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ハッピーライフ  作者: 前向前進
第一章 「不登校の幼馴染み」編
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第一話 失恋

「おーい! 出てこーい! お前の大好きなプリンもあるぞー!」

 失恋したショックで不登校になってしまった幼馴染みを説得するため、彼女の大好きなプリンを買ってきたのだが、今日もドアの向こう側からは返事はなし。

 彼女が不登校になってまだ一週間ではあるが、これ以上学校に行かないでいると彼女の将来にも関わってくる。

『たかが一度の失恋くらいで人生を棒に振ってほしくない。この先もっといい人が見つかるかもしれないし、君を振った彼が、実はホモだったって事実もあるかもしれない(あくまでこれは噂ではあるのだが、俺の幼馴染みを振った男にはホモ疑惑が何ヶ月も前から立っていた)じゃないか。あまりくよくよしてないで学校に行こうぜ』

 そんな思いが彼女に伝わることもなく、彼女の両親に今日もだめだったともう定番となっている報告をして、幼馴染みの家を出た。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「で、昨日もだめだったと?」

 クラスメイト兼友人の武志にも昨日のことを報告した。

 俺の幼馴染みとその幼馴染みを振った男もこのクラスの住人であり、武志は不登校になってしまった美咲のことを心配そうな顔をしながら俺の話を聞いていた。

「ああ、もう本当にショックだったんだなーって悟ったよ。でも……そこまでこっぴどい振られ方されたわけじゃないのに、なんでそこまでショックを受けたのか不思議に思ったよ」

 俺が聞いた噂では、俺の幼馴染みである美咲はホモ疑惑のある夏木と一緒に帰る途中で彼に告白し、夏木がそれをただ断ったというものであった。

 振られたあとに夏木から何かされたわけでもなんでもないのは同じクラスメイトだからわかっていたが、陰で誰かに何かをやられたという噂も聞かない。

「そういえば友達から聞いた話なんだけど、夏木はガチのホモらしいぞ」

「今更それを聞いても何も驚かないんだが。噂で結構その情報聞くし、このクラスの男子は皆知っていることだろ?」

 体育の時間に制服からジャージに着替えるとき、あいつはクラスメイトの裸をまじまじと見ていた。女子の着替えを見ているならまだしも(いや、本当はよくないけども)男同士の着替えで興奮しているっぽいのだ、夏木は。

「いや、だから、そのホモ疑惑からホモ確実になった。夏木に好きなホモ相手がいるらしい」

「武志、ホモホモうるさい。お前もその気があるのか?」

「いや、俺は普通に女の子好きだけど? つうか俺は彼女持ちだし、ホモじゃねーよ」

 何それ、その発言の方が驚きなんだけど? え? 俺に内緒で彼女とイチャイチャしていたってわけ? ……やべっ、こいつのこと無性に殴りたくなってきた。

 裏切り者はここにいたぞ! と叫んでやりたい気持ちが溢れてくるが、今はそんなことよりもホモの好きな相手のことを知りたい。美咲にそれを話して、あいつは根っこからの男色野郎だったと美咲に思わせて、失恋のショックから立ち直らせてやりたいのだ、俺は。

「それで、そのホモ野郎夏木の好きな相手ってのは?」

「お前だよ」

「……冗談だよな?」

「言っておくが、今日は四月一日じゃねーからな」

 くっ! 先を読まれた!

「おいおい、俺は夏木に好かれるようなことした覚えなんかないぞ。それに俺はホモじゃない」

 実はクラスメイトにいる佐倉さんのことが好きなんだよ、俺は。今どき珍しいほどに天然ぶっているところが健気でかわいいんだよ。自称天然であることが周りにばれているのにそれでも自分は天然だ! と押し通している頑固さがほんとにかわいいんだよ。見た感じ胸も大きそうだし顔も悪くないから、是非にでも付き合いと思っているんだ、俺はね。

 ま、誰にも理解できない嗜好だけどな。

「お前、運動会のときにあいつと二人三脚したろ? そのときの密着度の高さで……」

「──ああああああっ! そんなバカなことがあり得るか! いや、あってはならん! ならんのだぞ!」

「とりあえず、餅つけ。あ、落ち着けだったな」

「これが落ち着いていられるか!」

 幼馴染みを励ますために夏木の嗜好がおかしいっていう情報を集めているだけだったのに、なぜガチホモに好かれている話になんだよ! ホモに好かれて得するのは一緒の嗜好しているやつと腐っているやつらだけだ! 一般人の俺には好かれて得することなど一つもない。損しかしない!

