表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

だって「火遊び程度」って言ったじゃないですか

作者: 遊佐
掲載日:2026/06/25

 どうも、聖女です。名はアリアと申します。三ヶ月前までは辺鄙な村によくいるタイプの村娘でした。ひょんなことから聖女として覚醒したらしく、あれよあれよという間に王都に連れて行かれて、気づけば聖女認定されて今ここにいます。


 ひょんなこと、とはまぁよくある話で母親が病気で命の危機に陥りまして。お母さん死なないで……!と祈ったら聖なる光に包まれて母の病気は綺麗さっぱり治ったという話。聖なる力に目覚めた者の大半はこの手の自分か他者の命の危機に覚醒するそうなのでありふれた話です。


 ちなみに私は聖女ですが男性の場合は聖人と呼ばれます。これは通称で、正式には『女神の御使い』と言うそうです。御使い様と呼ばれることもありますが、大体は聖女、聖人と呼ばれています。


 そして基本的には聖女も聖人も高位貴族を中心に目覚めるそうですが、先程言ったとおりに私は辺鄙なド田舎の村出身の由緒正しい平民です。時折平民から聖なる力に目覚める者もいるそうですが、未だに理由はわからないとのこと。庶子だとか遠い先祖に貴族がいたとか色々言われてはいますが、我が家の両親は共に同じ村で生まれ育って高位どころか貴族自体と顔を合わせたこともないような平民オブ平民同士。ご先祖様は知らないけれど貴族の落し胤など入る要素がありません。領主様すら滅多なことでは立ち寄らない何もない村ですし。


 あ、だからといって別にあの村が見放されてるわけではないし、領主様は領民のために動いてくれるとても立派な方です。ただ村が辺鄙すぎて来るのが大変すぎるというだけです。ちょっと山と谷に囲まれていて、出てくる魔物が王国内で比較しても強すぎるというだけです。魔物の強さを聞いて力試しに来る冒険者が来ては村に住み始め、じわじわ人口が増えて村は少しずつ広がってるのですが、何故か出ていく者は少ないんですよね。村の暮らしに慣れていたら都会で暮らすのが怖いというのもありますが。年に一、二度来る行商人の話す都会の話が魔物より怖いなんてそんなことはない……とは言い切れないですけど。




 さて、ここからはそんな辺鄙な村で育って聖なる力に目覚めてしまった私が王都でちょーーーっとやらかした、そんな話です。






「聖女アリア、私が君のような平民を妃に娶らなければいけない不幸な王族だと理解しているのか?」


 目の前で腕を組みながら不満を隠そうともしないのは第二王子殿下。王都に連れてこられて聖力検査をした結果、どうやら私の聖力は在籍する聖女、聖人の中で最も強いということが判明。歴代の筆頭と呼ばれた方々と並ぶ聖力だったそうで、その結果が婚約者のいなかった第二王子との婚約(強制)でした。筆頭に選ばれると聖女は男性王族と婚約するのが決まりだそうです。聖人は高位貴族令嬢と縁を結ぶとのこと。


 婚約とはいえ聖女と王族の結婚は通常の婚約とは違い聖婚と呼ばれるもので、基本的には正妃には別の方が選ばれます。側妃的な立ち位置の聖妃として聖女を迎えるので私も聖妃としての婚約です。


 聖婚をした聖妃は必ず子を産まなければいけなくて、しかもなるべく多く子を産むことを求められます。その子は継嗣とはならずに聖力が目覚める可能性のみを重要視されます。聖力に目覚めるのはだいたい十五歳前後と言われているので、その辺りで聖力に目覚めれば御使いとして、目覚めなければ継承権のない子として扱われます。なお、聖妃の子は王族傍系か高位貴族と縁組するそうです。そして継嗣は正妃との間に生まれた子になります。なんとも人権を無視したものですね。


 筆頭聖人も同様で、聖婚で迎えた奥方と必ず子を成さなければいけないそうです。しかし聖人に当主権限は与えられないので、運良く年回りのいいご令嬢がいない場合は年齢差がある聖婚になるとか。子を産める適齢期もあるのであまり年齢が上の方を奥方に迎えることはないのだそうです。そしてこちらもなるべく多くの子を成すのを求められるので、聖妃の方もそうですけど基本的に女性の負担は考えられていないのでしょう。


