vol.10-diary5 安心できる場所
「ちょっと!合コンなんて聞いてないんだけど!」
高校の頃の友人4人と一緒に居酒屋に入った明奈は、店員に案内された場所に座っている男性5人の姿を確認すると、不快感をあらわにした。
「いいじゃん。数足りないんだから付き合ってよ。どうせ彼氏いないんでしょ。良い機会じゃん。」
「いつまでも、『男は嫌い』とか言ってないで、彼氏作った方が良いって。」
「大学生にもなって、恋愛しないなんて、マジありえないから。」
「みんなで、彼氏作ろうって言って頑張ってるんだよ。何で明奈だけ冷めてるわけ?」
友人たちに、反省の色は全くない…。
この友人4人は高校の頃、2番目によく関わっていたグループだ。あまり目立つタイプの子たちではなかったが、一緒に勉強したり、遊んだり、仲が良かった。
しかし、卒業して、進路がみなバラバラになると同時に、4人とも一気に派手になり恋愛至上主義になった。
そして、明奈の男性不信を理解して付き合っていたはずの友人たちは、一転して、「誰が最初に彼氏作るか競争しよう。」と言いだし、明奈に彼氏を作ることをしつこく勧めるようになった。さらに、何度断っても、明奈の大学の男子学生を紹介するようしつこく頼まれた。もはや、明奈と彼女たちの価値観は正反対だった。いや、正反対であるのは問題ではない。問題なのは、彼女たちが明奈の価値観を受け入れずに、自分たちの考えを押し付けてくることだ。
それでも明奈は、彼女たちと付き合っていた。一緒に作ったホームページを更新する、誕生日はみんなで祝うなど、高校生の頃からの慣習が続いており、これからもずっとそうしなければならない気がするからだ。
友人たちも明奈とは合わない、もう明奈といてもつまらないと感じている。それは明奈だって気づいていた。それでも、明奈と縁を切らないのは、やはり高校生の頃からの慣習と、明奈の大学の男子生徒と出会う可能性が減ってしまうという理由からだ。
今日は「久しぶりにみんなで集まって語ろう」と誘われたのに、来てみたらこの様であった。
「…とにかく、いつも言ってるでしょ! 私は簡単に彼氏作ったり、合コン行ったりするのは苦手なの!それに私には…」
翔のことを話そう…そう思ったが、あれこれ根掘り葉掘り聞かれるのは、面倒くさすぎる。それに、彼女たちの性格上、口では「彼氏作りなよ~」と言っておきながら、明奈に彼氏がいると知れば、険悪なムードになるのは目に見えている。
「…なんでもない。…とにかく、私こういうのは苦手だから、帰る…」
「おーい、女子~。早くしろよ~。」
「ほら、とっとと座る、座る~。」
男性陣の一人の声を聞くと、友人が半ば強引に明奈を一番右の席に座らせた。
* * *
15分後…
友人たちはすっかり合コンを楽しんでいる。
明奈は、帰る言い訳を考えながら、男性の質問に適当に答えたり、友人の女らしさアピールや男性の自慢話に適当にうなずいておいたりした。
男性陣は皆、20代前半の社会人のようだ。どうやら就職した友人の知り合いらしい。別の友人が「今度ドライブ行こう。奢ってやるよ。」「夜、空いてる?」などと誘われて喜んでいる…。
――そうだ!翔に迎えに来てもらおう!
名案だ!と思った。翔が来てしまえば、誰も明奈を止めることなんてできない。
早速、翔に事情を説明するためにメールをすることにした。
しかし、カバンから携帯を取り出した途端、正面に座っていた男が、いつのまにかそばに来ており、明奈の携帯を持っている方の手首を掴んだ。
「いやっ!」
「ねぇ、アドレス教えてよ。君、おしゃべり苦手みたいだし。メールなら良いでしょ。」
明奈は恐怖を感じ、
「嫌です…。離して下さい。」と言うのがやっとだった。
男は「カワイイくせして…」などとブツブツ呟きながら不機嫌そうに自分の席に戻って行く。
「え~、何で断っちゃうの~。」
「せっかく、アドレス聞いてくれたのに~。」
横から友人の不満の声が聞こえる。
「ちょっと私、トイレに行ってくるね。」
まだ恐怖が残っている明奈は、逃げるようにして、カバンを持ってあわててトイレに駆け込んだ。
* * *
用を済ませて、トイレから出ようとした瞬間、気付いた。
――言い訳など、必要ない。このまま帰ってしまえばいいのだ。
(どうして今まで気づかなかったのだろう…)
明奈は歯がゆい思いをしたが、後悔しても仕方ない、すぐに帰ろうとトイレから出て、店の入り口に向かおうとした。
ところが、トイレ付近の曲がり角に先ほどとは別の男の姿があった。
「ねぇ、明奈ちゃんって言ったよね?俺にはアドレス教えれくれるかな。」
またか…明奈はそう思って、男にこう言い返した。
