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薬師アゼルと過ぎし日の恋  作者: かわせみ
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第十四章 ある《魔術騎士》たちの激戦

 黒髪黒瞳に黒衣を纏い、肌だけが病的なまでに白いその男、レイハールは、男のアゼルが一瞬目を奪われるほど端正な顔立ちをしていた。しかし、シュリを見るその目はただ、冷たかった。


「そんな、何故……妾はそなたを……」


「身体を使ってまで底辺から這いずり出し、じじいの子まで孕んでいる小汚ない牝を俺が愛するとでも思ったのか? 王位を継いでもおかしくない女が二人。どちらかを支配して夫として国を手に入れるなら、若くて清い身体の方がいいだろう」


 レイハールはシュリを蹴り飛ばして剣を引き抜くと、大量の血の海に伏すシュリに、もはやそれ以上視線を向けることすらしなかった。


「貴様……」


 アゼルの声に怒りが篭った。義憤であったが、レイハールは鼻で笑った。


「俺の後ろで魔族を呼ばれては面倒だし、王女を殺されてはかなわんからな。大体、この女がやってきたのと同じことをしただけだろう。何を怒る必要がある? それどころか、感謝して欲しいものだな。お前さんの代わりにエフィーリアとやらの仇を討ってやったんだから」


「感謝、だと? お前は自分のしたことを理解しているのか? ふざけるな!!」


 確かに、アゼルはシュリのしたことを許すつもりはなかったが、それでも心のどこかで、シュリの吐露したこの世界への憎悪を理解してもいたのだ。そのシュリを、お腹の赤子もろともに騙し討ちにしたこの男には嫌悪感しか湧かなかった。


「お前こそ理解しているのか? この場には、力ずくで権力を手に入れようとする同類が四人いたんだ。 誰が誰を殺しても大した違いはないだろう。 お前さんだって、いつ後から王女に刺されるか分からんのだぜ?」


 ほんの僅かにでもユフィを疑ったわけではなかったのだが、アゼルは思わずユフィを見てしまった。予想だにしていなかったからだろう、アゼルと目が合ってユフィは驚きの顔を見せた。私が貴方を裏切ってその男と結ばれるなどあるはずがないでしょうと、その瞳が語っている。アゼルはユフィを見てしまったことを悔いたが、遅かった。


「馬鹿が」


 アゼルがユフィを見た一瞬の隙を突いて、レイハールがアゼルに斬りかかったのだ。


「危ない!」


 ユフィがアゼルを突飛ばした。レイハールの剣が容赦なくユフィの肩口を切り裂いた。


「ユフィ!」


 態勢を立て直しながらアゼルが叫ぶ。ユフィは追撃を避けるために自ら床に転がったようだ。


「おい、お前は俺のものになるんだ。あまり身体を傷つけるな」


 レイハールが笑いながら言う。


「誰が、あなたのものになど……」


 苦痛に喘ぎながらもユフィが言い返す。


「それが簡単になっちまうんだな。そこに転がっている馬鹿女は、魔族召喚だけでなく薬物の知識も豊富だったんでな。おかげで俺も、身体を傷付けずに相手を屈服させられる薬を手に入れることができた。多少頭が悪くなるのが難点らしいが、どうせ王位を継いだところで俺の夜の相手をするくらいしかないんだ、構わないだろ?」


 下卑た目でユフィを眺めながらレイハールがべらべらと喋っている。アゼルはユフィの傷を気にしつつも、戦闘態勢を整えることを優先した。


「堕天の軍靴よ、鬼神の手甲よ、そして、断罪の魔剣よ、宿れ!」


 魔力を宿してアゼルの身体が軽くなる。しかし……。


「魔よ、霧散せよ!」


 アゼルの身体と剣に宿った魔力は、レイハールの唱えた魔術で立ちどころに掻き消えてしまった。


「なんだと……」


「あの馬鹿女が愚かにもわざわざネタばらししたのを聞いてなかったのか? 《魔術師》同士の戦いで、そんなみえみえの強化魔術が通用するかよ」


 レイハールがアゼルを嘲る。


「せぃっ、やぁ!」


 ようやく起き上がったユフィが鋭く息を吐いてレイハールに斬りかかる。十分に速い斬撃だったが、怪我のせいであろう、いつもの鋭さがない。レイハールは余裕を持って下がり気味にユフィの剣を捌き……。


