聖女を選ぶと言われ婚約破棄されましたが、王国の呪いを引き受けていたのは私なので、もう知りません
「ミレーヌ・ヴァルトリス。僕は君との婚約を破棄する」
王宮の大広間に、王太子セドリックの声が響いた。
夜会の音楽が止まる。
銀の燭台に揺れていた炎まで、息をひそめたようだった。
貴族たちの視線が、一斉に私へ向く。
公爵令嬢ミレーヌ・ヴァルトリス。
王太子の婚約者。
そして、誰も知らないところで、この王国の呪いを一身に引き受けていた女。
私は手にしていた扇を閉じた。
「理由を伺ってもよろしいでしょうか、殿下」
声は震えなかった。
自分でも驚くほど、静かだった。
セドリックは胸を張り、私ではなく、隣に立つ少女の手を取った。
白い神官服。
柔らかな金髪。
涙を浮かべた、守られることに慣れた顔。
聖女ノエリア。
半年前、大神殿が見出したという癒やしの乙女。
「僕は真実の愛を見つけた。ノエリアこそ、僕の隣にふさわしい女性だ」
「殿下……」
ノエリアは頬を染め、セドリックの腕に寄り添った。
広間のあちこちから、ため息が漏れる。
祝福するようなもの。
面白がるようなもの。
私を憐れむようなもの。
セドリックはさらに声を張った。
「君は冷たい。いつも感情を見せず、王妃教育ばかりを優先し、僕に愛情を示そうともしなかった。だがノエリアは違う。彼女は僕を心から案じ、王国のために祈ってくれる」
冷たい。
感情を見せない。
愛情を示さない。
その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ痛んだ。
夜ごと呪いを飲み込み、眠れぬまま朝を迎えても、私は王太子妃になる者として笑わなければならなかった。
セドリックが狩猟会で怪我をした夜、彼の傷に流れ込もうとした黒い呪詛を、私が喉の奥で飲み込んだ。
王都に疫病の兆しが出た時、井戸に滲んだ穢れを、ヴァルトリス家の地下祭壇へ移した。
王家の祝宴で酒が腐らず、畑が枯れず、王族が悪夢に狂わなかったのは、聖女の祈りではない。
私の血と眠りと寿命を削った結果だった。
けれど、それを私は口にできなかった。
王家とヴァルトリス家の契約は秘匿されている。
王国の平穏は、王家の威光と神殿の祈りによって保たれていることになっている。
呪いなど、存在しない。
存在してはならない。
だから私は、ただ静かに頭を下げた。
「承知いたしました」
セドリックの眉が動いた。
「……随分あっさりしているな」
「殿下がお決めになったことですので」
「悔しくないのか?」
悔しいか。
その問いに、私は少しだけ考えた。
悔しい。
悲しい。
腹立たしい。
馬鹿らしい。
けれど、それ以上に。
ああ、もう終わっていいのだと思った。
十歳の誕生日、母は私に言った。
『ミレーヌ。王家を恨んではいけません。これはヴァルトリス家の役目です』
十三歳の冬、初めて呪いを引き受けた夜、私は血を吐きながら父に尋ねた。
『なぜ、私なのですか』
父は答えなかった。
ただ、王国のためだ、と言った。
十五歳でセドリックと婚約した。
それから五年間、私は王太子妃になるためではなく、王国を壊さないために生きてきた。
その結果が、これ。
真実の愛。
聖女。
冷たい婚約者。
笑ってしまいそうだった。
「殿下」
私はゆっくりと顔を上げた。
「婚約破棄は、国王陛下と王妃陛下もご承知なのでしょうか」
「無論、これから承認していただく。父上も母上も、聖女を無下にはできない」
つまり、まだ承認されていない。
ただの独断。
貴族たちがざわめいた。
だがセドリックは気づいていない。
彼は勝利に酔っていた。