ちなみに私も十五歳で聖なる力に目覚めました。御使いの聖力感知で目覚めた者がいるとはわかっていたけど王都の神殿から迎えが来るのにだいぶ時間がかかったので今は十六歳になりましたが。




「……私と殿下の婚約は聖婚約ですので正妃には別の方が選ばれると聞いております」

「はっ、さすが辺鄙な村の平民だ。お前は何もわかっていない」

「と、言いますと……」

「たとえこれが聖婚だろうとだ。お前のように芋臭く抱く気にもなれないような女となるべく多く子を成せと言われる私の気持ちがわかるか?種馬扱いだけでも腹が立つというのに相手がお前だ。肌は荒れ髪も荒れ、女性らしい柔らかな身体も持たない。その気になれなど不可能に決まってるだろう!」



 ダンッとテーブルを叩いて声を荒らげる殿下は憎々しげに睨みつけてくる。そんな事言われても困ります。生まれたときから蝶よ花よと少しでも有力な家に嫁ぐために育てられたご令嬢と一緒にしないでいただきたい。こちとら野山を駆け回り雑魚魔物を狩って畑を耕して育ってきました。日にも焼けるし筋肉もそれなり。そばかすだってあるし髪もパサついてるのは否めません。悪かったな、もやし殿下。


 だいたい自分ばっかり不幸な顔もしないでいただきたいものです。急に王都に連れてこられて能力が高いからとこちらの声も聞かずに婚約者として決めたのは王家と神殿です。私が望んだわけじゃありません。ご自分だけが悲劇の主人公のように振る舞わないでいただきたい。顔だけのもやしっ子め。


 歴代の中でも聖婚を結んだ王族はもちろんいました。この国は男児継承なので年回りのちょうどいい王子がいればそこに。そうでなければ既婚の王族の聖妃に据えるのだとか。円満なご家庭に突如ぶち込まれる種馬命令ですよ。聖女に対してもお相手に対しても何考えてるんですかね、この国。おっと、口が滑りました。淑女教育淑女教育(いけないいけない)




「しかし非常に不服だが陛下からの王命だ。受けぬ訳にはいかない」

「……そう、ですね」

「お前が成人するまで、つまり聖婚までは三年ある。お前はそれまでに私が抱きたく、いや、抱けるような身体になれ」

「は……?」

「顔は隠せばいい。だがせめて身体くらいは今からならどうにかできるだろう。髪も肌も手入れをしてマッサージも施せば少しは見られるようになるはずだ。そうでなければ無理だ」

「なにを……?」

「胸も育てろ。そんな筋肉だか背中だかわからんような膨らみでは萎える。コルセットなしでも谷間ができるように努力しろ」



 これ以上の名案はないと言い切った馬鹿は更に馬鹿を上乗せしてくる。



「それまで私は自由にさせてもらう」

「はぁ……?」

「まったく、平民は察しも悪いな。三年の間にお前が私の望む最低ラインに到達しない限り聖婚を果たしてもお前を抱くことはない。子を成せぬのはお前の責と思え」

「……つまり私には自分磨きをさせて自分は遊び倒すということで?」

「遊び倒す?違うな、お前が私に相応しくなるまで待ってやると言ってるんだ。その間くらい自由にするのは当然の権利だろう」




 堂々と言うことではない。何を言ってるんだこいつは。いけない、こいつなんて呼んでしまった。いやでもこいつたしか私より歳上でもう十八歳よね?それでこれ?常識どこに置いてきた?それともこれが王族の常識?やっだー非常識!


 なんて、お口が悪くなっても仕方ないだろう。こっちは生まれて十六年、おキレイな言葉使いなんて縁遠い生活だったんだ。メッキもハゲるってもんだ。





 それにしたって……ふっざけんなバーーーーカ!なんであんたの好みにならんといかんのだ!こっちだってもやしみたいなヒョロガリはお呼びじゃないっつーの!腕を丸太にしてから出直せ!!婚約中は浮気します遊びますって堂々と言ってくるような考えなしの子供を産むどころか触られるのもお断りだわ!



