55話 大浴場
あれから、ロキ先生が大きな蛇――ヨルムンガンドを呼び出してくれた。
そして、フェンリル、スレイプニル、ヨルムンガンドの助けを得て僕らはホテルまで戻って、今は温泉の中だ。だって、雨と海水で体が冷えちゃったからね。風邪をひかないようにしなくちゃ。
「あ〜……いい湯だ……何でオレ、未成年なんだよ……こんな時は酒だろ……」
「信長……オッサンみたいになってるよ。でも、うん。お酒は欲しいかも。早く二十歳になりたい……」
僕と信長はゆっくりと湯船に浸かってボヤいている。信長って、カッコいい部類の顔立ちで、非転生者の女の子達からモテるのに、こう言うオッサンみたいな所が残念なんだよね。
「あれ? そういえば、家康と秀吉は?」
よくよく、湯船を見渡すと、家康と秀吉の姿が見えない。あの二人、どうしたんだろう……?
「あぁ、アイツらか。サウナで耐久勝負してるぜ」
「耐久勝負!? よくアニメとかである、最終的に両方とものぼせて倒れるヤツじゃん!」
何で、そんな危ない事をするかなぁ……!?
「なんかさ、三成の親友の座をかけて勝負だっつって」
「はぁ!? 僕の親友は吉継だけど!?」
むしろ、元・宿敵と元・上司が親友になる事ってあるのか? どちらにせよ、二人をサウナから引きずり出さなきゃ!
「信長! 二人をサウナから出させるの、手伝って!」
「オウ、面白そうだし、いいぜ!」
少し急ぎ足でサウナに向かう。まだ、倒れてなければいいんだけど……。
サウナの中に入って、目線で家康と秀吉を探すと、茹で蛸みたいになってる二人を見つけた。茹で蛸、良いよね。ワサビ醤油と日本酒があれば尚よしだ。……ってそうじゃない。
「家康! 秀吉! 耐久勝負なんてやってたら倒れちゃうよ!」
「おうおう、オマエら! 三成がよ、自分の親友は吉継だ! だってよ!」
家康と秀吉が、信長の言葉を聞いてショックを受けたような表情になっている。信長……貴方、絶対楽しんでるでしょ。
家康と秀吉を、文字通りサウナから引きずり出して、僕は温泉から出る事にした。何せ、僕ものぼせそうだからね。体調管理は大事なんだ。
体と髪の水気を拭いて着替えた後、温泉のロビーでコーヒー牛乳を飲んでいると、丁度お風呂上がりらしいマリーがやってきた。マリーも、コーヒー牛乳が飲みに来たのかな?
「なんて事なの……! ミツナリ! 貴方、髪が生乾きじゃないの!」
「え、髪? これくらいなら、自然乾燥でいいんじゃないの?」
普段からタオルドライしかしてないし、別に良いんじゃないのかな? なんて思っていると、マリーに悲鳴の様な声で怒られた。
「いいワケないわ! 来なさい! 私が乾かしてあげるわ!」
「えっ!? ちょ、そっちは女湯なんだけど!?」
「大丈夫よ! ミツナリなら脱がなきゃバレないわ! それに、いつものマフラーがあるんだもの。大丈夫よ」
マリーに、女湯の方へぐいぐいと引っ張られる。脱がなきゃバレないって……男子としては、なんと言うか、空しいな……。
「さ、座って! 私がサラツヤ髪にしてあげる!」
テンションの上がったマリーに抵抗できるはずも無く、僕は女湯の化粧室に座らされていた。そして目の前にはヘアオイルとブラシ。
そういえば、今の僕は、自分の事は自分でやってるけど、前世では小姓や女房の子達が身の回りの事をやってくれてたっけ。一人、髪の毛に対する熱意が凄い女房が居たような気が……。
「ふぅー、終わり! 我ながら満足のいく出来ね!」
「わ……すごい! サラサラだ!」
昔の事を思い出していたら、髪の手入れが終わったらしい。鏡を見ると、僕の外ハネの毛先が真っ直ぐになっていた。
「そのガタガタな前髪も何とか出来れば良かったんだけど……それはまた、髪が伸びてからね」
「ありがとう、マリー! 髪の毛って、ここまでサラサラになるんだね」
「私にかかればチョロいものよ。さ、バレる前に退散よ!」
再びマリーに腕を引かれる。女湯の扉から出ると、信長達が目を丸くして僕の方を見ていた。
「え!? 三成、オマエ……え? おん……?」
「信長、落ち着いて。不可抗力だから」
「お、おぉ……?」
納得したような、してないような、といった感じで僕の肩を揺さぶる。うーん、これは、意識を刈り取った方がいいのかな……?
「ミツナリ。そんな物騒な事、しなくても良くってよ」
マリーの小さな呟きが、無駄に大きく聞こえた気がした。