「風よ、切り裂け!」


 鋭い烈風がユフィを襲った。苦痛の悲鳴を上げて、再びユフィが地に転がる。レイハールは追撃したりはしなかった。基本戦術を封じられ途方に暮れるアゼルに向かって歩を進める。


「ひどいルル……」


 リルルが悲痛な声を上げた。妖精は自分が憑いている人間以外の人間の生死や傷には疎い。リルルが気にしているのは、レイハールの妖精であろう。レイハールの戦い方、つまり、《騎士》の力で守り、魔術で攻めることは、彼の妖精に相当の苦痛を与えることが容易に想像できた。


「堕天の軍靴よ、宿れ!」


「魔よ、霧散せよ!」


 アゼルはまずは一つだけ魔術を唱えて速攻をかけようとしたが、無駄だった。持続する魔術的な状態を解除する魔術は高度なものであり、アゼルには行使できないのだが、レイハールはいとも容易くそれを行使する。そもそもアゼルには魔術戦の経験がなく、こんな形で魔術が消されるなど、考えたことがなかった。しかも、アゼルが魔術に頼らなければ《騎士》として満足に動けないこともばれているらしい。レイハールは再びアゼルに斬りかかってきた。


「さっさとくたばれ」


 レイハールの斬撃を、アゼルはなんとか受け流そうとしたが、身体能力の差はいかんともしがたいものだった。数合斬り結ぶだけで、アゼルは手痛い傷を無数にもらってしまった。


(こいつ、強い!)


 アゼルは舌を巻いた。魔術戦でも勝てる気はしないが、仮に強化状態で戦えたとしても、剣術戦で勝つのも難しいかもしれない。《魔術騎士(ドラグナスフェアリー)》とでも言うべき存在が、自分以外にもいるなどと考えたこともなかったアゼルは、《魔剣の騎士》アゼリオンを参考にして研鑽を積んだであろうレイハールを前に成す術がない。こちらの勝機はニ対一であることくらいだろう。


「ユフィ、戦えるか?」


 アゼルがユフィに助けを求める。


「はい、なんとか……」


 なんとか態勢を立て直し、ユフィがアゼルに加勢する。レイハールは冷静に距離を取って、ユフィを迎え討った。先程と同様、ユフィの苛烈な攻めを防ぎながら呪文を詠唱する。


「風よ、切り裂け!」


「土精よ、防げ!」


 レイハールの放った疾風を間一髪でアゼルが防いだ。先程と同じ魔術であったため、有利な属性で完全に防いでいる。好機とばかりにユフィが連撃を浴びせたが、腕にかすり傷を与えただけで、レイハールは後方に大きく跳んで仕切り直した。


「ありがとうございます、アゼル殿」


 アゼルが魔術を防いだことで、ユフィには多少の余裕が生まれたようであった。確かにレイハールの剣の腕はユフィより上のようだが、今のようにニ対一の利点を活かせればなんとかなる……。そう信じてアゼルは呪文を詠唱した。ユフィが慎重に間合いを詰めていく。アゼルは、ユフィが斬りかかるか斬りかからないかという微妙な間合いに入ったのを確かめて、魔術を放った。


「雷神の鎚よ!」


 青白く閃く雷光が、レイハールを頭上から襲う。アゼルの使える魔術の中でも最高に近い威力を誇る術である。しかし、


「魔力障壁!」


 高圧の雷はレイハールが呼び出した薄い靄のようなものに吸収されるように消えてしまった。


「今のでも間に合うのかよ!?」


「当然だ。威力は悪くないが、発動が遅すぎるな」


 アゼルの魔術に繋げるようにユフィがレイハールに斬りかかるが、ユフィの技量ではレイハールの守りを崩すのは難しいようだ。アゼルの魔術もユフィの剣も防いでなお、レイハールにはアゼルの魔術の技量を評する余裕すらある 。