 言ってやりたい。不敬とかそういうの全部放り投げて言ってやりたい。だがしかし腐ってもコレは王族……ドブに投げ捨ててヘドロに顔面沈めてやりたいが王族……!





「……そこまで仰るのであればどうぞこの婚約を白紙にしてください」

「お前は馬鹿か?王命で決まったのだぞ?それともお前は成婚したばかりの王太子夫妻に割り込むつもりか?」

「そういうわけでは……ですが王族との間に子を成すいうのであれば殿下以外に私を娶っても構わないという方もいらっしゃるかも」

「そうしてお前は一つの家族に不和をもたらすのか。聖女様はご立派な趣味をお持ちのようだ」

「そうではなく……!」

「卑しいのは身分だけではなく性根もだとはな。あぁ恐ろしい。これでは他に癒やしを求めても仕方あるまい」




 人の!話を!聞け!



 かなり前に奥方を亡くされた王兄殿下とかいるだろ!陛下より年上とはいえまだいけるだろ!陛下が未だお盛んなんだからいけるだろ!陛下?そちらはいいです。大丈夫です結構です。寝所に妃以外を複数お招きしてるとのことですし見た目も好みじゃありません。いっけなーい、不敬不敬。浮気野郎全員くたばれ!







 と、まぁ……そんなやりとりから二年半経ちましたが私と殿下の仲など深まることなどあるわけもなく。殿下と他のご令嬢との仲ならあちらこちらと深くなり。



 婚約中に距離を縮めるための茶会はあっても何やかんやと文句をぐちぐちと言われて開始早々即終了。紅茶早飲みタイムアタックです。いつしか殿下はいつも違うご令嬢を伴っての茶会になり。婚約者同士の茶会に彼女連れって……やっだー非常識極まれり!ちなみに彼女連れの時はタイムアタックは行われず、ひたすら私を下げて下げて二人の時間をお楽しみです。膝の上に乗せられて飲む紅茶の不安定感って見てる方がハラハラするものだと知りました。



 それに誕生日などの贈り物?頂いたことはないですね。贈らないと文句がすごいのでこちらは当たり障りないものを贈りましたけど。礼状?それも贈られたことはないですね。婚約者に対する費用とか何処に消えてるんですかね?野花の一本も貰ったことのない私に使われてないのだけはわかりますが。





 王家に嫁ぐとはいえ聖婚なので、必要なのは王族のしきたりではなく聖女としての礼儀作法と高位貴族の一般的な淑女教育。なので王子妃教育はなくて済んだと思ってたんですけど、王子から直々に寄越されたのが磨き隊です。美しく見える立ち振舞いだとかスタイルを矯正するトレーニングだとか殿方を喜ばせる振る舞いだとか……私は聖女ではなく性女とでも呼ばれるようになるのかと不安になりました。

 唯一気持ちよかったのは王家の侍女秘伝のとんでもない技術のマッサージでした。強くもなく弱くもない手指の緩急を繰り出す、あれはきっと香油の御使いです。……チキンに香辛料を刷り込んで焼く料理を思い出しましたが……自分が鶏肉になる気分ってあんな感じなんですね。



 その甲斐あってか今や肌も髪もうるつやです。高位貴族の聖女にも引けを取らないくらいにつやつやです。殿方を喜ばせる云々は……ちょっと私とは縁遠いものだったようです。筋肉も落ちましたね……胸?コルセットなしで谷間なんてできるわけがないでしょうが。何を言ってるんだ。現実を知らないなら幻想とともに死ね。








 それでも、これだけ上手くいってない婚約者同士とはいえですよ。


 でもねぇ、さすがにねぇ。




 愛想だけでなく種まであちこちに蒔かれたら話は変わってくると思うんですよ。






 初めは噂程度でした。ご令嬢をとっかえひっかえしてはいるけれど一線は越えていなかったはずで。ですが気づけばどこそこの令嬢と夜会で消えたとか、女性の使用人が髪や服を乱して殿下の私室から泣きながら出てきたとか、果てはお気に入りの娼館に空いた時間は入り浸っているとか。



