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ラウンド1:『我が名は…』~私が探求した世界のカタチ~

(壮大なオープニングテーマが静かにフェードアウトし、スタジオは再びフーコーの振り子が刻む静かな時間へと戻る。四人の天才たちは、互いの存在を確かめるように、あるいは値踏みするように、静かな視線を交わしている。あすかが、その中心でゆっくりと口を開いた)


あすか:「オープニングから、皆様の思想の片鱗が激しくぶつかり合いました。世界がどうあるべきか、というその信念は、皆様がどう世界を見てきたか、ということに他なりません。そこで、最初のラウンドです」


(あすかがクロノスに触れると、テーブルの中央にホログラムでテーマが浮かび上がる。『我が名は…』~私が探求した世界のカタチ~)


あすか:「皆様は、その生涯をかけて、それぞれの方法で『真理』を探求されました。あなたにとって、この世界の『本当の姿』とは、どのようなものでしたか?あなたがその目で見て、その手で掴んだ世界のカタチを、まずは存分にお聞かせいただきたいのです。では、万物をその驚異的な観察眼で捉え続けた、ダ・ヴィンチ様からお願いできますでしょうか」


ダ・ヴィンチ:(指名され、嬉しそうに目を細める。それはまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のようだ)「おや、わたくしからでよろしいのですかな?光栄ですな。ですが、世界の本当の姿、ですかな…それは言葉で語るよりも、お見せする方が早いでしょう」


(ダ・ヴィンチは、あすかに向かって悪戯っぽく微笑む)


ダ・ヴィンチ:「あすか殿、その『クロノス』とかいう便利な板は、わたくしの頭の中にあるものを、皆に見せることはできますかな?わたくしのスケッチブック…そう、わたくしがこの目で見て、この手で描き写してきた、世界の断片を」


あすか:(にっこりと微笑み返す)「お安い御用です、レオナルド様。クロノスは、皆様の『声』を聞くための道具。あなたの記憶、あなたの魂が刻んだもの、その全てをここに再現いたしましょう。どうぞ、お好きなものをお申し付けください」


ダ・ヴィンチ:「素晴らしい!実に素晴らしい!ではまず…これをお願いしたい」


(ダ・ヴィンチが目を閉じ、何かに集中する。すると、彼の前の空間に、光の粒子が集まり始め、一枚の極めて精緻なスケッチがホログラムとして現れる。それは、人間の腕の筋肉と骨格を詳細に描いた解剖図だった。そのあまりの写実性に、アインシュタインは「おお…」と感嘆の声を漏らし、ニュートンは眉をひそめる)


ダ・ヴィンチ:「これは、人間の腕ですな。教会の方々や、書物しか信じない学者先生方は、死体に刃物を入れるなど神への冒涜だとお怒りになるやもしれませぬ。ですが、わたくしには、これこそが神の御業の最も美しい顕現に思えるのです」


(ダ・ヴィンチは立ち上がり、ホログラムの腕にそっと触れるように、空間をなぞる)


ダ・ヴィンチ:「ご覧なさい。この指を曲げるための筋肉の付き方、骨と骨とを繋ぐこの腱の走り方。なんと合理的で、なんと美しいことか。無駄なものは一つもない。全てが完璧な『理由』をもって、ここにある。これはもはや、単なる肉の塊ではありませぬ。神が創りたもうた、最高の芸術品であり、最も精巧な機械です。わたくしは、その設計図を、ただ敬意をもって写し取っているに過ぎないのです」


ニュートン:「…ふん。冒涜的な行為を、神の名で正当化するか。都合の良いことだ」


ダ・ヴィンチ:(ニュートンの皮肉に、全く動じず)「では、ニュートン殿。あなたは、神が創りたもうたものを、知ろうとすることは罪だとおっしゃるか?書物に書かれた言葉だけを信じ、目の前にあるこの奇跡を見ようとしないことこそ、神への怠慢ではありませぬかな?」


ニュートン:「む…」


ダ・ヴィンチ:「では、次はこちらを」


(ダ・ヴィンチが言うと、解剖図は消え、今度は鳥が羽ばたく瞬間を連続で描いた、無数のスケッチが空間に広がる。まるでパラパラ漫画のように、翼の動きがスローモーションで再現される)


