第1話 誰かの家
目が覚めると見覚えのない天井。
誰の家か全然わからなかった。
ベッドから降りようと思ったら足が全然届かなかった。
そして異様に膨らんだ腹。
「何この体?」
鏡を探すも部屋のどこにもない。
洗面所がありそうな廊下へと向かった。
何故か鏡が高くて届かない。
椅子を踏み台にし、お風呂の淵に不安定ながらも両足で立ち上がって鏡を見た瞬間
「キャーー---」
びっくりして叫んだと同時に足を滑らせ、お風呂の縁に跨るような形で勢いよく尻餅をついた。
「痛っ!」
鏡に映った自分の顔は、見たこともない口の周りを髭で丸く覆った泥棒髭の今にも破裂しそうなパンパンな丸顔の知らないおっさんだった。
「一体、誰?」
お尻の痛みを一瞬で忘れてしまうくらいの衝撃だった。
吐き気をもよおし、嗚咽がとまらない。
目の前にあるカビだらけの洗面台に今にも吐きそうになった。
信じがたい事実を受け入れることが出来ず毛むくじゃらな腕の毛を、鷲掴みし、何かの悪い夢であって欲しいと願いながら思いっきり引っ張った。
「痛っ!」
その願いも虚しく一瞬で打ちひしがれる。
もう一度ゆっくりと顔を上げ鏡を覗き込むも、その事実は決して変わらない。
何が起こったのか全然わからなかった。
咽せながら脳裏で絶望と死が頭をよぎった。
ここが、いったい誰の家かもわからなかった。
すぐにでもこの家を飛び出して家に帰ろうと思った。
けど、こんな姿じゃ私だと分かってくれないよね?
いや、分かってくれなくてもいいから、すぐにでもおうちに帰らなきゃ。
部屋に戻って散乱してるズボンと上着を適当に拾って急いでくちゃくちゃに着た。
とにかく、もうこんな誰の家かもわからない家から一刻も早く出たかった。
薄暗く、狭く、踏み場のない汚い部屋。
テーブルの上には、食べ終わったカップラーメンの汁や弁当ガラに、たくさんのコバエが沸いていた。
それが原因なのか 、わからなかったがとにかく臭かった。
シューズボックスの上に置いてあったサングラスと帽子を手に取り、適当にサンダルを履いて部屋を勢い良く飛び出した。
外に出ると、そこは全然知らない場所だった。