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ふわっとした短編集

なかなか始まらない異世界転生

作者: 蟹蔵部

「高杉さん、あなたは死にました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、死んでるよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「合点承知!!」


「あら……、話が早くて助かります」


 高杉の理解は早かった。というのも、異世界へ転生したいなぁと常々思っていたからだ。どういった行動をとるか、妄想もばっちりである。


「転生特典はありますか!」


「もちろんあります。希望があれば、おっしゃってください」


「最強の身体能力と丈夫な体をください!」


 高杉の考えはこうである。

 まず、異世界でひ弱な一般人が生活できるだろうか? 答えはノーである。少し走れば息が上がり、階段をなんとか上り、重い荷物をやっとこさ持つ。どう考えても無理だ。

 したがって身体能力の強化は必須。そしてそれを発揮するための丈夫な体。これで完璧だ。


「最強の身体能力と丈夫な体ですね。それであれば可能です」


「ありがとうございます!」


「それでは転生していただきます。高杉さんの生に幸多からんことを」


 高杉の視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。と、次の瞬間、パッと視界が切り替わり、あたりは草原だった。


「えっ、早っ」


 余韻もへったくれもない転生に、いくら高杉の理解が早いといっても少し動揺している。しかしすぐに気を取り直すと、じわじわと転生した実感がわいてきた。

 はしゃぎまわりたくなるような、むずむずしたもどかしさが腹の底からせり上がり、高杉は叫んだ。


「異世界だーーー!!!!」


 ところで、『音』というのは振動である。空気中では、空気を構成する分子――窒素や酸素など――が振動することで伝播し、その振動が人に伝わることで音が聞こえる。


 もうひとつ、『熱』の本質も振動である。お湯というのは、水分子が高速で振動しているため熱く、冷水はこの振動がゆっくりなため冷たい。


 さて、何故このような話をしたかというと、高杉が大声で叫んだことと関係する。

 高杉の身体能力は、『世界最強』である。文字通り、『世界で』『最も』『強い』。人間最強ではない。


 そんな高杉の発する声は、もはや兵器、いや災害――能力の元から言えば神罰か?――と言える。その様子を確認できた存在が居たとすれば、高杉が口から全方位にビーム(のようなもの)を発しているように見えただろう。


 高杉の声、もといビームは一瞬で周囲を溶かし、その高熱によって核融合が起こり、異世界の星はきらめく恒星と化した。



 ◇    ◇    ◇



「高杉さん、あなたは死にました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、死んでるよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「合点承知!!」


「あら……、話が早くて助かります」


 高杉の理解は早かった。というのも、異世界へ転生したいなぁ、死に戻りチートしたいなぁ、と常々思っていたからだ。どういった行動をとるか、妄想もばっちりである。


「転生特典はありますか!」


「もちろんあります。希望があれば、おっしゃってください」


「無限の魔力と魔法を使えるようにしてください!」


 高杉の考えはこうである。

 異世界だし、魔法が使いたいな。以上。――というのは半分冗談で、護身のために力は必須であろうから、それを魔法でなんとかしようという腹積もりである。そして、魔法の燃料となる魔力をできるだけ多く確保しておきたい。そんなところだ。


「無限の魔力と魔法ですね。それであれば可能です」


「ありがとうございます!」


「それでは転生していただきます。高杉さんの生に幸多からんことを」


 高杉の視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。と、次の瞬間、パッと視界が切り替わり、あたりは草原だった。


「異世界だー!(小声)」


 高杉は学習できる子だ。そして、死に戻りチートの醍醐味でもある。今回は最強の身体能力などないが、こういった細かい学習が、後々に大きな差になる。と、高杉は思っている。


「さて、お楽しみの魔法だ。いくぞ、ファイヤー!」


 ところで、『使える』というのは、どういった状態を指すのだろうか。

「あなたはパソコンを使えますか?」という質問に、多くの人は「はい」と答えるだろう。しかし、「はい」と答えた人でも、知らない操作や機能もあるだろう。

 つまるところ、『使える』とは、なんともいい加減なものなのである。


 さて、何故このような話をしたかというと、高杉が魔法を使ったことと関係する。

 高杉はたしかに魔法を使えはした。無限の魔力があるので、不発ということもない。しかし、使えただけだ。止め方がわからない。


 魔法のない世界において、魔法の止め方を知っている人などいないだろう。そして思い出してほしいのだが、高杉の魔力は無限である。


 噴き出す灼熱の炎によって核融合が起こり、異世界の星はきらめく恒星と化した。



 ◇    ◇    ◇



「高杉さん、あなたは死にました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、死んでるよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「合点承知!!」


「あら……、話が早くて助かります」


 高杉の理解は早かった。というのも、異世界へ転生したいなぁ、死に戻りチートしたいなぁ、と常々思っていたからだ。どういった行動をとるか、妄想もばっちりである。


「転生特典はありますか!」


「もちろんあります。希望があれば、おっしゃってください」


「対象の情報を詳細に知ることのできる鑑定の能力と、無限……は止めて、10万、いや100万立法メートルの容量があるアイテムボックスの能力をください!」


 高杉の考えはこうである。

 無限はやばい。とにかく無限だけはやばい。そして、これまで護身のために力を欲してきたが、危機を回避する方法はひとつではない。

 君子危うきに近寄らず。昔の人は良いことを言う。鑑定の能力で危険を避ける方針である。


「鑑定とアイテムボックスですね。それであれば可能です」


「ありがとうございます!」


「それでは転生していただきます。高杉さんの生に幸多からんことを」


 高杉の視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。と、次の瞬間、パッと視界が切り替わり、あたりは草原だった。


