幕間 治部様と清正の朝
『……狐よ……怪我か……? ……見せてみろ……』
『……美味いか……? ……その柿は……私の……好物なのだ……』
『……今の際に……会えてよかった……さらばだ……狐……』
懐かしい夢を見た。私が、まだ未熟だった頃の、経験に基づく夢……救う事の叶わなかった彼の夢だ。
正直、二度寝はしたいが、朝になったのなら、起きねばならぬ。と、朝食のために隣で眠る清正を叩き起こす。本来なら三成と食事をとりたいのだが、今の私は、あの子の能力から生まれた存在。という事になっている。
今回は非転生者も居るから、「転生者の眷属」は一部別行動になる。誠に不便極まりないな……一応、対外的には、私は三成の執事でもあるのだが……。
「……ぐるるるぅ(……もう朝なのか?)」
「……あぁ……そうだ……行くぞ……」
「がおぅっ!?(はぁ!? 行くってどこに!?)」
喚く清正を引きずって歩きだす。目指すは転生者向けのラウンジだ。そこであれば、虎の姿をした清正でも騒がれることは無いからな。
ラウンジで黙々と朝食を食べる。……ふむ。さすがホテル、美味いな。家に帰ったら再現してみるのもいいかもしれない。
「……がう。ぐるぉうっ(……なんか、お前と話してたら、昔の三成と話してるみたいだな)」
「……そうか……」
「がうがう。ぐるぅ、がおぉっ?(そうそう。……あ、そうだ。お前、三成とはどういう関係なんだ? アイツの能力で生み出された訳じゃねぇんだろ?)」
食事を終えた清正が、ふいに、私へ疑問を溢す。なぜ、こんな今更な質問を……と思ったが、そうか。私と三成の事を知っているのは家康の様な、一度、神へと近づいた者だけだったな。
「……私は……かつて、三成に……救われた……ただの狐だ……」
「……がるるぅ(そうなのか? ……うーん、ま、そういう事にしとくか)」
「……詳しくは……また、いずれ……」
「がおぉん(わかった……でも、三成を悲しませるんじゃねぇぞ)」
清正が釘を刺す様に私を睨む。まあ、彼からしてみれば、急に出てきたポッと出が友人の近くに居座った形になるから仕方がない、か。
だが、三成を悲しませる気は毛頭無い。むしろ、何に替えても、必ず守ってみせる。それが、あの時私を助けてくれた彼への恩返しに繋がるのだから。
ただ、いつまでも何も言わないのはいけないな。現に、三成からは、藤原道長の話を聞いてから度々、不安気な雰囲気を感じる。……年内に、全てを話すことができればいいのだがな。
 




