46話 主従と友人
ふぅ……お腹いっぱいだよ……流石にお腹を壊す程食べるなんて事しないけど、満腹感で眠くなってきたなぁ……。
ふぁ……うぅん……秀吉様と、お話しなきゃ……。
――
うーん、よく寝た……。
え、「よく寝た」!?
「いっ、今なんっ!? 痛ぅっ……!」
痛たた……今、頭がゴチンって、すっごい音がした様な気が……。
「あいたたた……おはよう、佐吉」
「秀っ!」
「しぃー……今は夜中で、みんな寝てるから、静かにねぇ」
頭をぶつけた相手は秀吉様だったのか……! 思わず大声を出しそうになって、あわてて口を塞ぐ。そうか、今は夜中なんだね……。あれ? でも、
「僕、ベッドで寝た覚え、無い……」
そう。僕、あの後は、眠気に耐えられなくてソファで寝ちゃったはず。なのに、今は何故かベッドに居る……。
「それはねぇ、ワッシが運んだんだよ……って言いたい所だけど、実際は、あのキツネ君が運んだんだんだよ」
「キツネ……もしかして、治部様……?」
確かに治部様は、見た目は前世の「僕」だけど、キツネの耳と尻尾が生えてるし……でも「キツネ君」ってそのまんまだな。
「まあねぇ、あ、そうそう。君、お風呂入れてないでしょ? これから一緒に行こうか。温泉も、まだ空いてるはずだしねぇ」
「あ、はい」
そうだね、話はそこでしようかな。
――
流石に夜中と言うだけあって、温泉に入っている人は僕たち以外には居なかった。……えっと、何々? 美肌効果に肩凝り腰痛……今の僕には関係ないかな。
「ふぅ……いい湯だねぇ……」
「……うん」
「っと、そうだ。佐吉……いや、三成に話があるんだよ」
話? もしかして、吉継が言っていた事かな?
「もうそろそろ眠くなってきそうだからキッパリ言うけど、ワッシは、今世でも三成と主従で居たいわけじゃないんだ。今世では、友達として接してくれないかい?」
やっぱり、その話だったか……。
「……今はちょっと、難しい、です。僕は、『石田三成』は、ずっと、何度生まれ変わっても『豊臣秀吉』の家臣になるものだと思ってました。前世の頃から、ずっと」
「え、そうなのかい?」
「うん」
前世の頃に、秀吉様の晩年の頃に一度、同じ事を言ったんだよ? そう言うと、秀吉様が慌てて思い出そうと、ああでもない、こうでもないと独り言を呟きだす。やっぱり、覚えてないんだね……。
「いやぁ、ごめんよ……流石に晩年期は認知症で……」
「わかってる。わかってるんです。でも、あの頃の事が悔しくて……ちょっと八つ当たりしただけなんです」
あの頃に認知症なんて病名は無かったけど、確かに秀吉様の記憶力は衰えていた。それは仕方がないって納得していた。
だけど……だけど、僕の名前と茶の味を忘れられた時は、絶望しかなかった。僕にとっては、お茶は、僕らが出会ったきっかけだったから……すごく、悔しかった。屋敷に帰った時に何度も泣いた記憶がある。
それでも、秀吉様に仕える事ができているだけでも幸せだったから、ほんのちょっとの意趣返しも込めて、秀吉様が覚えられるはずもない誓いを立てたんだ。
「そう、か……ごめんよぉ……辛かったよね……」
「いいんだ。認知症は、仕方ない事だし、最期の瞬間には、僕の茶の事を思い出してくださったから」
でも、悔しいものは悔しいから、ちょっと、泣けてきたや。
「それで、その……友人関係については、僕が折り合いをつけれるまで、少しだけ、待ってほしい、です」
「うん、うん……気長にゆっくり待つよぉ」
秀吉様が、中々泣き止まない僕の背中を撫でてくれる。温泉に居るから、っていうのもあるけど、相当眠いみたいで撫でる手が温かいなぁ。
そろそろ、僕も秀吉様も、のぼせそうだし、部屋に戻って明日に備えて寝ようかな。