 ユフィと連携しての攻撃すら防がれ、アゼルは焦りはじめていた。いよいよ打つ手が無くなってきたのだ。


「なんとかならないのですか、アゼル殿!」


 レイハールと斬り合いを続けるユフィの方も限界に近いようだ。アゼルの攻め手が尽きれば、レイハールは魔術での攻撃に転じるだろう。


(大丈夫か、リルル?)


 アゼルは口の中でリルルに呼び掛けた。大丈夫なはずがないのはわかっていた。たまに唱える、比較的長時間持続する強化魔術でも嫌がるのに、今は短時間のうちに魔術を連発する魔術戦を行っているのだ。リルルにも相当な負担がかかっているだろう。


「だ、大丈夫、ルル」


 苦しそうに息を切らしながらも、リルルが強がる。リルルの体力を考慮すればそろそろ魔術の使用は控えるべきだが、剣だけではどうにもならない以上、魔術に頼らざるを得ない。アゼルが使える魔術の中には、より発動が早いものも、広範囲に発生してかわしにくいものもないではない。しかし、そうした魔術を、高速で目まぐるしく動きながら斬り合いを演じているユフィを避けて、レイハールにだけ当てる自信がアゼルにはなかった。どうしてもユフィを巻き込んでしまうだろう。


(くそっ、ルティがいれば……)


 それは明らかに無理な願いだった。あれだけの怪我を負ったルティが、この場に駆けつけてくれる可能性はほぼない。ナーシェスであれば間に合うかも知れないが、彼が来たところで攻め手に欠けているという現状を打破するのは難しいだろう。


  そんなアゼルの逡巡を見透かすように、レイハールが攻めに転じてきた。その呪文からアゼルにもはっきりとわかるほど、強大な魔術である。食らえば恐らく、アゼルもユフィも即死を免れないほどの威力があると思われた。


(防げるのか?)


 絶望に近い恐怖がアゼルを襲う。アゼルは必死で、ユフィと自分を守るように防御魔術を唱えた。


「魔力障壁!」


 それは、先程レイハールがアゼルの魔術を防いだのと同じ魔術であった。属性を無視してどんな魔術でも防ぐことのできる汎用防御魔術だ。魔術師なら誰でも使えるほど基本的な術でありながら、防御性能も極めて高い。難点は、詠唱にやや時間がかかることと……。


「疾風怒濤!」


 レイハールの叫びと共に、渦巻く暴風が現れアゼルとユフィを襲う。呑み込まれれば瞬時にボロ布のように引き裂かれてしまうであろう暴風は、アゼルの魔力障壁に触れると、たちまち消失していく。


「ふん、馬鹿が」


 レイハールが嘲る。アゼルの行為の無謀さを知っているのだ。


  魔力障壁は文字通り、魔力そのものを用いて相手の魔術を防ぐ術だ。相手の攻撃属性に対して有利な属性の防御魔術であれば、少ない魔力でも強力な魔術を防ぐことはできるが、属性を合わせない魔力障壁では、相手の魔術の威力に応じて魔力を注ぎ続けなければならない。つまり、高威力の魔術を防ぐには燃費が著しく悪いのだ。


 そして、レイハールの放った魔術の威力は、先刻アゼルがレイハールに放った魔術の比ではない。


「はぁ、はぁ」


 アゼルの息が荒い。レイハールの魔術を防ぎきったアゼルは、内魔力のほとんどを使い果たしていた。 もう一度同じ規模の魔術がくれば、防ぎきれないだろう。 リルルの体力も限界に近いように見える。しかし、まだレイハールには余裕があるようだ。レイハールは再び止めの詠唱を開始した。属性を合わせられるのを避けるためだろう、さっきとは異なる、アゼルの知らない魔術だ。