 健全な若い男性ですからとも思いました。えぇ、思いましたよ。ほんの少しは。


 ですが未婚の令嬢の純血を散らし、使用人を好きに扱い、娼婦に入れ込んでいるのが腐っても婚約者を持つ男だというのです。しかも自分が婚約者。愛も情もありはしませんが、さすがにこれはどうかと思うのです。私だって好き好んで嫁ぐわけでもないのに。聖女のお勤めと淑女教育と鶏肉気分を味わって、好きでもない信用もない信頼もない男に嫁ぐというのに。その上絶対に子を産まなければいけないのに。





 はああああぁぁぁ?まじ最悪なんですけど!?


 なんであんな動物よりも節操ない下半身ゆるゆるクソ野郎と結婚しなきゃいけないわけ?女神様の思し召し?ふっざけんのもいい加減にしろっての!大体そんなにあっちこっちで尻尾どころか腰振ってるような奴、病気が怖くて触られるのもほんっっっっっとに無理!婚約が決まった時よりも更に無理感強すぎて無理無理の無理!!!




 それとなく殿下の侍従やら神殿の偉い人経由で王家の方にもどうにかしろと何度も何度も伝えましたよ?そしたらなんて言われたと思います?



「婚約中の火遊び程度は多めに見てやってくれ」


 ですって!火遊び程度!ですって!!!蒔いた種が全部芽吹いたらとんでもない大家族爆誕なのに火遊びですって!大火事だっつーの!大家族特集組めるっつーの!!




 うん、もう無理だな。自分だけが無理やり婚約を押し付けられたと思ってる悲劇の主人公も無理だし下半身ゆるゆるの猿も無理。あ、猿に失礼でした。ごめん、猿。おまけに見た目もヒョロガリで無理。都会の男は建築系とか運送系の力仕事に就いてる人以外みんな折れそうな腕だけどあのヒョロガリはもう何もかも無理!


 というわけで。




 私も『婚約中の火遊び』は許されるんですよね?








──────────



 悲鳴が上がる。


 王城が燃えているから。


 悲鳴が上がる。


 王子が燃えているから。


 悲鳴が上がる。


 国王も燃えているから。





 王城は火に包まれました。国王と第二王子も火に包まれました。股間が。







「なん、なんだこれ!熱、燃え、誰かこれを消せぇ!!」

「余の股が、燃えて、だ、誰か!」

「消えません!!これは普通の火ではありません!」

「そうですよ、っていうか熱くはないでしょうに。落ち着いたらいかがです?」




 カツンと靴音を鳴らしながら現れた聖女に周囲の視線が集まる。今夜は聖婚式の日取りが発表される予定の夜会だった。


 御使いの正装である純白のローブをまとい、まるで白百合のような清廉さで燃える二人へと歩を進める。目の前では王族の股間が燃えるという非常事態が起きているのに、まるで神殿で祈りを捧げるかのように静かに、穏やかに。




「皆様が仰ったのですよ?」




 カツン。


 低いヒールが床を鳴らす。その小さな音すら響くほどに場は静まり返っていた。城も、股間も燃えているのに。





「婚約中の火遊び程度、と」



 静かに、だが誰も言葉を発せないような重さを持った言葉が響く。




「ですから私も火遊びをしましたの」



 にんまりと、淑女教育では決して許されない笑みを浮かべて。





「聖なる炎で、ね」








 聖なる力とは聖なる炎である。熱を持たない炎は悪しきもののみを焼き清める。


 だから私の母は病の原因を聖なる炎で焼き尽くしたことで回復した。私には母が光に包まれたように見えたが実際は炎だった。御使いは聖なる炎で悪しきものを焼き清める。病巣を焼き、怪我を焼き、呪いを焼き、瘴気を焼き、清める。女神様の与え給うた聖なる炎で。女神様が悪しきものと判断されたものを。




「聖なる炎は悪しきもののみを焼くのです。つまり今燃えているのは悪しきものということ……あら?大事なところが燃えてらっしゃいますね?陛下と殿下のそちらは女神様が悪しきものと判断されたのですね」