ダ・ヴィンチ:「人はなぜ飛べぬのか?その答えは、祈りの中にも、難しい哲学書の中にもありませぬでした。答えは、鳥が持っている。ならば、鳥に聞けばよい。わたくしはただ、来る日も来る日も、鳥の翼がどうしなり、一枚一枚の羽がどう風を捉え、どう風を逃がすのかを、飽きもせずに眺め、描き続けました。そうして初めて、翼のこの部分に揚力という力が生まれること、この尾羽で舵を取っていることが見えてくる。真理とは、書斎で頭を捻って生まれるものではない。それは、我々の目の前、ありのままの自然の中にこそ、隠されているのです」


(ダ・ヴィンチは、満足そうに自分の作品を見回し、最後にアインシュタインとニュートンに向き直る)


ダ・ヴィンチ:「ニュートン殿、あなたはこの鳥の動きを、何か小難しい『法則』とやらで説明なさいますかな?アインシュタイン殿、あなたの言う『時空』とやらは、このしなやかな翼の動きの中に、どう現れているのです?わたくしには、ただただ『美しい』としか思えませぬが」


(ダ・ヴィンチは、純粋な好奇心に満ちた目で二人に問いかけ、席に戻った。彼のプレゼンテーションは、具体的な「モノ」と「観察」に満ちており、スタジオの空気を一気に彼のフィールドへと引き込んだ。あすかは、その流れを引き継ぎ、次の人物に視線を移す)


あすか:「ありがとうございます、ダ・ヴィンチ様。『真理は自然の中にあり』、その言葉、確かに拝聴いたしました。さて、この『観察』と『美しさ』に満ちた世界を、次の方はどう見るのでしょうか。ニュートン様、あなたにとっての世界のカタチ、お聞かせいただけますか?」


ニュートン:(あすかの問いかけに対し、待ってましたとばかりに、冷たく、しかし力強い声で話し始める。彼は席を立たず、ただその鋭い視線だけで、ダ・ヴィンチとスタジオ全体を射抜くようだ)「さすが絵描きらしい、見事な観察眼だ。その探求心には敬意を表しよう。だが、ダ・ヴィンチ殿、貴公は根本的な過ちを犯している。それは『真理』そのものではない。単なる『現象』の羅列に過ぎん」


ダ・ヴィンチ:「ほう、現象の羅列、と申されますか」


ニュートン:「そうだ。リンゴが木から落ちるのを千回、一万回観察し、どれほど精緻にスケッチしたところで、『なぜ』リンゴが落ちるのかは永遠に分からん!鳥がなぜ飛べるのか、その翼の動きをどれだけ写し取っても、その背後にある『力』の本質は見えてこん!貴公は、神が書いた壮大な書の、美しい挿絵を模写しているに過ぎない。わたくしが求めているのは、挿絵ではない。その書を貫く『文法』そのものだ!」


(ニュートンの言葉に、スタジオの空気が再び張り詰める。彼はあすかに向かって、命令するように言った)


ニュートン:「案内人よ。わたくしにも、あの仕掛けを使わせてくれ。見せたいものがある。天上の星々と、地上の石ころだ」


あすか:「承知いたしました、ニュートン様」


(クロノスの操作で、ニュートンの前の空間に、壮大な宇宙が広がる。太陽を中心に、地球や木星などの惑星が、それぞれの軌道を描いてゆっくりと公転している。そしてその手前には、ただの石ころが一つ、ぽつんと浮かんでいる)


ニュートン:「かつて、天上の世界と地上の世界は、全く別の法則で動いていると考えられていた。天は神の領域であり、地は我々人間の領域である、と。馬鹿げた話だ!わたくしが発見した真理は、その欺瞞を打ち砕いた」


(ニュートンが空間に浮かぶ惑星を指さす。すると、惑星の軌道を示す線が輝き始める)


ニュートン:「この惑星を円滑な軌道で運行させている、目に見えぬ巨大な力。そして…」


(彼は次に、手前の石ころを指さす。石ころが、すっと下に落ちていく)


ニュートン:「この石ころを、地面に引きずり下ろす力。この二つが、全く同じ、唯一つの法則『万有引力』によって完璧に説明できるのだ!これこそが真理の姿だ!天上も地上もない!神が創造したこの宇宙は、隅から隅まで、たった一つの、普遍にして不変の法則によって支配されているのだ!個別の現象などではない!森羅万象を貫く、この唯一絶対の『神の御意志』こそが、我々が知るべきすべてなのだ!」


