プロローグ
「わたくしに任せて下さればよろしいのですよ……初めてなのでしょ?」
普段の清楚さからは想像もつかない、蕩けそうな媚態で、少女は少年の身体に手を這わせた。少年は何も言えず、身を強張らせ、ただ少女のなすがままにされている。
何もかもが唐突だった。つい昨日まで、彼女は少年の想いに気付くどころか、少年のことを異性と認識してすらいないようであったのに……何の前触れもなく、深夜に侍女を通じて呼び出され、後は流されるままだった。
命をかけて守りたい、そう願い、剣を捧げた女性が、今、一人の女として目の前にいる。望んでも、決して叶うことはないと考えていた夢が、にわかに現実となったことに、少年は喜びよりも戸惑いを感じていた。それは追い求めるべき夢と言うよりは寧ろ、忌むべき妄想と言うべきものであったから。
叶うはずがない、いや、叶っていいはずがない……。
少年は触れたいという欲望と、触れてはならないという理性の間で身悶え、身体を走る快楽に必死で耐えた。
それは、ある意味、戦場で己よりも遙かに強い敵に対峙するときの恐怖に似ていたかもしれない。抗いようのない、絶対的な力を前にした時の被虐的な感情……。
そう、それは、少年を前にした多くの敵たちが感じたであろう恐怖だ。彼自身は、これまでその種の恐怖とは無縁であったのだが……。
そんな彼が、今、華奢とすら言える少女の手で弄ばれている。三つという年齢差以上に、零と一という経験の差は、ここでは絶望的だった。
神聖視すらしていた女性の痴態を楽しむほどの余裕もないままに、少年は呆気なく果て、夢としか思えない時間は終わりを告げた。
ことが終わった後、少年に軽く口づけした彼女の少し悲しげな微笑みを、少年が忘れることはなかった。




