54話 主従から友人へ
「秀吉! ひでっ、わっぷ……秀吉!」
荒れる海の中、秀吉様の頬を軽く叩いて呼びかける。だけど、何の反応も返ってこなくて……もしかしたらこのまま……いや、そんな事ある訳ない!
「ぐー、ぐー……」
「『ぐー、ぐー』……? まさか……」
反応が無かったのって、ただ単に寝てただけだったの!? 心配して損したじゃないか! もう! 秀吉様のバカ!
「僕のっ! 心配を返せーっ!」
本当は、思いっきりビンタがしたいけれど、この海の中ではそんな事は言ってられない。僕の乗っていたカヌーも流されてしまった。何とかして岸に戻る方法を探さなきゃ……!
『まったく、無茶をする……迎えに来たぞ』
「君は、先生の……」
頭上から声がすると思ったら、先生が呼び出した狼と馬が居た。名前は……えっと、なんだっけ?
『フェンリルだ。……よし、我の背に掴まれ』
「あ、ありがとうございます!」
フェンリルの背に乗ると、フワリと浮き上がる。流石は神話の生き物、空を走れるなんて……! 後ろを見ると、馬の方が、カヌーを回収してくれていた。
「この馬鹿者が! 我らが……我らが、どれだけ心配したと思っているのだ……!」
岸に戻って待ち受けていたのは、オーディン先生のお説教と熱い抱擁だった。うぐっ……苦じぃ……。
でも、先生の言うように、僕のした事はバカな事だってわかってる。カヌーから飛び出すなんて……冷静になってみると、本当にバカだった。僕、相当気が動転してたんだな……もっと、精神を鍛えなくちゃ。
「はい、ごめんなさい……」
「次からは気をつけるように! わかったな!?」
先生、少し涙ぐんでいる……それに、次からは、か……やめろとは言わないでいてくれるんだね。次からは、心配をかけないように、慎重にしなくちゃいけないなぁ。
僕が反省で、シュンとしていた時だ。秀吉様が唸り声をあげた。
「うーん……よく寝たぁ……」
よく寝たって……そのせいで死にかけてたんだけど!? よくよく考えると、心配よりも苛立ちが勝ってきたな。
「アホ吉! 死にかけてたのに『よく寝た』って……! 秀吉も先生方に怒られてきて!」
軽く頭突きをして、完全に目を覚まさせた秀吉様を先生に引き渡す。秀吉なんて、僕よりもコッテリ先生方に叱られればいいんだ……!
僕が荒げた息を整えていると視線を感じた。振り返ると、ノブ様が唖然とした様子で僕を見ていた。……何かあったのかな?
「み……三成……今、ヒデの事、秀吉って……」
「え? ……あ」
言われて気づいたけど、いつのまにか、呼び捨てにしてた……ヤバい、怒られるかも……。
「……い」
「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」
「ずるい!」
「へあっ!?」
つい、うっかり、変な声が出てしまった。いや、でもさ、ズルいってどういう事?
「ヒデだけずるい! オレも三成から呼び捨てにされたい!」
え……えぇ? なんで呼び捨てがズルいのか、よくわかんないよ……。
「えっと……信長様(笑)……?」
「あ、三成。あだ名も良いけど今のはダメだ。ヒデのヤツと同じ感じがする」
「じゃあ、信長……これでいい?」
「ウッ……最っ高だぜ……!」
試しに呼び捨てにしてみたけど、不安になって確認をとってみると、信長は心臓部分を抑えて崩れ落ちた。僕、コレは知ってるぞ……兄様と父上がよくやるヤツだ。信長も同じ『モエノヤマイ』なのかな?
「……三成……三成……私を……心配させないで……くれ……」
「治部様……うん。次に無茶をする時は、治部様と一緒に無茶をする。ごめんなさい」
治部様からもお叱りの言葉を貰って、他のメンバーからも揉みくちゃにされる。普段なら「鬱陶しい!」って言いたくなるほどに揉みくちゃになったけど、今回は僕に非があるから、大人しく受け入れるしかない。
この後、先生方からコッテリと絞られた秀吉が信長から一発、殴られていたのはまた別の話。
――
『モエノヤマイ』
萌の病。
オタクが良くなるヤツ。
推しからのファンサは最高なんだ、同士よ……!