「──噂をすれば影が差す。夏木が来たぞ」

「!」

 慌てて逃げようと立ち上がるが、なぜかタイミングよくドアのところに夏木──いや、ガチホモがいた。

「おはよう」

「お、俺に近づくなよ?」

「?」

「おい、夏木が困ってんぞ」

 そんなこと知らん!

 ガチホモ説が確定された夏木を避けながら今日この日の学校を過ごそう、と決めた俺がそこにいた。


    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 何が原因なのかは知らないが、このまま学校を休んでいたら美咲は進級できないかもしれない。留年したら色々と大変だぞ。

 担任からそんな忠告を受けた放課後。俺と美咲が幼馴染みだということを知っていた担任の工藤先生は、美咲が学校に来れるかどうかはお前にかかっている、とある意味脅しともとれる期待を最後に言い渡され、俺は職員室を出た。

 それだけは勘弁してほしい俺はもう一度美咲の家を訪れようと心に誓っていたが、美咲が学校に来ない理由は今のところ失恋のショックとしか言えないので、それをどうにか立ち直らせようとは考えているものの、いかんせん佐倉さんに片思い中の俺には好きな相手に告白して振られたときの気持ちなどわかるわけがなかった。

「ねぇ、中谷くん」

「さ、佐倉さん! 俺に何かご用ですか?」

 自称天然女子! まさか、俺と一緒に帰るために待っていたのか!? いやいや、流石にそこまで妄想するのはよくないな、うん。

 いったいなんの用だろうか?

「夏木くんとできているってほんとなの?」

「全く違います! 俺は男に興味ありません! 普通に女の子が好きです!」

 俺はホモじゃない! というか、なぜ俺までホモ扱いになってんだ? ……は! まさか武志のやつか? ……いや、あいつはそんなことするはずはない、とは言い切れないな。あいつ、俺に黙って彼女作ってるし、抜け駆けしやがったやつのことなんか信用できないな。

「とにかく! 俺はホモじゃありませんから!」

「う、うん……やっぱり、武志くんの冗談かぁ」

「へ?」

 た、たた武志くん? なんで下の名前で呼んでるんだ? ま、まさか、まさかまさかまさか! いや、でも、そんなはずは……!

「佐倉さん、少しお尋ねしたいことがあるんですが……もしかして武志と付き合ってます?」

「えへへ」

 のろけた表情で佐倉さんは「実はそうなんだぁ」と答えた。

 実に不快だった。

 今すぐにでも武志を抹殺してやりたいと思っていると、佐倉さんは聞いてもいないのろけ話をし始めた。

 なんでも夏休み中にナンパされようと街に出かけた(理由がかわいい)ときに、運悪く危ない人たちに目をつけられたらしい。薄暗い路地裏に連れていかれそうになって、そのときに同じくナンパ目的でうろついていた武志に助けてもらってそれから武志のことを好きになったそうだ。

「武志くんといるとね、ほんとに胸がドキドキするんだぁ。一緒にいるだけなのにすごく嬉しいの。この人となら……きゃー! もうだめ! これ以上は人前で話せないよー!」

 俺が目の前にいるのに破廉恥な妄想をしたであろう元自称天然の佐倉さんは、顔を真っ赤にしながら頬に手を当てていた。

「あ、武志くんだ!」

 そう言って佐倉さんは愛する彼氏のもとへ走って行きました。途中でぱんつが見えるんじゃないのかっていうギリギリの絶対領域を見たとき、これを武志は毎日存分に見ることができるのかと思うと、自然に俺の膝は地についていた。

 悲しみを通り越して笑い声が溢れてきた。これが……失恋というやつなのか。

 もう、なんだか生きる気力がない……。美咲の気持ちがすごくわかった気がした。

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