(ニュートンの声は熱を帯び、彼の揺るぎない確信が、言葉の一つ一つに宿っている。アインシュタインは、その姿を懐かしむような、それでいて何かを言いたげな複雑な表情で見つめている)


ニュートン:「もう一つ見せよう。光だ」


(宇宙の映像が消え、今度は一本の純白の光線がスタジオを貫く。その光線が、空間に現れたガラス製のプリズムを通過すると、見事に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の光のスペクトルに分かれ、壁に投影される)


ニュートン:「ダ・ヴィンチ殿、貴公は『美しさ』を語ったな。多くの者は、この七色の光を見て美しいと言う。そして、元の白い光は、単純でつまらないものだ、と。だが、それもまた、真理を見ていない者の戯言だ。この分かたれた光を、もう一度、別のプリズムで集めてみよ。そうすれば、光は元の、完璧な『白』へと戻るのだ」


(ニュートンの言葉通り、ホログラムの光は再び集められ、一本の白い光線に戻る)


ニュートン:「分かるか?この宇宙も同じことだ!一見、混沌として多様な現象に満ちているように見える。だが、その根源を辿れば、すべては神が定めたもうた、ただ一つの完璧な『秩序』と『統一性』に行き着くのだ!貴公の言う、鳥の羽ばたきの美しさ、人体の構造の美しさの正体とは、この『法則』のことなのだよ!神が定めた数学的な調和こそが、この世のあらゆる美の根源なのだ!」


(ニュートンが語り終えたスタジオは、彼の提唱した、鉄壁の法則で支配された宇宙のように、静まり返っている。ニュートンは勝ち誇ったようにダ・ヴィンチを見た。彼のプレゼンテーションは、ダ・ヴィンチの具体的な「観察」の世界を、より抽象的で、しかしより普遍的な「法則」の世界へと引き上げた。それは、反論の余地のない、鉄壁の論理で構築された世界観だった。ダ・ヴィンチは腕を組み、感心したように、しかし何かを吟味するように、空間に残る光の軌跡を見つめている。その静寂を破ったのは、案内人あすかの澄んだ声だった)


あすか:「ニュートン様、ありがとうございます。神が定めた絶対にして普遍の法則…。その揺るぎない世界の姿、確かに拝聴いたしました。それは、何世紀にもわたり、人類が目指すべき知の北極星であり続けました。ですが…」


(あすかは、ゆっくりとアインシュタインに視線を移す。アインシュタインは、まるで尊敬する師を前にした生徒のように、しかしその瞳の奥には抑えきれない輝きを宿して、静かに座っている)


あすか:「その偉大な時計の針を、ほんの少しだけ…しかし、決定的に進めた方が、ここにいらっしゃいます。アインシュタイン様。ニュートン様のこの完璧な世界観を受け、あなたは何を思われますか?あなたが見た世界のカタチをお聞かせください」


アインシュタイン:(ゆっくりと立ち上がり、まずニュートンに向かって、深々と一礼する。その所作は、心からの敬意に満ちていた)「先生。あなたの前に言葉を紡ぐことをお許しいただきたい。あなたの打ち立てた世界観は、おっしゃる通り、人類の至宝です。その明晰な論理、壮大なスケール…。あなたの巨人の肩があったからこそ、私のような小人も、ほんの少しだけ遠くを見ることができたのですから」


ニュートン:(アインシュタインの丁寧な態度に、少しだけ厳しい表情を和らげる)「…ふん。社交辞令はよい。本題を言え」


アインシュタイン:「はい。では、単刀直入に申し上げます」


(アインシュタインは、悪戯っ子のような笑みを浮かべ、しかしその声は真剣そのものだった)


アインシュタイン:「先生…大変申し上げにくいのですが、あなたの宇宙という壮大な時計は、完璧に時を刻んでいるようでいて、実は、場所によって進み方が違うのです」


ニュートン:「…なに?」


ダ・ヴィンチ:「ほう、それは面白い!時計の進み方が違う、とはどういうことですかな?」


アインシュタイン:「あすかさん、少しだけお手伝いを願えますかな?速く飛ぶ乗り物と、地上に置かれた時計、二つを見せていただきたい」


あすか:「承知いたしました」


(クロノスの操作により、空間に二つの時計のホログラムが現れる。一つは静止しており、もう一つは光速に近い猛スピードで飛ぶ宇宙船の中にある、という設定だ。二つの時計は、最初、同じ速度で時を刻んでいる)


