」

 と弁当を持とうとすると美咲の手がそれを防いだ。

 なんだと!? まさか、美咲もグルなのか?

「あ、あのさ、久しぶりに学校来たんだし、一緒に食べない? 嫌ならいいけど……」

 グサッ! なんか知らんけど懺悔の気持ちがあふれてきたぞ!

 別に悪いことしたわけでもないのに悪事を働いてしまったような気分だ。

 これが優しさの権化、美咲の力か! くっ、これは勝てない。凡人には耐えられるようなものではないな。

「よし、一緒に食べようか! もちろん優也はあっちいけ!」

「言われなくても最初からそのつもりですけど?」

 優也は別の席に着いた。

 その席にはバスケ部の連中が。部活仲間同士で食べるらしい。

 あっ! あいつら、俺の方見て笑いやがった! くそがっ、やっぱり優也が犯人だったんじゃないか! 勝手に弁当持ち出すなよ! 持っていくならまずは俺の許可を得てからにしろってんだ。ほんと礼儀のなってない野郎だな。俺も礼儀はあまりなってないけどさ。

「あ、そうだ。美咲にいいものを買ってやろう! 登校祝いということで」

「あ、ありがとう。なんか今日は貰ってばかりでごめんね。今度必ずお返しはするから」

「いや、お礼にお返しも何もないだろ。じゃあ買ってくるから先に食うなよ?」

「食わないよ。すぐそこで買ってくるんだから」

 食ってるかどうかなんてすぐに確認できるからな。隠れて食えるわけがない。

 それに美咲から一緒に食おうって言っているのに先に食うはずがない。

 武志と優也だったら見えていようが関係なく先に食うけどな、俺は。もちろん、嫌がらせだ。

「どのプリンにしようかな……」

 この食堂ではプリンやゼリーも売っている。もちろん、手作りではないが結構人気である。

 勉強で頭を使ったら甘いものをとりたくなるものだ。

 夏場はキンキンに冷えているらしいからかなりの売れ筋の商品らしい。

 ここでは直で注文する。券での販売はない。

 ガラス張りになっている小さい冷蔵庫からプリンを選んで食堂のおばちゃんにお金を渡すと、おばちゃんは冷蔵庫から俺が指名したプリンを取り出し、小さいスプーンをつけて俺に渡した。

 もちろん、これは美咲に食べてもらうものだ。

 プリンを食べているときはスゲー幸せな顔するからな、美咲は。

「ほら、プリン。お前の大好物だろ?」

 美咲はプリンを受け取ると笑顔になったが俺の顔とプリンを交互に見て、恥ずかしそうに感謝の言葉を言ってくれた。

「ありがとう、務」

「なーに、俺たちの仲だろ? それに俺は美咲が学校に来てくれてスゲー嬉しいから。変な噂もあったけどさ、みんな、美咲のこと結構心配してたんだよ」

 武志だって優也だって心配していた。

 クラスメイトは当然ながら心配していたし、美咲は結構友好関係も広いから俺の知らない誰かも美咲のことを心配していたに違いない。

「ほんとにごめんね、心配かけて。今はもう大丈夫だから」

「そうそう。過去はどうであれ今が大事なんだから。健康には気をつけろよな、ほんと」

「わかってるよ。それより早く弁当食べよう。今日は久しぶりに学校来たから張り切って作ってきたんだ。私が食べ切れなかったら務が食べてよね、男の子なんだし」

「どうりで弁当箱が大きいと思ったよ……」

 結局、美咲は半分も食わないまま俺に渡してきて、デザート代わりに俺の買ったプリンを幸せそうに食べていた。

 この笑顔があるだけでプリンを買ったかいがあるもんだ、と心底思う。

 目の前にあるのは自分の弁当と美咲が残した弁当。

 食べ切れるかどうか不安だったが、久しぶりに食った美咲の弁当はとても美味しかったのですいすい口の中に入っていき、あっという間に平らげてしまった。

 自分の弁当も難なく口に入り、昼休みが終わる前には弁当は空っぽになっていた。

 午後の授業も頑張ろう、と美咲の元気な笑顔を見ながら思うのだった。

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