52話 マングローブ林
「ありがとう、ヒデ様。僕はもう大丈夫だよ」
「いやいや、もうちょっと……抱っこなんて、前世ぶりだからねぇ」
無人島に着いてから、腰が抜けて動けなくなった僕は、ヒデ様に抱っこをされて、隣はカヌーを担いだ佐々木殿が歩いて移動していた。もう大丈夫って言ってるのに、ヒデ様は降ろしてくれない。僕、そんなに子どもっぽいのかなぁ……?
「まあねぇ、ワッシにとっては、いつまでも可愛い子どもだよぉ」
「むぅ……今は同い年なのに……」
悔しい……早く大人になりたいな……。まあ、きっと大学生になれば大人扱いしてくれるはず。うん、僕は信じてるからね。
あと、そうだ。今のうちに訊けることは訊いておこう。少し、気になっていた事があるんだ。
「そうだ、ヒデ様」
「うん? どうかしたかい?」
「ヒデ様達は僕に、敬語禁止で友達としての態度を求めるでしょ?」
「そうだねぇ」
「それじゃあ、ノブ様を御館様って呼んだり、左近の態度が前世のままなのは一体……?」
僕が訊いた途端、ヒデ様は目を逸らして、佐々木殿は吹き出した。え? 僕、何か不味い事をしちゃったのかな……?
「一度、左近にも同じ事を言ったんだよ。そこの副部長サマはよォ……そしたらどうだ。アイツ、今にも自刃しそうな形相になってよ。いやァ、あの顔はすごかった」
「あと、ワッシが御館様を呼ぶ時は、御館様じゃなくて御館様(笑)だから。そこは間違えちゃいけないからねぇ」
「あ、ハイ」
なんと言うか、強者の余裕ってヤツなのかな? 僕も、信長様(笑)とか言えるようになった方がいいのかな?
「三成、オマエは今のまま、純粋で居ろよ」
「三成の(笑)とか嫌だ……」
「あ、また僕の心を読んだな!」
そうして、ワイワイと騒いでいるうちに、集合場所に到着した。僕らが最後だったらしく、みんな、マングローブ林に行く準備ができていた。
「では皆の者、我らはこれよりマングローブ林に行くが、風が強くなってきている! 充分に気をつけて、早めに戻るぞ!」
先生の号令で、隊列を組んでカヌーを漕ぎだしたけどもう風が強いのか……少し、不安だな。
僕の体感で十五分ほど経った頃に、目的のマングローブ林に着いた。入り組んだ大きな根が神秘的で、生命感のある壮大な景色だ。
「おぉ! コレが自然に生えているマングローブ……! 三成の出すモノとは違って見えるな」
「そりゃあね。僕のは、佐々木殿に破られないように品種改良した特別製だもの」
「ガッハハハ! オレ対策か! こりゃァいいな!」
でも、佐々木殿の言うように、品種改良抜きにして見ても、僕のモノとは違って見える。やっぱり、自然の状態だからかな? こればかりは、僕には再現できそうにないなぁ。
僕達がマングローブに見とれていると、一際強い風が吹いて、荒れ気味だった水面が、さらに大きく荒れ狂いだした。