アインシュタイン:「ご覧ください。二つの時計は、同じように時を刻んでいます。ですが、乗り物の速度が光の速さに近づけば近づくほど…ほら」


(宇宙船の速度が上がるにつれて、その中の時計の秒針の進みが、地上の時計に比べて、明らかにゆっくりになっていく)


アインシュタイン:「速く動く乗り物の中では、時間の進み方が少しだけゆっくりになるのです。これは、乗り物に乗っている本人には分かりません。彼にとって時間は普通に進んでいる。しかし、外から見ている我々にとっては、彼の時間は引き伸ばされている。つまり、『時間』とは、あなたが考えたような、宇宙のどこでも同じようにカチカチと進む、絶対的な物差しではなかったのです。それは、観測する者の状況によって伸び縮みする、しなやかなゴムのようなものだったのですよ」


ニュートン:(信じられないというように、ホログラムを睨みつけ)「馬鹿な…。時間は神が定めた絶対の尺度だ。伸び縮みするなど、あり得ん!それは貴公の空想か、計算間違いだろう!」


アインシュタイン:「では、もう一つ。今度は『空間』のお話です」


(アインシュタインはニュートンの反論を意に介さず、話を続ける。ホログラムが切り替わり、今度は広大なゴムの膜のようなものが空間に広がる。それが「時空」を表している)


アインシュタイン:「先生は、太陽と地球は『引力』という名の、目に見えない不思議なロープで引っぱり合っている、と考えました。それは素晴らしいアイデアでした。ですが、私はこう考えたのです」


(空間に、太陽を表す重い鉄球が現れ、ゴム膜の上に置かれる。すると、ゴム膜は鉄球の重みで大きく沈み、窪みを作る)


アインシュタイン:「太陽という重い存在が、この『時空』という名の膜を、このように沈み込ませる。そして、その周りを…」


(地球を表す小さな玉が、窪みの縁を転がり始める。それはまるで、引力に引かれているかのように、窪みの中心にある太陽の周りを回り続ける)


アインシュタイン:「地球は、ただ、歪んだ空間の窪みに沿って、真っ直ぐ進んでいるだけなのです。引力という不思議な力など、本当は存在しない。存在するのは、物質の重さによって歪められた『時空』そのもの…。これが、私の考えた重力の正体です」


ダ・ヴィンチ:「なんと…!目に見えぬ力が、空間の歪みだったとは…。それはまるで、水の渦に吸い込まれる小舟のようですな!分かりやすい!」


アインシュタイン:(ダ・ヴィンチに微笑みかけ、そして再びニュートンに向き直る)「先生、これは、あなたの美しい機械仕掛けの宇宙を破壊するものでは、決してありません。むしろ、その逆です!時間と空間、物質とエネルギー、それらがE=mc2という、これ以上なくシンプルで、これ以上なく美しい一つの関係性で結ばれていることが分かったのです。ニュートン力学も、決して間違いではない。それは、我々が日常的に体験する、遅い速度で重力が弱い世界における、極めて優れた近似だったのです」


(アインシュタインは、そこで一度言葉を切り、天を仰ぐように、恍惚とした表情を浮かべた)


アインシュタイン:「この、宇宙全体に満ち渡る、息を呑むような調和!法則の美しさ!その前では、どんな神話に描かれる人格神の物語も、色褪せてしまう。私は、この調和そのものに、深い畏敬の念…そう、『宇宙的宗教感情』を抱かずにはいられないのです。それは、日曜に教会へ通う信仰とは違うかもしれません。ですが、これこそが、私の探求の、紛れもない原動力なのですよ」


(アインシュタインは語り終え、静かに席に着いた。彼のプレゼンテーションは、ニュートンの世界観を否定するのではなく、より大きな視点で包み込み、新たな次元の「調和」として提示するものだった。スタジオは、先ほどとは違う種類の、畏敬の念に満ちた静寂に包まれる。あすかは、その静寂を破らないように、ゆっくりと最後の対談者に視線を向けた)


あすか:「ありがとうございます、アインシュタイン様。絶対的な法則から、しなやかな関係性の調和へ…。世界の姿は、また大きくその表情を変えました。さて、最後に、この三人の天才たちの議論を、あなたはどうお聞きになりましたか。空海様。あなたが見つめてきた、世界の本当の姿をお聞かせください」