「異世界だー!(小声)」


 天丼もまた、死に戻りチートの魅力のひとつである。と、高杉は思っている。だからと言って、すぐに異世界の星を恒星にするのは避けたい。


「よし、まずはアイテムボックスから試すか」


 そこらに生えている草をむしって、アイテムボックスに入れてみる。なんの問題もなく入って、取り出せた。ワンチャン質量の消失によって多量のエネルギーが放出されるかも、という心配は杞憂であった。


「よしよし、次は鑑定!」


 ところで、『物質を構成する情報』とは、どれほどのものであろうか。

 ここに草がある。これに「草A」と命名したとして、それでこの草を、「まさに今手に持っている草」と識別できるだろうか。否、それでは不十分である。

「草A」と命名された草は、そこら辺中に生えており、「まさに今手に持っている草」を「まさに今手に持っている草」たらしめる『情報』が不足している。


 他にどんな『情報』が必要であろうか。「長さはいくつ」、「重さはいくつ」、「発芽してから何日」などなど、それこそ無限の情報が必要になる。


『無限の情報』、それが高杉の脳裏に流れ込み、なんやかんやあって核融合が起こり、異世界の星はきらめく恒星と化した。



 ◇    ◇    ◇



「高杉さん、あなたは死にました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、死んでるよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「合点承知!!」


「あら……、話が早くて助かります」


 高杉の理解は早かった。というのも、異世界へ転生したいなぁ、死に戻りチートしたいなぁ、と常々思っていたからだ。どういった行動をとるか、妄想もばっちりである。


「転生特典はありますか!」


「もちろんあります。希望があれば、おっしゃってください」


「人類で二番目に強い身体能力と人類で二番目に丈夫な体をください!」


 高杉の考えはこうである。

 最強だとか無敵だとか、そういうのは一般的な生活には不要だ。二番目でいい。二番目に強ければ、十分俺TUEEできる。

 ※なお、俺TUEEが一般的な生活かどうかは考慮しない。


「人類で二番目に強い身体能力と丈夫な体ですね。それであれば可能です」


「ありがとうございます!」


「それでは転生していただきます。高杉さんの生に幸多からんことを」


 高杉の視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。と、次の瞬間、パッと視界が切り替わり、あたりは草原だった。


「よし、異世界(小声)」


 四度目ともなれば、もう慣れたものだ。感動が薄れていくが、死に戻りチートでは中だるみを防ぐためにカットされたりもする。高杉はカットしない派だ。


「さて、人のいるところを目指して移動を――」


 ところで、『人類』とは何であろうか。

 生物種としてのホモサピエンス? 共同体としてのヒト? 一部では異教徒を人類と見なしていないこともある。

 過去、現在、未来において、『人類』の定義が不変であるとはとても言えない。


 さて、高杉は全く考慮していなかったが、未来において人類は体を機械で代用するようになった。その時代では、『人類』の定義が随分拡張されていた。そして、一度手を出してしまうと、行きつくところまで行ってしまうのが人類のさがである。


 強化につぐ強化、たしかに能力は向上するが、デメリットもある。全身を機械にしたために、丈夫ではあるが安定性は著しく低下し、メンテナンスポッドから出ることもできない。カタログスペックだけの無用の長物。しかしそれでも『人類』で一番目とか二番目とかそんな感じだ。


 活動限界を迎えた高杉は倒れ、まあとにかく核融合が起こり、異世界の星はきらめく恒星と化した。



 ◇    ◇    ◇



「高杉さん、あなたは死にました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、死んでるよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「合点承知!!」


「あら……、話が早くて助かります」


 高杉の理解は早かった。というのも、異世界へ転生したいなぁ、死に戻りチートしたいなぁ、と常々思っていたからだ。どういった行動をとるか、妄想もばっちりである。


「転生特典はありますか!」


「もちろんあります。希望があれば、おっしゃってください」


「想像したことが実現する能力をください!」


 高杉の考えはこうである。

 今までの失敗は、基準を『外部』においたことで想定外の結果に至った。したがって、基準を『内部』におけば、万事解決である。

 身体能力、丈夫な体、魔法、全て想像でカバーできる。


「想像が実現する能力ですね。それであれば可能です」


「ありがとうございます!」


「それでは転生していただきます。高杉さんの生に幸多からんことを」


 高杉の視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。と、次の瞬間、パッと視界が切り替わり、あたりは草原だった。


「……」


 もはや言葉はない。転生した、その事実だけがある。

 高杉は中だるみをカットしない派であるが、それでもちょっとだるいなぁと考え――。



 ◇    ◇    ◇



「高杉さん、あなたはカットされました」


「は?」


 高杉が意識を取り戻すと、あたり一面真っ白な死後の世界的な場所で、目の前には神様的な光球が浮かんでいて、さらには「お前、カットされたよ」なんて言っている。


「あなたには、これから異世界へ転生してもらいます」


「もうやだぁ!」



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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがよく面白かったです。 高杉も単なるお調子者ではなくちゃんと学習はしてるんですが、最後にはカットされ…(笑) [一言] 無限と核融合はとにかく怖いということがよく分かりました!
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