自己肯定感の女(しかも監査官)現る
朝だった。異世界のくせにちゃんと朝が来るらしい。
「うわ、俺、今日も生きてる……」
森の中の地べたに寝っ転がって、俺はぼーっと空を見上げてた。
青空。小鳥のさえずり。光の粒が木漏れ日になって、まるでファンタジーアニメのオープニング。
……でも俺はただの無職(15歳ボディの元30歳)。社会の落ちこぼれが異世界で転生したところで、何も変わらねぇのだ。評価? ゼロ。スキル? なし。筋力? 女子中学生以下。
唯一変わったのは、顔だけだった。
「てか……俺、なんか……カワイくね?」
川に映った自分の顔を見て絶句した。白くて、つるつるしてて、目がくりくりしてる。少女漫画のヒロインか?
元・冴えない30代。現・ショタ顔15歳。人間、顔が良いとちょっとだけ前向きになる。
そんなポジティブシンキングをぶっ壊すように──。
「……発見。あなた、評価ゼロですね?」
背後から聞こえた声は、まるでスキャンしてくる企業系お姉さんのような冷たさと、慈愛の皮をかぶった刺すような優しさを持っていた。
振り返ると、そこに立っていたのは──
「銀髪! ロング! メガネ! 清楚系! あと、何この圧……!」
白鐘メルティア。
聖王国直属の“自己肯定感監査官”。なんだその職業。聞いたことねぇよ。いや、てか何それ怖い。
彼女はピンと背筋を伸ばし、微笑みながら俺をジッと見つめていた。いや、見つめるというより“観察”されてる。プレデター感がすごい。
「あなた、今朝起きたとき『生きててごめんなさい』って思いませんでしたか?」
「!? 思いましたけど!? なぜそれを!?」
「やはり。“自己肯定感Lv1未満”……重症ですね」
「数値化すなよ!!」
彼女はスッ……と懐から分厚いファイルを取り出した。なぜかファンタジーなのにクリップ付き。開いたページには俺の情報がビッシリ。いや、なんで知ってんの!?
「佐々木ネオさん。転生前:30歳・無職。実家暮らし。週7で5chに張り付き、Twitterでポストを消しては自己嫌悪。趣味は“嘘の自己紹介を考えること”。評価:ゼロ。人格:ねじれ。尊厳:風前の灯」
「いや辞めて! その辞書みたいなレポートで俺の黒歴史掘り返すのやめて!!」
笑えねぇ。めっちゃ刺さる。いや、ほんと、マジで。
でも──彼女はそんな俺を責めることはなかった。
「安心してください。私はあなたを“肯定”するために来たのです」
微笑みながら、彼女はそっと俺の肩に手を置いた。温かい……が、逆に怖い。
「あなたには、“あなたである価値”があります。……たとえ誰にも認められていなくても」
おお……なんだこれ……涙出そう……っていうか……。
「えっ、これ、ナンパですか?」
「違います。“監査”です」
メガネキラーン。
あ、こいつ──ヤバいやつだ。