56話 最終日の朝
この二日ですっかり馴染んだベッドで目を覚ます。今日は、とうとう合宿の最終日だ。
ルームウェアを脱いで、体操服に袖を通しながらこの三日間の事を思い返す。トラブルばかりで、予定変更が多くて、グダグダする事もあったけれど、実りのある合宿だったと思う。
何せ、新しい戦法を身につけることができたんだ。完成したのは昨日の夜、温泉から出た後だ。まだまだ精度は低いけれど、今のままでもある程度は使えるはず。
「……三成……」
「あ、家康。おはよう!」
「……子ども体温……」
「え、起きていきなり、けなされた!?」
ちょっと、どういうこと!? おいコラ家康! ……ってアレ? に、二度寝してる……!
二度寝をしている家康を押し退けて身支度を済ませて、洗面所のタライに水を溜める。今日の午前はビーチバレーのリベンジマッチだ。前回はみんな、ルールをわかっていなくて試合にならなかったからなぁ……。顔を洗って気合いを入れるんだ!
「うぃ〜……ひっく……皆の衆よぉ〜、やってるかぁ〜? ひっく」
突然、勢いよくドアが開いて、何事かと思うと、何故か信長が、ベロベロに酔っ払っていた。
「の……信長!? え!? 君、部屋に居なかったの!? と言うか、未成年の飲酒はダメだよ!?」
「ひっく……甘酒はぁ……酒じゃねぇんだぜぇ〜……ひっく」
嘘でしょ!? 甘酒だけで酔っ払うなんて……あまりにも弱すぎるよ……。とりあえず、信長の酔いを覚まさないといけないな……。
「信長、こっち来て!」
「おぉ〜? どうしたぁ〜?」
「せやぁっ!」
「ゴボボっ!?」
信長を浴室に誘導して、タライに溜めた水を思い切り頭から掛ける。ホントは危ないから、やっちゃいけないけれど、今回くらいは多めに見てほしいものだ。
「ゲホゲホ……何すんだよ三成!?」
「『何すんだよ』じゃないよ! 何で甘酒ごときで酔っ払って朝帰りをするんだよ!?」
「いや、オレだって、甘酒で酔うなんて想定外だったんだって!」
信長の言い訳をまとめると、こうだ。
僕ら、日ノ本高校に通う武将だった面々は、何故か他校の不良グループに喧嘩を売られやすいらしく、喧嘩に勝つ内に日ノ本高校の武将達も不良だ、と噂が出たらしい。
この事を面白がった信長は、不良っぽい事がしてみたいけれど、お酒を飲む度胸は無かったみたいで、代わりに甘酒を飲んだ、と……。
「バカなの!? いや、うつけだったわ、この信長!」
「うつけ言うなよ!? オレも、その、反省してるしよ……」
ガックリとうなだれて信長がボソボソと言う。でも、うん。反省してるなら、いいかな。
「はぁ……もう甘酒飲まないでよね! で、反省してるならさ、秀吉と家康、起こしてきてよ」
「おう……わかった」
信長が二人を起こしてる間に、僕は浴室と洗面所の片付けをする。さっき信長に掛けた水が、浴室の外にも飛び散ってしまったから、拭いておかないとね。
「ふぁ〜……よく寝たぁ……おはよぉ」
「……ねむ……ぐー……」
「おはよう、秀吉。そして家康は三度寝しない!」
家康は……半分寝てる状態だけど、二人が起きてきて一気に騒がしさが増す。うんうん、やっぱり、これくらい賑やかな方がいいね!
「ところで秀吉、ビーチバレーのルールは大丈夫?」
「……あ、やば。ま、まあ、作戦は三成に任せたから! 三成の作戦があれば大丈夫でしょ!」
「え、あれだけ教え込んだのにヤバいの!?」
もう……ヤダこの秀吉! 戦国武将なんて辞めてやる……! いやまあ、一回死んでるから事実上は戦国武将をリストラされてるんだけどさ。でも、気持ち的な部分は一応、戦国武将だから。
この後のビーチバレー、不安しかないよ……。僕は、普通に試合をして、普通に勝ちたいんだけどなぁ。