空海:(それまで静かに目を閉じ、三人の西洋的な天才たちの議論を、その魂で受け止めていたかのように座っていたが、ゆっくりと目を開く。その眼差しは、穏やかで、どこまでも深い)「皆様のお話、誠に興味深く拝聴いたしました。山の麓より、それぞれ違う道を懸命に登っておられるご様子。見える景色が違うのも、また道理でございますな」


(空海は、まずダ・ヴィンチに、穏やかな笑みを向けた)


空海:「ダ・ヴィンチ殿。あなた様は、万物の『すがた』、その目に見える形や色を、我が子を慈しむように、丁寧に、丁寧に、ご覧になっている。花の色、鳥の形、人の身体…。その一つ一つに感動し、その仕組みを知ろうとなさる。それは、仏様の美しきお姿を、その手で写し取ろうとする、誠に尊い行いにございます」


(次に、ニュートンとアインシュタインに視線を移す)


空海:「そしてニュートン殿、アインシュタイン殿。お二方は、その目に見える『相』の奥にある『さが』、すなわち『ことわり』を追い求めておられる。それを『法則』や『調和』と名付けて。それもまた、仏様の深遠なる教え、すなわち『ダルマ』を、その類まれなる智慧の力で読み解こうとする、誠に尊い行いにございます」


アインシュタイン:「法…ダルマ、ですか。それは、私の言う『法則』と同じものなのでしょうか?」


空海:「近いものやもしれませぬ。されど、真の姿はそのいずれか一つにはあらず、また、それらの単なる寄せ集めにもございませぬ」


(空海は、ゆっくりと立ち上がり、スタジオの中央に進み出る。彼は、この場にいる全員に語りかけるように、静かに、しかし力強く言葉を紡ぎ始める)


空海:「わたくしたち真言の教えでは、この宇宙の森羅万象、今この瞬間も彼方で瞬いている星々、スタジオを吹き抜ける目に見えぬ風、そして、今ここに座っておられるあなた方一人ひとり、その心臓の鼓動、思考の閃きさえもが、大いなるいのちの現れ、すなわち宇宙の真理そのものである大日如来が、そのお身体をもって、我々に法を説いておられる姿、『法身説法ほっしんせっぽう』と捉えまする」


ダ・ヴィンチ:「…なんと。この世界全てが、説法である、と?」


空海:「さようにございます。目で見て(身)、言葉で論じ(口)、心で思う(意)。あなた方の探求は、まさに、ご自身の全身全霊をもって、この宇宙の説法を聞こうとする行いそのもの。それは、我々が修行で目指す『三密』の行いと、何ら変わるところはございませぬ」


(空海は、フーコーの振り子が静かに揺れるのを見つめ、そっとそれに触れた)


空海:「真理とは、山の頂に隠されている宝のようなものではありませぬ。それは、あなた方が今まさに登っている、その道そのもの。あなた方の足元にある石ころ一つ。そして何より、真理を探し求めている、あなた方自身に他ならぬのです。この身このまま、仏に成る。『即身成仏』。あなた方の探求の旅は、ゴールを目指す旅ではなく、旅をしているその瞬間瞬間が、すでにゴールであるようなもの。あなた方は、そのお身体をもって、すでに仏道を歩んでおられるのやもしれませぬな」


(空海の言葉は、もはやプレゼンテーションではなかった。それは、西洋の天才たちが築き上げた「探求する者」と「探求される対象」という二元論の構図そのものを、静かに溶かしてしまうような、深遠な世界観の提示だった。ダ・ヴィンチは感銘を受け、アインシュタインは深い思索に沈み、ニュートンでさえも、反論の言葉を見つけられずに、ただ目の前の穏やかな僧侶を見つめていた)


あすか:(深遠な余韻がスタジオを支配する中、静かに一歩前に出る)「観察、法則、関係性、そしてその全てを包み込むいのち…。皆様が見てきた世界のカタチは、かくも違い、しかして、空海様のお言葉を借りるなら、同じ一つの山の、違う景色であるかのようにも聞こえます」


(あすかは、四人の顔をゆっくりと見回す)


あすか:「しかし、その尊い探求は、常に平穏な道ではなかったはずです。時には『神への冒涜』と見なされ、時には自らが信じる『神』の存在と、深く向き合うことになった。次のラウンドでは、その探かいの光と影に、踏み込んでまいります」

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