「アゼル殿!」


 すがるような瞳で、ユフィが助けを求めてくる。しかし、内魔力も尽きかけ、アゼルには最早レイハールの魔術を防ぎきることはできないだろう。それでも、アゼルは残りの内魔力をかき集めて、悪あがきするしかなかった。


「魔力障壁!」


「氷槍陣!」


 無数の氷の槍が宙に現れ、アゼルに襲いかかるべく包囲陣を作る。アゼルの今の魔力では最初の数本を止めたところで力尽き、残り数十の槍になすすべもなく貫かれるしかない。アゼルが自分の死を予感した、その時だった。


「リルルの魔力を、使ってルル!」


 リルルが叫んだ。選択の余地はなかった。アゼルは差し出されるままにリルルの魔力を魔力障壁に注ぎ込む。それが何を意味し、どんな結果をもたらすのかなど、アゼルには考える余裕もなかった。


「氷槍よ貫け!」


 レイハールの命令に従い、氷槍がアゼル目掛けて次々と飛来する。そして、魔力の壁に遮られ、次々と消えていく。魔力が持つことを必死で祈りながら、氷槍が尽きるのを待つ。無限に続くかと思われた氷槍の乱舞が終わったとき、魔力を使い果たしたのだろう、リルルが音もなく崩れ落ちた。


(リルル? リルル!?)


 アゼルが口の中でリルルに呼び掛けたが、リルルはピクリとも動かない。アゼルは血の気が引いていくのを感じた。戦いの最中であることも忘れて、ただ動かない自分の妖精を見つめ続けた。


 レイハールは再び呪文を唱え始め、それを阻止すべくユフィが必死に足掻いているようだが、そんなことはもうどうでもよかった。


 妖精は通常は《騎士》とその命運を共にする。《騎士》が死ねば、妖精は生きてはいられないのだ。しかし、逆は真ではない。妖精が死んでも、《騎士》だった人間は生き続けることが可能だ。ただ、生まれたときからずっと一緒に育ってきた妖精と、その加護を失い、《騎士》でなくなってしまうだけのことだ。普通の人間として生きていくのに何の支障もない。それなのに、妖精の死は、《騎士》にとって自らの死よりも悲しく、恐ろしいものと考えられている。


 リルルが倒れたことで、アゼルの身体には変化が訪れていた。身体が、鎖に繋がれたかのように重くなる……そう思っていたのだが、寧ろ、羽のように軽い。軽い?


「お腹、すいたぁぁぁぁ!」


 倒れていたリルルが勢いよく飛び起きた。


「リルル、お前……痩せたのか!?」


 アゼルが思わず驚きの声をあげる。起き上がり、クルリと回ってアゼルの方を向いたリルルは、これまでのポッチャリした体型ではなく、まるで名画の中の妖精のように、すらりとした美しい体型になっていたのだ。


「アゼル殿、逃げて、危ない!」


 ユフィの声でアゼルは我に返った。レイハールがまさに魔術を放とうとしている。アゼルは咄嗟に駆けた。


「な!?」


 図らずも、三つの驚きが重なった。アゼルがほんの一瞬でレイハールの目の前まで移動したのだ。これまでのアゼルの動きとは比較にならない速さだ。強化魔術を使っていたときと比べても、格段に速い。レイハールにも、ユフィにも、そしてアゼル自身にも、信じられない速さだった。


 自分の動きに戸惑いながらも、アゼルは思いきり剣を振るった。その速さだけでなく、威力も、一流《騎士》のそれである。レイハールは下がりながらその一撃をいなしたが、魔術を放つことはできなかった。アゼルはレイハールに隙を与えないように、再度間合いを詰め、続けざまに剣閃を浴びせる。


 レイハールはアゼルの剣をなんとか防いではいるが、アゼルは既に気付いていた。自分の剣技の方が上であると。先刻までは純粋な剣の技量が意味をなさないほどに身体能力に差があったが、今は身体能力でもアゼルがかなり上である。いくらレイハールが高度な魔術を使えるとしても、負ける気がしなかった。