「私、誰にも教える気ありませんから…。」
すると、男は強引に明奈をトイレ側の壁へ引っ張って行った。
「いいじゃん。俺、明奈ちゃんのかわいくて控えめなところに惚れちゃったんだ。
彼女になってほしいんだよ。明奈ちゃん、大事にしてあげるからさ…。」
そう言って、顔を近づけて、じっと見つめてくる。
「ちょっと電話掛けるんで…」
強引な男の行動に恐怖を感じた明奈は男を押し退けた。そして、今度こそ翔に連絡をして、迎えに来てもらおうとした。
携帯を取り出して、翔の電話番号にダイヤルする。
「もしもし、明奈、どうしたの?」
「あっ!も、もしもし、翔、あ…あのね…」
しかし、その瞬間携帯を男に取られ、切られてしまった。
「まだ、話の途中でしょ。なに、明奈ちゃん、もしかしていろんな男と遊んでるの?」
そう言って、男は、明奈の肩を抱き、お腹を触ってきた。
「だったら、今日の夜ぐらい俺と遊んだっていいじゃん。」
明奈は恐怖で声が出なくなってしまった。
(どうしよう…誰か助けて…)
その時…
「ちょっと明奈、私の彼と何してんのよ!」
友人の1人がやってきてそう言った。…すると、その後ろからさらに別の友人が近づいて、前の友人の肩を掴んだ。
「はあ、アンタこそ何言ってんのよ。今日の夜、一緒にいるって私が約束してるのよ。」
「何よ。私は今度ドライブ行くって約束してるんだから!」
「ちょっと、どういうこと?」
友人がケンカを始め、男が呆然としている間に、明奈は男の手から携帯を奪い、店を飛び出して、全力で走った。
* * *
その後のことは、よく覚えていない。夢中で走って、夢中で地下鉄に乗って、気が付いたら自分のアパートの入り口だった。
中に入ろうとすると、その前に、誰かが出てきた。
「…翔?」
そこにあったのは、翔の姿だった。
「どうしてここに?」
明奈が消え入りそうな声で尋ねる。
「電話…心配だったから。様子が変だったし、掛け直しても、メールしても、反応なかったから。どうすればいいか分からなくて…。家にいる感じではないとは思ったけど…でも、他にどこ行けばいいか分からなくて…家に行ってみた。…それより、寒いから中に入ろう。ねっ。」
「…うん。」
明奈は、翔と一緒に部屋に入ると、安心して座りこんだ。
翔はその横に座って、
「明奈、どうしたの?」
と尋ねる。
いつもの優しくてきれいな瞳。
その瞳を見て、安心した明奈の目から涙が流れた。
そして、翔に抱きついて、その胸の中で声をあげて泣き出した。
「翔…うぅっ……怖かったよ……」
翔は優しく明奈の髪を撫でる。
「明奈…大丈夫だよ。もう大丈夫だからね…」
明奈は翔の温かくて優しいぬくもりにずっと包まれていた。
* * *
「だいぶ、楽になった?」
「うん…」
しばらくして、落ち着くと、明奈は今日の出来事を話し始めた。
じっと耳を傾ける翔。
「そっか。大変だったね。」
翔は明奈を思いやるようにそう言い、さらに話を続けた。
「その…無理することないんじゃないかな?」
「えっ…」
「明奈のこと、本当に思ってくれる友達、たくさんいるから。今日の子たちは、いつも話してくれる本当の仲良しグループの子とは違う子たちなんでしょ。それに、沙枝ちゃんは、明奈の一番の親友だよね。あと、翼だって力になってくれるし。それから…その…僕もいるから! 本当に明奈のこと思ってる人、ちゃんといるから。だから…無理しすぎるのは良くないと思う。」
「ありがとう、翔。私も翔が困った時にちゃんと助けられる人間になるね…。」
「いつも助けてもらってるよ。計算とか、漢字とか、計算とか…」
「そういうんじゃなくてさ…もっとこう…」
その時、明奈から空腹を知らせるサインが聞こえた。
「わー、恥ずかしい。」
明奈は両手で顔を隠す。笑いだす翔。
「アハハハハッ。大丈夫。何か食べに行こうよ。こういうときはおいしいもの食べるのが一番だよ。」
「うん!今日はデザートも食べてやる!」
明奈と翔はいつものファミレスへと向かった。
これは友達が合コンに行って経験したことや自分の友人関係を少し参考にして書きました。友達の話を聞いて、筆者はますます男性が怖くなりました(;;) 本当に翔くんみたいな無害な人がいればいいのですが…
それから、今まで書いてきていつも思うのですが、私の頭の中の翔くんは、ここまでバカでもかわいくもないんです。確かに天然でかわいい系の設定ではあるのですが、文章にするとどうしてもその部分が強く出すぎてしまうんです。明奈ちゃんも、私の頭の中では、弱い感じではなく、本当はちょっとSっ気がある感じなのですが…。私の文章能力は著しく低いようです…。