ツンデレ筋肉騎士長リュシア、登場(物理)
人は誰しも、人生で一度は思うだろう。
**「馬に蹴られて死にたい」**と。
俺は今、そのフラグを現実に食らっていた。
「おらああああッ!!!」
ドガァッッッ!!!
何が起きたかというと──目の前の美少女が全力で俺をぶっ飛ばした。拳で。地面ごと。
あのね? 普通、ファンタジー世界って、出会って5秒でバトルしないんですよ? もうちょっとこう、自己紹介とか挨拶とか、あるじゃないですか?!
でもこの女、容赦ゼロ。愛想もゼロ。筋力だけMAX。
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「なにが“評価ゼロ”だ……不審者かと思って近づいてみれば……ッ、こんな顔で……チビで……ッ、無防備で……!」
「うるせえ!褒めてんのかそれは!」
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リュシア・ブレイカー。
聖王国の騎士団長。若干17歳。筋肉がドン引きレベルで発達した女の子。ツインテールでゴリラ系。
銀の甲冑をバッキバキに着こなし、背中にはハリボテじゃなくガチの大剣を背負っている。あと顔は美少女。美少女なのに、顔に泥ついてるし、すぐ人をぶっ飛ばす。
「“評価ゼロの男子を保護しろ”って命令だったけど……まさか……こいつが……っ」
あからさまに動揺していた。
そして次の瞬間、なぜか真っ赤な顔で叫んだ。
「ちょっとだけ……かわいい顔してんじゃねーか……!!」
「なんで怒ってんの!? 褒めた!? 褒めた今!?」
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はい、意味不明。
完全に脳筋ツンデレタイプ。昔のギャルゲーでよくいた「なによあんたなんか好きじゃないんだからね!」ってやつ。
てか、「評価ゼロの男子を保護しろ」って誰が命令したんだよ。あっ、絶対メガネだ。
──そう。背後から、冷静かつ恐ろしくなめらかな声が届いた。
「ご紹介しましょう。彼女が、聖王国騎士団長にして“物理防御評価ランキング1位”の──」
「その二つ名やめろマジで!!!」(byリュシア)
「──リュシア・ブレイカーです」
白鐘メルティア、完全に笑ってる。笑ってるけど目が笑ってない。あとリュシアに対して“評価システム”のスコア出すのやめて。やめろって。
「だいたいね! こんな評価ゼロの雑魚! 聖王国で保護する意味あります!?」
リュシアが俺を指差して叫んだ。
うん、知ってる。俺、雑魚だよ。地面にめり込んでるしね今。お前のせいで。
──しかし、ここで、メルティアが一言。
「ありますよ。彼の存在は、**“評価社会にバグをもたらす者”**ですから」
ピクッとリュシアの眉が動いた。
「バグ……?」
「そう。彼の評価はゼロ……にも関わらず、世界が彼を“排除”しようとする反応を示している。つまり……」
「“存在してはいけない存在”?」
「ご名答。ですから我々は彼を保護し、監視し、そして──」
そこで、メルティアは俺のほうを向いて、優しく微笑んだ。
「──肯定してあげる必要があるんです。彼が“生きていてもいい”という事実を」
「……………………あの……本当にナンパじゃないんですよね?」
「ナンパではありません。監査です」
メガネキラーン(2回目)。
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というわけで、俺・佐々木ネオ。評価ゼロの無職(15歳ショタボディ)。
筋肉ゴリラの美少女と、自己肯定押し売りメガネ美人に連れられて、まさかの聖王国行きとなりました。
「評価ゼロが世界にバグを引き起こす」──
いや、まだ俺、何もしてないんだけど!?