「僕との婚約も、なかったことにしてやる。君はもう、王家に縛られなくていい」
その瞬間。
私の胸元に下げていた黒真珠の首飾りが、かすかに軋んだ。
王家とヴァルトリス家を結ぶ契約石。
王太子本人が、王家との縁を断つ言葉を公衆の面前で口にした。
なかったことにしてやる。
その言葉で、契約の片側が緩んだ。
私の中で、何かが外れる音がした。
重い鎖。
喉の奥に詰まっていた冷たい石。
肺の裏側に張り付いていた黒い影。
それらが、少しずつ私から離れていく。
「……そうですか」
私は、初めて微笑んだ。
「では、殿下のお言葉通りにいたします」
セドリックは満足げに頷いた。
ノエリアは勝ち誇ったように私を見た。
私は扇を胸元に当て、最後に一礼した。
「セドリック殿下。どうぞ、聖女様とお幸せに」
そして心の中で、静かに告げた。
王国の呪い。
もう、私のものではありません。
◇
異変は、その夜から始まった。
まず、王宮の白薔薇が黒く枯れた。
次に、王太子の寝室の鏡に、知らない女の泣き顔が映った。
夜明け前には、王都中央の噴水が赤黒く濁り、魚が腹を見せて浮かんだ。
それでも王宮は、最初ただの不吉な偶然として処理しようとした。
だが翌日。
国王陛下が玉座の間で倒れた。
王妃陛下は片目が見えなくなり、王太子セドリックは高熱にうなされ、何度も「黒い手が喉を絞める」と叫んだという。
大神殿はすぐに聖女ノエリアを呼んだ。
彼女は白い祭服に身を包み、王宮の大祭壇で祈った。
「慈悲深き光よ、王国を覆う闇を払い給え」
清らかな声。
美しい祈り。
神官たちは涙を流し、貴族たちは手を組んだ。
しかし、祭壇の上の聖水は黒く染まった。
ノエリアの足元から、黒い蔦のような影が這い上がる。
「いやっ……!」
彼女は悲鳴を上げた。
祈りは途切れた。
黒い影は、彼女の白い袖に触れた瞬間、焼け焦げたような跡を残した。
癒やしの聖女。
民の傷を治し、花を咲かせ、小鳥を手に止まらせる少女。
けれど、王国の呪いは癒やしでは祓えない。
それは建国の時代から積もったもの。
王家が踏みつけた死者。
奪われた土地。
裏切られた盟約。
殺された竜の怨嗟。
王冠を戴く者の血筋に絡みつき、国そのものを腐らせる黒い負債。
それを代々、ヴァルトリス家の娘たちが受け止めてきた。
王家の婚約者として。
王妃になる者として。
国母という美しい名の下に、呪いの器として。
でも、もう私はそこにいない。
王太子が自ら、私を王家から切り離した。
だから呪いは、本来の持ち主へ戻っただけ。
◇
「ミレーヌ! どういうことだ!」
三日後、ヴァルトリス公爵邸に王宮からの使者が来た。
使者ではない。
セドリック本人だった。
顔色は悪く、目の下には黒い隈があり、金髪は乱れていた。
数日前まで夜会の中心で輝いていた王太子とは思えない姿だった。
隣にはノエリアもいた。
彼女は白い手袋をはめていたが、その手首には黒い痣が覗いている。
私は応接室で二人を迎えた。
「ご機嫌よう、セドリック殿下。ノエリア様」
「ご機嫌ようではない! 王宮で何が起きているか、君は知っているのか!」
「噂程度には」
「なら、なぜ平然としていられる!」
セドリックは机を叩いた。
昔なら、私はその怒声だけで謝罪していた。
王太子を刺激してはならない。
王家の機嫌を損ねてはならない。
呪いが暴れれば困るのは民なのだから。
そう言い聞かせてきた。
けれど今は、もう違う。
「殿下。私は婚約を破棄された身です。王宮の問題に口を出す権利はございません」
「君は何か知っているはずだ!」
「どうしてそう思われるのですか」
「君がいなくなった途端におかしくなった! それ以外に理由があるか!」
ああ。
