63話 神獣
信長へのお土産に持ってきたプリンは、金平糖を使っているという事もあって、不思議な食感がしてとても美味しい。なにせ、信長も家康も、食べる手が止まらないほどだもの。
「ん〜、やっぱファンキーマートのプリンは美味ェや!」
「……! ……!!」
「うん、すっごく美味しい! ……っと、そうだ。もうそろそろ帰らなくちゃ」
時間の流れは楽しい時ほど早く感じるもの。気がついたら、もう帰らなくちゃいけない時間だ。
「そうなのか? ま、オレはまだ二、三日はここに居るからさ、暇な時に来てくれよ!」
「うん、また来るよ。信長も、家康を困らせたりはしないでね!」
「……三成なら……いつでも……来ていい……」
治部様が駐車場で待っていてくれてるみたいだし、少し急がないとね。
――
「おい。貴様。日ノ本高校の制服を着た貴様。止まれ」
ど、どうしよう……治部様の待つ駐車場に向かってたら、明らかにヤバそうな人に声をかけられてるんだけど……。無視でいいよね? うん、そうしよう。だって、知らない人と話すって防犯の上では褒められたモノじゃないしね!
「おい、無視をするな!」
「……いっ!?」
何事も無かったかのように通り過ぎたかったけど、そういうわけにもいかない、か。後ろから肩を痛いほど強く掴まれて無視のしようがなくなっちゃったよ。
「おっと、逃げようなどと思うなよ。貴様は既に我ら、鳴鹿高校の神鹿に囲まれているのだからな!」
「なっ……!?」
前後を振り返ってみると、ガラの悪そうな、大きな角の生えた特攻服姿の男子生徒に囲まれていた。囲まれるまで気づかないなんて……勘が鈍ったのかな?
うーん、どうしたものか……コレ、逃げ切れるかなぁ? 正面突破は足の遅い僕にはまず無理だし……あ、そうだ! この方法ならいけるかも!
「いいや、この程度、簡単に逃げ切れる!」
僕の近くにある窓を開け放って身を乗り出す。うん、四階って、見てる方もやる方も結構怖いよね。信長には家康に迷惑かけるなって言ったのに、僕が迷惑かけちゃうなんてなぁ。後で家康に謝っとかないと。
「よし、左近花! 僕を受け止めろッ!!」
「何ッ!? 四階から飛び降りた……だと!? 命が惜しくないのか!?」
見上げると、鳴鹿の彼らが、あんぐりと口を開けて驚いている。うんうん、これなら逃げ切れそうだ。
それにしても、品種改良で強度を上げた左近花を、詠唱無しで出せるようにしていて助かったよ。詠唱していたら、着地に間に合ってなかったな。
「治部様! 車出して! 早く!!」
「……み、三成……!? ……はぁ……何があったか……後で……聞かせろ……」
車に乗り込むなり、早く車を出すように言う僕に、治部様が首を傾げながらも応えてくれた。これで完全に鳴鹿を巻けたかな? 家に着いたら、何があったのか説明しないと。
――
「――っていう事が……って、治部様? 顔、凄い事になってるよ?」
「……あのクソ草食動物め……いや、大丈夫だ……なんでもない……」
家に帰ってから、治部様の発案で家族会議が始まった。僕は、やらなくていいと思ったんだ。でも治部様は僕が四階から飛び降りる所を見ていたらしくて、結局、家族会議になってしまった。
「それで、三成が飛び降りた、と……怪我が無くて良かった……が、三成。あまり心配させるような事はしないでくれよ……」
話終わると、父上が眉をハの字に垂らして僕の頭を撫で回してきた。普段なら「もう子ども扱いしないで」って言う所だけど、今回は僕の落ち度だし、大人しく撫でられておこうかな。
「でも、みっちゃん、大丈夫? 来週から登校する時とか、鳴鹿高校の人達に狙われそうじゃない?」
母上も心配そうにしているけれど、僕、知ってるんだ。こういう時の母上は、何か企んでる……! なんとかして話題を逸らさないと!
「そ、そういえば、鳴鹿高校の神獣学部って、あんまり詳しくないんだけど、今日会った人みたいな鹿ばかりなの?」
「いや、俺の知ってる限りだけど、蛇、狐、兎、馬とか、色々居たと思うよ。暴走気味なのが鹿なだけ。んで、東洋高校の麒麟先生がOBだったはず」
僕の露骨な話題逸らしに兄様が答えてくれた。それにしても、沢山居るんだなぁ。鹿以外も敵にまわったらどうしようかと思ったけど、この様子だと、鹿だけを警戒していれば大丈夫そうかな。
――
「あぁ、そういえば、そこの治部殿も……って、コレはまだ言わない方がいいのか」




