死んだら「無評価」だった件について
目が覚めたら、天井が金ピカだった。
てっきり豪華なホテルか、セレブの邸宅かと思ったけど──違った。
目の前には、銀髪でメガネの美少女がいた。
バチバチに整った顔。
白磁みたいな肌。
銀糸みたいな髪がふわっと揺れて、メガネの奥の瞳は、えげつないほど冷静。
「あなたが、“ゼロ評価者”ですのね」
初対面でこれ。
ツッコミどころ多すぎて、脳が処理を拒否してる。
「……あの、すみません、ここ……どこっスか……?」
声が裏返った。
っていうか、自分の声が妙に高い。なんかこう、アイドルの少年期みたいな──
(え、俺、声変わり前?)
慌てて手を見る。
白くて小さい。爪までピカピカ。
鏡を見る。
……見たくなかった。
細っこい首。クリクリした目。ちょい垂れ気味の眉。
なんかこう、YouTubeで「この子男の娘だったのか!?」ってバズってそうな、
その系統の顔面がいた。
「これ俺!?転生でキャラクリ失敗した!?」
「失礼ですわね。あなたの魂に最適な“世界適応ボディ”をこちらで選定いたしましたの」
銀髪メガネの彼女が、涼しい顔で言う。
「わたくし、白鐘メルティア。“自己肯定感監査官”ですの」
「いや職業名どうなってんだよ!」
「主に、世界のバランスを乱す“自己否定系男子”を見張る仕事ですわ。あなたのように──」
キーン。
と、音がした。頭の中に直接。
光の通知みたいなやつが、空中に表示される。
名前:佐々木ネオ
評価ポイント:0(バグ認定)
世界認定ランク:無価値(New!!)
自己肯定感:ゼロ
「……あれ?この世界って、SNSみたいな評価システムついてんの?」
「はい。“バズポチライト”と申しますの。誰かに“いいね”されると力が増しますわ」
うっわ、やっちまった。
現代の地獄を、異世界にまで持ち込んじゃってんじゃん。
「ちなみに、あなたは評価ゼロですので──一切のステータス補正を受けられません」
「バフどころか希望すらねぇの!?」
「いえ、正確には“呪いの影響すら受けない特異点”……だそうですわ」
なんかちょっとだけチートっぽい言い方してるけど、中身クソ雑魚やん。
カラーバーすら点いてないぞ。電源入ってないレベルだぞ俺。
「それでは、引き続き監査に入りますわね。あなたの一挙手一投足、見逃しませんわ」
メルティアはそう言うと、手帳を開いて、
“第一印象:思ったよりキョドっている。声裏返った。評価−5”
とか書き始めた。
やばい、これ地獄だ。
*
その後、しばらくして現れたのが、もう一人のヒロイン(予定)の女の子。
ふわっとした金髪。教会風の白いローブ。儚げな雰囲気。
でも目は死んでない。むしろ超澄んでる。浄化済み。メンタル無菌室。
「はじめまして……私は、セラフィーナ。あなたをこの世界に招いた者です」
──聖女、爆誕。
「この世界で、あなたが自分の価値を見出せますように……心から祈っています」
口調も仕草も100点。
人間に優しさをインストールしたら、こうなりますっていう見本みたいな人だ。
でも俺、知ってるんだよね。
このタイプの子、笑顔で言ってることほど、あとで大体エグい。
現代社会の知見がここで生きる。俺だけが知ってる闇知識。
「この世界において……“評価ゼロ”というのは、神すら干渉できない、最後の“観測外領域”なのです」
はい出た。なんかすげぇ単語。
「そしてあなたは、その無の中から、何を見つけるか──試されているのです」
うん、なんかそれっぽいこと言ってるけど、要するにあれでしょ?
「お前、バグだけど逆に面白いから、放り込んでみた」ってやつでしょ?
ちくしょう、俺がやってたソシャゲの運営と同じ発想してる!
──こうして、俺の異世界生活は始まった。
しかもスタート地点は、評価ゼロ、自己肯定感ゼロ、
監査官に監視されながら、聖女に祈られるという、
いっそ“人生晒し配信”みたいな状況からのスタートである。
なんかもう、死にたい。
いや、もう一回死ぬのってアリなんかな?