そこまでは分かるのだ。
けれど、なぜなのかを知ろうとはしなかった。
私は静かに紅茶へ口をつけた。
「殿下は、私を冷たいとおっしゃいました」
「今はそんな話をしている場合ではない!」
「いいえ。大切な話です」
私はカップを置いた。
「私は、殿下が狩猟会で負った傷の呪詛を引き受けました。王都の井戸に滲んだ穢れを、三晩かけて自分の体に移しました。王妃陛下が眠れぬ夜に見ていた悪夢を、代わりに見続けました。国王陛下の戴冠記念祭の前夜、王冠に絡んだ黒い怨嗟を飲み込み、声が出なくなったこともあります」
セドリックの顔から血の気が引いた。
ノエリアが小さく息を呑む。
「何を……言っている」
「王国には呪いがあります。王家はそれを知っています。大神殿も、上層部は知っているでしょう。そしてヴァルトリス家は代々、その呪いを引き受ける役目を負ってきました」
「嘘だ」
「嘘だと思われるなら、国王陛下にお尋ねください」
「父上が、そんなことを僕に隠すはずがない」
「隠します。殿下が、王冠の重さを知ろうとしなかったから」
セドリックは言葉に詰まった。
その隣で、ノエリアが震える声を出した。
「で、でも……私は聖女です。私が祈れば、きっと……」
「ノエリア様の祈りは、人を癒やすものなのでしょう。それは尊い力です」
私は彼女を見た。
「ですが、王国の呪いは怪我ではありません。傷口に薬を塗れば済むものではないのです」
「そんな……」
「そして、その役目を引き受けるには、王家との正式な契約が必要です。血の契約、王冠の契約、国土の契約。そのすべてを理解した上で、長い年月をかけて器を作らなければなりません」
ノエリアの肩が震えた。
彼女は何も知らなかったのだろう。
聖女と呼ばれ、祈れば褒められ、王太子に愛され、自分は国を救えるのだと信じていた。
その無知は罪か。
少なくとも、私にとっては救いではなかった。
「ミレーヌ」
セドリックの声が変わった。
怒りではない。
焦り。
恐怖。
そして、都合のいい期待。
「なら、戻ってくれ」
私は黙って彼を見た。
「婚約破棄は撤回する。君を正妃にしてもいい。ノエリアは……側妃にすればいい。だから、もう一度王宮へ戻って呪いを鎮めろ」
ノエリアが青ざめた。
「セドリック様……?」
「仕方ないだろう! 王国が滅びるかもしれないんだ!」
私はそのやり取りを見て、ようやく理解した。
この人は、誰も愛していない。
私も。
ノエリアも。
王国すら。
自分が苦しくならない世界だけを愛している。
「お断りいたします」
私が答えると、セドリックの表情が凍った。
「……今、何と言った」
「お断りいたします、と申し上げました」
「君は王国を見捨てるのか!」
「私を先に見捨てたのは、殿下です」
セドリックの唇が震えた。
「民が苦しんでもいいのか!」
「民を盾にすれば、私がまた自分を差し出すと思われましたか」
「君は公爵令嬢だろう! 国に尽くす義務がある!」
「五年間、尽くしました」
私は初めて、声を少しだけ低くした。
「眠れない夜も、血を吐いた朝も、殿下がノエリア様と庭園を歩いていた午後も、私は国に尽くしておりました」
「それは……」
「ですが殿下は、皆の前でおっしゃいました。婚約はなかったことにしてやる、と」
胸元の黒真珠は、もうただの宝石になっていた。
重さはない。
冷たさもない。
「ならば、私が王家の呪いを引き受けていた日々も、なかったことになさってください」
セドリックは立ち上がった。
「許されると思うなよ、ミレーヌ!」
扉が開いた。
入ってきたのは、私の父ヴァルトリス公爵だった。
そして、その後ろには王宮の宰相と、大神殿の老司祭がいた。