「残念だったな。お前の下卑た野望もここまでだ」


「俺が負けるなど認めん。認めんぞ!」


 レイハールは防御に徹するよりも詠唱に集中することにしたようだ。見る間にアゼルの剣がレイハールに手傷を与えていく。


「風よ……」


「遅い!」


 半ば強引に魔術を放とうとしたレイハールの腕を、アゼルが断ち切った。そのまま返しざまにアゼルの剣がレイハールの胸を貫く。


「あの世でシュリに詫びるんだな」


「ふん、あれを見ても、まだ、そんなことが、言えるか?」


 吐血しながら、レイハールがアゼルの後ろに視線をやる。訝りながらアゼルが振り向くと、そこにはアゼル同様疑問の表情を浮かべたユフィと、そのすぐ後ろに立ち、今にも鋭い爪を振り下ろそうとする、異形の姿があった。恐らく、シュリが自らの死を契機として召喚した魔族であろう。


「俺はここまでかも知れんが、お前たちもあの馬鹿女の道連れ……」


「ユフィ!!」


 レイハールの最後の言葉を無視してアゼルはユフィに向かって駆けた。アゼルの言葉にユフィも後ろを向いたが、目前に迫る爪に、身動き一つ取れなかった。ズシャ、と肉の裂ける音と共に、暖かい大量の血がユフィを濡らす。


「アゼル、殿……」


 呆然とユフィが呟いた。ユフィの眼前には、何故か魔族ではなく、ユフィに覆い被さっているアゼルの顔があった。


 ズシャ、ズシャと、肉を裂く音が続く。音がする都度、赤い雨が降る。アゼルは激痛に苛まれながらも、この痛みが自分のものであることにほっとしていた。状況を把握できないのか、或いは脳が考えることを拒否しているのか、ユフィはただ震えながら涙を流している。


(こんな死に方も、悪くない、か……巻き添えになるリルルは可哀想だが……)


 アゼルが死を覚悟したその時だった。鈍い金属音と共に、規則正しくアゼルの背を抉っていた魔族の爪が止まった。


「どさくさに紛れてユフィを押し倒してるんじゃねぇよ。こんな化け物、さっさと殺してしまえ」


 ナーシェスの赤楯が魔族を弾き飛ばしたのだ。


「ったく、瀕死の怪我人をこき使うなよ」


 痛みを堪えながら、アゼルは立ち上がった。自分では傷の具合がよくわからないが、決して軽くはないはずだ。ナーシェスが来るのがあともう少し遅ければ確実に命を落としていただろう。床に流れた夥しい血を見ても、いつ気を失ってもおかしくないと思われた。とりあえず、アゼルは腰の革袋から回復薬を取り出して飲み干した。当然、完治にはほど遠い。このまま安静にしておくべきであろうが、アゼルに倒せと言ったナーシェスの判断は正しい。このままナーシェスが一人で戦うよりも、二人がかりの方が確実だ。


 この世を憎んでいたシュリが最後に呼び出した魔族は、膂力こそ先刻戦った魔族ほどではないが、その分、敏捷で狡猾に見える。そしてシュリの憎悪が乗り移ったかのようにおぞましい顔をしていた。


「断罪の魔剣よ……」


 アゼルはわずかに回復した魔力を剣に宿した。今のアゼルに、身体を強化する必要はない。魔族がナーシェスに襲いかかり、赤盾に弾き返された瞬間を見計らって、ただ一太刀でアゼルは魔族を両断にした。


「アゼル殿、すみません……私を庇ったばかりに……大丈夫ですか?」


 漸く正気を取り戻したユフィが心配そうにアゼルに駆け寄る。


「あまり大丈夫じゃないですね。でも、今死んだらナーシェスに美味しいところを全部持っていかれますからね。もう少し頑張りますよ」


 アゼルは軽口を叩いて見せたが、傷の痛みは堪えきれないほどになっていた。結局、立っていることもできなくなり、アゼルはルティ同様、ナーシェスに治療院に運れてしまった。

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