 くすくすと小さく笑いながら会場を見渡せば、あら、まぁ。お二方ほどではなくとも小さく火の灯った方がちらほらと。そもそも王城自体が燃えているということは国も王家も女神様判定の悪しきものなのでしょうかね。





「聖女アリア…貴様……早くこれを消せ!」

「陛下、残念ながら一度燃え始めたものは女神様が『清められた』と判断されるまで消えません」

「私と父上の、こ、股間が、悪しきもののわけがないだろうが!!」

「嫌ですわ、殿下。この会場でも燃えてる方と燃えてない方がいるのです。そういうこと、です。現に王太子殿下も宰相閣下も燃えておりませんよ。あら、財務部長様と殿下の侍女は……あらあら、そういえばお噂がありましたね」

「……不貞だとでもいうのか!そんなわけがあるか!これはただのお前の嫌がらせだ!!」

「嫌がらせ程度に女神様はお力をお貸しくださらないのはご存知でしょう?」




 こてん、と首を傾げながら言えばこれぞぐぬぬ……という顔で言葉を飲み込む。ざっまぁ。女神様の悪しきもの判定に引っかかっただけだ馬鹿共め。






「あぁ、それからこちらも燃えているので悪しきもののようですね」



 ローブの内側から婚約証明証を取り出せばそれもまた私の手の中でメラメラと燃えている。今頃王家で保管している方も燃えていることだろう。


 婚約証明証が聖なる炎によって燃えて消える。それはつまり女神様がこの婚約を悪しきものとして認めないということ。女神様に認められない婚約は決して結ばれることはない。これで晴れて白紙撤回だ。やっほぅ。





「さて、皆様何故このようなことになったのかとお思いのことでしょう。実のところ私もここまで女神様にしていただけるとは思っていなかったのです」



 窓も壁も床も燃えている中でバルコニーの近くまで移動して扉を開ける。風に煽られたところで聖なる炎は揺らぎもしない。


 紛れもない女神様の御力を前に黙るしかない面々を見ながら立ち位置を調整する。ここなら王家も招待客も正面から見渡せる。



「先日、女神様から神託を受けたのです。御使いの血を継がないのに聖なる力に目覚める者について」





 下半身ゆるゆるクソ野郎にブチギレた後、日課のお祈り中に女神様のお声を聞いた。私の我慢の限界だったからか、それとも女神様の我慢の限界だったのか。女神様は教えてくださった。何故御使いの血統ではない者が聖なる力に目覚めるのかを。


 曰く、継がれた血では清められない悪しきものを焼くために女神様直々に選ぶ者がいるのだと。あまりにも目に余る状況を清めるために、女神様の愛し子として。



 そうして選ばれた愛し子が私、アリアだったのだと。




「女神様は言いました。『貴女のまわりを取り巻く悪しきものを焼き清めなさい。私の思いは貴女の思い。貴女が不快と思うものは私が悪しきものと思うもの。私が悪しきものと思うものは貴女が不快と思うもの』と。それが今夜のこの現状です。不貞を繰り返す者も、それ故に患う者も、御使いの血を繋ぐのだと無理を押し通す国も、燃える炎のすべてが女神様の思し召しです」




 敬虔な聖職者らしく胸の前で手を組み、女神様のお言葉を伝えると青ざめる者や土気色になる者があちらこちらで見えた。最初から思っていたのだ。種馬とされる聖人、子を産むことを強制される聖女、そのために聖婚を結ばされる家庭。たとえ王侯貴族とはいえ、円満な家庭に突然子供を作れと放り込まれるのだ。そんなもの不和しか生まない。どちらに対しても人権を無視している。



 だからそのすべてを不快だと思った。辺鄙な村でひっそり生きてきたのに突然こんなことになったのも本当は女神様に対してだって腹立たしい。だけど女神様が私を選んでくれたおかげで母の命は失われずに済んだからそこは受け入れる。神殿でのお勤めも別に苦行ではないし神殿の人たちはいい人だったから受け入れられる。だけどその後の聖婚関係は全然受け入れられない。聖婚の全てが不快だった。