セドリックの顔が強張る。
「なぜ、宰相がここに……」
宰相は深くため息をついた。
「殿下。国王陛下のご命令です。あなたを王宮へお連れします」
「僕はミレーヌと話している!」
「そのミレーヌ様との婚約を独断で破棄し、王家の古契約を破損させた件について、緊急評議会が開かれます」
「古契約……」
セドリックは、ようやく自分が何を壊したのか理解し始めたようだった。
だが、遅い。
あまりにも遅い。
老司祭が私に頭を下げた。
「ミレーヌ様。長きにわたり、王国のためにお苦しみくださったこと、神殿を代表しお詫び申し上げます」
「お顔をお上げください。司祭様が私に謝ることではありません」
「いいえ。神殿もまた、あなた様の犠牲の上に祈りの権威を保っていた。知らぬふりは、罪です」
ノエリアがその言葉に震えた。
彼女は老司祭を見た。
「私は……私は、本当に何も知らなかったんです」
「でしょうな」
老司祭の声は厳しかったが、冷たくはなかった。
「だからこそ、あなたも利用されたのです。聖女という名に酔う者たちに」
ノエリアは泣き崩れた。
セドリックは何も言えずに立ち尽くしている。
私はその光景を見ても、心が動かなかった。
復讐の快感もない。
同情もない。
ただ、終わったのだと思った。
◇
その後、王国は大きく揺れた。
王太子セドリックは王位継承権を停止された。
ノエリアは聖女の称号を一時返上し、大神殿の管理下で学び直すことになった。
国王陛下は、王家とヴァルトリス家の契約を長年隠していた責任を問われ、表舞台から退く準備を始めた。
王国の呪いは、すぐには消えなかった。
当然だ。
私一人に押しつけていただけで、呪いそのものがなくなっていたわけではない。
王都の噴水はしばらく濁り、王宮の薔薇園は半分枯れ、貴族たちはようやく知った。
自分たちの平和が、誰か一人の犠牲によって成り立っていたことを。
ヴァルトリス家には、連日のように嘆願書が届いた。
どうか戻ってきてほしい。
王国を救ってほしい。
民を見捨てないでほしい。
私はすべて読んだ。
そして、すべてに同じ返事を書いた。
王国の呪いは、王国全体で背負うべきものです。
もう、一人の娘に押しつける時代は終わりました。
父は最初、苦い顔をしていた。
「ミレーヌ。本当にいいのか」
「はい」
「お前は、この国で悪女と呼ばれるかもしれない」
「構いません」
冷たい令嬢。
王国を見捨てた女。
呪いを盾に王家を脅した公爵令嬢。
そう呼びたい者は、好きに呼べばいい。
名前など、もう怖くなかった。
私は自分が何をしたか知っている。
何を背負い、何を手放したか知っている。
それだけで十分だった。
数週間後、隣国ルゼリアから使者が来た。
ルゼリア王国は、かつてヴァルトリス家の分家が渡った国だ。
使者として現れたのは、黒髪の青年だった。
「お初にお目にかかります、ミレーヌ嬢。ルゼリア王弟、アシュレイ・ルゼリアと申します」
彼は柔らかく微笑み、丁寧に礼をした。
「我が国は、あなたを客人としてお迎えしたい」
「私を、ですか」
「はい。呪いの器としてではなく、一人の女性として」
その言葉に、私は思わず黙った。
一人の女性。
そんなふうに言われたのは、いつ以来だろう。
アシュレイ殿下は続けた。
「ヴァルトリス家の古い記録は、我が国にも残っています。あなたの一族が何を背負わされてきたのかも、ある程度は。だからこそ、逃げ場所が必要でしょう」
「逃げる、ですか」
「ええ。誇り高く逃げればよいのです」
彼は少しだけ笑った。
「苦しみ続けることだけが、責任ではありません」
胸の奥が、かすかに震えた。
誰かに戻れと言われることはあった。
救えと言われることはあった。
