赤いボタンの実験
●白一色の部屋
白い部屋で椅子に座る男。
男の前には机とモニターが置かれている。
そばには、スーツを着た女が立っている。
女の足元には、膨らんだバッグが置かれている。
女、クールな雰囲気で一礼する。
女「本日は当実験にご参加くださり、誠にありがとうございます」
男「高額報酬のバイトって聞いてるけど本当だよね? 詐欺だったりしない?」
男、足を組んで失礼な態度を取る。
女、すまし顔で応じる。
女「我々は誠実な運営を心がけております。報酬も実験の価値に合わせたものです」
女、片手の指をパーの形に開いて男に見せる。
女「最低でも五分で一万円……努力次第で一千万円を超えるかもしれません」
男「えっ、マジで!? やるやる! 一千万もらうよ!」
男、前のめりになって歓喜する。
女、涼しい微笑を浮かべる。
女「やる気になっていただけて何よりです。それでは実験のルールを説明いたします」
女、淡々と説明を行う。
女「五分間、椅子に座り続けてください。達成した時点で一万円を差し上げます」
男「……え? それだけ?」
男、拍子抜けする。
女、バッグから取り出した赤いボタンを机の上に置く。
女「こちらのボタンを押すと、追加で一万円差し上げます。回数に制限はございません」
男「えっ、じゃあ百回押したら百万円ってこと?」
女「左様でございます」
男「すげぇじゃん! だから一千万円を超えるって言ってたのか!」
男、目を輝かせてボタンを見つめる。
女、ちらりと男を一瞥して述べる。
女「ただし、ボタンにはデメリットもあります」
男「は? 何だよ」
女「ボタンを押すたびに、とある人間に身体的苦痛が与えられます」
モニターが起動し、椅子に拘束された老人が映し出される。
老人、慌てた様子で喚いている。
老人「ここはどこだ!? だ、誰かっ!!」
男「ボタンを押すたびに、こいつが罰を受けるわけか。俺に損ないじゃん」
男、納得して笑う。
女、意味深に笑う。
女、バッグから砂時計を取り出す。
女「準備はよろしいですか?」
男「おう! いつでも来い!」
男、ボタンに指を添えて頷く。
女「では実験を開始します」
女、砂時計をひっくり返しながら机に置く。
砂時計の砂が落ち始める。
男、赤いボタンを連打する。
男「うおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
モニターの老人の椅子に電流が流れ、老人が苦痛の声を上げる。
老人「ぎゃあああああああぁぁっ!!」
男「電流かよ! マジの拷問じゃねぇか!」
男、楽しそうに笑いながらボタンを連打し続ける。
やがて老人の足元から炎が上がり、老人は首を振って暴れる。
老人「あああああああ! 熱い! 熱いっ! 助けてぇっ!!」
男「はっはっは! 最高の実験じゃん!」
男、容赦なくボタンを連打する。
老人の悲鳴が響き渡る中、砂時計の砂が落ち切る。
女、冷静に通達する。
女「五分が経過しました。終了です」
男「さすがに手が疲れたな……」
男、手を振って苦笑する。
男、モニターを指差す。
満身創痍の老人はぐったりして動かない。
男「この爺さん、ボロボロだけど生きてんの?」
女「どうでしょうね」
男「まあいいや。そんなことより俺の報酬はいくらだ?」
男、期待を込めて問う。
女、微笑して答える。
女「おめでとうございます。総額一千十三万円です」
男「よっしゃあ! 最高のバイトじゃねぇか! もう一回やらせてくれ!」
男、ガッツポーズをした後、乗り気で頼む。
女、笑顔で頷く。
女「実験は何度でも受け付けます。しかし、その前に一回目の清算を行いましょう」
女、小さなリモコンのボタンを押す。
その瞬間、椅子に電流が走り、男が悲鳴を上げる。
男「うぎゃっ!?」
男、痙攣して動けなくなる。
女、その間に革製のベルトで男の手足を椅子に固定する。
男、なんとか声を振り絞る。
男「なに……すんだ……」
女「最初に言いましたよね。ボタンを押した分だけ、とある人間に身体的苦痛を与えると。とある人間とは、あなた自身のことです」
女、真顔で男を見つめながら答える。
男、驚愕して目を見開く。
男「はぁ……? 映像の爺さんは……?」
女「これは生成AIによるフェイク映像です。ボタンが押されると架空の人間が苦しむように設定しました」
男「騙したのか……っ!?」
女「心外ですね。とある人間がモニターの老人だとは一言も説明しておりませんが。誤解したのはあなたでしょう」
女、バッグからペンチや金槌、包丁、釘といった拷問道具を取り出し、机に並べていく。
男、涙を流して恐怖で震える。
女、真顔で瞬きせず、男を凝視しながら告げる。
女「あなたには、一千十二回分の身体的苦痛を味わっていただきます。準備はよろしいですね」
男「い……いやだ……」
女「では始めましょう」
女、砂時計をひっくり返す。