 だって私は生まれながらの貴族じゃないから。結婚って政略とかじゃなくて好きな人とするものだと思っていたから。なのに政略どころの話じゃない、種馬とか子を産むだけの扱いをされる結婚しか認められないなんて絶対嫌だった。ただの平民の、十六歳の女の子の私は、そんな結婚絶対に嫌だった。自分の両親のような、お隣のおじいちゃんとおばあちゃんのような、しわしわになっても手を繋ぐような幸せな結婚にずっと憧れてたから。






「今燃えている聖なる炎はその悪しきものが清められれば消えるでしょう。私と殿下の聖婚約も女神様がお認めになりませんでした。女神様のお言葉も皆様にお伝えしました。これで私のお役目は終わりと見てよろしいですね?そうですね?ありがとうございます。それでは皆様、失礼いたします」




 誰の返事も聞かないままに淑女教育で教えられたカーテシーをしてバルコニーから外へ出る。このバルコニーに庭園に続く階段があるのを知っての立ち位置だった。っていうかカーテシーって本当に足プルップルになるから嫌いだわ。貴族令嬢の下半身の筋肉って実はすごくない?



 さて、ここからは自由にさせてもらう。神殿には良くしてもらったけど、別に王都の神殿にいなければいけない理由は実はないのだし。ある程度聖なる力の使い方や御使いとしての心得などを学んだら望む地の神殿に居ていいのだ。筆頭は王都神殿に、というのは聖婚というクソ制度のせいで決まっていただけで本来はそんな決まりはない。大体御使いは貴族出身がほとんどだから結婚相手も貴族、というだけで平民と結婚してはいけないという決まりもない。なので私はこのまま辺鄙なド田舎の村へと帰ると決めている。神殿には置き手紙を残してきたし、村までの護衛も冒険者ギルドに手配済み。その辺は抜かりないのだ。えっへん。




 とりあえず帰ったら村に神殿を建てる予定。きちんと筆頭聖女としての給金を貰っていたから小さな神殿くらいは建てられるだろう。そもそも祈りの場と女神像があれば神殿として機能するから豪華である必要はない。一応女神様の愛し子だし、御使いとしてのお勤めはちゃんとするつもり。


 瘴気が吹き出る大型魔物の巣窟の谷と、翼竜の巣をいくつも抱える山に囲まれて、うっかり討伐をサボるとスタンピードが起きて、腕も脚も丸太のような屈強な男たちと、それを尻に敷く強い女たちがたくさんいる。そんな辺鄙なド田舎の村に、女神様の愛し子の筆頭聖女なんてぴったりだと思う。



 村までは距離だけなら王都から馬車でも十日程。距離だけなら、だけど。ただし村に近づくにつれて魔物は多く、強くなる。そんな中で村に近くなるにつれて宿場もなくなるので野営が増える。危険な道程だから十日の倍くらいかと考えるなら砂糖を煮詰めて蜂蜜をかけるよりも甘い。運が悪ければ村に辿り着く前に天に召されるような道のりだ。だからこそ村に来る行商人は貴重な魔物素材を買い取るために屈強な冒険者集団を護衛にして来る。そして力試しをして居残りたがる者がしばしば。


 そんな地だから王都から私の迎えが来るのに時間がかかったのだ。途中で一度帰って騎士団を編成して戻って来たんだっけ。騎士自体見ることもないのにボロボロな騎士団って結構びっくりした。帰省の護衛は村に来る行商人のお供をしてる人たちにお願いしたから慣れてるし多分大丈夫。聖女もいるし魔物対策もどんとこい。



 私を連れ戻したければ来ればいい。ただし、安全は保証しないけど。





 私が辺鄙なド田舎の村に帰り着いた頃に、ようやく王都での私の火遊びが落ち着いたらしいっていうのは翌年来た行商人から聞いた話。あれから二ヶ月も股間燃えてたんだ。超ウケる。




夏は股間が~のCMきっかけで出来ました。

アリアは顔より筋肉が大事。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人外魔境の手前にある辺鄙な村……が普通なわけ無いよね♪こう云う所にこそ筆頭聖女が必要ですよ(笑) 女神様、よっぽど腹に据えかねてたのですね。一応残っている方が居るから、国の方は無事でしょうけど……自…
王家丸ごと種を残す価値無しと思われなくて良かったね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