耐えろと言われることは、数えきれないほどあった。
けれど。
逃げていいと言われたのは、初めてだった。
◇
出立の日。
王都の空は、久しぶりに晴れていた。
呪いはまだ残っている。
けれど王国は、少しずつ変わり始めていた。
神殿は呪いの存在を公表し、王家は各地の貴族に負担を分散させる新たな儀式を始めた。
簡単ではない。
混乱もある。
不満も出る。
けれど、それが本来の形だ。
一人の少女が、誰にも知られず血を吐いて支えるより、ずっと健全だった。
馬車に乗る直前、王宮から一人の男が駆けてきた。
セドリックだった。
以前より痩せ、頬はこけている。
だが身なりは整っていた。
王太子の華やかさは消え、ただの青年のように見えた。
「ミレーヌ」
私は振り返った。
「何でしょうか、セドリック殿下」
「……もう、殿下ではない。王太子位は剥奪された」
「そうですか」
「謝りに来た」
彼は拳を握りしめた。
「僕は何も知らなかった。知ろうともしなかった。君が冷たいのだと思っていた。僕を愛していないのだと」
私は黙って聞いていた。
「だが、違った。君はずっと……」
「セドリック様」
私は彼の言葉を止めた。
「謝罪は受け取ります」
セドリックの目に、わずかな希望が灯る。
だから私は、続けた。
「ですが、それだけです」
希望が消えた。
「私はもう、あなたの婚約者ではありません。王家の器でもありません。あなたを支えるために戻ることもありません」
「……分かっている」
「いいえ。分かっていないから、ここへ来たのでしょう」
セドリックは唇を噛んだ。
私は静かに言った。
「あなたが本当に償いたいなら、私に許されることを望まないでください。あなたが壊したものを、あなた自身の人生で見つめ続けてください」
「ミレーヌ……」
「どうか、お元気で」
私は一礼し、馬車へ乗った。
扉が閉まる。
車輪が回り出す。
窓の外で、セドリックが遠ざかっていく。
かつて私の未来だった人。
私を捨てた人。
そして、私がもう選ばない人。
隣に座るアシュレイ殿下が、そっと尋ねた。
「よろしかったのですか」
「はい」
「泣いても構いませんよ」
その言葉に、私は少しだけ笑った。
「泣くほどの未練は、もうありません」
「では、これから何をなさりたいですか」
何をしたいか。
その問いに、私は窓の外を見た。
王都の城壁が遠ざかる。
重かった空が広がっていく。
体はまだ弱っている。
夜になれば、昔の呪いの名残で胸が痛むかもしれない。
けれど、息がしやすかった。
「まずは、眠りたいです」
私が答えると、アシュレイ殿下は真面目な顔で頷いた。
「それは大事です」
「それから、美味しいものを食べたいです」
「ルゼリアには果実の焼き菓子が多いですよ」
「では、それを」
「他には?」
私は少し考えた。
王妃教育でもなく、呪いの儀式でもなく、婚約者としての務めでもない。
私自身の望み。
小さくて、くだらなくて、けれど確かに胸を温かくするもの。
「花を育ててみたいです」
「黒薔薇ですか?」
「いいえ」
私は首を横に振った。
「明るい色の花がいいです。呪いを吸わなくても咲ける花を」
アシュレイ殿下は優しく笑った。
「では、庭を用意しましょう」
馬車は国境へ向かって進んでいく。
背後の王国には、まだ呪いが残っている。
王家も、神殿も、貴族たちも、これから苦しむだろう。
それでも、私はもう振り返らなかった。
聖女を選ぶと言われ、婚約破棄された。
王国の呪いを引き受けていたのは私だった。
でも、もう知りません。
これからは、私の人生を生きる。
誰かの呪いではなく。
誰かの王冠でもなく。
私自身の名で。




